こんにちは、ライターのギャラクシーです。提灯の逆光の中から失礼します。
今日は大阪の岸和田市に来ています。
写真を見て夜だと思ったかもしれませんが、現在 時間は早朝5時。
なぜわざわざこんな明け方に来たかというと、『岸和田だんじり祭り』を良い場所で見たかったからです。
岸和田だんじり祭り
大阪・岸和田市で毎年9月に行われるお祭り。集団でだんじりを曳き、スピードに乗ったまま方向転換させる「やりまわし」が特徴である。
僕はもともと関西人なんですが、実はだんじり祭りには一度も来たことがありません。なぜなら―
というイメージがあったからです。人もだんじりもすべてが怖そう。
だって考えてみてくださいよ。屈強な男たちに曳かれた巨大な木の塊が、怒号ととも走ってくるんですよ? “怖い”以外の感情って湧きます?
一緒に来たジモコロ編集長・柿次郎も関西人ですが、同じく一度も生で見たことはないそう。
関西人として生まれたからには、一度くらいはだんじりをこの目で見たい! “知識”ではなく、“体験”を発信するために! そんな思いを胸に我々は今……などと言っている間に夜が明けてきました。
ド早朝にこの人だかり。
若い頃は怖そうでだんじり祭りには来なかったわけですが、今の僕なら、大人の余裕で楽しめるんじゃないかしらん。わくわく!
おっ、向こうの方がざわついてきました。そろそろ来るのかな!?
…………ソーーリャ! ソーーリャ! ソーーーリャ!
ドドドドドドドドド
ソォ~リャオラァァ~!!
ドドドドドドドドドド
ズドドドドドドドドドドドドドドドド…………
こっわ!
超重量の木の塊が、目の前を疾走していくド迫力! しかもそれを人力で曳くために、数百人(町会によって曳く人数は違います)が全力で、しかも精密に、コーナーを曲がっていく。
すごい!
スピードを落とさずに角を曲がっただんじりに対しては「おぉ~!」と歓声が上がるし、曲がる時に膨らんでこっちに突っ込んできそうな時は、そこら中の人が逃げ惑い、壁際にギュウギュウに寄ってスペースを空ける。
勇壮で漢(おとこ)度・激高! 人力ならではのライブ感と迫力がそこにはありました。
見た後はなぜかこっちまで強くなったかのような気になってしまう。怖かったけど実際に見てよかった~!
岸和田だんじり祭りとは
さて、そんな岸和田だんじり祭りですが、そもそもだんじりや岸和田という町はどういうものなのか、ざっくり解説しましょう。
・だんじり祭りは300年続いている
元禄16年(1703年)、五穀豊穣を祈願し行った稲荷祭がその始まり。
・だんじり基本データ
だんじり本体の価格は1億数千万円。50年〜100年かけて町内で使用する。重さはおよそ4トン。高さは3.8m、長さは4m。
・日本最大の規模
だんじり自体は西日本の他の地域でも行われているが、規模は岸和田が最大。2016年の来場者数はなんと約38万9000人。アイスランド共和国の総人口(約33万人)より多い。
・岸和田は全国平均より若年層の人口比率が高い
年少人口指数(簡単に言うとこれが高いほど若年層が多い)の全国平均は「20.7」。岸和田は「24.0」。祭りがあるから?
※2010年のデータです
・岸和田は出生率も高い
全国平均「1.32」に対し、岸和田は「1.51」。祭りでカップルができやすいから!? そうなの? ねえ?
※2002年のデータです
・女性の茶パツ率も高い
これに関しては単に町を歩いてて思った印象です。
・車の内装に青色LEDをメチャ使う
完全にただの予想です。
※岸和田だんじり祭りに行く時の諸注意
ムチャクチャ混雑します。
初見で良いポジションをとるのはかなり難しいので、知り合いにつれていってもらうか、素直に観覧席のチケットを買いましょう。というか、実質選択肢はその2つしかないと考えた方がいいです。
また、広範囲にわたって「道路はだんじりが通るためのもの」になるので、一度始まると1時間~2時間くらい動けないこともあります。事前にトイレに行っておこう!
