こんにちは、ライターの根岸達朗です。
突然ですが・・・
みなさんは昨日、いくらお金を使いました?
えーと、昨日は飲み会があったし、昼は友達とランチしたし、かわいい洋服があったからそれもつい買っちゃって・・・なんて、使えば使うほど、財布のなかからはお金がどんどん消えていきますよね。
ほんとどんどん消えるんですよね。不思議だなあ。不思議すぎますよね〜〜。
このお金って。
まあ、消えた分だけ入ってくればいいのかもしれないんですが、そうしようと思うと、やらなくていいような仕事をたくさんしないといけなくなったりもして、なかなか大変ですよね〜。
なんだか、お金に追われているような感覚で、私なんかは疲れてしまうことがあります。
なるべく気持ちよくお金を使って、ご機嫌に生きていきたい。それは今の時代、誰もが思うところではないでしょうか。
実は、ここにイイものがあります。
地域通貨です。
なんだそりゃ? という人も多いかもしれないのですが、この地域通貨を上手に使うと、お金に対する考え方が少し変わるかもしれません。お金にとらわれすぎちゃう自分も変えられるかもしれません(私のことです)。
以下、地域通貨の定義となりますが、むずかしい文章を読むのがめんどくさい人はすっ飛ばしてもOKです。
◆地域通貨とは?
1)特定の地域内(市町村など)、あるいはコミュニティ(商店街、町内会、NPO)などの中においてのみ流通する。
2)市民ないし市民団体(商店街やNPOなど)により発行される。
3)無利子またはマイナス利子である。
4)人と人をつなぎ相互交流を深めるリングとしての役割を持つ。
5)価値観やある特定の関心事項を共有し、それを伝えていくメディアとしての側面を持つ。
6)原則的に法定通貨とは交換できない。引用:重田正美「地域通貨の将来像―スイスの地域通貨「WIR」の事例を参考に―」
さて今回はそんな地域通貨に注目して、「もうひとつのお金」のかたちについて考えていきます。
お金の本質に迫る、ジモコロシリーズ第二弾。始まります。前回の「未来のお金」の話はこちらからどうぞ。
まずやってきたのは、東京・国分寺市
ここに「クルミドコーヒー」という、『食べログ』の喫茶部門で1位に輝いたこともある超人気カフェがあります。1位ってヤバくないですか? 実際、めちゃくちゃいいカフェです。
このお店を含む市内の4つの飲食店が中心となり、2012年から運用を始めたのが、地域通貨「ぶんじ」です。
この地域通貨は「券面式」と呼ばれるタイプ。「ぶんじ」のネットワークに加盟する市内の飲食店や青果店(計26店舗)のほか、各種地域イベントなどで、お金と併用しながら使うことができます。
100ぶんじ=100円の目安ですが、これ一枚でラーメンのトッピングを無料にしているお店などもあり、その価値はそれぞれのお店が自由に決められることになっています。
発行数は1万3千枚(2017年5月現在)。そのうち、約1万1千枚が流通していて、主にFacebookグループで情報を共有している約300人が利用しています。
ぶんじを手に入れるには、地域イベントのお手伝いをするとか、地元の農家の作業を手伝うとか、いろんな方法があります。
今回はそのぶんじの事務局メンバーで、こちらのお店から生まれた出版事業「クルミド出版」のメンバーである今田順(いまだ・じゅん)さんに、その成り立ちや仕組みについて話を聞いてきました。
地域通貨ってなんだ?
