都会では表現できないであろう、田舎ならではの緑のコントラスト。農作業に勤しんでいる爺ちゃん婆ちゃんの一瞬が強烈な印象を放っています。
日常的なシーンを切り取った写真も、思わず頬が緩んでしまうものばかり。そんな魅力的な爺ちゃん婆ちゃんの表情を引き出しているのは、長野県飯山市発のフリーペーパー『鶴と亀』です。
Twitter上でも画像が拡散されて話題となり、Webメディアや地元テレビ番組の露出などなど、その勢いはとどまるところを知りません。
つまり、いま一番アツいフリーペーパーってこと!
というわけで、ご挨拶が遅れましたがジモコロ編集長の徳谷柿次郎です。今回は、個性的すぎるフリーペーパー『鶴と亀』を制作している小林直博くん(以下、小林くん)の密着インタビュー後編をお届けします。
そもそもの制作秘話に関しては前編を読んでいただくとして、後編では第四号のコンセプトや写真の撮り方、地域活性の問題点など、小林くんの価値観に迫ってみました。
話を聞いた人:小林 直博
編集者兼フォトグラファー。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。
第四号のコンセプトは?
「前編のインタビューから時間が経ってすみません」
「実は編集部にあった第四号の在庫が終了しちゃったんですよね。現在は配布先の各店舗の在庫分だけとなっています」
「あらら、すごい人気! このタイミングで第四号のコンセプトを聞くのも気が引けるんですが、今回は爺ちゃん婆ちゃんだけでなく若者の姿も目立っている印象を受けました」
「第四号制作にあたってファッションネタをやることは決めていたんですよね。『FASHION KILLA』と題して、奥信濃スタイルのファッションのポイントを紹介しつつ、爺ちゃん婆ちゃんのファッションをサンプリングして作ってみました」
「サンプリング?」
「たとえば、田舎の婆ちゃんの農作業の服って、派手な柄に派手な柄の布を合わせて着てたりするんですよ。よく見てみると結構オシャレな柄なんですよね。その派手な柄のパターンと同じ生地で、新しく服を作って若者に着てもらおうという試みです」
「わー!そういうことか! めちゃめちゃ手間暇かかってますね、これ」
「はい(笑)。もちろん手間と費用はかかったんですけど、超楽しくやれましたね。爺ちゃん婆ちゃんの撮影は長野、若者の撮影は東京でやって、同じ柄でもどんな印象の差が生まれるのかなぁと」
「こだわり!」
「そもそも、Twiter上で『鶴と亀』が話題になったときに、ファッション誌的な扱いで広がっちゃったのが少し残念で。本来のコンセプトである爺ちゃん婆ちゃんのかっこよさは、若者に置き換えても通じるんだぞ!っていうメッセージをこの企画で伝えたかったんです」
「なるほど。小林くんと婆ちゃんがツーショットで載っているコーナーも、同じ意図なんでしょうか?」
「これも僕の服と婆ちゃんの服を交換して撮った写真です。やっぱり婆ちゃんのことが大好きで始めたフリーペーパーなので、このコンセプトの企画をやるなら外せないですね。まぁ、自分がやりたかっただけなんですけど(笑)」
「愛が伝わってくる話だなぁ。ほかに意識したことはありますか?」
「できるだけ身内で作り上げたいって気持ちは毎号ありますね。自分自身、突出した才能があるとは思っていなくて。自分を含めた身近な人たちだけでも、こういうものが作れるんだぞってのを世の中に伝えるため、自分の半径何メートル以内でできることを常に考えています。第四号に出演してくれたのも、友だちの爺ちゃんだったり、兄貴の知り合いのラッパーだったり、中学の後輩のモデルだったり、特別な人には声をかけていないんです」
「立派」
【モデル情報】 「KOMICHI MIDDLE SKIRT」を可憐に着こなしてくれたあづ記ちゃん。 大口あづ記 Twitter:@adu519 Instagram:@aduki519 pic.twitter.com/T1Aawg5GKq
— 鶴と亀 FREE PAPER (@jisabasa) 2015, 10月 10
鶴と亀流! 写真の撮り方
「写真はどういう感じで撮ってるんですか?」
「基本オート設定ですね。マニュアルは全然使えないんですよ、僕。だからオートで撮って、その画像を編集ソフトで加工したりして、ああいう感じに仕上げてます。オートなら、少なくとも画面が真っ暗で使えないみたいなことにはならないじゃないですか」
「ええ、あのクオリティでオート撮影!? 意外すぎてびっくりしました。あとは構図とレタッチで勝負って感じですか」
「そうですね。若い人にもできるだけ見て欲しいので、ファッションスナップぽいクールなレタッチにしてみたり。振り返ってみると第壱号ではそういう写真が多いですね」
「第壱号から第四号まで見ていくと、やっぱり写真の技術も上がってますよね。インタビューや特集企画など、作業量も増えている印象を受けました」
「ありがとうございます。でも写真は、難しいですね。うまく撮ろうとすると良くならないんです。考え出しちゃうと、撮る時になんか違うな…ってなっちゃうし」
「ちなみに今後、撮りたい写真とかありますか?この写真とかインパクトすごすぎて脳裏から離れないです」
「ああー(笑)。巨乳の婆ちゃんって、やっぱり垂れて邪魔になるんですって。だからノーブラのままズボンのなかにインして、さらにハイウエストにするとか。そういうテクニックが婆ちゃんにはあるらしいので、そういう写真を撮ってみたいですね」
「えー!それは衝撃だなぁ。そうそう、現在は『鶴と亀』の制作だけではなくて、カメラマンとしての仕事もやっているとか」
「はい。少しずつカメラマンとしての仕事も増えてきていますね。フリーペーパーだけで食っていくことは難しいんですけど、田舎の実家暮らしだから月10万ないくらいの収入があればなんとか生きていけるので(笑)」
「生活費少なくていいなー!」
「でも、第四号の制作費は正直キツかったですね。紙自体が高騰しているらしく、前号から約10万円近くコストが上がってしまって。服の制作費のことも計算しながら広告を募ってなんとか形にできましたが…お金がすべてではないとはいえ、そこのバランスは大事だなと思いました」
「利益目的ではなくても、継続性のためにもコスト面はしっかりやらないとですよね」
昨今の地域活性化ブームについて
「今、地域活性化とかよくやってるじゃないですか。僕は大学が経済学部だったんで、地域経済とか学んでたんですよ。ローカルメディアとかも好きでよく見てました。ただ、当時そういったものって、外から来た人というか、要は地元民じゃない人たちが盛り上げてることも多くて。僕はそれが悔しかったんですよね。これは外から来た人たち対してじゃなくて、自分に対してです」
「うんうん。だから『鶴と亀』は飯山だけで作ってるんですよね」
「そうです。僕らの表現って『地方』っていう言葉や『高齢化社会』っていう言葉でくくられたりしていて、それは確かにその通りだし、そういった言葉でくくる方が理解しやすいというのもわかるんです。ただ、地域の良さを伝える表現ってもっと普遍的なものでありたいんですよ」
「地方なのにすごいものがあるではなくて、すごいものが発信されてる場所を調べてみたら飯山市だったみたいな? 」
「そう思ってもらえるのが理想ですね。『鶴と亀』に関しても、飯山市にこだわらなくてもいいと思っています。たとえば、他の地域のフリーマガジンとコラボしてみるとか。同じ爺ちゃん婆ちゃんを切り取るにしても絶対何かが違ってくるはずで。いつもと同じフリーマガジンを読んでいたら、いきなり『鶴と亀』が始まるみたいな。自分たちの足元だけじゃなくて、お互いの土地を認め合うような、そういう文化を作っていきたいですね」
「おお、それは新しいですね。読み手としてはお得感もあるし」
「今後、やりたいことのひとつです。ただ自分で撮るだけでは新しい『鶴と亀』にはならないと思っていて、現地に住んでいる編集者やカメラマンの人と絶対一緒にやりたいです」
「あくまでフリーペーパーやフリーマガジンにこだわり続けたいと。そこの魅力ってなんなんですか? Webメディアの価値も年々高まっている印象ですが」
「全国のいろんなお店に『鶴と亀』を置いてもらってるんですけど、若い子が持って帰ってくれたとするじゃないですか。それで、家に持ち帰ってリビングのテーブルに置いたとしたら、その家のお母さんとか爺ちゃん婆ちゃんとかが手にとってくれたりするんですよ」
「うんうん。誰でも持って帰れるし、誰でも見られると」
「そうやって、偶然『鶴と亀』の写真を見た年配の人が『これ○○の爺さんだ。達者にしてらぁ』って言って連絡とったり、そういうことが実際にあるんです。女子高生が集まってスマホの写真を見るように、爺ちゃん婆ちゃんも同じように集まって、お茶飲みながら『鶴と亀』を開いて笑ってくれるんですよ」
「それはいい話すぎますね」
「僕もその話を聞いた時はめちゃめちゃ嬉しくて。世代を超えて見てもらえるものって、今あまりないじゃないですか。だから『鶴と亀』は紙にこだわってるっていう部分は大きいですね」
「モデルに爺ちゃん婆ちゃんを使ってるんだから、その人たちも見られる媒体でありたいと」
「だって爺ちゃん婆ちゃんが、土地を守って畑を耕して、だから僕らも地元に帰って来られたわけだから……。しかも、昔の人は今と比べて圧倒的に不便で不自由な時代をコツコツと地道に生きてきたわけです。やっぱり話し聞かしてもらうとすごい時代なんですよ。すごいことをやってるのにスポットライトを浴びなかった人が多いんですよね」
「インターネットが当たり前になった時代では、多くの人にスポットライトがあたりますもんね」
「フィーチャーしたいっていうと変ですけど、爺ちゃん婆ちゃんはかっこいいんだよって、みんなに言いたいです。だってこれから、どんどん少子高齢化が進むわけじゃないですか。若い子と老人が触れ合う機会って増えてくるんですよ。絶対に」
「現時点でも4人に1人、50年後(2060年)には2.5人に1人が65歳以上になるといわれてますね。僕もその頃には立派な爺ちゃんになっていますけど」
「50年後まではさすがに考えられないですけど、都会に住んでたらあまり実感する機会がないじゃないですか? でも田舎では村の人口が少なくなったら、必ず若い子とお年寄りが触れ合う場面が出てきます。一人で生きていける訳はないんで。そんな時に『鶴と亀』がちょっとしたヒントや入り口になればいいなと思ってます」
YOU THE ROCKとバイラルメディアの話
「そういえば、小林くんも好きな同じ長野県出身のラッパー・YOU THE ROCKが自身のFacebookで鶴と亀に触れていたとか」
スタイリッシュって。。。これ良い作品と悪ノリな部分も見えてしまう様な。。。??本人達の普段のそのままの姿なら好印象だしアイテムを持たせてたりってのは見方次第では俗に言う やらせ にも受け止めちゃうのが危険かも知れないね...
Posted by 竹前 裕 on 2015年9月21日
「そうなんですよ。飲み屋で友達と飲んでいたら、友達が『YOUちゃんが鶴と亀のことについてコメントしてたよ!』って教えてもらって。そこまで届いたっていう事実はすごい嬉しいんですけど、最初に話した通り…僕の考えていることとは違った意味合いで受け止められていて。素朴な爺ちゃん婆ちゃんのかっこいい姿を全国に伝えたい、それだけなんですよね」
「Twitterで話題になる画像やバイラルメディア(掲載許可なし)は、表面的な部分しか拾わないからなぁ。その情報だけで判断されて困っている作り手の人たちは、世の中に沢山いると思う」
「僕たちは、実際に読んでもらって良し悪しを判断してもらいたいだけなんです。それでクソだなって思ってもらっても全然OK。そこは読み手の自由じゃないですか」
「インターネット発信の情報に対するリテラシー格差はどうしても生まれるし、紙発信の元ネタが歪曲して伝わってしまうのは問題ですね」
「うーん。やっぱりバイラルメディア的なものってちゃんとした情報が伝わらなかったり、ちょっとしたズレみたいなものが生じたり、 良し悪しのある文化だなと。僕たちはしっかりお金をかけて、爺ちゃん婆ちゃんのかっこよさを1ページ、1ページに凝縮したい。ずっと手元に残って、再編集できないものだからこそ、確実性や信憑性は紙の方が勝ってるんじゃないかと思います」
村の消防団でも頑張っていきたい
「話が全然変わるんですけど…最近ハマってることはありますか?」
「あ、そういえば、村の消防団に入ったんですよ」
「え? 消防士的な?」
「消防団っていうのは、わかりやすく言うと本業を持っている人が火事や災害が起きた時に、消火活動や防災活動する役割ですね。火事が起きて通報をしても、消防車が来るまで時間がかかったりするじゃないですか。その間に、地元に住んでる人間でなんとかしようっていう。あと夜警=夜の見回りとかして火災防止をよびかけたり」
「へぇ〜! ぜんぜん知らなかったです。人口の少ない村ならではの文化ですね」
「実は消防団って、地方にとってかなり根強い問題なんです。消防団みたいに自分たちでカバーしなきゃ地方ではどうしようもないから、そういう組織は絶対必要なんですよ。ただ、実情は大変で。別の仕事してる時に急に呼び出されることもあったりとか。そして子供は年々減っていってるという……。そういう問題をいつかメディアを通して伝えたいなと思っています」
「地方ならではの問題って、我々が知らないだけでたくさんあるんでしょうね」
「しかも、ただそのまま伝えるだけじゃなくて、若い子にも届くような突き抜けた媒体として届けたい。それをやるのが自分たちの役目だなって。だから、この先も地元で生きていくためにも、消防団とかにもちゃんと入って頑張っていきたいんです。もちろん楽しいこともあって。消防団とは別に祭典部っていうのもあって、祭りで獅子を舞うんですけど、超おもしろいですよ。すごい技術と経験が必要で奥深いです。僕は今仕事とかより、いかに獅子をかっこよく舞うかのほうが真剣ですもん」
「地元の付き合いを嫌がる人も多いけど、そこを楽しむ姿勢が前向きでいいですね。小林くんのサイボーグを全国の村に配置したら、世の中もっとよくなるかもなぁ」
「それは僕がイヤです」
「右手にドリルがついていても?」
「そういう問題じゃないです」
●インタビュー前編を読みたい人はこちら!
最後に「鶴と亀」恒例の記念写真を撮ってもらいました。
撮影場所:いろは商店街(台東区)
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【鶴と亀第四号&バックナンバー】おかげ様で鶴と亀編集部の手元にある、第四号の在庫が終了となりました。第壱号、第弐号、第参号も在庫終了となっておりますのでご了承のほどよろしくお願いいたします。バックナンバーをお求めの方...
Posted by フリーペーパー 鶴と亀 on 2015年10月21日
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書いた人:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916