どうですか?こんにちは、まきのです。
浅草の仲見世商店街からちょこっと横の通りに入ったところにあるプロマイド専門店「マルベル堂」でこういう写真を撮ってもらえるんです。
店内には所狭しと往年のスターのプロマイド写真が並んでいて、大正10年開業から96年の歴史を感じさせます。
映画俳優からプロレスラー、男性アイドルに女性アイドルなど、昭和を彩った人々が、あの時と変わらぬ姿で微笑んでいます。とにかくものすごい数!
せっかくなので、そんなプロマイド写真の老舗「マルベル堂」店長の武田さんに、プロマイドにまつわるエトセトラを聞いてみました。
伝統あるプロマイドの世界とは
「今日はお時間いただきましてありがとうございます!」
「はい!全然問題ありませんよ」
「いきなりなんですけど、『ブロマイド』じゃなくて、『プロマイド』なんですね。ずっと『ブ』だと思ってました」
「これはどっちも間違いではなくて、『ブロマイド』は"印画紙"のことで、『プロマイド』は"販売目的で撮影したスターの写真"のことで、造語なんですよね。マルベル堂では創業当初から『プロマイド』と呼んでます」
「なるほど。そんなマルベル堂さん、96年の歴史があるだけに店内の写真はものすごい数ですね。どれだけあるんですか?」
「およそ8万5000版はありますね」
「すご…ざっくり計算すると、1日2.4枚、1年885枚のペースでスターのプロマイドを撮り続けて96年…歴史の重みを感じる!」
地下には男女別・50音順にきれいに並んでおりました
「戦前は他にもプロマイドのお店があったんですけど、皆さん廃業しちゃって、うちだけになってしまいましたね」
「あら。どのようにして続けられたんですか?」
「写真撮影の他に、うちは美容院やレストランも経営していたんです。それらが一つの建物に入ってるから、スターがうちで撮影する前の待ち時間にレストランでコーヒーを飲み、美容院で整えて、いざ撮影…という一連の仕組みができていたんです」
「へ〜!確かにワンパッケージになっていたら撮られる側もやりやすくなってリピートしちゃいそうですね。撮影については、スター以外にも一般の人も撮っていたんですか?」
「いえ、七五三や成人式、お見合い写真のようなものは撮影してましたが、プロマイド的な写真はスター専門でしたね。一般の方をプロマイド撮影するサービスを始めたのは、実は3年くらい前からなんです」
「え、けっこう最近ですね!」
「色んなお客さんから『私もプロマイドを撮りたい』という声はいただいていたので、亡くなった私の師匠と話してそういう企画を立ち上げようじゃないかと決めたんです」
「そうだったんですね。twitterで回ってきたのを見たんですが、地方で出張撮影サービスとかもやられてるんですよね。ぼくはそれでこちらの存在を知って、『撮ってもらいて〜』って思いました」
「ありがとうございます。せっかくなんで撮っていきましょうか」
「え!いきなりいいんですか」
「じゃあジャケットを片手で背中にかけて、椅子に片足のせてください」
「こうですか?」
「で、右手でメガネを触って、視線を斜めに…そう!!それ!!そのまま!!!!!すごい!!良い!!これで撮ると…(カシャ)ほら!!!!!すごい!見てください!!」
「はっはっは!!!プロマイドになってる〜〜〜〜!!」
「最高ですねえ!すごく表情が良いから一枚しか撮ってないですよ!!」
「めちゃめちゃ面白いですね…全国で出張サービスするべきですよ!」
「そういうお声がけもいただいておりまして、3月には札幌の百貨店でやらせてもらいましたね。あとは岐阜県や原宿とかでもやりました。意外かもしれませんが、10代〜20代の女性が結構昭和に興味を持っているみたいですね」
「スターと同じようなプロマイド写真が撮れるのはすごくいい経験だと思います!撮影する時に気をつけてることってありますか?」
「私が6代目のカメラマンをさせていただいているんですけど、代々伝わる『構図』があるわけですよ」
「決まった角度とか視線とかですね?」
「そうです。さっきみたいにジャケットをかけて片足あげる『波止場のポーズ』とかは定番なんですけど、そういったルールに基づいて撮っていますね。そうするとね…単純に古くなるんですよ!」
「プロマイドの再現という意味では抜群ですね!お客さんの撮られたい願望は応えてるから最高だと思います!」
撮影スタジオにはいい意味で時代を感じる衣装やアイテムが多数!
