こんにちは! ライターの社領です!
みなさん。去年巷で話題になった、こんなニュースをご存知ですか?
なんでも、
大阪にある老舗喫茶店が、後継ぎがおらず泣く泣く閉店となったところ、
その店のミックスジュースのファンだった一人の男が立ち上がり、
4代目店主となって店を引き継ぎ、危機を救ったのだとか……。
なんじゃそりゃ〜!? どういうこと!?
ミックスジュースが好きすぎて、お店を継いだってこと……? そんな面白すぎる話、ある?
このニュースを聞いてからというものの、私はこのお店がずーっと気になっているのです。
あぁ、店を継ぐくらいミックスジュースが大好きな面白おじさんに会いたい……!
そしてあわよくば、お店を継ぐ理由にもなった、その超絶うまそうなミックスジュースが飲みた~い!!
というわけで、新世界にやって参りました!
新世界は、大阪のスカイツリー・通天閣のたもとに広がる繁華街。
串カツに立ち食いホルモン、昔ながらの喫茶店など飲食店が多数あり、大阪っぽ~いおっちゃん・おばちゃんが元気に暮らす、賑やかで情緒溢れる町です。
訪れたのは、飲み屋が立ち並ぶ通りに佇むレトロな喫茶店「千成屋珈琲」!
実はこちら、今や大阪の喫茶店では定番であるミックスジュースの発祥の地なんだそうで……! こ、ここがか~! すごいな!
そしてこちらが、千成屋珈琲の4代目店主を務める白附克仁(しらつき かつひと)さんです。
この方が、ミックスジュースが好きすぎて喫茶店を継いだ面白おじさん……!(主観です)
なんなの!? そんなにミックスジュース好きだったの!? 毎日飲んでるんですか!? めちゃめちゃ気になる!
というわけで、白附さんにジャンジャンお話をお伺いしたいと思います!
白附さん、バリバリ経営者だった
▲千成屋珈琲の一席を借りてお話をお伺いすることに。1948年創業の店内は、めちゃめちゃレトロでいい雰囲気!
「白附さん、今日はよろしくお願いします!あの、本当に喫茶店を継いじゃったんですか……?」
「はい、本当に僕が継ぎました!」
「す、すご~! 継ぐことになった経緯を聞いてもいいですか?」
「おととしの2016年、3代目であるおばちゃんが体調を崩されてこの店は一回閉店したんですよ。やけど『そんなの勿体ない!』と思ったので、おばちゃんの息子さんを数ヶ月かけて説得して、僕が継がせてもらったんです」
▲3代目店主の恒川豊子さん(右)。おばちゃんがカウンターに立つ喫茶店、いいな~!
「去年の5月29日にリニューアルオープンしたので、僕が4代目になってからそろそろ1年が経ちますね」
「『勿体ない』で継いじゃったとは……! ちなみに、喫茶店の店長に転職されたんですよね? もともとは何のお仕事をされていたんですか?」
「あ、僕、今も仕事続けてますよ。テレビ番組企画やCM制作の会社をやってるんです」
「え!? 喫茶店一本じゃないの!?」
「はい。店長は別で雇ってるので、店長でもないですね。僕は制作会社と喫茶店、どちらも経営する経営者なんです」
「な、なんと……! お店を継いだのはただの面白おじさんじゃなくて、バリバリの経営者さんだったのか!」
テレビのディレクターがどうしても見過ごせなかった「千成屋珈琲」
「そんな制作会社の社長さんが、どうして新世界の小さな喫茶店を継がれたんですか?」
「僕、この近所が地元なんですけど、小さい頃から親に連れられて、よくここのミックスジュースを飲んだんですよ。中学生になってからも、友達と新世界でよく遊んだんですが、ミックスジュースは毎回飲んでて」
「この辺りで遊んでたんですか! 飲み屋街なのに、大人ですねぇ」
「酒飲みの大人だらけの街だからこそ、ミックスジュースを飲むことで大人の仲間入りをした気分になれたんです。スマートボールに射的、ホルモン、そしてミックスジュース……、全部僕の大事な思い出で、失くしたくなかったんですよ」
「しかし、思い出のためとはいえ、テレビ制作の方がよく飲食店を経営される決心をされましたね」
「もちろん飲食店を経営した経験はなかったので、かなり悩みました。でもこの店って、『ミックスジュース発祥の地』なんです。僕、テレビのディレクターもしてたのでわかるんですが、『◯◯発祥の地』ってメディアが取り上げたくなるかなり強い武器なんですよね」
「確かに。ガイドブックでもテレビでも、『◯◯発祥の地』はよく見かける文言ですよね」
「はい。僕のミックスジュースにかける思いに加え、こんなに強い武器があるなら僕にも勝算があるかもしれないと思い、千成屋珈琲を継ぐことを決心したんです」
伝統のミックスジュースの味を変更!? その真意って?
