たこ焼き・イズ!
マイ・ソウルフード~!!
記事冒頭から実家の一角を晒してごめんなさい。
大阪出身のライター、ネルソン水嶋です!
我が地元のソウルフード、たこ焼き。この理想的な食感として「外はカリカリ、中はふわふわ」という表現があります。しかし…わたくし正直、まったく納得しておりません!
同郷の友人たちとその話題になればいつも「外も中もふにゃふにゃなやつが一番ええ」という結論に落ち着きます。
そう、たこ焼きはカリふわではなくふにゃふにゃが一番!これは声を大にして訴えたい。だけども、どうしてみんな共通してるんだろう? それって……
大阪人なら、誰でも「行きつけのたこ焼き屋」があるってこと?
よく考えるとこれってすごいことなんじゃないか、床屋か美容院かよ。
こちらを検証するべく、大阪人の友人たちに行きつけのたこ焼き屋を聞いてみました!
女の子にはフラれたけどたこ焼きはお持ち帰りした…天王寺の「やまちゃん」
まずは大阪でも有数のビッグシティ、天王寺へ。日本一高いビル「あべのハルカス」もここにあります。
そんな街が地元のシティボーイ・白井さんに、行きつけのたこ焼き屋を聞いてみました。
「白井さんの行きつけのたこ焼き屋はどこですか?」
「『やまちゃん』ですね! USJや、それこそお台場にも支店のあるチェーン店なんですが、本店に子どもの頃からよく行ってました」
「高校か大学の頃に、イートインスペースのある二号店ができたんです。最初は鉄板が使い込まれていないとかで『やっぱ本店の方がうまいよな』とか言ってたんですけど、すぐに違和感もなくなって、大学の友達や当時の彼女と店内で食べてましたね~」
「イートインが出来るたこ焼き屋ってデパートならよく見るけど、戸建ての店舗は珍しいですねぇ」
「そうですね。夜も23時くらいと遅くまでやっているので、バイトが終わってから持ち帰りして、缶ビール飲みながら食べてました」
「まぎれもなく行きつけだ」
「あ、持ち帰りといえば全然関係ないんですが、大学の飲み会でいい感じになった女の子を本店の前で口説いたところ失敗しちゃって……。たこ焼きだけを寂しく持ち帰ったことがあります」
「本当に関係ないな」
白井さんオススメのヤング(ソース&マヨネーズ)。
王道ど真ん中のザ・たこ焼きという味。外はすこーしパリッとしたうすーい皮が張られており、ところどころで厚みが違っていて楽しい食感でした。
ハフッハフッ!とある意味で王道の食べ方をする白井さん。
本店にイートインスペースはないけど、お店の脇にあるスペースがそんな感じだった。
店主さんからお土産もらっちゃった。やった。
やまちゃん(本店)
住所:大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-2-34
価格:8個440円 (※価格は取材時点のものです)
常連だとバレたくなくてデートで素通り…箕面の「きんちゃん食堂」
続いては、大阪のベッドタウンとしても知られる箕面(みのお)。府内でも数少ない、山や滝などの自然の多い場所として知られています。
そんな箕面が出身地の岩城さんに、行きつけのたこ焼き屋を聞いてみました。
「岩城さんの行きつけはどこでした?」
「私は『きんちゃん食堂』ですね~、近所だったので母がよく買ってきてまして」
「よくあるパターンやね! 行きつけってほぼ子供の頃の親チョイスな気がする」
きんちゃん食堂の店構え。古き良きという言葉が似合う佇まいです。