「今日は地域通貨について、勉強したいと思ってきました。知らないことも多いので、ぜひいろいろと教えてください。早速ですが、地域通貨というのはいつ頃できたものなのですか?」
「元祖とされているのは『LETS』というカナダ発の地域通貨で、これが生まれたのは1980年代ですね」
「へえ、そんなに前から」
「90年代に入るとアメリカで『イサカアワーズ』という地域通貨が生まれて、そのあたりから日本でもポツポツと地域通貨が生まれていくんです。日本で本格的なブームがきたのは1999年あたりかと」
「世紀末ですね。きっかけとなるような出来事があったんですか?」
「NHKのドキュメンタリー番組『エンデの遺言 -根源からお金を問うこと』で、世界の地域通貨が紹介されたことですね。ミヒャエル・エンデという児童文学作家をご存知ですか? 『モモ』などのベストセラー小説を書いている人なんですが」
「あ、子どもの頃に読んだ記憶があるかも! 時間どろぼうの……」
「ですです。エンデは晩年にお金に対する問題意識を持って、地域通貨の可能性に触れています。その番組を見て共感した人たちが、地域通貨の世界に可能性を感じて飛び込んだんですね」
▼こちらはNHKで放送されたドキュメンタリー番組の内容をまとめた一冊。現代のお金の常識を破る考え方や、欧米に広がる地域通貨の試みが紹介されている。興味があれば読んでみてください。
インタビューを続けます。
感謝の気持ちを通貨にのせて
「ところで、今田さん。『ぶんじ』というのは、どういうところが普通のお金とは違うのですか? 一見すると、割引券のようですが」
「裏面を見てもらってもいいですか? ここに実は10個の吹き出しがあって、そこにメッセージが書けるようになっているんですよ」
「あ、ほんとだ! いろんなメッセージが書いてある」
「ぶんじを誰かに渡すときにはメッセージを書くのを一応の原則としています。『ありがとう』『おいしかった』『助かりました』とか、感謝の気持ちが込められたものであればなんでもOKです」
「へええ。メッセージを読むと、この『ぶんじ』がいろんな場面で使われたこともわかりますね。みんな書いてくれてます?」
「平均して2、3のメッセージが書かれている『ぶんじ』がよく出回っている印象がありますね。10個の吹き出し、全部が埋まっている『ぶんじ』は『コンプリートぶんじ』と呼んでいて、実はそれを集めて展覧会もやったことがあります」
「えーおもしろそう。でもなんでメッセージを書けるようにしているんですか?」
「ここが割引券とは違うところなのですが、僕たちはメッセージを書いてもらうことで、一つひとつの交換に光を当てたいと思っているんです」
「光を当てる?」
「はい。今の時代って、お金を払ったらサービスを受けるのは当たり前と思うような感覚がありますよね。ラーメン屋さんで食券を買ったら、ラーメンが出てくるのは当たり前というような」
「そうですね。それでラーメンが出てくるのが遅かったらイラついたり、それがおいしくなかったら不満を抱いたり」
「みんなそうだと思います。でも、お金がなかった時代の物や仕事の交換って、自分が何かをしてもらったら、それに対して何かを返そうというようなかたちで、人と人が気持ちを交換していたと思うのです。貨幣のはじまりの時期には、貨幣と気持ちというのはより親密な距離感を持っていたのではないかと」
「気持ちの交換か〜。確かにその方が自然ですし、そうであったと思いたいですよね」
「はい。だから僕たちはその交換の場面であえて少し立ち止まって、メッセージを書くことにしています。それによって、本来の交換にはあったと思われる『気持ち』も送りたい。通貨としての円も使いながら、気持ちを送り合うということを楽しみながらやっていきたいと思うのです」
循環のキーワードは「農」
「気持ちの循環を目指しているということなんですねー。それでいうと、今『ぶんじ』はどのようなかたちで流通しているのですか? お店で使われるということになると、いったんはお店に『ぶんじ』が集まるかたちになると思うのですが」
「これはひとつのルートですが、『ぶんじ』は地元農家と連携しているので、飲食店であれば、野菜の仕入れの一部にこれが使えます。なので、まず飲食店からから地元農家さんのところに『ぶんじ』が回ります」
「となると、今度は農家さんのところに『ぶんじ』が集まることになります」
「はい。農家さんは次にその『ぶんじ』を自分たちの仕事を手伝ってくれた援農ボランティア(※)さんに感謝の気持ちとして渡します。国分寺は都心に近いのですが、比較的農地が残っていて、農業に関心のある人も多い地域だと思います。地元の農業につながる循環というのが、ぶんじの特徴にもなっています」
※ 国分寺市では他の市に比べ、早い時期から援農ボランティア制度が設立された
「地元の農業が元気になるのはいいですよねー。おいしい地場野菜も食べたいですし」
「そうですね。あと、私としては『ぶんじ』を少しでも『円』に近づけて『使える』ものにしたいと思っていて。たとえば、地元で起業をしたい人のスタートアップの資金の一部にできるとか、空き家の改修資金に当てられるようにするとか。地域の暮らしが楽しくなるような使い方がもっと広がるといいなあと思っています」
「おお〜それができたら可能性が広がりますね。これからも注目しています! 今日はためになる話をありがとうございました」
「こちらこそです。あ、ちょっと待ってくださいね」
(おもむろにペンを取り出す今田さん・・・)
100ぶんじゲット!(ありがとうございます!)