はい! というわけで、出ました~!
こちらが、千成屋珈琲のミックスジュースです!
数十年前この地にあった果物屋さんで、店主が完熟したフルーツをジュースにして売ったのが始まりと言われるミックスジュース。
ご覧ください、この見た目のずっしり感! ストローが倒れないほどの濃厚さ、果たしてそのお味は……!?
お、おいちい~~!
「今一瞬めっちゃ老けへんかった?」
「いやぁこれ、すごく美味しいですね! 濃厚な見た目とは裏腹に、果実たっぷりの爽やかな味でめちゃめちゃ飲みやすい! どうやって作ってるんですか?」
「りんご、バナナ、みかんなどのフルーツを、強力なマシンで氷ごと砕いてスムージーっぽいジュースにしてるんです。ずっしりしてるから、満足感あるでしょ?」
「はい、抜群です……! これが、白附さんの子供時代の思い出の味! なんですね~!!」
「いや、昔のままではないですね」
「なんじゃそりゃ~!!」
▲ど、どゆこと~!? 破天荒すぎない?
「これ、メディアで言って2ちゃんねるで叩かれたこともあるんですけど、実は店舗をリニューアルした時、味も少し進化させてるんです。現代人の舌に合わせて」
「そ、それいいの!? 伝統の味じゃないんですか!? 元店主のおばちゃんとか、息子さんとか、怒るでしょ……!?」
「いや、めちゃめちゃ息子さん公認なんですよ。実は、店を継ぐ時に息子さんとある約束をしたんです」
「約束?」
「はい。『ただ単に受け継いで懐かしむだけなら店は継がせられない。喫茶店だけで終わらせず、新世界全体を盛り上げる事を大前提としてやることを約束するなら、店をお任せします』という約束です」
「へえ~! じゃあ、味の変更も『新世界を盛り上げるため』ってことですか……?」
「そうですね。若い人がうちの味を気に入って、新世界にわざわざ足を運びたくなるよう、材料はそのままに分量だけを変えて今風の味わいにしました。食感は以前と同じく濃厚なまま、これまでよりフルーツの自然な甘みを押し出した感じです」
「なるほど、確かにフルーツの存在感がすごかったです! あの、実際どうですか? 正直、前よりも美味しいですかね……?」
「好みによると思います! 僕は美味しいと思って作りましたけど!(笑)」
「僕は、進化のない継承はただの執着やと思うんですよ。老舗を守っていくには、昔のものをそのまま残すことに執着していてはいけない。今のものとかけあわせて、時代を見て少しずつ進化しないと。登美ケ丘高校のバブリーダンスだってそうですよね。実際のバブル時代って、あんなキレッキレなダンスなかったじゃないですか!」
「た、確かにそうだ~~! バブルの踊りって、もっとユラユラする感じの踊りですよね! そのまま踊っても絶対流行らない……! 今存在するダンスと掛け合わせたからこそ、あんなに流行ったわけですね。なんか、めちゃめちゃ納得しました!」
目指すは、”たこ焼き”みたいに溢れるアイデア!
「というわけで、ミックスジュースだけじゃなく、他のメニューも必要があれば一工夫加えています。新メニューも開発したり」
色鮮やかなクリームソーダに、
レトロな雰囲気のイチゴパフェ、プリンアラモード。昔懐かしい雰囲気ですが、どれも新メニューだそう。
「か、かわいい! さくらんぼが乗ってるクリームソーダとか、ウサギさんのリンゴがついてるプリンアラモード……! 昭和だ~!」
「今、レトロが人気でしょう。こんなメニューで、若い人たちに『昔はこういう食べ物があったのか』と想像してワクワクしてもらえたらと思って」
▲レトロアレンジはこちらにも。店内の壁には、以前の店にはなかったという大阪万博のポスターが飾られています。
▲もともとはロゴがなかった千成屋珈琲。この雰囲気のあるロゴも、リニューアルを期に制作されたんだとか!
