ジモコロをご覧の皆さま、はじめまして。沖縄在住のフリーライター真崎と申します。飲んでいるものは、沖縄居酒屋の泡盛カクテルです。
わたしは昨年6月に東京・池袋から沖縄にふらりと移住しました。東京でバリバリ働く女性の5人に1人(当社比)が20代半ばか後半に「もう仕事も都会にも疲れたわ」と人生を憂う第2次モラトリアム期に入るじゃないですか。わたしももれなくそのアレです。
「もう全てを捨てて、暖かくて自然の多い場所でこころ穏やかに生きていきたい」
そんな悲痛な思いと共に都会を離れ、日本でいちばん南国っぽい沖縄に住んでみようと決めました。
まぁ、那覇が想像の500倍都会でアゴ外れたんですけどね。「あれ、ここ東京?」ってなりました。ちょっとした不思議体験。
那覇から車で約20分の宜野湾市に住むことに決めたのですが、東急ハンズもドンキもスタバもマクドもコワーキングスペースもあって超便利。
美しい海、豊かな自然、毎日が南国リゾート……。勝手にイメージ・期待していた「沖縄っぽさ」とは少し違いましたが、特別気にすることもなく宜野湾市での新生活を始めました。
わたしのイメージしていた「沖縄っぽさ」があった“今帰仁村”
そして昨年10月。沖縄移住から4ヵ月が経ったころ、あるお仕事で沖縄北部の「今帰仁村」という場所に行くことになりました。
今帰仁村は、那覇空港から車で約2時間、高速道路を使えば約1時間半、距離にして約82km北上した場所にあります。
これまでわりと都会で生きてきたわたし。そもそも「村」が新鮮でした。
そんなわたしが初めて訪れた今帰仁村で見たものは。
「あ、これは私のイメージしていた沖縄ドンピシャだ」
青い空に白い雲。水色の海に緑のアーチに赤やピンクのハイビスカス。移住前に想像していた「沖縄っぽい景色」が、ここにありました。
そして、初めて来たのに「なんかここ見たことある気がする」という既視感の連続。
それもそのはず。今帰仁村はCMやドラマ、映画のロケ地としてよく使われている場所なんです。
この民家とか、なんだかとっても見たことある気がしませんか?
こちらは、映画『チェケラッチョ!!』で、井上真央の自宅として使われた場所です。
とっても見たことあると思ったー!
こちらは、今帰仁村を案内してくださった又吉演さん。
現在は退職されていますが、取材当時は今帰仁村観光協会の事務局長をされていました。めちゃくちゃ気さくでこころが永遠に少年なおじさまです。
「せっかくなので、仕事のお話は古宇利島(こうりじま)でしましょうか」
「古宇利島……!(とは)」
「今帰仁村から車で行ける島があるんですよ」
「車で行ける島??行きます!!!」
年間80万人が訪れる古宇利島と、観光名所「ハートロック」
今帰仁村の役場から又吉さんの車に揺られること約10分。
「うわあああああああなにコレめっちゃきれい!!!!!!」
車の中から全方位に見える、とっても澄んだ海。
この美しい海の中に悠然と佇む島が、古宇利島です。
古宇利島の人口は約350人。
車で10分も走れば1周できてしまう、小さな島です。
本島と島とをつなぐ「古宇利大橋」ができたのが2005年。
橋の完成を機に多くの観光客が訪れるようになり、年間7~8万人の観光客が訪れるようになったそうです。
「でも今はもっと観光客が増えて、年間80万人くらい来るよ」
「え、10倍じゃないですか! なんでそんなに客数が爆増したんですか?」
「1つは、やっぱりハートロックだよね」
「ハートロック……!(とは)」
こちらの岩が、通称ハートロック。
古宇利島のビーチに佇む自然岩です。
2つの岩が重なってハートに見えることから、この名称がつけられました。
この岩が、古宇利島の観光客数を10倍にしたの、か……?
「ハートロックがね、JALの先得CM『ニッポンを見つけよう』でロケ地に使われたんだよ」
犯人は嵐でした。
これは全国民(特に10~20代の女性)が湧いてもおかしくありません。年間80万人も納得。だって嵐だもん。
💗ハートロック💗
— (煮) たまごん (@tamagonars2) 2017年7月29日
脇腹痛いみたいになっちゃったけど同じポーズして、テンション上がりながら写真撮った✌️
嵐が踏んだかもしれない砂踏んできたぜ~幸せ…! pic.twitter.com/uQt88p0EUJ
「来て良かったね、JALの先得で」の
— a-jun(あけ) (@ake_j_shic) 2017年7月29日
ハートロック見てきた💙❤💚💛💜
こっちからの角度でゴメンナサイw
二つの岩がこんな感じで並んでるよ〜ってことでw
ここに嵐さん来たんだね(*´ω`*)♡
そして海がめっちゃ綺麗✨ pic.twitter.com/hR44pDpcaj
(湧いてた)
この日の夜、今帰仁村観光協会の皆さんが地元の居酒屋で飲み会を開いてくれました。
「この人が、今帰仁村観光協会つくって代表やってた上間宏明さん」
「あの岩に『ハートロック』って名前を付けた人だよ」
「なんと! 大ヒット観光地の名付け親なのですね…!」
「いやいやそんな」
「たしかに、ハートロックのおかげで観光客はめちゃくちゃ増えたけど」
「はい」
「あれは大きな失敗でもあったんだよね~」
「え、そうなんです……か……………?」
・
・
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と、この辺りでこの日の記憶がなくなっています。
このお店、蛇口から泡盛が出るってなもんで調子にのって飲み過ぎました。
上記の会話も本当にしたのか曖昧。なにより上間さんと話した記憶がほぼほぼ皆無。
でも、ハートロックの話が、気になる……!
