こんにちは、ライターのナカノです。
皆さん、映画館で映画を観てますか〜??
昨年は映画の興行収入が2000年代で最高額となる2,355億円を記録した、まさに映画の年。
社会現象を巻き起こした『君の名は。』や、SNSの口コミで人気が広がった『この世界の片隅に』などのヒット作も記憶に新しいのではないでしょうか。
※日本映画製作者連盟調べ
私は大学時代にバイトをしていたこともあり、映画館の雰囲気が大好きです。
普段から積極的に劇場に足を運んでいるのですが、先日、秋田県で面白い映画館と出会いました。
それが秋田県大館市にある「御成座(オナリ座)」です。
御成座は1952年に洋画専門の映画館としてオープン。約50年にわたり地元の皆さんに愛されてきましたが、2005年に惜しまれつつも閉館することになりました。
しかし、2014年に御成座は再び開館。2016年には歌手の柴崎コウさんによるライブが行われるなど、映画の上映以外にも活躍の場を広げています。
地元で愛されていた映画館は、なぜ9年の時を経て営業を再開することになったのでしょうか?
復活の裏側について、御成座を運営する株式会社日本コンプリート 代表取締役・切替桂(きりかえ・かつら)さんに話を伺いました!
「こんにちは、この映画館って…」
ガチャッ
「ただいま〜」
「おかえりー、はい宿題宿題!」
「あとで〜!! 遊びに行ってくる〜!!」
えっ、えっ?
映画館なのに「ただいま」???
「ここね、家なんですよ」
「どういうこと?!?!」
「どうぞ、まずは館内をご覧になってください!」
…というわけで、館内を見学することになりました。
館内を見学してみた
はい、スクリーン!
ステージからの景色はこちら。全部で200席ある劇場の雰囲気は、アーティストのPVで使われていそう!
なぜか1席だけあるリクライニングシート…ではなくマッサージチェア。背中がごつごつするぞ……!
ん? ジャッキー?
DJブース?!
カラオケ機器?!
?????
『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせる映写室…!
かつて使用していた映写機!かっこいい!
御成座の中には気になるものがたくさん。切替さんに詳しく聞いてみましょう。
あくまで映画館の付いた自宅
「劇場内、とても素敵だったんですけど、ところどころ映画館とは思えないものが…」
「家ですからね」
「(家にカラオケ? DJブース?)どういうことですか!」
「ここは元々、住居として借りた物件なんですよ。もちろん映画館として機能していて、お客さんも入っていますけどね」
「余計ややこしくなってます」
※仮眠室……映写技師のための部屋。御成座が開館した当時の映写機は、使用に火を伴うものでした。フィルムはセルロイド製で燃えやすい材質だったため、火の元の管理を徹底するため仮眠室が存在しているのだそう。
「事の発端は、電気通信工事を専門とする千葉県の会社なんです。私が代表を務めてまして、旦那も社員です」
「え、いきなり映画と関係ない職種と地域がでてきた」
「日本全国で通信工事を行っていて、その度に従業員を派遣していたんですね。そうしたら2011年の東日本大震災の影響で、東北での仕事が増えて。出張の度にホテルを探したり宿泊費を出したりというコストを考えたら、いっそ東北に物件を借りてしまおうということになりました」
「なるほど、それでちょうどここが空いていたんですね」
「実は、旦那が知らず知らずのうちに借りてきたんですよ!」
「ええっ! じゃあ切替さんは映画館とは知らずに…?」
「事後報告だったんです(笑)。『いい物件借りた』って喜ぶ主人の話をよくよく聞いてみたら映画館!」
「それはびっくり。でも、普通の住宅を借りた方が絶対安いですよね」
「ここは駅から3分の距離なんだけど、他の物件に比べて圧倒的に安かったんですよ」
「ただ物件を借りてからが大変で」
「建物の中の掃除ですか?」
「そうそう! 閉館してから約9年間、館内の荷物も当時のままだったから…。現状引き渡しの条件だったから、安く借りられたんですよね」
「ひええ、片付けるのが大変そう……!」
「だから、ここを借りるきっかけになった電気工事の仕事が終わった後に、家族と従業員で半年かけて整えていったんです」
「前に営業していたのは、喫煙所なんてない時代。壁という壁はタバコのヤニでべっとりだったから、全部自分たちで塗り替えたの」
「だから壁が黒色だったんですね」
「では、床のじゅうたんも?」
「そう、家っぽくしたくてタイルからじゅうたん貼りにしました」
「(家にこだわるなぁ……)それだけ改修したらお金もかかりそうですよね」
「ざっと計算しても500万円以上はかかっているかな…」
「結構いきましたね」
「費用のほとんどはスプリンクラーや非常ベル、消化器などの消防関係。商業施設としての利用に必要な設備を揃えなきゃいけなくて、そのお金がかかりましたね」
営業再開後はお客さんの助けを借りながら
「住居として借りるだけだったら、別に映画館を開館する必要はなかったのでは?」
「もちろんです! はじめは開館するつもりは全くなく、ホームシアターとして楽しもうと考えてたんです。でも、引っ越してきて中の片付けをしていると地元の人に『再開するの?』と話しかけられたり、街で噂になっていたり……」
「口コミがどんどん広がって!」
「そう。大館で映画館はここひとつしかなかったから、やっぱり開けようってことになったんです」
「確かに地元に唯一の映画館だったら再開を望む声は多そう! 実際、ホームシアターとしては使っていないんですか?」
「もちろん使っていますよ」
「使ってるんだ」
「映画館の経営一本だったら厳しいけど、うちには本業である電気通信工事があるから。だから御成座を事業部のひとつに加えて、主人をここの館長にしたんです」
「なるほど」
