こんにちは! ライターのギャラクシーです。
最近、オランウータンの新種が発見されたというニュースをご存知でしょうか。
これまで、「スマトラ・オランウータン」と、「ボルネオ・オランウータン」の2種だけが知られていたんですが、2017年、新たに第三の種類「タパヌリ・オランウータン」が確認されたんです。
で、ブームに乗っかるわけじゃないんですけど……
僕、以前からオランウータンが大好きなんです!!!
オランウータン
・霊長類ヒト科オランウータン属
・スマトラ島とボルネオ島のみに生息
・体長|オス:約97cm、メス:約78cm
・体重|オス:約85~30kg、メス:約30~45kg
・寿命|50~60年
つぶらな瞳とオレンジ色の鮮やかな毛並み。そして何より彼らの、孤独を愛する生き方が大好きなんです。
そう、世界には人間を含めてたくさんの霊長類が生きていますが……昼に行動する霊長類の中で、群れずに生きていくのはオランウータンのみです。
そして現在、
近絶滅種(もっとも絶滅が危惧されるカテゴリー)指定されている
という一面もあります。
どうです? オランウータンという生き物のことが気になってきました? 僕はとても気になっています。
というわけで今回は、筑波にある国立科学博物館・筑波研究施設にやってきました。ここに、世界でも有名なオランウータンの研究者がいるらしいのです。
さあ! あの不思議な生き物のことを、たっぷり教えてもらいましょう!
▼もくじ
樹の上で孤独に過ごす「オランウータン」……どんな動物?
話を伺ったのは国立科学博物館 人類研究部・久世濃子さん。世界的に有名なオランウータンの研究者です。
※ちなみに今回はオランウータン全般についてお聞きしましたが、新種発見についてもブログでコメントしておられます。
「よろしくお願いします! 今日はオランウータンってどういう生き物なのか、教えてもらうために来ました」
「興味をもってくれるのは、研究者として嬉しいことです。何でも聞いてください」
「僕がオランウータンに興味を持った理由は、『生涯の殆どを樹上で、孤独に暮らす』というところなんです。自分が人付き合いが苦手なタイプなので……。オランウータンも付き合いが苦手なんでしょうか?」
「孤独に暮らすのは確かですね。昼に行動する霊長類の中で、群れを作らず単独で生活するのはオランウータンだけです」
「やっぱり珍しいんだ。一体なぜオランウータンだけ? 群れてたほうが外敵が現れた時に対抗しやすいと思うんですが」
「オランウータンは、生涯のほとんどを20~30mの高い樹の上で暮らすので、外敵の脅威はあまりないですね」
「20~30mってビルの15階くらい!? めちゃめちゃ眺望の良いとこで生活してるな……」
「彼らが孤独に暮らすもっとも大きな原因は、エサと環境にあるんじゃないかなと考えています。オランウータンは主にフルーツを食べるんですが―」
「フルーツには、実のなる時期というのがありますよね? 桃なら夏、柿なら秋という具合に。彼らの住むボルネオの森では、なんと数年に一度しか好物の果実がならないんです」
「ええ~! なんて生きにくい環境だ。あっそうか! ということは“エサのない時期”に群れで行動すると、少ない食料を奪い合ってケンカになっちゃう……?」
「そういうことですね。1頭ずつ離れた場所で暮らしていれば、エサのない時期も自分一人のエサくらいは何とかなる、ということなんでしょう」
「何とか……なります? 数年に一度しかフルーツが実らないって、まあまあ致命的では?」
「一応、イチジクは毎年実るんですよね。でも日本のと違ってマズいんで、あまり好きではないようです。“非常食”みたいな感じかな。イチジクすらなくなると、樹の皮を食べたりします」
「ウゲ~、樹の皮なんて超マズそう」
「私も食べてみたんですが、全然おいしくなかったですね」
「食べたの!?」
「研究者ですから、オランウータンが食べるものは大体味見してます。樹の皮はとにかく苦いだけ。苦味に耐えて耐えて噛み続けていると、フッと味がなくなる瞬間がある」
「研究者って、そこまでしなきゃいけないの……?」
「エサの問題で群れを作らないということはわかりました。では、一年中エサが溢れている環境なら、オランウータンも群れを作る?」
「動物園などではグループで行動する場合も見られますね。だから彼らは、望んで孤独というわけではないのかもしれません」
「そうだったのか……じゃあ動物園に行けば集団行動してるオランウータンが見られるんですか?」
「多くの頭数を飼育している動物園では見られるかもしれませんね。多摩動物公園は、オトナ雄2頭、オトナ雌4頭、若雌1頭、コドモ3頭いますのでおすすめですよ」
「会社の経費で行きます!!」
孤独な動物が樹上で行うセックスとは?