だんじりは500人~1000人ほど(町によって違う)で曳行します。細かく役割分担されてちゃんと名称もあるんですが、ここではわかりやすく大まかに紹介します。
・だんじりの前方で綱を曳く人
・だんじりの直前でブレーキと方向転換をする人
・だんじりの前面に乗る指揮者・責任者
・だんじりの屋根で方向の指示を出し舞う人
・だんじりの側面で太鼓や笛を奏でる人
・だんじりの後方で綱を操作し方向転換する人
こんな感じで構成されています。
最も目立つ役、メインの花形といえば、やはり屋根に乗って舞う人ではないでしょうか。でもあれ、怖くないのかな? 一体どんなモチベーションで、どんな人間が乗ってるんだろう?
岸和田人は、なぜだんじりに乗りたいのか
というわけで、詳しい話を岸和田人に聞くべく、知り合いのツテを辿って、とあるご家庭を訪ねました。
尾張恭一さん。昔はだんじりの屋根に乗っていたんですって!
「はじめまして! 尾張さんが昔だんじりの屋根に乗っていたと聞いたんですが」
「あぁ、『大工方』のことやね。昔は乗ってたよ」
「屋根に乗る人のことを『大工方』っていうんですね。あれって怖くないんですか?」
「ムチャクチャ怖いで! まず実際に屋根に上がってみたら想像してるより高いんよ(高さ3.8m=ビルの2階くらい)。しかもそれが、走って揺れて角を曲がるからね」
「聞いてるだけで冷や汗が出る」
「だんじりの屋根も平面やないんよ。その名の通り『屋根』やから、足場も悪い。一応、滑らんように筵(ムシロ=藁などで編んだ敷物)を敷いとるけど」
「車輪の部分はゴムでしたっけ?」
「木の車輪やね。だからメッチャ揺れるよ。自転車でも車でも、タイヤが木製やったらとても乗ってられへんやろ? しかも立って乗るなんて絶対無理やで」
こちらがだんじりの屋根。乗るのは大変そうだけど、めちゃめちゃ細かい彫りは職人技って感じで美しい……!
「そんなに怖いことを、よくやってましたね」
「だんじりの屋根に乗るっていうのは、岸和田の男にしたら子供の頃からの夢やから、怖いより嬉しい気持ちの方が強いね。F1レーサーでもプロ野球選手でもない、だんじりの上に乗りたかった」
「そこが外部の人間にはよくわからないんです。詳しく教えてもらえないでしょうか。なぜ だんじり なのか」
「なんでやろ? 岸和田の人間は子供の頃からだんじり曳いてるから、みんな先輩の背中を見て『かっこエエなぁ~』って思うんよ。それが当たり前で……基準が、『だんじり基準』になっとるんやろね」
「子ガモが、最初に見たものを親と思ってついて行くみたいなことですか?」
「単純に、周りの子がみんなだんじり曳いとったら、その中で一番になりたいっていうのは、誰にでもあるんちゃうんかな。クラスで一番絵がうまくなりたいとか、学年で一番足が速くなりたいとか」
「なるほど。それって『クラス』や『学校』に行ってなければ芽生えない感覚ですもんね。岸和田では『だんじり』という枠がある。そして“一番”の位置に大工方があると」
「だんじりは数百人で曳くんやけど、大屋根の大工方は2人だけ(乗るのは一人だが、だんじり祭りは一日中走り回るので、2人が交代で乗る)。ホンマに町で一番の男って感じやね」
どういう人が選ばれるの?
だんじりの時はお客さんに関東煮(おでんのこと)や、くるみ餅などを振る舞うそうで、僕も頂きました。おでんに関しては、実は関西のほうが濃い味なんです。懐かしくて美味しかったなぁ!
「今までケガはしてこなかったんですか?」
「足の骨を3回と、手を1回 骨折しとるよ」
「ファッ!?」
「だんじりがズデーンとコケてしもてね。こう、ポ~ンと飛ばされた時に、地面でボキッと……。まあ、そういうこともあるわ」
「思ったよりもすごいダメージ食らってた」
「高さがあるからね~。2階から落ちるみたいなもんや。スピードが乗っとる時に投げ出されたから、えらい飛んだったわ!ウハハハハ!」
「笑ってる場合か」
撮影中にも目の前で足をケガした人が……! 幸い大事はなかったようですが、やはり危険と隣り合わせでだんじりに乗っているんですね。
「そこまでして、やっぱりだんじりは乗りたいものなんですか?」
「あんまり考えたことないなぁ。1年に一回、やるのが当たり前で、疑問もなんもあらへん。好きでやっとることやしな」
「一年に一回という頻度に関しては? 好きだから毎日でもやりたい?」
「無理無理! 準備も一年かけるし、お金も集めなあかん。若い頃はなんぼでもやりたかったけど、今は正直、一年ごとでも『今年はもうやらんでエエかな……』って思うこともあるで」
※岸和田だんじり祭は町内でお金を集めて実施している祭りであり、各家庭で年間およそ10万くらい必要とのこと
「マジでやめてみるっていう選択肢は?」
「ないなぁ。祭りの太鼓の音が聞こえてきたら、もうどうしようもなく燃えてくるんやわ。今も実は風邪ひいて熱あるんやけどな(笑)。始まったら熱なんか関係あらへん」
「アツいな~! 屋根に乗る人っていうのは、何か選ぶ基準があるんですか? ケガも多いようですが、そういう事態に対処できるように身体能力の高い人が選ばれるとか?」
「選ぶのは先輩が選ぶんよ。基準は……どうやろね。同じ町内やから、みんな子供の頃から知っとるし、どんな子かは全員がわかってる。やっぱり運動神経と、あとは見た目で選ぶかな」
「(近くで聞いてた尾張さんのお姉さん)自分も大工方やったっちゅう話の時に、見た目で選ぶとか、よう言うわ。うちの息子も今年から屋根に乗るから、なんや恥ずかしいやないの」
「ん? お子さんが大工方になったんですか!? それってすごいじゃないですか!」
「まあ嬉しいことですわ。親としてこれ以上ないくらい誇りですね。あの子はよう頑張っとったから」
「つれてこよか? 今は2階で休憩しとるから、現役の話 聞いたらエエやん」
というわけで尾張さんは2階へ。
残された僕たちはお母さんと少し喋る機会がありました。だんじりの話って男性視点ばかりなので、おまけ的にやりとりを書いておきます。
ちなみにお母さんは汗だくの僕らを見て、町内オリジナルタオルをくれました。
「女性から見て、だんじりの屋根に乗る男性っていうのは、どうなんでしょう?」
「そらカッコええよ。凛々しいやないの。岸和田では一番モテる人種ちゃう? 自分の息子が大工方やからちょっと贔屓目に言うてるけど(笑)」
「じゃあ、だんじり祭りの間って、女子からの告白が多いんですか?」
「せやね。この時期にカップルになる人が多いんちゃうかな?」
「ではお母さんも、旦那さんとはだんじりで?」
「そっ……え? まあ、そうやけど」
「凛々しかった?」
「えぇ~? イヤやわぁ。もう何十年も前やで? 恥ずかしいわ」
「凛々しくてドキドキしたんですか? どうなんですか?」
「まぁ……凛々しかったわ。ウチのお父さん」
「うへへへへ」
「なんなんだ」
岸和田ではだんじりの期間、女子は上の写真のような「編み込み」のヘアスタイルでおしゃれするそう。美容院がめちゃめちゃ忙しくなるんだって。
現役でだんじりの大工方を務める人に話を聞いた
というわけで、ここからは現役(しかも今年から!)の大工方である、小西要暢さんにお話を聞いていきます。
「はじめまして。今年から大工方になられたそうですね。選ばれた時はどんな気持ちだったんですか?」
「それはもう、感無量でした。ハッピもみんなと違うんでね。それを受け取った時はホンマ誇らしくて、特別な気持ちでした。着ると気ィも引き締まりますね」
「岸和田ではやっぱり、全員 屋根に乗るのが憧れなんでしょうか?」
「う~ん、誰もが一度は夢見るとは思いますけど、実際、怖いんでね。練習で試しに乗ってみて『俺はもう乗りたくないわ』っていうやつもいますね」
「あ、全員が乗りたいっていうわけじゃないんですね」
「そうですね。でも『鳴り物』とか、とにかくだんじりに近いとこにみんな行きたがるとは思います」
だんじりの側面で笛を吹いている人が見えるでしょうか。他にも大太鼓、小太鼓、鉦を演奏する人のことを「鳴り物」といいます。
「嫉妬や妬みみたいなのはないんですか? なんであいつが屋根なんだ!とか、俺の方がうまいのに!とか」
「そう思われへんように、自分から動いて誰よりも練習して、認められる人間になるんです。そしたら、みんなの方から『あいつを屋根に乗せたってくれ』って言うてくれるんですわ」
「屋根に乗るのに、適正みたいなのはあるんですか? 運動神経とか?」
「運動神経はもちろん必要ですね。だから岸和田の人間は結構ジムで鍛えてる人が多いですよ。体力つけるために走ったりね」
「!やっぱりそうですよね? 町を歩いてて、胸板厚い人が多いなあって思ってました。町全体の筋肉量が違いすぎる。じゃあ、一番運動できる人が乗るって感じなんですか?」
「大工方が振る団扇は、方向とかの指示を出す役割もあるんで、リーダーシップというか、前に出れるやつっていうか、そういう力が要りますね。責任も重いんです」
だんじりはヤンキーのもの?
「正直に言うと、だんじりって全員ヤンキーがやってるんだと思ってました」
「あははは(笑)。そう思う人、多いでしょうね。ガラの悪い人もいれば、おとなしい人もいますよ。クラス全員がやるみたいな感じなんで、どっちかに偏るようなものじゃないですね」
「ほう! 真面目な人もいるんですね」
「ていうか、みんな真面目な人ですよ!」
「でもだんじりが走ってる時はなんかもう、怒号っていうか、オラオラァ~!みたいな感じじゃないですか」
「気ィ抜くとホンマに危ないっていうか、命の危険があるんでね。そこはみんな必死やからと思います」
ハッピ着てると無条件で強そうと思ってしまう
「先ほどクラス全体が参加するみたいな感じ、とおっしゃってましたけど、『参加したくない』って人はいないんですか?」
「もちろんいますよ。昔はほぼ全員が祭りに出てたらしいけど、今は8割くらいかな。少子化やし、参加する人が減るっていうのは寂しいですね」
「でも町を歩いてて思ったんですけど、岸和田の人ってムチャクチャ子供を作る能力高そうですよね。男はガタイがいいし、女性は情が深そうで」
「まあ子供が増えてくれたらいいですね。こういうお祭りって、受け継いでいかなアカンと思うし。僕も屋根の上の踊りは、叔父さん(尾張さん)のを見て受け継いでるんです」
「流派というか、特徴的な動きみたいなものがあるわけですね。じゃあ要暢さんは叔父さんの影響で屋根に乗りたいって思った?」
「あとは、父がテレビでインタビューを受けたことがあったんです。まだ僕が生まれる前の映像で、『子供が屋根に乗ってくれるのが夢です』って言ってて」
「うわぁ、それから数十年経って、お父さんの夢が叶ったんですね」
「そうですね。僕も子供が屋根に乗ってくれるのが夢です。受け継いでくれたらなぁって思ってます」
「なるほど! では数十年後に、今度はお子さんにインタビューさせてください! 今日はありがとうございました!」
「ありがとうございました。じゃあ休憩も終わりなんで、僕はまた屋根に乗ってきますわ!」
取材を終えて
僕はあまり積極的に地域の祭りというものに参加してこなかったんですが、尾張さんや要暢さん、そしてお母さんの話を聞いて、羨ましいなぁと思ってしまいました。
どこかの場所と比べるんじゃなく、ひとつの町の中で連綿と受け継がれてきた価値観があって、『屋根に乗るのが夢』と言えるのって、今や日本にほとんどないのではないでしょうか。
とはいえ、僕にこの運動神経はないので、おとなしく家でゲームをしときます。ではみなさん、さようなら。
おわり
その土地のことが、もっともよくわかるのは「祭り」。昨日公開された記事、長野県の7年に一度の奇祭「御柱祭」のレポートも読んでみよう!
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy