ライターの根岸達朗です。
突然ですが、ひとつだけお聞きしたいことがあります。
みなさんが今、一番・・・
「おもしろいこと」はなんですか?
恋愛でしょうか? 仕事でしょうか? グルメでしょうか?
スポーツやゲームなど、趣味の世界に没頭しているのが何よりも最高! という人もなかにはいるでしょう。
実は今、若者たちの多くが「ローカル」に「おもしろさ」を見出しているそうです。
ローカル(local)とは一定の地方、地域、またそこに限られた特有の物や状態のこと。主な例として文化、風習、方言、民謡など。日本各地の地方のことをローカルと言い換えることが多い。ローカル - Wikipedia
ローカルで活躍する若者たちの中心は、バブル崩壊後に育った20代〜30代。東日本大震災以降、トレンドに敏感な現代の若者たちが、いわゆる「都会的なきらびやかさ」ではなく、どこか土臭い「ローカル的なもの」に引き寄せられているのには、何か理由があるのでしょうか。
今回、日本全国を取材で駆け回るジモコロ編集長・柿次郎が、Twitterのフォロワーに対して行ったアンケートでも、回答者のじつに6割以上が「ローカル的なキーワードに興味がある」と回答。
お暇なときにでもジモコロのアンケートにご協力ください。「ローカル」「地方創生」「移住」「まちづくり」といったキーワードに興味はありますか?
— 徳谷 柿次郎 (@kakijiro) 2016年12月20日
地方創生などの文脈で、ローカルが注目を集めていることを知っている人は多いかもしれないのですが、ローカルに若者たちが集っている真の理由については、各地の現場に足繁く通わなければ、きっとわからないことでしょう。
ローカルは今、どうなっているのか。それを知るのにぴったりの本が今月発売されました。
本の主役は、地方を舞台に自分たちの暮らしを楽しく、豊かにしていくための活動に力を注いでいる「若きローカルヒーロー」たち。お金でもキャリアでもなく、生きる手応えと人のつながりで地域を盛り上げる。そんな若者たちの「今」が切り取られています。
著者の指出一正さんは、かつて日本中に「ロハス」という言葉を広めたことで知られる環境雑誌『ソトコト』の編集長。
震災によって社会が大きく動いた2011年に編集長に就任し、これからの時代を見越したかのように、雑誌の方向性を「ロハス」から、人のつながりによって、社会の幸せを考えていく「ソーシャル」という価値観へと舵を取った人物です。ジモコロ編集長の柿次郎も尊敬の念を抱いています。
年間80回にも及ぶトークイベントを全国各地でこなし、さまざまな地域プロジェクトにも関わる指出さん。時代と人を見続けてきたキーパーソンは、ローカルの今をどのように捉えているのでしょうか。
話を聞いた人:指出一正(さしで・かずまさ)
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、高知県文化広報誌『とさぶし』編集員ほか、地域プロジェクトに多く携わる。趣味はフライフィッシング。
「ローカルヒーロー」が人とまちを変えていく
「単刀直入にお聞きしますが、ローカルっておもしろいんですか?」
「おもしろいですよ。今の時代は、誰かがつくった既存のシステムに乗るのではなくて、自分たちの楽しみを、自分たちの手でつくれる人たちが増えているんですよね」
「へえ、自分たちの手で」
「そういう人たちが特に地方には集まってきていて、それを僕は『ローカルヒーロー』と呼んでいます」
「ローカルヒーロー。ださかっこよくて、なんかいいですね」
「でも、ローカルヒーローというのは、たったひとりで誰もが望むような奇跡を地域に起こすような人じゃないんですよ」
「ヒーローなのに?」
「はい。生身で等身大なんだけど、その人が作用することで、仲間を巻き込み、普段のまちに熱波が広がり、その地域が前向きに動くような、そんな愛すべきキャラクターですね」
「いいですねえ。お友達になりたいです」
「楽しいと思いますよ。たとえば、ちょっと前の音楽フェスだと、圧倒的に有名なアーティストがでてきて、みんなが元気をもらったりしましたよね」
「はいはい」
「それも手法としては残っているのですが、そうでなくてもおもしろいことができるということに、気付けるような人ですね。そういう人たちが増えている。自分たちで小さなパーティやフェスを開いたり、古い物件をリノベーションしてみたり」
「DIY的な遊び方ですよね」
「そうですね。かつて『おもしろいこと』といえば、東京にあると考えられてきたけど、今は違うんですよ」
「そうなんでしょうね」
「過疎地といわれる場所や、山間部のほとんど知られていないような土地で、センスのある若者たちが、自分たちのやり方で、その地域を盛り上げようとしている」
「しかもそれなりの結果を出して」
「ええ。程度の差はありますが、前向きに進んでることは間違いないでしょう。これは今、国が進めている地方創生の流れとも、比較的同じ方向を向いているなあと思いますね」
そこに「関わりしろ」があるから
「若者たちはシンプルに好奇心をそそられるから、ローカルに集まっているんですね」
「ですね。さらにいえば、僕はそこに『関わりしろ』というキーワードもあると思っているんですよ」
「関わりしろ? あまりなじみのない言葉ですが」
「そこに自分が関わる余白があるかどうか、ということですね」
「余白」
「はい。たとえば、根岸さんがローカルに興味があって、ひとつのコミュニティに飛び込んでいこうとします」
「はい」
「そのコミュニティがガチガチにコンセプトが定まっていて、取りつく島のないような、完成されたものだったとしたらどうですか?」
「うーん。まあ、それに心から共感できればいいかもしれないですが、自分が関わって、そこで何か新しいことをやろう、というような気分にはならないかも」
「ですよね。これは『東京R不動産』という不動産サービスを立ち上げた建築家の馬場正尊さんとも話していたことなのですが、『ツルツルピカピカ』のところに人が集まる時代は終わったということです」
「ツルツルピカピカ」
「それよりも、もっとデコボコしていたり、ザラザラしていたりするようなところの方が、人の関心を集める時代になっている。なぜかといえば、そこには自分も一緒に何かができそうな、関わりしろがあるから」
「そっか。そういう意味では、ローカルというのは確かに『関わりしろ』だらけかもしれませんね」
「今、名前も読めないような地方のローカルシティに人が集まり始めているのはそういうことだと思います」
「納得しますね。名前も読めなかったけど、行ってみたら自分がその地域の困りごとに対して何かできそうな感じがあったから、そのまま住んでやってみちゃったというような」
「ありますね。そのときにその土地で気付いたことを東京に持ち帰って、都会と地方をつなぐ活動を始める人もいます。これまででは『弱み』とされていたことが、人を集める時代になっているんですね」
「丁寧な暮らし」から「おもしろい暮らし」へ
「若者たちは今、そうした地域の『弱み』を感知して、それを『おもしろさ』に変えることができるのか。しかも、それをすごくフットワーク軽く」
「そうですね。今は社会が何層にも分かれていて、今住んでいるところだけが社会ではない時代になっているということでしょう」
「自分のなかにいくつもの社会を」
「ええ。だから、東京に住みながら、島根や広島のプロジェクトに関わったり、長野に拠点を持って二拠点居住をしてみたりする。自分が関わる場所を複数持っている人も珍しくないのです」
「すごいですよね。たとえば、ちょっと前にはローカル的な暮らしのキーワードとして『丁寧な暮らし』というのがあったじゃないですか」
「今もありますね」
「それとはまた違う潮流ですよね」
「そうですね。ただ、今の東京を中心とした社会の空気感には、まだ『丁寧な暮らし』がローカル的な『良さ』であるとする雰囲気が残っているんですよ」
「好きな人多いですもんね」
「でも、僕はもう確実に、今の若者たちはそこじゃないところを求めていると思います」
「その先へ」
「はい。『丁寧な暮らし』というのはローカルにもともとあったものを、輸入しているだけの文化ですよね」
「おばあちゃんの知恵的なやつとかもありますよね。それはそれで尊い世界なんですが」
「はい。でもそれは家に帰ったあとに、自分の家のなかでまっとうすればいい暮らし方じゃないですか。僕はそれって、見つけ終わったら、終わっちゃう内向きな暮らし方だと思います」
「その世界観だけにとどまっていたらそうかもしれません」
「むしろ、今はみんなが外に開かれた価値観を持ち始めていますから、そのなかでどう暮らしをつくっていくかということを考えたい」
「そうですね」
「だから今の時代のセンスのある若者たちが、ユニークな活動をしている人やまちに関わって、そこから自分なりの『おもしろい暮らし』をつくっていきたいとなっていくのは、ある種の自然な流れだと僕は思うんです」
全国総「地域化」時代
「それでいうと、若者たちを惹きつける『暮らし』のありかが、今のところ、都会ではなくて地方に軍配が上がっているようにも見えるのですが、そのあたりはどうでしょうか」
「都会もおもしろいですよ。たとえば、その中心は東京ですよね。実は今、東京って本気を出し始めているんですよ」
「東京が本気を」
「ええ。たとえば、下町の谷根千エリアとかがそうですよね。昔ながらの建物が残る土地に新しいコミュニティや地域プロジェクトが生まれ、そこにどんどん人が引き寄せられている」
「へえ」
「清澄白河や西荻窪なども元気ですし、自分が住んでいなくても、よく遊びにいくようなまちを、どうしたいかということに、おもしろさを感じる人が現れている」
「東京にも、ローカル的な魅力が発見されつつあると」
「はい。今は地方といわれている地域に住んでいる人たちの活動が一歩リードしているように見えるのですが、実はそんなこともないんですよ」
「そうなんですね」
「むしろ今は、都市も地方も関係なく、自分の足元のことを楽しく、おもしろくしていくことに幸せを感じる人が増えている。これはもう、全国が地域化してきたといってもいいかもしれませんね」
若者たちが今「おもしろい」と感じること
「全国が地域化。そこにある『おもしろ』の根っこにあるものってなんでしょうね」
「おたがいを認め合う楽しさでしょう。それが、顔の見える仲間との間に生まれるから楽しい」
「ああ、おたがいを認め合う楽しさ」
「今はみんなが当事者の時代なんだと思いますね。だから、お互いにものごとをなしとげて、分かち合いたい。個人で何かをやるというような社会起業ではなく、コミュニティで何かをやっていくことに価値を見出す若者が多いんですよ」
「みんなでやることが、やっぱり楽しいんですね」
「はい。それでいて、何が起こるかわからないような、偶発性も楽しんでいる」
「偶発性」
「そこにいる人たちで、おたがいにできることを持ち寄ったら、意外とおもしろそうだから、やってみるかというような。たったひとりの、何かにひいでたプレイヤーがものごとを引っ張っていくという形ではないんですよ」
「そこにあるもので、自分たちでできる範囲で、とりあえずやってみるというスタンス。やっぱりDIY的」
「そうですね。でもこれがやってみたら、大人たちもびっくりするような、地方創生の文脈に乗っているプロジェクトになったということはある。それがすごい」
「無理なく、楽しんでやれているから、持続的な力が発揮されていくのかもしれないですよね」
「先輩世代にはできなかったことを、今の20〜30代のソーシャル層はやっていると思いますよ。全国の地域で、昔の記憶を残しながら、新しいことが次々と始まっている時代というのも、すごくおもしろいですよね」
まとめ
「豊かな社会」の尺度が変わり、多くの若者が「ローカル」に価値を見出すようになった今の時代。これからを担う若者たちにとって、「ローカル」という遊び場は自分にとって「関わりしろ」のある場所であり、「おもしろさ」を発見する場所になっています。
これ以上の経済成長は見込めないとも言われる時代にあって、私たちはどのような価値観を大切にし、どのように暮らしを築いていくのか。拡大成長時代の先にある、真に「豊かな社会」は、もしかしたら、いびつでザラザラとした「ローカル」から生まれていくのかもしれません。
今回、お話を聞かせてくれたソトコト編集長・指出一正さんの著書『ぼくらは地方で幸せを見つける』は、そんなローカルに生きる若者たちへの愛と、未来への希望が込められた一冊。
これからローカルで何かをしてみたいという人も、すでにローカルの再生に向き合っている人も、自分の生き方を見つけるためのヒントにしてみてはいかがでしょうか。
それでは、また!
ローカルに興味が湧いた人、指出さんの話を聞きたい人は、2017年1月11日(水)19時〜開催予定の下北沢 本屋B&B「東京で地域について語ろう。地域×編集長ナイトJanuary」に参加してみてはいかがでしょうか。ジモコロ編集長の柿次郎も登壇します!
インタビュー写真:中西拓郎(http://1988web.com/)
書いた人:根岸達朗
ライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。メール:negishi.tatsuro@gmail.com、Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