ウォッス〜〜!
こんにちは! 株式会社人間の社領です!
突然ですが、私の友人に紙芝居師を生業にしている人がいます。
そう。ご存知、この紙芝居です。
およそ60年前……自宅にテレビが無い時代、子供達が夢中になったのは『街頭紙芝居』でした。現代ではほとんど姿を見ませんが、当時はなんと、全国に紙芝居屋さんが5万人もいたほどの流行りっぷりだったとか!
そんな紙芝居が、今みなさんの知らないところで60年ぶりにブームを迎えているらしいのです!
友人の紙芝居師いわく、現在、紙芝居師は引っ張りだこの忙しさで、もはや私たちの想像もつかない新世代の紙芝居が生まれつつあるんだとか……!?
ど、どういうことなの!? ということで、メチャメチャ気になっちゃった私は、大阪府にある巨大児童館『ビッグバン』にやって参りました!
「は〜い! こちらの類人猿みたいな顔の男性が、私の友達のガンチャンで〜す!」
「Hola〜!!みなさん初めまして、紙芝居師のガンチャンです! よろしく!」
「メキシコづいとる〜!今日は根掘り葉掘りきかせてね!」
予想の斜め上を行く、ガンチャンのムチャクチャ紙芝居
ガンチャンは36歳、紙芝居歴6年のプロの紙芝居屋。
一体彼はどんな紙芝居師なのか、まずは動画で見てみましょう!
めちゃめちゃ盛り上がってる様子です! 前に立つガンチャン、いかにもな出で立ちの紙芝居屋さんですが…
大量の松崎し●る!!
合体したピ●チュウとス●ンジボブ!!
「「「「 志村、うしろ〜!!! 」」」」
「だいじょぶだぁ〜!!」
「なんか内容ムチャクチャだな!?思ってた『紙芝居』と全然違うー!」
「みんなが想像してるような昔話の紙芝居は『教育紙芝居』。俺の『街頭紙芝居』とはまた別物やねん」
「ちなみに! 街頭紙芝居は、もともと戦後の仕事が無い時代に失業者が駄菓子を売って稼ぐために生まれた文化やねん。今『はじまりはじまり〜』って鳴らす拍子木は、大きな音でお客さんを引き止めて駄菓子を買ってもらうための演出やったんやで」
「えええ〜そうだったの!? たしかに、紙芝居って鳴り物が多くて賑やかだよねぇ」
「だいたい客寄せのためやね。中には、エロ・グロとかの紙芝居もあったんよ」
「エロい紙芝居〜〜!?!?」
「キャッキャッ!!」
「そんなこんなで戦後の娯楽のない時代、街頭紙芝居はすごいブームを迎えたんやけど、そんな大ブームを見て生まれたのが『教育紙芝居』。こっちは一転して、宗教・教育・思想啓発などの真面目な目的のために作られました。
そして、俺が思うに……街頭紙芝居は教育紙芝居に嫌われております」
「え、そんな派閥みたいなのもあるんだ!?」
「お互いタイプが全然違うからね。教育紙芝居は基本的に"演じ手は裏方"ってルールがあるけど、こっちはその逆やから」
「なんか、歌舞伎とかの『古典を守りたい派』と『新作やりたい派』の争いみたいだね……。
ガンチャンは、昔話とかのスタンダードなのは演らないの?」
「ももたろうやったらあるで」
「なんだ、普通の紙芝居もするんだ!」
ガンちゃん作、普通じゃない紙芝居の数々
「はい、これが俺のももたろうです!」
「……待って。ちっちゃい字で"もてへんからもんくばっかりいう太郎"って……」
「はい、これが『モテへんから文句ばっかり言う太郎』です」
「ブサイク〜〜〜!!!」
「基本的に俺の紙芝居は、一筋縄ではいかない内容を心がけてるねん。例えばこれ、俺のオリジナル紙芝居『ドキドキトキメキストーリー』の一部やねんけど……」
「タイトル、ベタにも程があるね」
「序盤はその名の通り、ロマンスが生まれそうでありながら……」
「中盤では子供が見る紙芝居らしく、食育の話に……と思いきや」
「ヒロインが急成長し」
「最終的に暴れ牛と戦うって流れになるんやけど……」
「メチャクチャだな!!!」
「メチャクチャな笑いや驚きを入れ込んで、エンターテイメントとして成立するようにしてるんよ。良い意味で期待を裏切る展開で、お客さんの目を離さへんように」
こんなところにも小ネタが!子供達がクイズに正解すると貰える景品の中に、なぜか『ガンチャンブロマイド』……
「ふざけてるように見えるけど、意外とアツい思いで作ってるんだね」
「うん。で、これはその思いが頂点に至った時に作った『オゲレツ大●科』っていう紙芝居なんやけど」
「マッサージ器持ってるがな!」
「お察しのとおり、これはさすがにボツにしました」
iPadを使った紙芝居!? 新世代紙芝居の自由すぎる表現方法
「ガンチャンみたいな街頭紙芝居師って、全国にどのくらいいるの?」
「具体的な数はわからんけど、今どんどん増えつつあるよ。5年前からは全国大会が開催されてるし、大会の盛り上がりもだんだん増してってると思う」
「作風は、泣けるやつから笑えるやつまで、紙芝居師によって様々。表現方法も色んなのがあって、生演奏があるやつ、一家全員で紙芝居するやつ……どんどん発展を遂げてる。中でもiPad紙芝居っていうやつは、文化庁メディア芸術祭で賞を獲ったこともあります」
「えーっ、普通にすごい! 紙芝居でiPad使うんだ!」
「で、全国の紙芝居師たちの中で俺が今一番すごいと思ってるのは、マーガレット一家のたっちゃん」
「誰?」
「愛知にある『マーガレット一家』っていうグループの一人やねんけど、現在全国大会を3連覇中! 演劇出身で表現力、動き、言葉の選び方が半端ないねん。この人のを見て、自分の紙芝居が変わったもん」
「ははぁ、そういう紙芝居界の権威みたいな人もいるんだな」
「ピカさんの顔面紙芝居もすごい。見た目のインパクトが強いし、セットも世界観もかなり凝ってる」
「これは初めて見るタイプ!! 面白そう〜!!」
「あとは、兵庫県のキオナさん。綺麗な点描の紙芝居が特徴で、キオナさん自身も前職は戸塚ヨットスクールの先生というすごい経歴の持ち主です」
「めちゃめちゃ怖い紙芝居なのでは……」
「1個だけ子供に向かって『命吸い取るぞ〜!』って言う部分があって、俺には冗談に聞こえてへん」
「その場で気絶する自信があるわ」
「今そうして紙芝居ブームに火がついてるのは、結局のところ何がきっかけなの?」
「そうやなぁ。俺は、デジタルの限界がきてるんやと思う」
「ちょっと解る気がする! 最近『VR』とか『ポケモンGo』とか、デジタルでもリアルな要素が入ってるものがどんどん増えてるもんね」
「せやねん、デジタルがどんだけ発達しても生身の体験には敵わへんやん。紙芝居には『お客さんと間近でコミュニケーションを取れる』っていうリアルな強みがあるから、デジタル社会に飽きてきた人にうまく響いたのかもしれへんな」
紙芝居師の月収っていくらなの?
「紙芝居師ってけっこう忙しいの?」
「うーん、まちまちやなぁ……。一応、7月のスケジュールはこんな感じ」
- ・7/1 フレンドマート ビバモール店で口演(大阪)
- ・7/2 三島楽寿園子ども七夕祭りで口演(静岡)
- ・7/3 『第五回ニッポン全国街頭紙芝居大会 INぬまづ』に出場(静岡)
- ・7/7 フレンドマート宇治菟道店で口演(京都)
- ・7/10 イベント『あたしnight』で口演(東京)
- ・7/13 取材打ち合わせ
- ・7/15 産経新聞取材・アルプラザ枚方店で口演(大阪)
- ・7/17 豊後高田 昭和の町で口演(大分)
- ・7/22 大阪日日新聞取材、紙芝居制作
- ・7/24 豊後高田 昭和の町で口演(大分)
- ・7/25 ブロマイド撮影
- ・7/26 紙芝居制作
- ・7/27 紙芝居制作
- ・7/27 王子神社 夏祭りで口演(大阪)
- ・7/28 王子神社 夏祭りで口演(大阪)
- ・7/29 紙芝居制作、イベント打ち合わせ
- ・7/31 豊後高田 昭和の町で口演(大分)
「おおー! 全国飛び回ってるんだ! でもやっぱり、普通の人よりお休み多いね」
「まぁ、休みの日もやることは色々あるねん。パソコンで営業資料作ったり、景品買いに行ったり、紙芝居はもちろん作らなあかんし」
「じゃあズバッと聞くけど、紙芝居師の月収はおいくら?」
「う〜ん……月収は、多い月は40万いくかな。1〜2月はイベント閑散期やから、10万くらいの時もあるけど」
「うわ、そんなにムラがあるんだ〜〜!? 10万で生活できるの!?」
「固定費でほとんど飛んでいくから、家賃待ってもらったりしてる」
「ガンチャンって36歳だよね……」
「飲み代もないから、友達とご飯行く時は『俺まとめて払うわ』って言ってクレカで払うねん……」
「こんど奢るわ……。 じゃあ月収が40万いくのはいつ頃なの?」
「時期問わず、オリジナル紙芝居の制作とかの仕事が入ったら結構儲かるかな。最近はブライダル紙芝居とかもやってる」
「ブライダルで紙芝居〜!?」
「新郎新婦の馴れ初めを紙芝居にして、結婚式で口演してプレゼントするねん。俺、会社と契約してプログラムとして結婚式のパンフに載ってるで!」
「ガンチャン、結婚式のオプションになってるじゃん!!」
「でもまぁ、紙芝居師は基本的に儲からへん職業やと思うわ」
ハローワークで発見した『紙芝居師』という仕事
この取材を行った日、実際にガンチャンの口演を見ることができました。
笑いどころが多く、子供たちとのコミュニケーションを主としたガンチャンの作品は、その場の子供達みんなを笑いの世界へと一気に引き込みます。
「ガンチャンは、どうして紙芝居師になろうと思ったの?」
「ハローワークで見てん」
「ハローワーク〜〜〜!?」
「7年前、会社を辞めてハローワークで職探ししてた時に、たまたま『紙芝居師』っていう職種を見つけて応募してん。一座に入って紙芝居の面白さにすっかり取り付かれて、すぐ独立して今に至ります」
「ハローワークに『紙芝居師』って、かなり怪しいと思うんだけど!」
「俺も最初疑ったけど、応募してよかったよ。昔は脚本家になりたかったんやけど、脚本家になるにはひたすら作品を作ってコンクールに出し結果を待ち……って、結構まどろっこしいんよね。その点紙芝居は作ったらすぐ人に届けられて、すぐ反応が帰ってくる。天職や! と思ったよ」
「天職か〜。ガンチャンの紙芝居って本人がすごく楽しんでるというか、好きなものをそのまま作品にしてる感じがするよね。これとかさぁ……」
「長さんの顔で『ウォッス』って完全に子供に通じないよね!?」
「いわゆる『子供向け』作品って、作る側である大人の自己満足やと思うんよね。『こういうのが良いんでしょ』みたいな、置きにいってる笑いというか。俺は、『子供向け』で子供がウケてるとこを見たことがなくて」
「なるほどなぁ。まぁ、普通の桃太郎で子供は爆笑しないもんね」
「自分で本気で面白いと思えることをぶつけないと、結局子供達には響かへん。それに、大人も面白がれるネタの方が、その場の全員の雰囲気良くなるやん?」
「確かに、ガンチャンの紙芝居って大人を置いてきぼりにしない!」
「見てくれるからには、全員に楽しんで驚いてってほしいし、大人も笑える"攻めたアイデア"で勝負するようにしてるよ」
「"攻めたアイデア"って、『人に楽しんでもらうため、スベることも厭わず自分を裸にさらけ出す』こと……すなわち愛やと思うねん! 俺はその愛で、『紙芝居=むかしむかし』の既成概念を超えたい!」
「うわー! ガンちゃん、愛の化身や〜〜!」
「そうです、俺は愛の化身です」
「いま形骸化しつつある日本文化って多いと思ってるんだけど、その考え方はまさにみんなの鏡だと思うよ! ガンチャンは、これからも紙芝居師を続けるの?」
「一生やるよ」
「即答!」
「夢は、バカバカしいし胡散臭い、けどめっちゃ面白い紙芝居をやる80歳くらいのお爺さんになって死ぬこと。そのためには、紙芝居界の生き残りをかけて今頑張らないと!」
さいごの裏話
実はこの記事の初稿をガンチャンに送った時、ガンチャンはすぐ事務所に飛んできて4時間もの校正に付き合ってくれました。
ライター何してんねん!という感じで全くお恥ずかしい限りですが、私には『インタビュー記事を書くとき自分の存在感がゼロになる』というひどい欠点がありまして……(すみません)。
初稿でそれを見抜いたガンチャン、「いつもの面白い社領を見せようよ!もっと攻めれるよ!」と背中を押しにマッハで事務所に来てくれたのです。
もちろん自分が出ている記事だからというのもあると思いますが、人の面白さを引き出すためだけに単車を飛ばして市内を横断できますか!? 私にはできませ~ん!!
自分の作品だけじゃなく、何事にも「もっと面白くできる」というフィルターを通すガンチャン。こんなエネルギッシュな人が切磋琢磨している紙芝居師の世界、面白くないといえるでしょうか!
みなさん、もし紙芝居屋さんを見かけたら是非ゆっくり見ていってください。そこには個性豊かなアーティストたちの世界が広がっていて、圧倒されること間違いなしです。
ご興味のある方はガンチャン(kamishibaiya@gmail.com)まで!
紙芝居師養成塾『桃の穴』
場所:大阪市生野区
時間:毎週木曜日 18:45〜20:45ごろ
ライター:社領エミ(株式会社 人間)
"面白くて 変なことを 考えている"会社、株式会社人間の書けるムードメーカー。一番好きなコスプレは駅員さんのコスプレ。
Twitterアカウント→@emicha4649