ジモコロ編集長の徳谷柿次郎です。僕と全く同じ顔の銅像を新潟で発見しました。「創」って書いてるので、もしかしたら先祖は創造主なのかもしれません。アクトレイザー!!
さて今回、別記事で新潟県燕三条のハサミ職人の元を尋ねたんですが、現地の方のご厚意で燕三条のモノづくりの現場も案内していただきました。熱量にあふれた燕三条の会社さんを世の中に少しでも伝えたい!という思いから、「スマホ時代の文章量は抑えるべき説」を無視して紹介したいと思います。
気になった見出しだけでも読んでいただけると嬉しいです!
●舞台は世界だ! 最高品質の業務用包丁「藤次郎(TOJIRO)」
●たった16グラムの名刺入れ!? 金属加工技術がすごい「MGNET」
●創業200年の“匠の技”に驚愕! 無形文化財の鎚起銅器「玉川堂」
ジモコロの取材経験で辿り着いた境地のひとつに「地元の顔役の人に頼れば最高!」というものがあります。いくらググっても地方の魅力的な一次情報は出てこない…結局人と人の繋がりなんですよね。支えあってるんですよね。金八先生ありがとう。
新潟県のモノづくりは「燕市産業史料館」で学べ!
まずは新潟県燕三条の歴史を学ぶべく、「燕市産業史料館」にお邪魔しました。いかんせん予備知識ゼロのスカスカな状態なので、歴史を紐解いてから燕三条のモノづくりの本質を知る心を整えたいと思います。しかし、キレイな施設だなぁ。
約2時間半にわたって懇切丁寧に案内してくれたのは、同史料館の主任学芸員である齋藤優介さん。テレビやラジオへの出演、コラム執筆など、豊富すぎる知識と引き出し、そして軽快な話術でグイグイと惹きこんでくれました。
燕三条の歴史を語る上で欠かせないのが「和釘(わくぎ)」の存在。そもそも釘に「洋」や「和」の違いがあること自体知らなかったのですが、江戸時代初期から燕三条は「和釘づくりの町」として知られていたそうです。
また、越後(新潟)から江戸(東京)へと和釘が運ばれて、災害復興時に一役買っていたらしく、日本の文化発展への貢献度が計り知れます。
実用的な和釘を原点に「ヤスリ」「キセル」「彫金」「鎚起銅器」など、時代の移り変わりと共に職人さんの技術が受け継がれ、僕が新潟県燕三条を訪れるきっかけとなったモノづくりの町ブランドに繋がるわけです。
齋藤さんいわく「日本のモノづくりの技術は長年の歴史と共に受け継がれてきたが、完成品に至るまでに不可欠な職人道具を残さない人たちが多い。それこそ職人のお爺ちゃんが亡くなったら、その道具も遺品と一緒に整理したりだとか。その積み重ねで道具があまり現存しておらず、いざ昔の技術を再現しようと思っても難しいことが多い」とのこと。
そのため燕市産業史料館では、和釘やキセルといった展示と合わせて職人さんの道具もバッチリ展示し、保存する活動に力を入れています。もし300年後にプラモデルが博物館に展示されていたとしても、ニッパーやペンチ、デザインナイフ、パテとかの道具が抜け落ちてたらピンとこないですもんね。つまりはそういうこと!
いやはや、それにしても展示品の数とクオリティがすごい。ここにしか保管されていない貴重なキセルや約5,000本(日本一!)に及ぶ世界のスプーンコレクションなどなど、じっくり見て回るのに半日ぐらいかかりそうです。
何よりすごいのは、そのすべての文化について淀みなく話し続けられる齋藤さん。「空気の通りを考えて作られた2〜3万円代のキセルで吸うタバコは別格。若者がタバコを吸っても美味しく感じないのは、吸い込む空気量が多すぎるから。お年寄りの方がちょうどいい塩梅で吸ってるんですよね」と、タメになりすぎる豆知識もいただきました。いつかキセルで最上級のタバコを吸ってみたい。
余談ですが、僕の大好きな貴志祐介の小説『新世界より』に、ミノシロモドキっていう全人類の知識が詰まったデータベースの生き物が登場するんですけど、齋藤さんはニイガタミノシロモドキと言ってもいいかもしれません。燕三条の歴史に興味があれば、ぜひ燕市産業史料館に足を運んでみてください。
公式HP:燕市産業史料館
舞台は世界だ! 最高品質の業務用包丁「藤次郎(TOJIRO)」
続いて倉又さんに連れて行ってもらったのは業務用包丁ブランドの最大手「藤次郎(TOJIRO)」さん。「柿次郎(KAKIJIRO)」として妙なシンパシーを覚えてしまいます。
半世紀にわたり切れ味の鋭い包丁を追求してきた藤次郎株式会社。その包丁は世界最高品質を誇り、世界50カ国に販路を持っているそうです。世界中の料理人が「TOJIRO! GREAT!」と叫びながら、肉や魚を捌いているのかと思うと胸がアツくなりますね。日本の鍛冶技術はやっぱりすごい!