観光客数を10倍にしたハートロックが生まれたきっかけも、「大きな失敗」と言われる理由も、すごく気になる……!
ということで、あの飲み会から10ヵ月経った今年7月。
改めて、ハートロック名付け親の上間さん、そして共に今帰仁村を盛り上げた又吉さんのお話を聞く機会をいただきました。
今帰仁村を盛り上げた当事者のおふたり、海と日光が似合いすぎる。
ハートロック発見・命名から大ヒットまで5年、地道なPR活動
「まずは、ハートロックが生まれたきっかけについてお聞きしたいです!」
「ハートロックを見つけたのは2009年ですね。当時は仕事の合間にずっと村歩きをしながら、今帰仁村のシンボルになりそうな場所を探していました」
「観光スポットを作りたかったんですか?」
「というよりは、ロケ地開拓かな。ロケの誘致には2001~2年くらいから力を入れていました」
(映画『サウスバウンド』のロケも行われ、豊川悦司が来ていた!)
赤墓(サダバマ)ビーチ。こちらも人気のロケ地
「今帰仁村って自然いっぱいで他にもロケ地候補がいっぱいありそうですが、なんでハートロックにピンときたんですか?」
「ロケ隊が求めているものって、『象徴的な何か』なんですよ。でっかい岩とか、変わった木とか、広い草原とか。そういうロケで使えそうなシンボルを探していたら、ハートロックを見つけて。『あ、これハートになってていいじゃん!』って思ってね」
「宏明さんから『これをハート岩として売り出したい』と言われて、俺も『絶対コレは当たる!!』と思った。当時俺は行政機関で沖縄へのロケ誘致なんかをする部署にいたけど、ロケ隊を送客するときに『ハート岩は、ぜひ見てってください!!』とオススメしまくったね~」
「古宇利島は当時から人気だったので『古宇利に行くならハートロックに行こう』みたいにメディアで取り上げてもらってね。2009年から2014年くらいまでは、そうやって地道~にプロモーションしていました」
「じわじわ人気は出てきました?」
「いや、なかなか。ANAでロケ地巡りのツアー組んだけど大コケした(笑)」
「あの時は、まだロケ地として有名でもなかったからね」
「でもその後、2014年、ついにハートロックへ嵐が来るんですね……!(二重の意味で)」
嵐のCM効果で「集客」は大成功した、けど……
「きっかけは、『JAL先得のCM候補地を探してほしい』っていう県内のコーディネート会社から依頼だったのね。先方は『5本生えているシンボリックな木はないか』との問い合わせだったけど、この近くでは見つからず」
「ふむふむ」
「で、コーディネーターさんが『前に教えてくれたハートロックどうですかね?』って言うから、5つじゃないし、地味ですし大丈夫ですか?ってこっちは心配してたんだけど、逆に評判よかったらしくて(笑)」
「そして、嵐の5人が来ちゃった、と。CM放映後の反響はどうでしたか?」
「『撮影後は、ヤバいですよ……』って先方に言われてたけど、あんなにヤバいと思わなかったね」
「あんとき、駐車場ちゃんと作っとけば良かったよね」
「そんなに、たくさん人が来たんですか?」
「ビーチロックの手前に、地元の人が1台500円の駐車場を作ったら人気でね。1日の売上が30万くらいあったんじゃないかな?」
「さんじゅうまん。駐車場だけで、1日さんじゅうまん……」
「そんなにいったっけ?」
「30万だったら……大体600台でしょ? 600台は来ていたはずから、やっぱり30万だよ」
ハートロックのあるビーチに続々と降りてくる方々。入れ替わり立ち代わり人が移動するので渋滞が起きていた
「まあ集客的には大成功だよね」
「そうですよね。どうやって人に来てもらうか試行錯誤の地方にとって、観光名所が大ヒットしてたくさん人が来てって、すごい理想的な成功例だと思います」
「でも、やっぱり『集客』以外の面では大失敗事例でもあるんだよ。」
「なぜ……!?」
金もうけに走る業者、自然を汚す悪客、ハートロックのヒットが生んだ歪み
「まず、駐車場以外には意外とお金は落ちてないんだよね」
「そうなんですか? カフェとか宿とかサーフショップとか利用する人も増えたんじゃ」
「ううん。みんなハートロックに来て、パシャっと写真とったら出ていく。滞在時間30分くらいで、次から次に人が来る感じ」
「今帰仁村は『素通り観光』されちゃうんだよね。ハートロック見て写真撮ったら終わり、その後は美ら海水族館に行って、泊まるのは那覇や恩納村。ご飯も今帰仁村じゃなくて宿の近くで食べるから」
