こんにちは! 散歩してたらよく警官に職務質問されるライター、ギャラクシーです。
今までの人生で10回以上は職務質問されていますが、基本的に素直に協力することにしています。なぜなら―
こんなやつに声をかけない警官がいたら、職務怠慢だと思うからです。
先日も職務質問されまして、身元照会されてる間、暇だから色々質問してたんです。で、「警察の人ってやっぱり格闘技とかやるんスか?」と聞いた時に、
「私らは、学校で『逮捕術』という格闘技を習うんです」
と言われまして。
逮捕術?
たしか、『バキ』で、最凶死刑囚に肉まん詰め込まれてた刑事がそんなことを言ってたような……?
市民の安全を守り、いざという時には凶悪犯罪者と戦わなければならない職業・警察官。彼らだけが身につけている、秘密の格闘技術とは……?
というわけで今回は、逮捕術について調べるために、『田村装備開発 株式会社』にやってきました。ここに、元警察官で、逮捕術大会での優勝経験を持つ人がいるという! ていうか大会とかあるの!?
住所:埼玉県東松山市 大谷4453
業務内容:特殊部隊向け装備品販売・護身術指導・サバイバルゲーム他
実際に技をかけてもらったり(ムチャクチャ痛かった……)、誰でもできる護身術も教えてもらったのでお楽しみに!
逮捕術ってどういう格闘技?
話を伺ったのは、田村装備開発の代表取締役でもある、田村 忠嗣さん。
田村 忠嗣
警察本部 警備部 機動戦術部隊
警察本部 警備部 警備課 突発重大事案対策班
皇后陛下警衛警備
パトリオットミサイル警備
警察学校 逮捕術大会 徒手 優勝
機動隊 逮捕術大会 徒手 優勝
他
「いきなりですけど、経歴すごすぎません?」
「いえいえ、そんなことないですよ。今日は逮捕術について知りたいとか?」
「そうなんです。あまりにも馴染みがない格闘技なので、そもそもどういうものか、ざっくり教えてほしいなぁと」
「逮捕術は、被疑者や現行犯人などを制圧・逮捕・拘束するための技術のことですね。警察学校で必須科目として習います」
「必須科目ということは、町を歩いてる警官は全員身につけてるんですか? 女性も?」
「女性警官もです。警察学校を卒業するまでに、逮捕術検定というものに合格する必要があるので」
「じゃあ、婦警さんにイタズラするのはやめたほうがいいですね……」
「いや、誰であろうとイタズラするのはやめてください」
ちなみに、田村さんほどの“強者”なら、相手を見ただけで戦闘力がわかるのでは? と思って評価してもらったんですが、僕の戦闘力は「43点」とのこと
「一般的な格闘技と、逮捕術との違いってありますか?」
「もっとも大きな違いは考え方ですね。普通、格闘技は相手を破壊するためのものですよね? でも逮捕術は、相手を制圧するためのものなんです」
「なるほど、警官だから犯人を破壊しちゃだめ……ってことですか」
「そう、できるだけ無傷で取り抑えるための技が逮捕術です。当然、技術体系も変わってきます」
「ん~、言葉だけだとちょっとわかりにくいんで、実際に技をかけてもらえませんか?」
「え、いいですけど……痛いですよ?」
「いやぁ、こう見えて若い頃はヤンチャしてたんで(笑)。警官の技なんて効くのかなぁハハハ」
「二カ条」という技を教えてもらいました。まずはこういう感じで相手(僕)の手を掴みます
親指を下にして、手を外側にひねると……
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
ア゛ッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!
痛ぇぇぇぇ!!!!!