ご覧ください。この光り輝く包丁の数々…!
なかにはモンスターハンターの武器みたいな包丁もあります。このイカつい包丁なら、ナルガクルガの剥ぎ取りも捗りそうです。レア素材「朧月の欠片」…出ろ、出ろ、出ろー!!
まぁ、出るわけないんですが、これは「そば切り包丁」だそうです。見た目のイカつさよりも繊細な食べ物を切るんですね…。
そんな藤次郎株式会社で藤次郎ナイフギャラリー責任者を務める小川眞登さんに、工場内を案内してもらいました。こんな機会はなかなか無いので緊張します。
なぜなら、結婚式のカタログギフトで貰える3000円相当の包丁しか握ったことがないからです。包丁の名前でよく見る「関孫六」は、燕三条と並ぶ鍛冶屋の町・岐阜県関市のブランドだと最近知りました。勉強になるねぇ。
こちらは包丁の原型を作るまでの工程。「材料」→「コミ出し」→「アゴ出し」→「刀先切断」→「刀先整形」→「刀身寸出し」→「ならし打ち」と複雑な工程を経ているのが分かるものの、これで完成じゃないですからね。
いやー、刃物を取り扱っているだけに危険性は伴うため、緊張感のある現場でした。ちなみに藤次郎さんは1日約5000本の包丁を生産しているそうで、大きな機械の導入はもちろんあるものの、繊細な部分の作業はやはり職人さんの技術がなければ成り立ちません。そのため1本の包丁を仕上げるのに1〜2ヶ月かかるのだとか。
過去にバールを焼き入れして、ハンマーで叩いて形成するというオーソドックスな鍛造方法でナイフを作ったんですが、その労力たるや尋常ではなかったです。刃を磨く作業が大半を占めるといっても過言ではありません。まぁ、1日半のワークショップでやりきるのが大変だったんですけども。
機械で研磨し、藤次郎さん独自の技術を積み重ねていくとこんな風に仕上がっていきます。日本刀の輝きに魅了される人間の性ってこういうことなんでしょうね。とにかく藤次郎さんの包丁は美しい…!
料理に目覚めて包丁にこだわるときは、絶対藤次郎さんの包丁を買おうと思います。
公式HP:藤次郎(TOJIRO)
たった16グラムの名刺入れ!? 金属加工技術がすごい「MGNET」
続いて、町の案内所を目指して株式会社MGNETさんが2014年にオープンした「FACTORY FRONT」へ。燕三条で作られた製品や工場見学など、気軽に足を踏み入れられるような空間になっています。
店頭に入って早々に「なんぞこれ!」と目に飛び込んできたのがカラフルな名刺入れ。社会人として欠かせないアイテムの1つですが、柿次郎にちなんだオレンジ色の名刺入れを手に取ってみると衝撃が走りました。
か、かっるぅぅぅ〜!!
