はじめまして。身近な生き物を捕まえて、食べることを趣味にしているライターの玉置です。
私が紹介するのは、知る人ぞ知る島における、知る人ぞ知るイベント、粟島の『磯ダコ捕りツアー』です。
今年発刊された私の著書『捕まえて食べる』という本でも紹介したのですが、これがすごい!
ほら、楽しそうでしょう。
「粟島ってどこ?」「磯ダコ捕りってなに?」「ツアーってどういうこと?」と、疑問だらけかと思いますので、じっくり説明させていただきます。
粟島ってどこにあるの?
まずは場所の確認ですが、粟島とは新潟県の沖合に浮かぶ離島で、周囲は23キロしかなく、人口は361人(2017年9月1日現在)しか住んでいません。粟粒のように小さいから粟島と名付けられたとも言われています。
佐渡島なら知っているけど、粟島は知らないなーっていう人も多いんじゃないでしょうか。実は私も2013年にその存在を初めて知ったのですが、今年で早や3回目の来島になります。
なんでそんな小さな島に3度も?と聞かれたら、「そこにタコがいるからさ」と答えるでしょう。
日本海に浮かぶ離島といっても、新潟県村上市の岩船港からフェリーで1時間半、高速船なら55分と、アクセスはそれほど悪くありません。
欠点は埼玉の我が家から岩船港まで行くのがなかなか大変なことですが、粟島の魅力の前にはあばたもえくぼです。その遠さも楽しみのひとつと前向きに受け止めましょう。
乗船時におこなう切符の確認では、昔懐かしの『改札鋏』でパッチンとやってもらえます。これってなんだか嬉しくないですか? 「旅にきたなー」と思える瞬間のひとつだと思います。
さて、周囲23キロの島っていうのがどれくらいのサイズ感なのかというと、以下のように一枚の写真に納まるくらいです。後ほど詳しく説明しますが、レンタル自転車でぐるっと一周して約三時間。
なお島へ向かう船からでは全体が撮影できないので、帰りの便からの写真なのはご了承ください。
こんな小さな島ですが、宿泊施設は民宿27軒、旅館2軒、ゲストハウス1軒と、全部で30軒もあります。その気になれば1か月間、毎日違うところに泊まることだって可能です。
島に集落は二つあって、フェリーが停泊する「内浦」と、島の反対側にある「釜谷」。船が港に到着すると、宿の方がお出迎えをしてくれます。アウトドア派の方には、キャンプ場やコテージもありますよ。
上陸したら、まずは大きく深呼吸をしましょう。この全身で感じる潮風が香る島の空気が最高なんです。
下の写真は内浦のメインストリート。こののどかさ、なかなか他では味わえません。
磯ダコ捕りツアーとは、磯でタコを捕る大会である
で、この粟島に何をしにきたのかといえば、『磯ダコ捕りツアー』に参加するために他なりません。
このツアーは粟島旅館組合が主催するもので、毎年9月の週末、3週に渡って毎回100名が参加する一泊二日の冒険の旅。そのメインイベントが磯でタコを捕る大会なのです。すでに終了しましたが、2017年の募集要項はこちら。
タコ捕りというローカル大会に出場するため、はるばる海を渡って毎回100人が来島するってすごくないですか。それも3週だから述べ300人。島民が361人の島にですよ。まるで渡り鳥のように、毎年必ずやってくるリピーターも多いとか。
この素晴らしきイベントについて、粟島観光協会の松浦拓也さんに話を伺いました。
「まずお聞きしたいのですが、磯ダコ捕りは昔から行われていたものですか?」
「いつからかというのは定かではないですが、私の父親が子供の頃からやっていたという話なので相当前からだと思います。ちなみに父は、農山漁村体験のインストラクターである『なりわいの匠』として新潟県から認定されたタコ捕り名人でして。私も子供の頃から一緒にタコを捕っていました」
「おお、タコ捕り界のサラブレッドじゃないですか! お父さんはタコ漁師なのですか?」
「磯ダコ捕りは出荷する程捕れる訳ではないので、昔から漁師の仕事ではなく、島民の遊びですね。もちろん子供もやりますが、大人の方が夢中になる遊びかもしれません」
「そんな島民の遊びが、立派な大会に発展したいきさつを教えてください」
「今年で18年目になるのですが、旅館組合長をされていた方が、粟島観光の目玉として発案したそうです。でも最初は協力してくれる宿も少なく、30人程度の募集でした」
「小規模でのスタートだったんですね」
「それが回を重ねるごとに口コミで人気がでてきて、10回目以降は宿で受け入れられる上限の100人×3週の募集が埋まるようになりました。近年はネットでの認知度アップもあり、今年は募集開始から3日で予約が埋まりましたね」
「一回でも参加するとまたリピーターとして来たくなるし、この楽しさをSNSで伝えたくなるという参加者の気持ちはよくわかります」
「大会は内浦で60人、釜谷で40人ほどに分かれて土曜日の昼にそれぞれ行い、捕ったタコの総重量で競います。上位3名には島の名産品のプレゼントと表彰状の授与があります」
「名産品のプレゼント!」