続いてやってきたのは、旧藤野町
神奈川県北西部の中山間地域にある旧藤野町(現・神奈川県相模原市緑区)。山々に囲まれた人口1万人の小さな町です。
旧藤野町は2000年代初頭から芸術振興に力を入れていて、現在はものづくりの担い手や芸術家をはじめ、創造的な教育で知られる「シュタイナー学園」の学校関係者など、さまざまな分野の人材が移住してくる、ちょっとおもしろい地域になっています。
話を聞かせてくれたのは、地域通貨「よろづ」の発起人である池辺潤一(いけべ・じゅんいち)さん。
先ほどご紹介した「券面式」の地域通貨に対して、こちらの地域通貨は「通帳式」と呼ばれます。その特徴について、話を聞きました。
書き込むだけで取引が成立する
「池辺さん、今日はよろしくお願いします。先日、券面式の地域通貨を取材してきたのですが、通帳式というものもあると聞きまして」
「そうですね。今、日本の地域通貨のほとんどは『券面式』か、この『通帳式』だと思います」
2009年から始まった通帳式の地域通貨「よろづ」。世帯ごとに加入し、メーリングリストで情報共有するかたちで、現在は旧藤野町に住む約300世帯(400人くらい)が利用している。
「どうやって使うんですか?」
「暮らしのなかの頼みごとや困りごとを、これを介してやりとりするんです。たとえば、Aさんが『畑仕事をだれか手伝ってくれませんか?』とメーリングリストで呼びかけたとしますよね」
「ふむふむ」
「メーリングリストは『よろづ』に参加している400人が見ているので、その日に空いてる人はそれに対して『いいですよ』と返事をします。マッチングしたらそれで実際に仕事を手伝うんです」
「えー!それだけですか!? 報酬はあらかじめ設定するんですか?」
「してもいいですし、しなくてもいいです。『食事+◯◯よろづ』とか、何かの組み合わせで謝礼とする場合も多いですね。1よろづ=1円の目安です」
「へえ。通帳はどうやって使うんですか?」
「単純に書き込むだけですね。たとえば、畑仕事を『1000よろづ』で頼んでいたとしたら、手伝った方は『プラス1000よろづ』、手伝ってもらった方は『マイナス1000よろづ』と記入します。最後にお互いの通帳を交換してサインして終わりです」
<これまでの取引例>
・2週間旅行に行くので、花に水をあげてほしい
・インフルエンザで動けないので、子どもの面倒をみてほしい
・いらなくなったバスケットゴールを誰か引き取ってほしい
・ソフトバンクの電波がどこまで届くのか教えて欲しい
・クルマの運転ができないので、誰か送迎してほしい
...etc
「え〜!? 書き込むだけで取引成立ですか!」
「はい。これのいいところは、毎回取引のときに相手の通帳が自分のところにくることなんです。そうなると、必然的にその人の別の取引を見ますよね」
「はい。こんな取引してたのね、なんて思いそうです」
「実はこれって、地域資源の発掘なんですよ。自分の地元にはこんな人がいる、こんなことをしてくれる人がいるというのが、通帳を見るとわかるわけです」
「なるほど。そこから新しい頼みごとが生まれたり?」
「よくありますね。包丁研いでくれる人がいるんだ? 私もお願いしたい!みたいな感じで。連絡先はみんなで共有していますから、気になる人には直接コンタクトすることもできるんですよ。通帳を介して、どんどん地域の関係性が広がっていくんです」
「マイナス」は悪くない
「いやあ、すごい仕組み! でも、そうやって誰かに仕事を頼み続けていたら、自分の通帳はどんどんマイナスがかさんでいきますよね。それでいいんですか?」
「そこをいかに理解するかが、いわゆるお金から意識的に脱却できるかということだと思うんです。というのも、最初に登録してもらうと白紙の通帳が渡されるわけなのですが、その時点での原資はゼロです。すべての人がゼロスタート」
「ふむふむ。そこから仕事をお願いしたり、お願いされたりすると、プラスマイナスがいろいろ動いていくと」
「そうです。だから、すべての通帳を一箇所に集めて計算したら、残高の合計はゼロになります。必ず、プラスのぶんだけマイナスがあります。これが、私たちの大切にしているお互いさまのネットワークです」
「お互いさまなのだから、マイナスもあっていいということですか?」
「はい。いわゆるお金の感覚だと、マイナスがかさむことは悪いことだとしますが、そうではなくて、地域のなかでは誰かに何かをお願いすることも、誰かを生かす行為ですからそれは貢献です」
「なるほど〜。でもあんまりマイナスがかさんだら気になっちゃいません?」
「そうですね。最初はそれが気になるんです。自分はお願いばかりしているし、誰かの役にも立たなくちゃと。別にしなくてもいいんですけどね」
「すごいなあ。自然と地域貢献への意識も高まっていきそうです」
「でも結局はこれって、お互いさまの関係が自分のなかで築かれていれば、通帳なんて必要ないんです。だから不思議なことに、使って何年もするとこの数字には意味がないと思えてくる。実際、通帳に書かないで単に助け合っているだけの人たちもいますね」
「おおお。じゃあ地域のなかで、真にお互いさまのネットワークが完成したら、この通帳自体がいらなくなる可能性があるんですね。おもしろい〜〜」