重量はたったの16グラム。日本のスリーピースロックバンド「Syrup16g」と全く同じですよ。関係ないですか。この中に名刺が最高20枚入るそうなんですが、その名刺よりも本体の方が軽い設計になっています。ポイントは、金属の中で最も軽い素材であるマグネシウム合金を使用していること。ガラスにも似た繊細な性質を持っているため、高度な加工・成形技術が求められるそうです。
その場で友人のプレゼント用に購入してしまうほど感動を覚えたので、株式会社MGNETの代表取締役・武田修美さんにお話を聞いてみました。
「実は父親がプレス金型の会社(武田金型製作所)を経営していて、約35年の歴史を持っているんです。私が代表を務めるMGNETでは、父親の会社の技術とプロダクトマネジメントを掛けあわせた企業コラボの製品制作やコンセプトメイク、ブランディングを行っています。約10年前にこの名刺・カードケース『mgnシリーズ』を自社開発したんですが、そもそもの経緯で言うと金属素材の研究をしていて、一般の人でも気軽に購入できるプロダクトを作り始めたんですよね」
今では大手百貨店でも取り扱っていて、カラフルかつ軽量な『mgn-020 マグネシウム製』(価格=7,560円)は名刺入れの中で唯一、伊勢丹の婦人コーナーに並んでいるのだとか。たしかに女性にプレゼントすれば喜ばれること請け合い! 誕生日やクリスマスプレゼントに皆さん、いかがでしょうか。
マジで買いました。ここで買えば名前も彫ってもらえます!
お隣りの武田金型製作所の工場も案内してもらいました。見慣れない金型用のプレス機が並んでいて「ほほぉ〜」と大きい会社の部長みたいなトーンで話を聞き入っていたのですが、「何十年も前は安全装置がなかったため、プレス機と板金が噛み合わずに金属片が弾けて、胸に大きな風穴が開くような事故もあったそうです。現在の機械ではありえないんですが」(武田さん)と末恐ろしいエピソードに身震いしました。
あれ?
おおお!?
ちょっとこれって…!
過去に関わったプロダクト関係の製品も展示されていたんですが、どこかで見たことのあるようなリンゴマークが…。これってiPhone、iMac、Macbookでは…?
「実は一時期のアップル製品用部品の金型を武田金型製作所で作っていたんです。秘密主義の会社であることは有名ですが、我々もどの製品のどの部品なのかは知らされず、届いた発注内容に合わせて『これはなんだろう…?』と訝しげに思いながら対応していました(笑)」(武田さん)
スゲー!! 燕三条のモノづくりの技術は、世界のアップル製品にも宿っていたんですって。しかも、現場の職人さんはアップルの技術者に対して「そんな甘い仕事してんじゃねーよ!」と言いのけるくらいの関係性だったそうです。かっこいい〜〜!!
その技術を証明するのがこちら。
逆再生バージョン。
0.001mmの金属加工の世界では、この鉄の塊を金属加工し、切り出したロゴを持ち上げて、スッと指で押すと気持ちがいいほどの滑らかさで動きます。
加工の切れ目がほぼ見えなくなるため、説明を受けずにこの映像を見ると「え、どうこと!? もっかい見せて!」と驚く人が大半です。僕も驚きすぎて「インディージョーンズの仕掛けみたい!」と叫びました。絶対、終盤で大きな扉開くやつでしょう。
実際に某米国映画会社から「CGでこういった仕掛けを再現するよりも、この金属加工でホンモノを作った方が安いんじゃねーの?」とオファー(実現はせず)があったこともあるそうです。こんなにも誇らしいエピソードを燕三条で聞けるだなんて、やはり日本の職人技術は世界に通用するレベルなんですね。
公式HP:株式会社MGNET
大手飲食店の厨房機器なら任せろ!「ハイサーブウエノ」
こちらは昭和44年創業の業務用厨房機器メーカー「株式会社ハイサーブウエノ」。誰もが知っている飲食チェーン店の厨房システム化や厨房板金の一貫製造などを手がけています。我々にとって身近な大手飲食店の根幹を支える会社だと言っても過言じゃありません。
ほら! 詳しくは文字にしないけど、お世話になってるところばかり〜!!
代表取締役社長の小越元晴さんが、直々に工場を案内してくれました。しかも、愛情と熱量たっぷりに…! 現場にこそサービス業の精神が宿るんですね。
いわゆるキッチンシンク周辺の部品です。完成品しか見たことのない人が大半だと思いますが、プラモデルのように複数の部品を組み立てていくようです。
組み立てに欠かせないのが溶接と研磨の作業。ハイサーブウエノさんでは若い職人さんも数多く雇用していて、真剣に取り組む姿が目立ちました。弊社バーグハンバーグバーグは常に弛緩しきった顔でネットサーフィンをして、好き放題にお菓子を食べて、たまに仕事をするという堕落しきった環境なので面食らいました。しっかりしなきゃ…!