「野生のオランウータンは、樹上で孤独に暮らしてるんですよね? 交尾の相手はどうするんですか?」
「オスは年中交尾できますが、メスはヒトと同じで一ヶ月に一回 排卵があって、その2~3日前が発情期になります。その期間にオスを受け入れるんです」
「ちなみに子育てはどうするんでしょう?」
「子育てはメスだけで6~9年くらいかけて行います。これは哺乳類で最長の子育て期間です。ちなみに、オスは交尾が終わった直後に、さっさとどこかに行ってしまいます」
「最低のクズ男じゃないですか」
「あと、オスは交尾の前に、メスに対して性器検分というのをします。妊娠すると大陰唇が腫れるので、それを見ると『いま交尾しても妊娠させられない』ということで、相手にしません」
「最低度のランクがまたひとつ上がった」
「まぁ、命をつなぐための知恵ですから……」
「ちょっと聞きにくいことなんですが、オランウータンってその~、“アレ”は、大きいんですか?」
「ん? ペニスの大きさですか? 4cmくらいじゃないでしょうか」
「4cmのペニスで、不安定な樹の上で交尾するって、まあまあ難しいパズルなのでは?」
「そうですね。かなり不思議な体位でする必要がありますね。例えばこんな―」
「お互い枝にブラ下がりながら、とかね。枝の形に合わせて色んな体位で行われます」
「アクロバティック過ぎる! 体位のバリエーションが豊富というのは珍しいのでは? ジャンプでやってたマンガ『ジャングルの王者ターちゃん』でも、チンパンジーのエテ吉はいつも後背位でした」
「まあ珍しい部類だと思います。チンパンジーやゴリラは後背位のみですからね。オランウータンはフェイス・トゥ・フェイスが多いかな」
「人間っぽい! 素朴な疑問なんですが、知能が高いなら、相手がいなくても“自分でする”ことを思いついたりしないんでしょうか」
「動物園だと、マスターベーションできる個体もいます。そういう個体なら、飼育員が手でして精液を採取できるんで、研究者にとっては助かるんですけどね」
「マスターベーションすることを、“できる”って呼ぶんですね。やっぱり“自分でできる”って、『能力』なんだ。ちなみにメスもするんですか?」
「飼育下だと、メスもマスターベーションしますね」
「ほうほう、それはどういう感じで?」
「どうって、手や木の枝に陰部をこすりつけるみたいな……あの~、オランウータンの性に興味持ちすぎでは?」
なんとなく頭が良いイメージがあるけど……?
「オランウータンというと、“すごくかしこい”というイメージですが、実際のところはどうなんでしょう」
「ヒトの5歳の子供と、ほぼ同じくらいの知性と言われていますね」
「じゃあ道具は使えますか? そんなに知性が高いなら、ひょっとしてスマホでLINEしてたりして(笑)」
「動物園だとiPadを使う個体がいますよ」
「嘘ぉっ!? せいぜい木の枝でアリを食べるとか、そのレベルだと思ってたのに!」
「お絵かきソフトを使ったり、ゲームをしたり、スカイプしたりといった使用が可能ですね」
「イラストレーター目指してる中学生じゃん」
「将来的にはスカイプでお見合い、なんてことにも使えるんじゃないかと」
「すごいな。iPadなんて、実家のオカンでも使えないのに……。カメラロールに入ってる写真では、どういうものに興味を示すんですか? やっぱりエサの画像?」
「興味を示すのは圧倒的に“オランウータンの写真”ですね」
「人間で言うとグラビアとかピンナップを見る、みたいなものなんでしょうね。ゲームもプレイするということですが、課金してガチャやったりするんですか?」
「そこまではさすがに……。でも今後はVR(バーチャルリアリティ)や、視線を感知する機械なんかを使って、さらにオランウータンの心を理解できるような実験が進んでいくと思います」
オランウータンは強いのか?
「『ジョジョの奇妙な冒険』というマンガで、『オランウータンは人間の5倍の力があるから、腕なんか簡単に引っこ抜かれる』って言うセリフがあるんですが、本当ですか?」
「引っこ抜けるかどうかは実験してませんが、骨はいとも簡単に折られると思います。特に腕の力がすごくて……測ったことはないですけど、300kgとか言われていますね」
「何十キロもの体重を樹の上で支えてるんだから、そりゃあものすごい力なんでしょうね」
「好物のドリアンも、手でバカッと割って食べるんです。ドリアンって木の高さが15m~30mあって、そこから落ちても割れないくらい硬いんですけどね。人間だとナタを使わないと絶対無理」
「格闘家でも勝てない?」
「鍛えてる人だとちょっとわからないですけど……ただ、掴まれたら終わりなのは確かですね。骨を砕かれちゃうと思います」
「じゃあ、走って逃げるしかないってことですか」
「ですね。私は追いかけられたことがあるんですが、平坦な道であれば人間のほうが速いです。ただ、草が多く生えてたり、藪だとオランウータンのほうが速い。もし追いかけられることがあったら、平坦な場所へ走ってください」
「今後の人生でオランウータンに追いかけられる機会があるとは思えませんが、覚えておきます」
「まあ、必要以上に怖れる必要はありません。オランウータンは比較的おとなしい動物ですから」
「凶暴ではないと」
「ゴリラやチンパンジーの場合は、人が死ぬような事故や、大怪我を負った話もあります。でも野生下のオランウータンに殺されたとか、大怪我を負わされたなんて人は聞いたことがないですね」
「オランウータンって、子供の頃は丸っこくて、超かわいいじゃないですか。でも大人になると顔の周りにビラビラしたもの(上の写真参照)が生えてきますよね? あれ、何なんですか?」
「あれは“フランジ”といって、地域で一番強いオスがなります」
「へぇ~、全部のオランウータンがなるわけじゃないんですね! でも、自分が地域で一番だ!って、どう判断してるんですか?」
「オランウータンは群れない動物ですが、行動範囲の中で、別のオスに出会ってしまうことはあるんですね。そういった中で、自分の実力を知っていきまして、『俺って強い!』と思うと、徐々に顔の皮膚が張り出していくんです」
「思っただけで顔面があんなに変わっちゃうの!? 変わらないほうがかわいいのに!」
「いえ、フランジは強さの象徴なので、モテます! その代わり、ケンカなどで負けると小さくなってしまいます」
「不思議すぎる……」
「不思議といえば、こんな話もあります。動物園で1頭だけ飼われていたオスが、まったくフランジにならなかったんですね。なのに、飼育員が変わった途端にフランジになったんです」
「なんで!? 1頭だけで飼われてたから、他のオスとは比較できないハズですよね?」
「以前の飼育員は体格が良くて高圧的なタイプだったらしいんですけど、次に来た飼育員は細身で優しいタイプだったんですね。だから『この飼育員より自分のほうが強い』と思われたんでしょうね」
「オランウータンの飼育員を目指してる人は、筋トレしないとナメられるんで頑張ってください」
ちなみに、何か話のタネになるかなと思って、10年近く大事にしてるオランウータンのぬいぐるみを持っていったんですが……
「あ、『ナカジマコーポレーション』のぬいぐるみだ! 最近のバージョンより毛が硬いから、これは旧タイプですね~」と即答されました。
さすが研究者!
研究者って何するの?
久世さんがオランウータンの調査を行っているのは、インドネシア・マレーシア・ブルネイの3か国にまたがる島、ボルネオ島。人口約1750万人。
日本の国土の約1.9倍の大きさであり、全体的に山が多い地形。広大な熱帯雨林は「世界最古の熱帯雨林」と考えられている。森は多いが、果実に乏しい。
「久世さんが調査している森は、どういうところなんでしょうか」
「ボルネオ島北部のダナムバレーという場所ですね。一年中、昼間は30度を超えるくらい暑くて、湿度は90%以上。鬱蒼と茂る熱帯雨林です」
「めちゃ不快そう」
「私やスタッフは、京都大学の出資で建てた小屋を拠点に、調査を行っています。一応、水や電気も利用できるので、不便ではないですね。お湯じゃないけどシャワーもありますよ」
拠点となる小屋がこちら
「でも虫とかいますよね?」
「いますね。小屋は虫がガンガン入ってきます。朝起きたら床が虫だらけということも……」
「インディ・ジョーンズ2じゃん」
「お金を節約する為に、廊下に壁をつくらなかったので……。まあ、どっちみち、一日の大半は森の中で調査してますから、アブや蚊、ハチ、ヒルといった虫の被害は防ぎきれないです」
「そんな……」
「ヒルなんかはチャックの隙間からでもチュル~っと侵入してきます。あと、ダニは命にかかわることもあるので、注意してください」
「虫以外に、危険な生き物はいないんですか? 熱帯のジャングルと聞くと、猛獣とかいそうですが」
「ウンピョウ(ネコ科の肉食動物)はいますが、遭遇頻度は低いんで、そこまで怖くはないかな。アシスタントはバッタリ出くわして驚いたって言ってましたけど」
ウンピョウ、かわいいけど強そう
「あとはヘビやイノシシ……それに象です」
「象に追いかけられたことがありますが、何トンもある巨体が全力で走ってくると、メチャメチャ怖いですよ」
「ジャングルで一番恐ろしいのはダニと象、ということでいいですか?」
「いえ、実は一番やっかいなのは植物です。森を歩いてて、いつのまにか“かぶれる植物”に触れているということが多くて。気づいたら腕がパンッパンに腫れてたりするんですよね」
「ボルネオ島には一生行かないことにします」
調査に向かう久世さんとスタッフ。調査中は1分毎に「何もしていない」など、対象のオランウータンの記録をつけていく
ちなみに食事は、現地で雇ったアシスタントが、マレー料理を作ってくれるそうです。めちゃおいしそうですね!
絶滅の危険! 最もヤバいカテゴリーに
「そもそもオランウータンって、どういう地域に生息してるんですか?」
「生息数がどんどん減っていまして、現在はインドネシアとマレーシア(スマトラ島とボルネオ島)のみに生息しています」
「そんな限られた場所にしか生息してないんですね。なのに、さらに数が減っている?」
「1900年に32万頭だったものが、2004年の調査では6万頭まで減少していました。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも、『近絶滅種(絶滅寸前)』にカテゴリーされています」
「レッドリストって、ウナギの時にも話題になりましたけど、色々種類がありすぎて、わかりにくいんですよね……。つまり、どれくらいヤバいんですか?」
「簡単に言うと、絶滅が危惧されているカテゴリの中で、一番ヤバいです」
絶滅種危険度ランク
▼「絶滅」すでに地球上から姿を消した種
▼「野生絶滅」野生ではすでに絶滅(施設などでは生息)
▼「絶滅危惧」└近絶滅種←オランウータン
└絶滅危惧種←ウナギ
└危急種
▼「準絶滅危惧」
▼「低懸念」
「めっちゃヤバい!!!! なんでこんなことに……?」
「森が伐採されて、オランウータンが暮らせる環境が減ってるんです。かつて森だった場所は、アブラヤシが植えられた畑になってることが多いですね」
「あ、アブラヤシ? そんなワケのわからんもののためにオランウータンが……」
「いえ、アブラヤシって、誰もが“ワケがわかっている”ものですよ。パーム油というオイルが採れるんです」
「そう言われても、パーム油という単語にも馴染みがないですけど」
「パーム油は、『植物油脂』という名称で、みなさんが普段食べているものや、洗剤など、すごい数の製品に使われてたりするので、チェックしてみてください。一日生活すると、どこかで必ずパーム油を使った製品に出会っているハズです」
「え、そんなに!?」
「全世界の植物油……ゴマ油とかナタネ油とか、そういうのの中で、パーム油がダントツ1位で生産されてますから」
「そのせいでオランウータンの住む森が脅かされていると」
「はい、でも現地の人にも生活があるわけで、オランウータンのために貧乏になれとは、絶対に言えません」
「じゃあ、どうしようもないってことじゃないですか!」
「WWF(世界自然保護基金)などの環境保護団体が、『できるだけ自然を壊さない方法』でパーム油を生産している農園や企業を認定し、認証マークを発行しています。それが、対策といえば対策ですね」
「『できるだけ自然を壊さない方法』というのは、具体的にはどういうやり方なんでしょう?」
「現状では、森がアブラヤシの畑に分断され、オランウータンが閉じ込められていることがあるんですね。そこで畑と森の間や、川沿いなどに、廊下のように森を残してあげると―」
※参照|ボルネオ保全トラストジャパン・緑の回廊事業
「オランウータンはその廊下を通って、エサが残っている別の森に行き来できるわけです」
「なるほど。そういった取り組みを行っている農園や企業には、認証マークが発行されると」
「『RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)』というマークをつけて流通させています。RSPOマークのついた製品を選ぶことで、熱帯雨林の保護や、オランウータンの保護に繋がる仕組みですね」
「パーム油のことも、そんなマークがあることも、全然知らなかった……」
「ですよね。学者の考え方かもしれませんが、知ることからすべてが始まります。愛すべき兄弟であるオランウータンのことを、まずは多くの人に知ってほしい。そして彼らのために何ができるのか、一緒に考えていけたらと思っています」
「わかりました。僕も微力ながら、できることを探してみたいと思います! 今日はありがとうございました!」
「ありがとうございました」
まとめ
孤独を愛するふしぎな動物、オランウータン。彼らは今まさに、滅びようとする危機に直面しているようです。
新種発見についても、久世さんはこのようにコメントしています。
生息数は800頭未満とみられます。オランウータンは繁殖のスピードが遅く、保全対策が必要でしょう。
我々が今できることって、何なんでしょうか?
とりあえず僕は、オランウータンについて、もっとよく勉強してみます。
久世さんは、最近はホームページを作って研究を紹介したり、クラウドファンディングで調査費を集めたりもしているそう。心の底から応援したいですね!
(おわり)
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy