こんにちは。ライターのカツセマサヒコです。
突然ですが、
みなさんには、忘れられない景色って、ありますか?
幼少期によく遊んだ滑り台とか、
小学校の頃に忍び込んだ廃屋とか、
中学校の頃に通い詰めたゲームセンターとか、
高校時代に寄ったエロ本がよく落ちてる公園とか、そういうやつです。
僕は地元にあったおもちゃ屋さんが大好きで、潰れて新しいテナントが入って15年近く経った今でも、「あそこにはおもちゃ屋があったよな」と過去を懐かしむことがあります。
できれば、幼少期を過ごした街並は、いつまでも残っていてほしい。便利な世の中になっていくのはいいけれど、なんかこう、昔ながらの良さみたいなものは、消えないでほしい。
そう願ってしまうのは、その土地土地に思い入れのある人なら、誰もが経験することではないでしょうか。
そして、僕の職場がある東京都世田谷区・下北沢にも、みなさんの住む街同様に、忘れられない景色がたくさん存在しています。
古くからある劇場やライブハウス、古着屋に居酒屋など、ところ狭しと店が並んだ“シモキタらしい景色”は、都市計画による再開発で徐々に姿を変えつつあるのですが、この度、そんな下北沢民にとってハッピーすぎる出来事が起こりました。それは……
地元の老舗たこ焼き店「大阪屋」が、復活を遂げたことです!!!!!
「大阪屋」とは?
創業30年。下北沢民に深く愛され、行列を作り続ける老舗たこ焼き店。創業29年を迎えた2016年1月に閉店することとなったが、閉店日には100名を超える長蛇の列ができ、その人気ぶりが確固たるものであることを証明した。
同年12月3日に、下北沢内で場所を移し、再オープン。現在も平日土日問わず、多くの常連客で賑わっている。
まさかの一年経たずの復活に、常連客は小躍りの日々! ローカルすぎてこの感動が伝わらない人は、X JAPANやTHE YELLOW MONKEYが突然復活したときと同じくらいの感覚に思ってもらえれば幸いです。要するに、ハンパじゃない衝撃。
「どうして復活できたの?」
「逆に、10カ月休んでたのは、なんでなの?」
「そもそも、閉店した理由は、なんだったの?」
募る疑問はいろいろある。
それらを全て解決するため、大阪屋の店主と女将さんに、取材してみました!
お話をお伺いするのは、兵庫県尼崎市出身・下北沢歴40年の店主(右)と、秋田県出身の女将さん(左)。30年間、阿吽の呼吸でたこ焼きを作り続けるおふたりは、この日も「マヨネーズと青海苔散らしていい!?」「元気~?」「ありがとうね~!」と常連客と陽気なコミュニケーションを交わしていた
「復活、本当におめでとうございます! というか、帰ってきてくれて、ありがとうございます!」
「こちらこそありがとうね~!」
「まだ35歳だからね! バリバリ現役ですよ!」
「それだと5歳の頃からたこ焼き焼いてる計算になっちゃいますね」
「本当は二人ともいい歳ですからね(笑)。最近、お客さんみんな『頑張って』とは言わなくなったわ。『お体無理せずね』って言われちゃう。この仕事、8時間立ちっぱなしだから」
「『60過ぎて8時間立ち仕事』のパワーワード感がすごい。復活を喜ばれている方、多かったみたいですね!」
「そうね~! 毎日誰かしらは『また始めたんですね~!』って、声をかけてくれるの。前のお店と同じ看板だからかな。それが嬉しいんだよねえ」
”やめないで!” ファンの声が届き、再起を決意
「復活した理由も気になるんですが、そもそも、閉店となった理由は何だったんですか?」
「本当は29年も続ける前に、辞めようと思ってたんですよ」
「え、そうなんですか!」
「でも、当時の大家さんに、かなり良くしてもらっていたのね。その人から『わたしが死ぬまで、この仕事を続けてほしい。あなたたちに看取ってほしいから』って言われたの」
「すごいセリフだ……」
「大家さんは店と同じ敷地で1人暮らしをしていたから、私たちがたこ焼き屋をやることで、毎日顔を合わせられたのよ。親子みたいだったわ~。昨年、97歳で亡くなられてね」
「そうか、大家さんにとっても、おふたりがいてくれることは、ありがたいことだったんですね」
「そうだねー。それで昨年、大家さんが亡くなって、土地はすぐ売りにかかることになったのよ。そこでいい機会だと思って、わたしたちも店を一度閉めたんです」
30年のキャリアがモノを言う関西風のたこ焼きは、言うまでもなく超おいしい。閉店前は15個入りも販売していたが、現在はお持ち帰りのときのみ提供で、通常は8個入り(350円)のみ販売している。常連客には、サービスで1個増やしてくれることもある
「復活するきっかけになったのは、どんなことだったんですか?」
「店を閉じるときに“閉店しました、29年間ありがとうございました”って書いた紙を、店頭に貼るでしょ?」
「閉店したお店によく見かけるやつですね」
「それを貼って2〜3日したらね、紙を貼ったガムテープの上に、ものすごい数のメッセージが書かれてたんですわ」
下北沢にある、たこ焼き屋さんの大阪屋。
— 渡辺麻美/ASAMI WATANABE (@asa_mi_xx) 2016年3月10日
残念な事に閉店してしまったのです。
その寄せ書きに一番初めに書き込みました:)
でね、日にちが経ってみたら凄いことに!