「映画館を経営することになったから、私と子どもも千葉から秋田に引っ越すことにしたんです。ただ、秋田に引っ越してから主人の出張が増えちゃって。秋田に来て3年目になる今年の1月までは、主人が一緒に暮らした期間は1ヶ月にも満たなくて」
「館長不在の時期が長かったんですね……!」
「実際に営業を再開して、お客さんの反応はどうだったんですか?」
「小さい街とはいえ映画好きはいますから、喜んでもらっていますね。市内の映画館はここだけだから、大館の人が来てくれるのはもちろん、関東圏から来てくださる人もいて」
「といっても、大盛況というわけでは全然ないんです」
「そうなんですか……」
「オープン当時は、人口7万人強の大館市民が、1年に1回ずつ足を運んでくれれば経営を維持できる計算をしていました。だけど蓋を開けてみたら、来場者数は3年で1万人いくかいかないかくらい」
「想像以上に少ない……」
「だからうちは、お客さんの協力あって継続できている部分が大きいと思いますよ。例えば『御成座に1円でも多くお金を落とすために、回数券(※)を買ってたらダメだ!』と言って、毎回通常の料金を払ってくれる常連さんがいたり」
※通常の鑑賞が1300円のところ5回で5000円になる御成座オリジナル回数券
「真のファンですね……!」
「冬に暖房を使わなくてもいいようにって沢山着込んで見に来てくれる人もいましたね。夏と冬は冷房代・暖房代がバカにならないから……」
「ちなみにおいくらくらいですか?」
「夏と冬は1ヶ月で10万円くらいかな……?」
「家って考えるとめちゃくちゃ高い」
「そう、家ですから(笑)」
手描き看板は、いつしか名物に
「この看板も味があって素敵ですよね…昔ながらというか」
「これは常連のお客さんが描いてくれたものなんですよ」
「え、業者に頼んでいるんじゃないんですか?」
「まさか!そんなに余裕がないですから。1年目の冬に『映画と言ったらやっぱり看板だよね!』と言って、家族だけじゃなくお客さんも総出で看板を作ったことがあったんです。でも、それがあまりにも下手すぎて(笑)」
「プロじゃないですから仕方ないです!」
「うちのお客さんで元々デザイナ―をされてた仲谷さんという方が、その様子を見るに見かねて描かせてほしいと申し出てくれたんです」
「映画好きの極みですね」
「それからずっと仲谷さんに頼んでボランティアで描いてもらっているんですよ」
「ボランティア!」
「最初は前の絵に上書きしてたんですけど、『幸せの黄色いハンカチ』の看板を描いた時に、あまりに力作だったみたいで消したくないと言われて。それから1作品ずつ残していくようになったんです」
「他の劇場でも、仲谷さんの描いた看板を飾ってもらったんですよ」
「えっ!どういうことですか?」
「仲谷さんが埼玉の川越まで映画を観に行くタイミングで、『この世界の片隅に』の看板を川越の劇場まで持っていったんです。主人と社員の出張のついでに運んでね。やっぱり、せっかく描いていただいた看板なので」
「御成座発で各地の劇場に飾られる仲谷さんの作品……!」
地元でもっと活用される映画館に
「今日はお話を聞かせていただきありがとうございます! 最後になりますが、今後、御成座が力を入れたいことを教えてください」
「映画を見に来て欲しいのはもちろんだけど、この場所の貸出にも力を入れたいですね」
「映画館のレンタル! 貸し切りで映画を見られたら最高だけど、お高いのでは……」
「1人1300円ですよ」
「安っ!」
「機材の利用費を含めても、1人あたり2100円から使えます!」
「えええ、学生でも払える値段……」
「やっぱり、若い人に使ってほしいから。この間は若いカップルが利用してくれましたよ。大館市出身の彼女の誕生日会を、彼氏が御成座で企画したんです」
「なにそれ最高……」
「コスプレ大会もいいかもね。とにかくみんな沢山使ってちょうだいっていう気持ちです!」
「もしかしたら秋田までの交通費を含めても、都内の映画館を借りるよりお得かもしれないですね……」
おわりに
半世紀以上、大館市唯一の映画館として人々に娯楽を提供してきた御成座。
9年のブランクを経て復活した御成座を支えたのは、物件に魅せられた一家のエネルギッシュさと地元の人のサポートの積み重ねなのだと、切替さんの話から実感しました。
ちなみに取材後、日本音楽著作権協会(JASRAC)の映画音楽の使用料値上げ検討がニュースで話題になりました。これって単館の劇場にはかなりの痛手となるのでは……?
そこで後日、電話で切替さんにお話を伺ってみました。
「映画音楽の使用料が値上げしたら、結構な打撃ですよね……?」
「ちょうどお客さんからその話を聞いて、家族で話をしたんです。値上げは未確定事項なので、御成座としてはまだ現実問題として受け止められていないというのが現状。もちろん、もし値上げすることになったら間違いなく大打撃ですよね。ただ、今はこれから年末年始にかけてのプログラム編成でもめていてそっちが大変……」
切替さんの言うとおり、映画音楽使用料の値上げについては未確定事項。
とはいえ、少しでも劇場運営の懸念事項は減って欲しいところです……。
ちなみに館内の見学は無料。受付に声をかけていただくと、劇場内を案内してもらえますよ(上映時間を避けるのがベターです!)。
■御成座ウェブページ
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書いた人:ナカノ ヒトミ
1990年長野県佐久市生まれ。
長野↔東京で二拠点生活の実験中。
twitter: @jimonakano / 個人ブログ: ナガノのナカノ
写真:横尾涼
写真のコツとフォトスポットの情報を提供するメディア、Photoliの代表。 写真と旅が大好きな平成4年生まれの25歳、フォトグラファー。
twitter : @ryopg8 / 運営webメディア : Photoli