このサイズの板金加工を目の当たりにしたら、普通にビックリすると思います。数トンの力が板金にグイっとかかった瞬間、折り紙のように曲がるんですから。たぶんロトの剣も曲がります。伝説の勇者よりも、プレス工場のおじさんの方が強い世界。
驚いたのがロボットが自動で板金をする未来的ハイスペックマシーン「ASTRO II 100 NT HDS 1030」(約1億円!)。生きてる人間のような動きでアームが次々に板金加工の作業をこなしていきます。職人の育成と最新の効率化を図ったロボットの併用は、今後のスタンダードになるのかもしれません。
動きが気になる人はYouTubeでご覧ください。
工場は最高の営業マン!
ハイサーブウエノさんのオフィスに足を踏み入れたとき、そして工場を見学させてもらっていたとき、どの社員さんも笑顔で挨拶をしてくれたのが印象的で。その意味は会社で掲げるキャッチコピーに込められていることがハッキリ分かりました。
今後、東南アジアの発展に伴い、日本の飲食企業が大規模に進出すれば、オペレーションの根幹を支える厨房機器の需要も増えてくるでしょうね。
公式HP:株式会社ハイサーブウエノ
創業200年の“匠の技”に驚愕! 無形文化財の鎚起銅器「玉川堂」
いやぁ、何時間も見続けていられるような急須ですよね。デザイン性はもちろん、細かい細工や加工の上に成り立つ気品といいますか。うっとりとした目で見つめてしまいます。実はコレ、高級な美術品かと思いきや普通に購入できる鎚起銅器(ついきどうき)の急須なんです。
さて、「鎚起銅器とは何ぞや?」ということなんですが…
鎚起銅器とは、左下の丸い銅板を金「槌」で、打ち「起」こしながら、矢印順に形成していく無形文化財にも選ばれた職人技術で作られた銅器のこと。
しかも、銅を叩いて伸ばすのではなく、叩きながら縮めていく上に、職人さんの勘だけで急須の形状に仕上げていくという「なにそれ!?」って世界です。
特に匠の領域として語られるのが「口打ち出し」という技術。1枚の銅板から急須の先の部分を打ち出すかどうかで数十万円の価格差が生まれるほどです。
今回、このプロフェッショナルすぎる技術を約200年に渡って受け継いできた「玉川堂」さんの工場を訪れた訳ですが、想像の域を大きく超えるような職人世界に魅入られてしまいました。
叩くと固くなり、火に入れると柔らかく銅の性質を生かして、何度も何度も手間暇を惜しまずに作っていきます。金属音が鳴り響く現場では、耳栓をしなければいけません。
どんな音か気になる人はこちら!
打ち起こし、焼き鈍し、打ち破り、彫金、成形、着色といった工程を経て完成した作品は、携わった職人さんの愛情が個性となって表れるそうです。さらに人の手に触れて長く使われた銅器は、色味がどんどん落ち着いてきて違う表情を見せます。
左の黄金色に輝くヤカンと右の落ち着いたヤカンを見せる急須…どちらも同じモノなんです。右側のヤカンは約40年経過して、また全然違う趣が生まれています。もちろん決して安い値段ではありませんが、一昔前はこれらの茶器は一生物として購入し、子へ孫へ受け継いでいく感覚だったようで。この経年変化とも言える味わいを楽しむ心があったんでしょうね。いつか出世したら孫のために買うぞ〜!!
公式HP:無形文化財 鎚起銅器 玉川堂
まとめ
新潟県燕三条のモノづくりの現場レポートはいかがだったでしょうか。
漠然とした感覚で「優良企業スノーピークを生んだ鍛冶屋の町だ!」と思ってやってきたのですが、日本の高度経済成長期を支えた職人の技術、そしてビジネス的に転換期を迫られた中で柔軟に努力し続ける企業の生存戦略が垣間見えました。
自宅に帰った後、『ガイアの夜明け』を7本分ぐらいの情報量を浴びた感覚で知恵熱を出したのは言うまでもありません。
●舞台は世界だ! 最高品質の業務用包丁「藤次郎(TOJIRO)」
●たった16グラムの名刺入れ!? 金属加工技術がすごい「MGNET」
●創業200年の“匠の技”に驚愕! 無形文化財の鎚起銅器「玉川堂」
このリンクを辿れば無限に楽しめます!
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書いた人:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916
写真:小林 直博
長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。