沢山の方の書き込みと書き込み用のペンまで:)
みんなに愛されてますね😘 pic.twitter.com/OQKQrlI23B
常連の方のツイート。愛されていることがじんわりと伝わってくる。
「すごい! そんなことあるんですか!」
「辞めるって決めてから10日くらいで閉めちゃったからね。知らなかった人も多かったみたいで、みーんなメッセージを残していったのよ」
「わたしたちもそのメッセージを見て、改めて、愛されてることを知ってねえ。『じゃあ、もっかいやらなあかん』と思って、物件を探し始めたんです」
「じゃあ、ファンの声がなかったら復活していなかったんですね」
「本っ当にそう。とっくに大阪帰ってたところだった」
「マジで再結成するバンドみたいな話になってきたなあ……」
「朝イチで仕込みを始めて、ふたりでできるギリギリの量を作ってるんだけどね。20時に閉めて、器具を全部洗って、そこから帰ったら日付けが変わる時間だもん。大変だよ~」と、笑顔で語る店主。復活前は営業時間が夕方からだったため、深夜に帰宅することもザラだったらしい。30年間ふたりでそれを続けるって、体力がハンパじゃない。
「1月に閉店をして、再オープンまでに10カ月のブランクがあったじゃないですか。そこでは何をされていたんですか?」
「物件探しと改装工事だね。なにしろ適した物件がなかなか見つからなくってねえ」
「下北沢って、土地が狭いですもんねえ……」
「空いている物件自体はあるのよ。でも家賃が高かったり、行列を作りにくい立地だったりするから」
「あー、そうか。近隣の迷惑にならないようにしなきゃいけないんですね」
「今のお店は、駅から1〜2分だし、前の場所からも離れていないし、最高の立地だと思うんですけど」
「そうそう。この場所はね、久保寺さんって商店街の組合の人が見つけてきてくれたの」
「久保寺さん……?」
「若くてしっかりしていてねえ、あの人に助けられたから、再オープンできたのよー」
「なるほど。大阪屋の新装開店には、立役者がいたんですね」
「久保寺さんのお店はここからすぐ近くだし、きっと下北沢についていろいろ教えてくれるから、会ってみるといいよー」
「本当ですか。ちょっと話聞きに行ってみます!」
「大阪屋」復活の立役者が語る街づくりのカタチ
ということで、「大阪屋」復活の立役者である久保寺さんに会うため、ギャラリー併設のコーヒースタンド「バロンデッセ」に向かいました。大阪屋から徒歩1分程度。シモキタは近所の店同士がやたらと仲が良い印象があるが、ここもやはり近い。
こちらが、バロンデッセのオーナーであり、
「大阪屋復活の後押しをされた経緯はなんだったんですか?」
「立役者ってほど、大袈裟なものじゃないです。僕、
「おお、じゃあ大阪屋の復活も、その一環で?」
「もちろんそれだけじゃなくて、大阪屋さんとは個人的な付き合いもあったんですけどね。せっかくシモキタであれだけ愛されたお店なんだから、いい場所あったら教えてあげたいなっていうのはずっと思っていて」
「ふむふむ」
「そしたら、街づくり会社『ハッスルしもきた』で、
「なるほど~」
久保寺さんは学生時代から下北沢に住んでおり、シモキタ歴は20年近く。愛着が沸きまくっているこの街への想いは強い。
「僕は大学院も経営学出身だし、デザインの仕事もしてきたので、
「やっぱり行列問題ですか?」
「それもそうだし、大家さんだったり、家賃だったり、
「立ち食い飲食店のクレームあるあるじゃないですか」
「でもあの物件なら全部解決できるから、ピッタリだと思って紹介しました」
「ラッキー!!」
そんなわけで見つかった、大阪屋の新舞台。下北沢の再開発対象エリアにつき、約3年という条件付きだが、店主も女将さんも「そのぐらいが丁度いい」と言ってくれたそうだ。店舗の中にはイートインエリアもあり、大阪屋のほかにホットドック専門店やチャイ専門店などのカフェやバー、テナントも入っている。
「大阪屋さんだけじゃなくて、若い子たちが好きそうなカフェやバーのお店も併設されているのがおもしろいですよね」
「あそこは総称を『スタジオ・バス』って呼ぶんですけど、物件自体は『ハッスルしもきた』が運営しています。昔ながらのお店も、これから何かしたい! 将来下北沢でお店をしたい! と考えている若い子たちも、住民も、お客様も、一緒に乗り合いできるバスみたくなれば、と考えて名付けられています。何か販売したい人やイベントしたい人はウェルカムです」
「コンセプトもめちゃくちゃいい」
「数店舗に分割すれば家賃も安くなるし、下北沢らしいこだわりの店を作りやすい。街全体を使ったイベントのときにはスペースを使うことができるうえ、ここで得た利益は、街を綺麗にする活動に使えるんです。このかたちは、街のためになることが多いと思うんですよね」
「たしかに、ほかの街にも使えそうな仕組みですよね」
「『ここで飲食すると街が綺麗になる』って認知が広がればいいし、“みんなの下北沢”のために、シモキタを古くから知っている人も、最近好きになった人も、みんなに使ってもらえたらうれしいです」
「シモキタ愛に溢れすぎてて最高です……。ありがとうございました!」
下北沢は駅周辺だけでも4つの商店街があり、街全体を使ったイベントをやるとなると、折り合いをつけるのがなかなか大変だったらしい。そこで、横断的な街づくり会社として『ハッスルしもきた』が誕生したそうだ。法人なら営利目的でも活動できるし、シモキタ全体を盛り上げられる。このカタチは、街づくりを進化させそうな気がした。
「ご主人~! お話聞いてきましたよ! なんだかワクワクしました!」
「いい人だったでしょー? あの人から話もらえて、頑張ろうって思えたんだよねー」
「本当ですよ! この場所はあと3年くらいらしいですけど、大阪屋はあと30年は続けてください!!」
「そりゃあちょっとキツいかな~!笑」
変わりゆくシモキタ、変わらないシモキタ
「僕が知っているシモキタって、“第一歩目の街”だから。音楽はじめるとか、役者で食っていきたいとか、写真展示してみたいとか、絵を描きたいとか、洋服屋やりたいとか、そういう前向きな若い子たちで溢れる景色を見ていたいし、そういう子たちを応援してくれる大人を増やしていきたいんですよね。それが、シモキタらしさを守ることなのかなと思うし、シモキタを魅力的にしていくための方法だと思うんですよ」と話す久保寺さん。
久保寺さんが語る「シモキタらしさ」を聞くと、街の景色というのは、建物だけではなく、そこにいる人たちが何をしているかも大切ということを気付かせてくれる気がします。
街が変われば、そこに集まる人も変わる。
人が変われば、街並も変わっていく。
そうして人と街は相互に影響しあって、次の世代へとバトンを渡していくのだなと実感する取材となりました。
再開発によって駅の出口すらどんどん変わっていく下北沢。その様子はまるで不思議のダンジョンみたいですが、そのぶん楽しい発見も多いです。みなさんも東京に来た際には、ぜひ足を運んでみてくださいね!
それにしても……
ホンッットうまいわあ……。
おわり
ショップ情報
①たこ焼き専門店「大阪屋」
・営業時間:平日14時頃~20時頃 / 土日祝12時頃~20時頃(売り切れ次第終了)
・定休日:毎週火曜
・住所:東京都世田谷区北沢2-25-10 Studio B.uS Shimokitazawa内
②コーヒー専門店「バロンデッセ」
・営業時間:10時半~21時
・定休日:毎週月曜
・住所:東京都世田谷区北沢2-30-11
・電話:03-6407-0511
・URL: http://ballondessai.com/
ライター:カツセマサヒコ
下北沢の編集プロダクション・プレスラボのライター/編集者。1986年東京生まれ。2009年より大手印刷会社の総務部にて勤務。趣味でブログを書いていたところをプレスラボに拾われ、2014年7月より現職。
趣味はtwitterとスマホの充電。Twitter→@katsuse_m