たった10人からはじまった通貨
「ところで、この『よろづ』は『トランジション藤野』という地域活動にも紐付いているそうですが、それというのは?」
「これは限りあるエネルギーに依存しすぎない、真に自立した社会に、地域単位でゆるやかに移行していくための活動です。再生可能エネルギーの発電システムを自分たちでつくったりしています」
「確かにエネルギー依存は考えなくちゃいけない問題ですよね。それがなくなったら、生活が立ち行かなくなるのが現実ですし……」
「僕たちは生活のなかでさまざまなものに依存していて、そのひとつがお金ですよね。その依存から抜け出そうというのが、実は『よろづ』のベースとなっている考え方です」
「お金への依存……確実にありますね」
「僕もそうでした。でも、僕たちはお金がないと本当に幸せになれないのでしょうか?そういうことを仲間内で考えることからこの地域通貨は始まっていて、実は最初はたった10人で始めたんですよ」
「えー10人! そんな少人数から始められるんですね」
「それがもう、2〜3か月で60人とかになってどんどん広がっていっちゃった。それで翌年に事務局をつくって、本格的に始めるようになったんです」
「それだけみんなの心に響くものがあったんでしょうね〜。脱お金の求心力すごすぎ!」
地域通貨の鍵となるデジタルツール
「でも、地域通貨って実際始めてもなかなかうまくいかなかったりするって聞いたことがあります。それってどうしてなんですか?」
「単純に地域の割引券になってしまったケースもあるとは思うんですが、ひとつに考えられるのは事務局の負担が大きくなりがちなことでしょうね。それを避けるためにも、無理はしないというのは大事で。我々なんて基本的に何もしないですよ(笑)」
「えー。それで大丈夫なんですか?」
「はい。その代わり、よろづに加入したい人へは、最初にコンセプトをしっかりと説明します。それを理解してもらった上で、グループに入ってもらっています」
「なるほど。通帳型ははじめるまでに時間を必要とするんですね。気軽に始められる券面式と違うのはそこなんだ」
「そうですね。あと、地域通貨を軌道にのせるには、デジタルツールをうまく使うことも大事だと思います。僕らはあえてメーリングリストというローテクを使っているのですが、これがいいのはやりとりが可視化されるところにあって」
「可視化ですか。何かそこにルールみたいなものがあるんですか?」
「基本的にこのメーリングリストには、『お願いごと』と『結果報告』だけを投稿してもらうことにしているんです」
「ほうほう」
「だから誰かの『お願いごと』がしばらく解決されていないというのもわかるんですが、それがあるときに誰々さんに解決してもらいましたというような『結果報告』がされてなんとかなったことがわかる。するとやっぱり、ちょっとホッとするんですよ」
「ああ、それが切実なお願いだったりしたら、なおさらかもしれないですね」
「それがメーリングリストから最小限に『見える』のがいいんです。今のところ『よろづ』から抜けたい人がいないのは、そこで可視化された地域の人たちの声を、みんなが『いいね』と思っていることにもあるんじゃないかと」
「確かにメーリングリストくらいが、丁度いいのかもしれませんね。SNSだとやりとりが活発すぎて追いきれないこともありそうなので。でもいまふと思ったのですが、この仕組みは、藤野という人口密度が低くて、みんな顔見知りみたいな状況に比較的なりやすい土地柄だからうまくいくということもあるんでしょうか?」
「必ずしもそうではないと思います。都市でも、信頼をどうやって築いていくかということに、しっかりと意識を向けられる人同士が集まるコミュニティであれば、成立するはずです。たとえばマンション通貨でも、会社通貨でもいいでしょうね」
「おおお、それはおもしろそう!」
「僕たちの地域通貨は、コミュニティをつくることはできないけれど、すでにコミュニティのあるところでは機能します。少人数からでも始められるので、興味があれば実験的に始めてみるのもいいかもしれませんね」
まとめ
それぞれに特徴を持った地域通貨のかたち。アプローチは違えど、どちらにおいても共通する目的は「人間関係を深める」ことであり、地域通貨はそのためのツールでもありました。
既存のお金は交換の手段として便利です。だから、私たちの経済はこうして発展してきたともいえます。でも、その便利さに絶対的な信頼を置いてきたがゆえに、そこから逃れることもむずかしくなってしまったのが現実です。
それだけにとらわれることが、私たちの暮らしから自由を奪っているのだとしたら、そもそものあり方を考え、別の可能性に目を向けることも、これからの時代をよく生きていくためには大切なことなのかもしれません。
お金のあり方を考えるジモコロシリーズはこれにて終了します。
またどこかで、お会いしましょう。
書いた人:根岸達朗
ライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。メール:negishi.tatsuro@gmail.com、Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