「私はもう毎日スターのプロマイドを見て来ましたから、こうするとあの人だな、このポーズはあの人だ、みたいに思い浮かぶんですよ」
「代々受け継いできた構図と、店長さんの深い知識とノウハウがなせる技なんですね…」
「プロマイドで言えることは、『ファンのためにあるものだ』っていうことですね。これは師匠から教わった大切なことで」
「ファンのため」
「当時はスマホみたいなものは無くて画像も簡単に検索できないので、スターとファンをつなぐものとして、手帳に挟んで持ち歩いていたんですよね。そういう経験ありません?」
「あ〜〜〜〜〜〜〜。プロマイドじゃないですけど、ぼく中学の生徒手帳に内田有紀の切り抜きを入れてましたね…」
「そうそうそういうこと!プロマイドは『ファンとスターを身近にするもの』なんですよね。さらに言うと、手帳を開いた時にスターと目が合うようにカメラ目線を極力もらうようにしてます。そして顔をハッキリ写さないとダメなんですよね」
「なるほど。持ち歩いて、何気ない瞬間に見て、スターと目が合う…と。あとプロマイドを持ってることでコミュニケーションにもなり得ますね。『お、お前明菜好きなん…?』みたいに」
「そんな感じですね。あと師匠から教わったのが、『ファンは指先まで見たがるから、指を入れてポーズを撮るとファンは喜ぶ』っていうのもありましたね」
「あ〜なんかそういうポーズも見たことありますね」
「具体的に言うと、右手を顔にそえて、左手で右手首を包み込むように…そうそう!!それです!!!!いきますよ〜〜〜!!!(カシャ)」
「面白すぎる〜!!!」
「出来上がりを見たら正直誰でも撮れそうなんですけどね。でもスターに『このレンズの奥にはファンがいますから!』『ファンのために!』って話しかけながら撮るので、過程が他とはまた違うわけです」
「武田さんの思い入れが一枚一枚にこもってますね」
「そういう『誰にでも撮れることを96年ひたすら続けて、誰にでも撮れるところに薀蓄がある』ってのがマルベル堂のプロマイドなんですよね」
「ひたすら続けていくことで一つのブランディングになりますね…」
「ノッてきたからどんどん撮りますね!お〜い!ジャンパーとクリームソーダ持ってきて!!」
「ほっぺに付けて『つめた〜い!』これでいきましょう!!」
「すげ〜写真!」
プロマイド全盛期を振り返る
「プロマイドの全盛期はどんな感じだったんですか?」
「第一ブームは日活・東映・松竹・東宝が成長してきた昭和初期の映画時代ですね。当時はカメラマンが日活や太秦の撮影所に毎日足を運んで撮りに行ってたみたいですよ。あと浅草は映画館がたくさんあって、見終わったあとにみんなマルベル堂によってプロマイドを買いに行くのがお決まりだったと聞いてます」
「その見た映画の主演の人のプロマイドですね」
「その通りです。その後は…やっぱり70〜80年代のアイドル時代ですね。ピンク・レディーのプロマイドの発売日には行列ができたと師匠から聞いてます。他にも子どもが『ピンク・レディーの新しいプロマイドが出るんだ!』って言いながら走っていったとか」
「わ〜、プロマイドの新作という概念が無かったのでその話すごく新鮮ですね。定期的に新しいのを撮って更新していったんですね」
「ピンク・レディーに関してはテレビ局まで押しかけて、番組と番組の間の2分間にババっと撮ったりしてたみたいです。そのおかげで、背景が非常階段になってるものもありました」
「ほげ〜当時の忙しさ、えげつなさそうですね…。他にもスターに会いに行ったりもしてたんですよね?」
