私の趣味はドン・キホーテを徘徊することだ。雑多な店内をただぶらつき、二周、三周、うろうろするだけでも満足感が高い。
先日も、趣味のドンキ徘徊に勤しもうと、浅草店に足を踏み入れた。すると、どうも私の知っているドンキとは様子が違う。他店で見たことがないような提灯を使った内装。そして何より、広い! 一体なぜ浅草店だけ? 何か特別な理由があるのだろうか?
気になったので、ジモコロ編集長の柿次郎さんと一緒に詳しく話を聞いてきた。
浅草店が誇る内装「提灯」には意外な事実が……!
「私、ドンキを徘徊するのが趣味なんですよ」
「ありがとうございます(笑)」
「ドンキといえば通路が狭く、天井までうず高く商品が積み上がっている、というイメージだったのですが、浅草店って他店と違ってめちゃくちゃ広いですね? 徘徊趣味がはかどります」
「その店舗がターゲットにしている層によるんですよ。街によってはベビーカーを押して買い物するファミリー層をターゲットにしていたり、うちだと団体の観光客がいらっしゃるので、通路や、階段も広く作っているわけです」
「じゃあ、店内のいたるところにある提灯も観光客を意識して……? この提灯、ほかの店舗では見たことがない気がします」
「まさにそうです。2年前にオープンするときに、観光客向けに下町っぽさを打ち出すために、店内の商品の目印は全部提灯にしよう、と決めました。提灯を使っているのは全国で浅草店だけですね」
「これって、こういう文字がプリントされてる提灯がどこかに売ってるんですか?」
「いえ、市販の無地の提灯に、上から文字を書いてます」
「ええっ!? 手書きだったんですか!? うーん、よーく見ると確かに……。すごい。言わなきゃ印刷した文字に見えてましたよ。誰が書いてるんですか?」
「ドン・キホーテには“POPライター”という専門の人たちがいる部署があり、彼らに書いてもらってるんです」
※POP=POP広告、商品の説明書き
「それを専門にやる部署があるんですか! え、一日中POPばっかり書いてる部署があるってことですか?」
「あ、POPだけではなく、空間演出を担当する『スペースクリエーション』という部署があり、POPライターさんたちはそこに属しているんです」
「ちなみに提灯に何でどうやって書いてるんですか?」
「ああ、これはポスカですよ」
「ポスカ! POPライターさんって、ああいった文字を書くための練習に日々励んでいるんですか?」
「支社ごとに勉強会を開いたり社内コンテストを実施したりと切磋琢磨してるんですよ。あとは、提灯以外にも店内の案内図もPOPライターさんが書いてくれてます」
「ん? これ日本語じゃない……?」
「これは中国語と英語だけで書かれています。外国人のお客さん向けですね」
「もしかして、POPライターさんは文字を書く技術だけでなく、多言語も操れるんですか?」
「多言語を操れるのはまた別で、浅草店のようなインバウンド旗艦店舗にはウェルカムクルーという言語対応スタッフがいるんです。外国語POPは彼らに訳してもらいつつPOPライターが作成する、という流れになっています」
8万円の炊飯器? 値段が高ければ高いほど売れる!
「浅草店のお客さんのうち、海外の方はどれくらいを占めるのでしょうか?」
「半分くらいは海外の方ですね。なので、商品展開や陳列も、それを意識したものになっています。例えば、ここの炊飯器コーナーは全部、観光客向けです。買って行かれるのは中国人が多いので、案内ボードは中国仕様になっています」
「え、うわ、高い! 8万円の炊飯器!?」
「高級なものほど観光客に人気ですよ。日本製の炊飯器のお米の炊き加減は、海外製のものとは比べものにならないらしいんです」
「あ、よく見ると炊飯器の表示も全部、英語ですね」
「これらの炊飯器と、あとはドライヤーや美顔器といった理美容家電が観光客相手だと一番の売れ筋です。やはり日本製にこだわって買っていかれるようです」
「海外の方々が競って買っていくほど、日本製の理美容家電が優秀とは知りませんでした。今日も異国の地で、日本製ドライヤーがアジアンビューティの髪を乾かしているんですね……」
「で、こっちのコーナーは地元の方々向けの炊飯器コーナーです」
「同じ炊飯器コーナーでも、観光客向けのとはだいぶ離れたところにありますね。値段も全然違う! 4950円!? かなり安めの品揃えになってますね」
「こちらは安さを重視するお客さんも多いですから」
「あ、こちらはお土産品コーナーっぽい!」
「こういうコーナーも、観光客に特化した店舗(インバウンド強化店)ならではですね。主力として売るというよりも、見て楽しんでもらうために置いている側面があります。楽しんでもらえると、結果的に店内をくまなく見てもらえて、購買にも繋がりますので」
「お土産品コーナーは日本人でも見ていて楽しいですね。この剣ずっしり重くて本格的。経費で買…」
(本記事の編集担当)「ダメです」
「あ、ちょっと待ってください。ここはスカイツリーが見える店員イチ押し絶景ゾーンなんです。ちょっと見て行って下さい」
「(いい眺め。でも、横に貼ってあるPOPが目立ち過ぎて気が散るとは言えない……)」
店内のフリーWi-Fiを使った観光客の買い物
「店内ガイドツアー楽しかったです。浅草店は近隣住民向けの施策と、観光客向けのインバウンド施策、2つの方向性があるんですね」
「そうですね。近隣住民に向けたほうは、何度も通いたくなる店作りを意識しています。インバウンドのほうは、観光客の方々が店内で過ごしやすくする環境作りですね」
「観光客の方々が店内で過ごしやすく……例えばどんなものがあるのでしょうか?」
「空港配送サービスや、外国語に対応できるスタッフの常駐はもちろん、ハラールフードも置いてあります。イスラム教徒向けの食べ物のことです」
「あとは、フリーWi-Fiですね」
「Wi-Fi?」
「タブレットを片手に買い物をされる外国人の方がすごく多いんですよ。その場で画像を検索して、これがほしい、とやり取りするとスムーズなので。そういったニーズに答えて、Wi-Fiが完備されています」
「それは知らなかったです! パソコン持ってきたらドンキで仕事できちゃいますね。新しいライフハックだ」
「やっていただいて構わないですが、椅子はありませんよ(笑)」
「激安の殿堂」から「驚安の殿堂」へ
「さっきから気になっているんですが、この“ロープライス保証商品”と“驚安(きょうやす)”の違いって何ですか? 特に“驚安”は店内の至る所でやたら見かける気が……」
「ロープライス保証商品は、近隣で確実に一番安い商品にのみつけています。近くの競合を調査した上で、最も安い値段を設定しているものです」
「へぇぇ~。じゃあ“驚安”のほうは必ずしも最も安いわけではない……?」
「わざわざ言わなくても」
「当店でできる限界まで価格を安くして、期間によって様々な商品をピックアップしたのが“驚安”コーナーです。ちなみにこの“驚安”は、ドンキオリジナルの言葉です。ドンキのキャッチフレーズは昔から“激安の殿堂”でしたが、今は“驚安の殿堂”なんですよ」
「そうだったんですか!?」
「店舗の外の看板も、4年くらい前から徐々に“驚安の殿堂”に変わっていっています。激安、だと価格だけに特化しているイメージがありますが、単に安いだけではなく、付加価値のある商品や内装、品揃えなどの“ワクワク・ドキドキ”するような発見も含めて、何度来ても楽しめる、という意味を込めているんです」
「確かに浅草店を案内してもらって、知らないことばかりで驚きの連続でした。また何度でも来てみたいです」
「ありがとうございます。浅草店に限らず、どの店舗もそれぞれ街の特色を活かした個性を打ち出しているので、色んな街のドンキを、隅々までぜひ見て回って下さい」
「今日は勉強になりました。ドンキ徘徊が趣味だなんてもう言えません! ほかの店舗もじっくり徘徊して、イチから出直します!」
まとめ
私の知っていた狭く雑多なドンキは、団体の観光客やファミリー層のニーズによって、広い通路に変わっていた。観光客のために、Wi-Fi環境が完備されるようになっていた。地元民に毎日通ってもらうために、コンセプトは“激安”から“驚安”に変わった。多くの人が「ドンキ」と聞いて思い浮かべるその空間は、こうも進化していたのだ。
ならば、そう遠くない将来、このWi-Fi環境を活かして、本当にドンキ店内でパソコン仕事ができるようになったりしないだろうか。そうなったら私は毎日でも通うだろう。机と椅子、Wi-Fiと電源が完備されたドンキ店内の「驚安カフェ」。
あり得る……(確信)。
●店舗情報
店名:ドン・キホーテ浅草店
住所:東京都台東区浅草2-10
TEL:03-5826-2511
朝井麻由美
ライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは女子の生態/サブカルチャー等。ROLa、日刊サイゾー、ぐるなび等コラム連載多数。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。一人行動が好きすぎて、一人でボートに乗りに行ったり、一人でBBQをしたりする日々。Twitter:@moyomoyomoyo / Facebook:moyomoyomoyo.asai