「もし大会中にタコが捕れなくても、大会後の夕方や翌朝などに再チャレンジをしていただいて、一匹でも捕ってもらえれば嬉しいですね。ちなみに島民の方には、大会前はなるべくタコを捕らないようにお願いしています」
「私は前回来た2014年に、3週目の内浦地区で準優勝をしたんです。あのときの嬉しさと悔しさが忘れられなくて、また粟島に来てしまいました。今年こそ優勝を狙いますよ!」
「頑張ってください! ちなみに、大会は気候の良い9月ですが、タコは寒くなるほど大きくなります。今は磯ダコ捕りの体験を大会という形でやっていますが、日にちを決めて1か月も前から予約していただく大会形式だと、どうしてもお客様にご不便をかけたり、宿の受け入れ態勢が難しい部分もあったりして……」
「小さい島ならではの悩みでもありますね」
「大会でなくてもタコ捕りを体験をしたいという方が増えているので、今後の募集方法を見直すタイミングなのかもしれません」
「確かに大会だと順位が決まるので盛り上がりますが、大会の週にだけまとめて来られるよりは、ある程度ばらけて来てもらった方が受け入れやすいでしょうね。また客の側としても、悪天候時には予定を変えられますし」
「そうですよね。島民の方は天気さえよければ12月でもタコを捕りに海に出ますよ。またタコ捕りの人が増えてくれば、海を仕事場とする漁業関係者との調整も必要になってくるかもしれません。その辺りのルール作りをしっかりとして、今後も旅行者が気持ちよく遊べるようにしなくてはと考えています!」
2017年磯ダコ捕り大会レポート
ということで、ここからは大会の模様をお届けします。
私が参加したのは3週目の内浦大会。参加者60名が集まって開会式がおこなわれた後、各宿ごとにポイントへと移動します。
タコを捕るための道具は宿が用意してくれるので、濡れても大丈夫な格好と滑りにくい靴さえ用意すれば、手ぶらで気楽に参加できます。
赤い帽子をかぶっているのが宿の方で、タコ捕りのインストラクター役でもあります。参加者は優勝を狙うリピーターもいれば、初参戦でタコを触るのも初めてという人がいたりと様々。
タコ捕りに使うのは2本の長い棒で、それぞれエサとなるカニ(宿によってエサは違う)と、タコを引っ掛けるハリがついています。この二刀流っていう装備がかっこいいですね。
エサのついた棒をタコが潜んでいそうな場所に近づけてタコを誘いだし、飛びついてきたところをハリのついた棒で引っ掛けて捕るというのが、磯ダコ捕りの基本的な流れ。
タコがいる場所はびっくりするほど浅く、戦いのフィールドは水深が膝下程度の穏やかな磯なので、女性や子供の参加者も多数います。
インストラクターが丁寧に教えてくれるので、初めての方でも大丈夫。抱き着いたタコをハリで引っ掛けるのは慣れないと難しいので、そこはお願いしちゃいましょう。
こんな感じでタコが潜んでいそうな岩陰の近くで、エサを踊らせます。
近くにタコがいればスーッと飛び出てきて、がっちりとエサに襲いかかります。エサの竿がグッと重くなる独特の手ごたえに大興奮する瞬間です。この一瞬のために粟島へと渡ってきたといっても過言ではありません!
普通の釣りでは、魚がエサに食いつく瞬間は水の中での出来事なので見ることができません。しかしこのタコ捕りは、すべての動きが丸見えです。岩陰から飛び出てくるタコを視覚でとらえると同時に、エサの付いた棒が重くなることにより触覚で実感する訳です。
これぞ4D体験な訳ですよ! ヴァーチャルじゃなくてリアル最高!!
さあタコがガッチリとエサに食いついたら、もう一本の棒の出番です。ハリで引っ掛けて抜きあげたら一丁上がり!
このハリを使った確保の成功率は、初心者で6割、ベテランで9割といったところでしょうか。二本の先端が違う棒を駆使して、タコを誘い出して仕留めるという、この流れが堪らないのです!
これほどまでに狩猟本能が満足する遊びなんて、なかなかないですよ!! それに捕る対象がタコっていうのが、なんだかいいじゃないですか。
まだ時期的にそれほどタコが大きくないですが、11月にもなればキロオーバーのタコが次々と捕れることもあるとか。近年はあえて大会が終わった10月以降に来る、大ダコハンターのお客さんも増えたそうです。
このように大会中はタコ捕りに夢中になっているため、景色なんて全然見ていないのですが、あとで写真を確認すると、息を飲むほどに美しい光景が広がっていました。
こんな場所でタコ捕りができるなんて、最高すぎやしませんか。見てないけど。
さて大会の結果ですが、私は5匹と数は伸びたのですが、サイズが小さく682グラムで入賞ならず。優勝は6匹で1609グラムを記録した方でした。おめでとうございます!
こちらは惜しくも準優勝だった11年連続出場の友人。私を粟島に誘ってくれた人で、年に一度出場するタコ捕り大会のために日々を生きているとか。
ということで、今回も残念ながら磯ダコ捕り大会優勝という名誉は手に入りませんでしたが、だからこそまた来島しなくては!
粟島はタコだけじゃない!
このように楽しすぎる磯ダコ捕りですが、粟島観光はもちろんタコだけではありません。私が考える粟島の魅力をざざざっと紹介いたします。
レンタサイクルで自転車一周
天気さえよければ是非チャレンジしてほしいのが、レンタサイクルでの島一周です。所要時間は約3時間で、絶景が続く外周道路を、気持ちよく走ることができます。
そこそこアップダウンのある道が続きますが、体力に自信のない方には電動アシスト自転車もありますよ。
私は普通のママチャリを利用したのですが、運動不足の体に23キロの道のりはまあまあ辛いです。大変だからこその達成感が味わえましたが、次はたぶん電動アシスト付きにするかな。
脚に自信のある方は、自分の足で一周してもいいかもしれません。4月にはマラソン大会も開催されています。
自転車で回るからこそ見える島の景色が、あちらこちらにありました。
けっこう脚が疲れてきたところで、この看板が与える絶望感がすごい。
でも上り坂があれば、もちろん下り坂もあります。
島の南西側の下り坂は、日本有数の気持ちよさだと思います。
この道はフェリーからも見ることができます。
ほら、気持ちよさそうでしょう。
もちろん釣りの天国でもある
周囲を海に囲まれた自然豊かな粟島なので、当たり前ですがタコ以外の獲物も狙えます。
釣り人にとってはまさに天国みたいな場所で、春になると磯から大物のマダイやイシダイが狙えることで有名です。本格的な釣りでなくても、その辺の堤防で糸を垂らせば、小物だったらいくらでも釣れます。
また最近はアオリイカ狙いで訪れる人も多く、関東では釣れた試しがない私のような下手な釣り人でも、昼間っから釣れてしまう魚影の濃さです。タコとイカの両狙いができるので、毎回時間配分に悩んでしまいます。
釜谷の集落もいこう
粟島にはフェリー乗り場のある「内浦」と、島の反対側にある「釜谷」の2つの集落があります。余裕があれば、ぜひ両方の集落をのぞいてください。
私の場合は内浦に泊まり、レンタサイクルで釜谷にきて、食堂で昼飯を食べるというのが定番コースになっています。次は釜谷に泊まって、じっくりと釣りやキャンプをしてみたいかな。
釜谷にこないと食べられない名物料理もあります。
これはタコとサザエがたっぷりと入った磯ラーメン!
釣りのポイントだらけの港と磯!
作家の椎名誠さんが泊まりに来たワイルドなキャンプ場もあります。
酒と食べものもうまい!
宿の食事は、もちろん島で捕れた魚がメインです。
どんな魚が食べられるかは季節と海の機嫌次第ですが、野菜や海草もたっぷりで体が元気になる食事です。豪華絢爛ではありませんが、私はこういうその土地に根付いたメニューが大好きです。
なにげなく出されたメバルの煮付が、
島の名物料理は「わっぱ煮」。わっぱと呼ばれる木の器に焼き魚と味噌を入れてお湯を注ぎ、そこに熱した石を入れて食べる豪快な料理です。地魚からダシの出たスープがうまい!
すっごい熱いので気をつけて食べてください!
粟島には酒造メーカーがないので、島で作った地酒というのはないのですが、この島でしか手に入らない超レアなお酒なら存在します。
粟島の水で仕込んだ日本酒に、粟島のジャガイモで作った焼酎です。島で飲むも良し、お土産に買うも良し。
帰りの船の前にちょっと時間があったので、この日本酒を1合飲んだのですが、旅の疲れもあったすぐに寝てしまい、うっかりもう一泊しそうになりました。
あわしま牧場で馬にも乗れる!
その昔、粟島には野生馬がいたそうです。今はさすがにいませんが(鹿が増えすぎて問題になっているけど)、2011年にあわしま牧場ができました。
ここは海が目の前にある牧場で、海の向こうの本土を眺めながら気軽に乗馬体験ができます。
なんと温泉もある!
せっかく旅行に行くなら温泉がないと物足りないという方も多いかと思いますが、粟島にも「おと姫の湯」という立派な温泉があります。
タコ捕りで冷えた体を温泉で芯まで温めて、のんびりと冷たいアイスを食べるという贅沢。温泉は粟島以外にもたくさんありますが、粟島に温泉があるというのが嬉しいじゃないですか。
つい長くなってしまいましたが、粟島の魅力が少しは伝わったでしょうか。すれ違う子供たちは元気にあいさつをしてくれます。雲のない夜なら満天の星空が見られます。ぼんやりするには最高の環境です。
春には渡り鳥が多数やってくるので、バードウォッチングの聖地にもなっています。そして夏はもちろん海水浴のシーズン。秋はタコ捕りにアオリイカ釣りとやることがたくさん、冬は海が荒れがちですが防波堤からヤリイカが釣れるとか。
日本海に浮かぶ小さな離島、ここにしかにない魅力にあふれていますよ。
書いた人:玉置標本
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。 個人サイト:私的標本 / 趣味の製麺