「お金は落ちないけど人はたくさん来る。もともと素朴なビーチだった場所に年間80万人が来るようになったんだから、その歪みも出たよね」
「駐車場がもうかっているって話を聞いた事業者がどんどん駐車場作ったからね~」
「値下げ競争で、今はもう1台100円に(笑)」
「駐車場の看板もガンガン建てちゃうし、「元祖駐車場」って看板まで登場したな(笑)」
「差別化が強引」
「金もうけの色が強くなって、ちょっと下世話な感じになっちゃったよね」
「あれだけたくさんの人が来ると、当然『悪い客』もいる。ビーチにポイ捨てする人や、落書きする人とかね」
「脱輪事故もすごい多かった」
「地元の人にとっては、正直迷惑な話でもありますよね。たくさん人が来て、静かな村が騒々しくなって、海や自然を荒らされて……」
「そうそう、だから『集客』を目標にするのは止めたの。今のテーマは『選客』と『客育』だね」
“ぬーんねんしが 今帰仁村”を好きになってくれる人が、大切なお客さん
「観光協会を設立した時に、僕が今帰仁村にある宿を1つ1つ回って『今帰仁村にいいところは?』とヒアリングしたのね。そしたら『何もないところがいい』という声が圧倒的に多かった」
「だから、『ぬーんねんしが 今帰仁村』、つまり『何もないけど 今帰仁村』っていうポスターができたんです。何もないんだけど、今ある自然の中で癒されてほしいって思いを込めて」
「立ち上げ時からずっと話していたのは、『ハコを新しく作ってドバドバ客を呼ぶんじゃなくて、今ある自然そのままの今帰仁村を好きになってくれる人に来てほしい』っていうことだったんだよね」
「そう、だからゴミを捨てて自然を壊すような人には正直来てもらわなくていい。話題に飛びついてやってくる人よりも、毎年足を運んでくれる1つ1つの家族を大切にするほうが大事なんです」
「これが、今帰仁村の『選客』なんですね」
「そう。で、あとは客育。中高生が修学旅行に来て、ビーチにゴミが落ちているところに来たら『こうやってゴミを捨てる人には来てほしくないって地元は思ってるんだよ』って伝えるのね。彼らが将来、今帰仁村やそれ以外のところに旅行へ行くときに『良いお客さん』であってほしい」
「なるほど」
「爆発的に人を呼ぶんじゃなく、なにもない場所で自然に癒される観光地を、お客さんも含めてみんなで守っていきたいんだよね」
「俺たちがやりたいのは金もうけじゃなくて、みんなに今帰仁村を知ってもらって好きになってもらうことですからね」
おわりに/どこまでもハート推しな男たち
「新しい観光名所を探すとき、俺らけっこう『ハート』をキーワードにしたよね」
「今帰仁城にもハートの岩がないか探したもんね」
「ハート作っちゃおうかって話もしたな。今泊集落に石垣作るとき、俺けっこうハート埋め込んだよ。自分で石をハート型に削ってさ」
「(カワイイことしてらっしゃる)」
「ディズニーランドであちこちに隠れたミッキーマークを見つけるみたいに、今帰仁村のあちこちに隠れたハートを探してもらうのも面白いよね~」
「俺、自分のお店にハート埋めようと思ってるよ」
「ああ、いいっすね! それやりましょうよ!」
ハートで盛り上がるおふたりの姿が、完全に無邪気な少年でした。
こんなテンションでハートロックも生まれたんだろうなあ。
沖縄に来てからも、わたしは半都会の便利な場所で結局せかせかと仕事をしています。時々またどうしようもなく心が疲れて「早く来世に行きたい」とグッタリすることもあります。
今帰仁村は、そんなわたしをほっと休憩させてくれる場所。
行くたびに「夏休み」の気分になります。
聞こえてくるのは人の声より虫の声。
豊かな自然にふれ、現地の美味しいものを食べ、又吉さんや上間さんとお酒を飲んでベロベロになる。
気付けばこの場所がだいぶ大好きになりました。
沖縄に来た際は、よかったら今帰仁村に遊びに来てみてください。
その際はぜひ「良いお客さん」として。
そしてハートロックを見に来るついでに、村のどこかに隠れているらしいハートも探してみてください。私も未だに見つけられていません。
書いた人:真崎睦美
沖縄在住のフリーライター。89年大阪生まれ京都育ち。生みの親はmixi、育ての親はTwitter。「京都人は腹黒い」と決めつけてくる人達にいつか笑顔でお茶漬けを出したい。 Twitter:@masaki_desuyo_ / 個人ブログ:真崎ですよ /