「してましたね。菅原文太さんは自宅で撮りましたよ」
「自宅で!」
「師匠の体験談ですけどね。撮影しようと自宅まで行くのもすごいんですけど、快く迎えてもらった上に、本人お酒飲んでて。で、そのまま撮影したついでにアジの開きもごちそうになったらしいです。今じゃ考えられないですよね」
「ほんとにそうですね。なかなか豪快な人だな〜」
「あとは…新沼謙治さん。ご存知ですか?」
「名前ぐらいしか存じ上げないんですけど、昔のジャンプ漫画で『新沼謙治は』『鳩が好き』っていう合言葉があって、それはすごい記憶に残ってます」
「ほんとに、まさにそうなんです。すごい表情が固い人で笑顔がなかなか撮れなかったんですけど、浅草寺に行って鳩を見たら今までに見たこと無い笑顔になって…その瞬間を撮りました」
「ほんとだ、鳩と一緒に写ってる」
「プロマイドが当時大人気だった岡崎友紀さんも、何回かの撮影の時に愛犬を連れてきて、一緒に撮影するというのもありました。プロマイドは基本的にキメてる写真が多いんですが、その中でもスターの優しさや、素の面がとらえられたりするのはこの仕事しててとても楽しいですね」
「それをファンに伝えられる架け橋になってるプロマイドは素晴らしい文化ですね〜!ちなみに、歴代で一番売れたプロマイドって誰のなんですか?」
「それはもう言わずもがな、美空ひばりさんですね」
「おお、やはり…!」
「これはもう誰もが納得ですね。プロマイドの種類も、一人だけずば抜けてるんです。他の人は多くて900種類なんですが、ひばりさんだけは1460種類もあるんです」
「めちゃめちゃ多いですね!」
「マルベル堂にとっても、日本にとっても大スターであることは今でも変わりありませんね。大スターなのに、子役時代から見ているからファンの方は『ひばりちゃん(のプロマイド)ある?』ってな具合で聞いてきてくれて、すごく親しみやすさもありますし」
「う〜んすごい。ぼくもひばりちゃんみたいに愛されたいものですね…」
「ならばどんどん撮っていきましょう!!ラジカセの上に腕と顔をのせて、上目遣いで!!そ〜〜〜〜〜!!!それ〜〜〜!!」
「これ巻いて!!サムズアップでこっちに笑顔ちょうだい!!」
「もうローラースケートもルービックキューブもレモンもパフェも全部持ってきて!!!で、散らして!!!そこに座って!!」
…みたいな感じで楽しい撮影会は終了しました。これ、マジで楽しかったので皆さん一回はやるべきですよ本当に!
出来上がった写真はこうやってすぐに印刷してパッケージングしてくれてサービス満点!さらにデータでももらえます!
武田さんもめちゃくちゃ気さくで面白い人で、撮られる側も楽しくなっちゃう上に自分が芸能人になったかのようなプロマイドのおかげで撮影中は終始笑いっぱなしでした。カップルや夫婦で行くのも大変良い思い出になると思うので、是非皆さん自分のプロマイドを撮ってみてはいかがでしょうか。
今と昔、スターとファンをつなげる思いの詰まったプロマイド、これからもますます盛り上がっていくといいですね!
それではさようなら。
【マルベル堂】
・所在地:東京都台東区浅草1-30-67
・電話:03(3844)1445
・プロマイド撮影:5枚印刷+CDデータで12,960円
・詳細はサイトをご確認ください→■
書いた人:まきのゆうき
株式会社バーグハンバーグバーグで働く人。姉妹メディア「オモコロ」の立ち上げメンバーで12年間同じキャラクターで4コマまんがを描いていた。かなり写真に写りたがる。Twitterアカウント→@yuuki