「当時は『もっとええとこあるやろ』と思いつつ(笑)、それでも母が『ここのんがええねん!おいしい!』と言って買ってくるんですよ。私がぜんそく持ちだったので、病院の帰りとか学校を休んでいるときに、よく家で食べていたという印象ですね」
「行きつけのたこ焼きは、ときに食卓にのぼるよね」
「でも、高校ではじめて彼氏ができて、下校デートでいつも店の前を通っていて……。『ここの常連とか恥ずかしくてよう言われへん!』って思って何も言わずに素通りしてました! ごめんなさい」
「わざわざ言う必要はないにせよ、思春期ならではの思い出やな……」
持ち帰り専用の小窓はこちら。
店内に入ると、テレビから「キーン」という音に応えて「わっ」「おっ」という声。地元のおじさんらしき人たちが甲子園の延長回をつまみに飲んでいました、居心地良さそう…。
たこ焼きは小ぶりで粘度は高め、小腹を埋めるのにちょうどいいサイズです。その分、7個で150円とめちゃくちゃ安い。
「ちなみに、きんちゃん食堂のたこ焼きは好き?」
「はい、今でもたまに食べたくなる懐かしい味です!」
名前の由来は店主さんいわく、「萩本欽一と同じタレ目で『きんちゃん』と呼ばれていたから」とのこと。看板が「欽ちゃん」ではなく「金ちゃん」になっている理由は、「業者が間違えた」そう。業者が間違えたんかーい。
取材時には気づかなかったけど、「うまい?!」って! 謙虚だ。
きんちゃん食堂
住所:大阪府箕面市牧落3-7-22
価格:7個150円 (※価格は取材時点のものです)
ソース以前のたこ焼きはこうだった!京橋の「アスカ」
「アスカ」がある場所は京橋。ここは私の地元でもあります。
京阪百貨店の地下フードエリア。色鮮やかな惣菜やきらびやかなお菓子の販売エリアから離れた隅の方にある、珍しいイートインスペース。
この街で生まれ育ったにも関わらず存在を知りませんでしたが、母親に話すと「あんたが子どもの頃からあるよ~たぶん」とのこと。30年くらい前からあるみたいです。
こちらがアスカのたこ焼き。マヨネーズはもちろんソースも青のりもございません!
そのまま食べられるほど、シッカリときいたダシと独特な食感が特徴。
付け合わせは紅しょうが! はじめて見た。
こちらのお店は、多数の映画監督や脚本、また「『痴人の愛』を歩く」などの書籍を執筆されたエッセイストでもある樫原さんから教えていただきました。
たこ焼き屋のエピソードについてもエッセイ調の素敵な文章でいただいたので、そのまま掲載します。
たこ焼きというのはもともと戦後の大阪でラジオ焼きという軽食があり、西成区の会津屋という店の大将が「明石ではコレにタコを入れてるで」と聞いたことが始まりで、発祥の地は明石であり、大阪だと会津屋ということになる。会津屋のたこ焼きはダシで味がついていてソースをかけずに食べる。つまり本来の大阪のたこ焼きにはソースがなかった。戦後、ソースが普及する中でたこ焼きにもソースをつけるようになったのだけれど、僕の父親は若い頃から会津屋の常連だったので僕自身もソースのないたこ焼きに目がない。20代の頃はそんなソース無したこ焼きを求めて大阪中を食べ歩いたものだ。そんな中で一番美味しいと思ったのが実家から二駅のところにある京阪モール地下のアスカだった。たこ焼きの本家会津屋に匹敵するのはアスカだけだと今でも思っている。ぽってりとした大きめのたこ焼きにガリショウガを乗せて食べるのは、ここだけのオリジナル。唯一無二である。
ラジオ焼きというものは知っていたけど、なんと…!