「あの~、急にすいません。カメラマンとして言いたいんですけど……ちょっと大げさすぎません?」
「……は?」
「そこまで痛くないでしょ? リアクションが嘘くさいかな~って」
「じゃあテメーもやられてみろ!」
「はぁ、いいっすけど……」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
「マジで痛かった」
「ハハハ、じゃあ、まぁこのへんで……」
「いや、もうちょっとやってください」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
大して力が入ってるわけではないんですが、人体の構造上、この方向に手首をひねられると、痛みで立ってられません。術者の思いのままコントロールされてしまいます。
あとヤンチャしてたってのは完全にかっこつけただけで、実際はアニメージュが愛読書のオタクでした
ベースになった格闘技とは
まだ手首がジンジンしている僕
「今の形の逮捕術が発生したのは、いつ頃なんでしょうか」
「私は歴史には明るくないんですが、ベースになったと言われるいくつかの格闘技の中で、比較的新しい日拳(日本拳法)は昭和初期に創設されてるはずなので、それ以降ではないでしょうか」
「意外に最近なんですね。日拳がベースってことは、逮捕術のパンチは縦拳?」
一般的な格闘技でのパンチは、拳を地面と水平(横向き)にして打つが、日本拳法には拳を縦向きにして打つ突きがある
「いや、パンチは普通……ですね。おそらく勘違いなさってると思うんですが、“逮捕術”という決まった流派があるわけじゃないですよ?」
「へ? 違うんですか?」
「えーっと、例えば……総合格闘技ってあるじゃないですか。あれ、パンチの打ち方とかが決まってるわけではないですよね? ベースがボクシングの人はジャブを使うし、空手の人は正拳突きを使うわけで」
「あぁ~! そういうことですか! 試合のルールだけが決まっていて、その中ではどんな打ち方でも良いと!」
「その通りです! 逮捕術で言うと、『最終的に犯人を逮捕する』というルールを守れるなら、空手でも柔道でも良いんです。だから教える先生によって、地域によって、ベースが変わってきます」
「とはいえ、『逮捕する』ってかなり特殊な技能なので、格闘技によっては役に立つ/立たない、があるのでは?」
「それはありますね。なので、メインになっているのは古流の武術、柔術、合気道と言われています。突き(パンチ)や蹴り(キック)は、空手が多いのではないでしょうか」
ドシッと体重をかけた突き(右は田村さんに格闘術を教えてもらっている生徒さん)
逮捕術に正々堂々なんてあり得ない
ナイフなどの武器に対抗する技
「犯人がナイフとか持ってたらどうするんですか? いくら逮捕術を習ってるとはいえ、素手で立ち向かうのは怖くないんですか?」
「逮捕術には、徒手で武器に対抗する手段もあります……が! 基本的に武器を持った犯人に対して、一人で、しかも徒手で立ち向かうなんてことはしませんね。まずは応援を呼びます」
「なるほど。じゃあ複数人で一気にタックルとかして……」
「いやいや、ナイフを持った相手に対しては、武器を使って対抗します」
「え、武器術まであるんですか!?」
「“警棒術”や“警杖術”がありますね。警棒は、警察官がいつも腰から下げてるあの棒です。ソバを延ばす棒みたいなやつですね」
「警杖というのは?」
「交番前や施設を警備してる警官が、たまに長い棒を持ってるでしょ? モップの柄くらいの。あれが警杖ですね。警棒術は剣道が、警杖術は杖術がベースになってます」
杖術=棒術の一種で、杖やステッキを使った武術。警察で使われているのは神道夢想流杖術がベースになっているという
「なるほど、武器を使って制圧する、と。ちょっと整理していいですか? ナイフを持った犯人を発見したら……
1)応援を呼ぶ
2)警棒・警杖などの武器を手に取る
3)集団でボコボコにする
これで合ってます?」
「改めて箇条書きにすると、ムチャクチャ卑怯に思われそうですね……。でも実際、正々堂々闘うことはあり得ないです。『圧倒的に有利な状況を作り出す』ということが、何よりも重要なので」
「命がけの仕事ですから、そりゃそうですよね」
「“卑怯と言われてもいいから、一人も死傷者が出ないようする”……警官が意地を張るべきは、そこです。『一人も』の中には、無関係な市民の方はもちろん、自分や仲間、犯人すら含まれます」
「その制約の中で戦うの、めちゃめちゃ無理ゲすぎません? ゲームだとしたら即日売りに行くレベル」
一般人が犯罪に出くわしたらどうすればいい?