「あと……めちゃめちゃ気になるメニューがあるんですが……」
「何ですかこのスムージー!? 急に21世紀感がヤバいんですけど!?」
「まさに、インスタ映えを意識して作ったメニューです! 若い人が発信するきっかけになることを狙って、うちにはいくつかそういうメニューを用意してるんです。意外と人気あるんですよ!」
▲instagramで「千成屋珈琲」と検索するとこんな感じに。ほんとだ! レトロな喫茶店だけど、意外とスムージー頼まれてる~!
「いやぁしかし、老舗の喫茶店を継ぐのに更にレトロ感を増やしたり、全く新しい商品を開発したり……。かなり思い切ったことをされてますね!」
「なるべく、老舗の喫茶店という型にとらわれすぎず、柔軟なアイデアで進化していきたいと思っているんです。ほら、たこ焼きだってそうじゃないですか」
「た、たこ焼き?」
「たこ焼きも、丸い型にすりきり一杯しか生地を入れないと小さいものができるでしょ。最初に溢れるほど流し入れてこそ、ふっくらしていて大きくて、美味しそうなたこ焼きができる!」
「大阪っぽい例えだな~!?(笑)」
「そんな感じで、日々試行錯誤しながら新メニューやPRについて考えています。なるべく守りに入らずやっていければと思いますね」
「千成屋珈琲のミックスジュース」から、新世界の発信へ
「では最後に、今後の展開について聞かせてください!」
「そうですね。千成屋珈琲については、ゆくゆくは『千成屋のミックスジュース』を大阪のスタンダードにしたいです」
「大阪のスタンダードに!」
「店舗を増やす計画もあるのですが、それだけじゃなく、『千成屋珈琲のミックスジュース味』のコラボ商品やおみやげ品など、商品の展開もどんどんして行ければ面白そうかなと」
「千成屋のミックスジュースの味を、店頭のジュースだけに止まらずに広く伝えていくわけですね。息子さんと約束した『新世界を盛り上げる約束』については、どう展開されるんでしょうか?」
「そうですね。今、新世界はホンマにチャンスなんですよ。この辺りって昔は本当に治安が悪くて、変なおっさんもウジャウジャいたんですけど、最近は条例や助成金のおかげで観光客も増えて、だいぶ治安が良くなってきた」
「いやいや私この間、新世界の路上でビールの空き缶積み上げながらグイグイ飲んでるオッサン見ましたけど!?」
「いやいや、今も路上に座ってるのは、観光客と喋るのを楽しんでるおっさんだけ! あんなんゆるキャラみたいなもん!」
「あのおっさん、ゆるキャラだったのか……」
「ただ、それに反してこの辺りの串カツ屋や寿司屋なんかの老舗は、後継ぎ不足でどんどん閉店していってるんです。なので今後は僕が筆頭となって、新世界自体をもう一度リニューアルできればと思ってて」
「リニューアル? 千成屋みたいに、ってことですか?」
「はい、時代に即した進化を遂げさせられたらなと。ありがたいことに千成屋は色々なメディアで取り上げてもらえて、SNSでも話題になり、全国からお客さんが来てくれるようになりました。そんな千成屋の経営で培ったノウハウを使って、次に閉店しそうな店があれば、そこにも声をかけていきたいなと思っています」
「新世界は、ただ古くておっちゃんが飲むだけの街になっちゃ絶対ダメなんです」
「急にアツい話に……」
「どんなに素晴らしいものでも、進化がなければやがて滅びてしまう。新世界というこの最高の街を、孫、ひ孫の代まで続けるためにも、僕がこれまでの人生で培ったPRやディレクション、経営のノウハウをもって、全力で街全体を進化させていけたらと思っています」
「白附さん、今日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!」
というわけで、千成屋珈琲店 4代目店主、白附さんのお話でした!
てっきり、ミックスジュース大好きな面白おじさんが現れるかと思いきや、
果ては新世界全体の存続までも思い描く、スケールのでっかい経営者さんだったなんて……!
白附さんの手によって進化を遂げた千成屋珈琲店は、きっとこれからも少しずつ形を変えながら、時代のテーブルに乗り続けることでしょう。
次なる挑戦となる「新世界のリニューアル」は、街を一体どのように進化させていくのでしょうか?
5年後、10年後、30年後……この街の未来がめちゃめちゃ楽しみな、社領エミでした!
(おわり)