たこ焼きにソースは今や当たり前の組み合わせですが、そもそもはダシで食わせるものだったんですね。
ってことは、アスカは昔の形を今に残す元祖たこ焼き。そしてたこ焼きのたこは明石焼きにルーツがあったという点も大阪人的に衝撃の事実です。兄弟関係やないか。
私も含めて「たこ焼きはソースや青のりがかかっている」だと思い込んでいる人がアスカのたこ焼きを食べると、違う食べ物だと感じるかもしれません。
「外カリ中ふわ」が固い皮と柔らかい生地をあらわす食感だとすれば、アスカのたこ焼きは「皮のような生地」「生地のような皮」だという印象。クセになります。ぜひ食べてほしい。
アスカ
住所:大阪府大阪市都島区東野田町2-1-38 京阪百貨店内
価格:8個411円 (※価格は取材時点のものです)
たこ焼きとプレステはセットだった…鴫野の「イマノ」
ここで私自身の行きつけのたこ焼き屋もご紹介!「イマノ」です。
中学・高校の頃はよく遊んでいた友人の家への途中にこのお店があります。日曜日には弁当代わりに買って行って、一緒に食べながらプレイステーションやセガサターンで遊んでいました。
なので、今でもイマノのたこ焼きを食べると、なんとなくバイオハザードを思い出します。
特徴はホワイトソースっぽいなと感じるくらい小麦粉多めのクリーミーな生地。
容器の隅を埋めるようにたっぷりと盛られたマヨネーズは酸味が強くサッパリとしていて、そのままだとくどくなりがちなもったりした生地と相性抜群。
小学生の頃は別のお店に行っていたのですが、イボを治すために通っていた皮膚科医院で患部に当てられる液体窒素に浸した綿棒が怖くて怖くて、よく母親から「泣かんかったらたこ焼き買ったるから」と言われてよくこらえていました。
大阪の子どもにとってのたこ焼きは、馬にとっての人参みたいなものかもしれない。
イマノ
住所:大阪府大阪市城東区鴫野西5-2-27
価格:7個200円 (※価格は取材時点のものです)
「たまご」なんか入ってへんねん…今はなき悲哀のたこ焼き屋
また、行きつけが「あったけどなくなった」という話もあったのでご紹介します。
「家から5分、8個で100円という安いお店で、おばちゃんがひとりで切り盛りしているお店で。友達とじゃんけんやゲームでよくそこのたこ焼きを賭けたりしてました」
「いいね、情景が思い浮かぶエピソードやな」
「でもある日突然閉店しちゃって…あとから分かった話では、『たこ焼きの中にゴキ●リの卵が入っていた』って噂が流れて、瞬く間に地元で広がって。おばちゃんはわざわざ学校に出向いて『そんなん入ってへんよ』と説明したらしいのですが、その甲斐なく閉店しちゃったそうです」
「真実にしろ嘘にしろホラーすぎるやろ」
「ホラーですねぇ」
「ひとりやのに学校まで出向いたくだりも泣かせるし…どんな不幸話聞かせとんねん! 」
「聞いたからじゃないですか」
「うん、そうですね」
剣道部の帰りに先輩たちと…伊丹の「いさ」
最後は、大阪ではありませんが、そのお隣の兵庫県の伊丹市。
周辺県でも大阪に近い地域なら行きつけのたこ焼き屋があると言えるようです。こちらのお店は、ジモコロライターでもあるおかんさんに話を伺いました。
「どういうお店?」
「『いさ』ですね~!昔、近くの団地に住んでいて、友達と小銭を握りしめて行くようなお店でした。中学の頃は部活帰りに先輩たちとよく食べてましたね。それと、家でもたこ焼きやお好み焼きはつくるんですが、『すじこん』や『チーズ』入りの美味しさを教えてくれた存在です」
こちらが「いさ」。想像以上にきれいだと思ったら、当時から改装したとのこと。
「めっちゃお世話なってるやん」
「ほんま。いさの南隣は今住宅地なんですが、昔はそこに『食彩館てるや』っていう、照屋さんという沖縄にルーツのある方が経営するスーパーがあって、サーターアンダギーやうこん茶みたいな沖縄の食材も取り扱ってました。道路を挟んではす向かいには『ぼくらの店』っていう駄菓子屋さんがあって、小学生の頃はここで駄菓子を買って近所の長尾公園で遊んでましたね。あ、部活は剣道部だったんですが、ひとつ上の先輩が好きで、ラジオで聴いたACIDMANの『赤橙』に衝撃を受けて録音したMDを『カッコいいから聴いて!』って言って渡して…夕焼け空が印刷された便箋に歌詞書いて…あまずっぺ~~!!」
「思い出がパンドラの箱みたいに飛び出しとるやないか!!」
「でも、いろんなものがなくなったり変わったりしてますね。思い出は色あせないけど、やっぱり寂しくもありますねー」
青のりもかつおぶしも少々、だが適量、素朴かつ王道です。「なにも足さない、なにも引かない。」という昔のお酒のキャッチコピーを思い出す。
いさでは、店主の奥さまにお話を伺うことができました。
「実は、友人が子どもの頃にかくかくしかじか…」
「そうなんですか、その頃だったら今とお店の見た目も変わってますね」
「そう、私も思った以上に新しいなーと思って。改装されたんですよね?」
「はい、これまでに二度改装してますね」
「多いですね! いつ頃からあるんですか?」
「主人の母の代からなので、昭和49年からやっています。掘っ建て小屋みたいなお店からはじめたそうです」
「長い!僕もまだ産まれてない頃ですね…」
きれいなお店で若い店員さんが働いていたので、創業40年以上の老舗と聞いて驚き。
「ほかのお店と、差別化を図っているところってありますか」
「うーん、ないですねぇ」
「ない」
「あまり凝ったことはしてなくて。お客さんが言うには、『最近はいろんな食べ方をして値段を高くしてるとこもあるけどそんなん要らんねん』って。しいて言えば、『特徴のないところが特徴』なのかもしれません」
「それ、私の印象と同じです! マヨネーズもなく素朴かつ王道な味ですよね」
「そうですね。ソースは創業から尼崎のツバメ食品さんというところから仕入れていたんですが、今は製造をハリマ食品さんというところが引き継いでいます。辛口な味がお客さんに気に入ってもらっているみたいです」
「なるほど、40年以上にわたって味を守ることにはいろんな苦労がありそうですね」
こちらがそのママソースのパッケージ用シール、レトロ感が素敵です。京都にもツバメ食品というソース業者がありますが、そちらはツバメソースとのこと。
どれも本当においしかったけど、個人的にはドツボだった。大人好みかも。
「今でも、当時の友人のように学校の帰りに寄るお客さんはいますか?」
「いや、もう最近は学生も多くなくて…」
「え、そうなんですね」
「近所の高校が県内各地から入学するようになり、地元の子が減ったようで」
「そうか、学校が終わったら駅に向かって帰るだけだから」
「それに最近はファミレスも増えたので、あんまり見なくなりました」
「こんなにおいしいのに、地元でなければ知るきっかけがないですもんね…」
「30~40代のお客さんがしばしば来られるので、その人たちは高校の頃に来てくれていた方なのかもしれないですね」
「そうですね。私も帰省すると行きつけだったお店で買うし、子どもの頃に食べていたものってどこに行っても胃袋を掴みつづけていると思います」
いさ
住所:兵庫県伊丹市北野5-3
価格:10個250円 (※価格は取材時点のものです)
大阪人なら誰でも行きつけのたこ焼き屋は…だいたい、ある!
私を含む5人の大阪人&兵庫人に聞いたところ、確かに全員に行きつけのたこ焼き屋がありました! また、Twitterでも大阪人(出身者)に限定してアンケートを募ったところ…。
大阪人の方に聞きたいのですが、行きつけのたこ焼き屋ってありました?
— ネルソン水嶋@だいたいホーチミン (@nelson_mzsm) 2017年8月13日
味やお店の外観などでエピソードがあれば、そちらも教えてほしいです!
22人中17人の方から「あった」「あったけどなくなった」という回答が!大阪人には、ほぼ8割近くという高い割合で行きつけのたこ焼き屋が存在することが判明しました。
その1/3が「なくなった」ということは、寂しいですが…。「大阪人なら誰でも行きつけのたこ焼き屋がある説」、必ずとは言えないまでもほぼ真実ではないでしょうか。
でも、これ、大阪だからたこ焼きというだけで、大なり小なりその地元の行きつけのソウルフードってあると思うんですよね。
それがたこ焼きのような手軽に食べながら移動できるストリートフードなら、紐付いた思い出がたくさん出てくるような気はします。
地元を離れている人であればなおのこと、生まれ育った風景というものはなるべく変わってほしくないと思うもの。街が便利になろうとする上でそれを望みつづけることは難しいかもしれませんが、たびたび行きつけのお店に行って、せめてその味は地元全体で守りつづけていきたいもんだなと思いました。
最後に、余談ですが…
地元のたこ焼きを見せたふたりのリアクションがまったく同じで笑った。
書いた人:ネルソン水嶋
1984年の早生まれで大阪出身。東京でSEとして5年働いたあと、ベトナム旅行中に現地の日本人から「うちで働かないか」と誘われて快諾、2011年10月に移住、だけど4ヶ月で辞めました。そのままだらだらブログやってたらライターに。ジモコロのネタは一時帰国中にせっせとつくる。