田村さんが逮捕術の大会(徒手部門)で優勝した時の写真
※大会には他に警棒や警杖などの部門があるそうです
「逮捕術って、警察関係者以外には門外不出なんでしょうか」
「いや、そんなことはないですよ。大会も開催されてるし、一般の方も見ることができます。あと、学校の先生にも教えたりします」
「え、なぜ教師が逮捕術を? 誰かを逮捕するの?」
「不審者が学校に侵入した時に、取り押さえるためですね。護身術としても教えることがあります」
「へぇ~! じゃあ僕でも習うことができる?」
「う~ん、公職の人に教えることはありますが、一般の人に道場で教える……というのは、ないかもしれませんね」
「な、なぜ? やはり門外不出の暗殺奥義があるから!?」
「犯人を暗殺してどうするんですか! そうじゃなくて、一般の人は『逮捕』を最終目標にする必要がないからです。普通に空手や柔道を習えばいいので、需要がないと思いますよ」
「しかし、一般人でも、たまたま凶悪犯罪に出くわしてしまう可能性ってありますよね?」
「その場合、何はさておき、まず逃げることを考えてください。戦闘することの危険というのも もちろんありますが、戦った結果、過剰防衛になってしまうことがあるからです」
「えー! 相手が犯罪者でも?」
「はい。例えば路地裏で不良少年にからまれたとしましょう。で、防衛のために殴ったら、相手にケガをさせてしまったと。その時、警察の人には『逃げることで対処できたのでは?』って言われますよ」
「とはいえ、逃げることすら難しい状態ってありますよね? 例えば女性だと走る速度も遅いし」
「それはありますね。では、そういう時の護身術をひとつお教えしましょうか?」
教わったのは「肘当て」という技。手首を掴まれ逃げられない時の対処法です
僕=暴漢、田村さん=女性、と思ってご覧ください
まず手を開きます
そのまま自分のヒジを暴漢のヒジに当てると、弱い力でも簡単にロックが外れます。痛いのではなく、角度的に手首を掴んでいられなくなるんです
逃げます
ここではゆっくりやってもらいましたが、本気でヒジを入れたり最後に突き飛ばしたりしたら、かなり逃げる時間が稼げます。
逃げる時に一番危ないのは「振り返る瞬間の背中」なので、一瞬の隙を作るというのはすごく重要だそう!
後ろから抱きつかれた時はこう。自分の腕を開くと、相手の腕が上がるので抜けやすくなります。
胸ぐらをつかまれたら、こう
掴まれた手を外にひねり、お辞儀をするように相手の手首に体重をかけると、下方向に逃げる(座り込む)しかなくなるので、その隙に逃げましょう!
「では、逃げるのではなく、運良く犯人を取り抑えられたとして、警察に連絡した後は何をしたらいいんですか?」
「その場で警官が到着するのを待ってください」
「その間ずっと押さえ込んでるんですか? それとも犯人をヒモとかベルトで捕縛したほうが良いんですかね」
「暴れる男を身動きできないように縛るのは……素人には難しいと思いますよ。関節を極めるのが楽だと思いますね」
「関節極めながら警察待ってたら、絶対疲れてホールドが解けそう」
「いや、楽なやり方があるんです。実際にやってみましょうか」
「痛くしないでくださいね……」
前述の「胸ぐらを掴まれた時の対処法」と同じですが、今回は逃げるのではなくそのまま取り抑えるパターンをやってもらいました
掴まれた手を外に開いて体重をかけると……
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
これ、田村さんに「こっちに行ってください」とか「寝てください」とか言われてるわけじゃないんです。
痛みから逃れるためにはこの方向(この場合だとうつ伏せで寝る)しかないので、簡単にコントロールされてしまいます。
上に乗ったら、「両手を後ろに回せ」と声をかけます。痛すぎるので、言うことを聞く以外に何もできません。ライターって大変な仕事ですね。
で、左手もまったく同じように後ろで極めたら、太ももで固定します。
すると―
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
はっ、ハア゛ア゛ア゛ァァァ、ハハァ~~~~、サファ~~~(声が枯れた)
後ろで極められた両手は、田村さんの太ももが壁になって下方向には動かせません。それ以外の方向に動かすと激痛が走るので、マジで何もできません。
なのに、取り抑えてる方は「ただ座ってるだけ」の状態であり、両手がフリー。力も不要なので、警察がくるまで余裕でアルフォートとか食べながら待ってられます。
(警察官に歯向かうのは、やめよう……)
まとめ
というわけで、今回はあまり馴染みのない職業・警察官が、実は逮捕術という格闘技を学び、命がけで犯罪者に立ち向かっていた、というお話でした。
教えてもらった護身術は役立つものなので、いざという時には思い出してくださいね!
ただし、決して遊び半分では使わないでください。僕はこの取材の後、2日くらい手首が痛かったです。
ちなみに、事務所に劇場アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のポスターが貼ってあったので、「好きなんですか?」と聞いたら、なんと田村装備開発が戦術指導や武術指導として関わっているとのこと。
ナイフ使いの悪者みたいなキャラが、ほぼ田村さんの動きそのままなんですって!
田村さん(田村装備開発)はいくつかの作品で武術の指導をしてるそうなので、「この作品、アクションすげぇな……」と思ったら、ひょっとしたらスタッフロールに田村装備開発の名前があるかも……?
さて、そんな田村さんですが、自身の経験を活かして本も書いてます。
護身術や危機管理に興味ある方はぜひどうぞ。現在2巻まで発売中ですよ!
(おわり)
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy