はぁ……シイタケ食べたいなあ……むちむちのシイタケを炭火で炙ってさあ……じゅわじゅわツユが出てきたところでしょう油をチャッとひとさししてさあ……アツアツの実をほおばって「ンフ~~~!!」とか言いたいよなあ……しかも1つや2つじゃなく、シイタケ欲が限りなくゼロになるまで食べ尽くしたい。そんなシイタケの酒池肉林フェス会場、どっかにない~~~!!!???
全国6億8000万人のシイタケファンの皆様、ご安心ください。ありました。しかも都内から車で1時間以内という近場にありました。こんにちは、ジモコロライターの原宿です。いやあ、シイタケってめちゃくちゃ美味しいですよね。
焼いて炙ってしょう油をつけてもよし、バターで香ばしく仕上げてもよし、スープに入れてもよし……あの肉厚な実からジュワっと染み出す滋養と風味がたまりません。最近ことあるごとに「シイタケの美味さは異常」ということを周囲に訴えているのですが、どうもみんなピンときてない様子なのがもどかしいんです。その中でも特にピンときてないのが……
後輩のARuFaです。この写真からも、何となく彼の「ピンとこなさ」が伝わるのではないでしょうか。ねぇ、シイタケって美味いよね?
「嫌いじゃないですけど、美味いと思ったことは別にないですね」
これですよ。こんな「味蕾(みらい)ついてんのか?」ってことを平気で言われたら、意地になってしまうのが嫌な年上としての責務だと思います。
というわけで今回は、後輩に本当に美味いシイタケを食わせるべく、千葉県佐倉市にある「佐倉きのこ園」にやって参りました。こちらは自分の手でもぎとったばかりの自家栽培のシイタケを、全天候型のバーベキュー施設で煮るなり焼くなりして味わえる最高の空間です。正にシイタケ版・炎と森のカーニバルと言うことができましょう。
さっきから「シイタケに小うるさい男」みたいな体でしゃべってますが、何を隠そうこの僕も、ハウス栽培のシイタケをこの目で見るのは初めてです。一体シイタケちゃんは普段どんな環境で育っているのか……。女の子の部屋に初めて入った時のような心境でハウスを覗いてみると……
おおお……
生えてる……
予想以上に豪快に生えてらっしゃるっ……!!!
当たり前ですが、スーパーで売られてるものよりも遥かにパワーがあって新鮮そうです。見た瞬間に頭の中で、「魂のルフラン」が鳴り響くような生命感。こりゃ食べごたえありそうだなあ!
こちらが「佐倉キノコ園」の園長である斎藤さん。本日は斎藤さんから、シイタケに関する色々な話を伺いたい。そして仕入れた知識を、まるで以前から知っていたかのように飲み会で喋りまくりたいと思っております。
「斎藤さん、本日はよろしくお願いします! 僕、シイタケって木から生えてくるものかと思ってたんですが、何やらブロックのようなものから生えるんですね?」
「これは菌床と言って、オガクズや米ぬかなどを練って固めたブロックにシイタケの菌を打ち込んだものです。シイタケ栽培には原木栽培と菌床栽培の2種類があるんですが、木から生えてくるものは原木栽培の方ですね。日本のシイタケの8割は菌床栽培で作られています」
「なるほど、こうしてブロックで育てる方が一般的だったんだ。佐倉きのこ園では、どういうシステムでシイタケ狩りができるんですか?」
「入園料は無料で、採ったシイタケは100gあたり200円で販売しています」
「シイタケ100g……って、ちょっとどのぐらいの量なのかわかんないんですが、何となく『もう安いぞ』って感じがしてます」
「まぁとりあえず、実際に採ってみますか」
こちらが正しいシイタケ狩りのやり方。先がほんのりとカーブしたハサミで、シイタケを根元からバッツリ狩っていきます。根元を残してしまうと、雑菌やカビが繁殖する原因になるので、きっちり余さず刈り取るのがコツとのことです。
さっそく僕もシイタケ狩りに初挑戦。シイタケさん、お休み中のところ失礼いたします……
バツンッ
………。
いや、でかくね!?スーパーで売ってるシイタケと比べて、身の詰まり方というか、グラマーさがすごい! 肉厚むっちむちですわ。oh...…ダイナマイツ…
「うちのシイタケは、採れたてを“生”で食べることも可能なんですよ。本来は採った後で精算してから食べるんですが、今日は特別にそのままかぶりついてもらってもいいです」
「え!? シイタケこのままかじれるんですか!? シイタケを生で食べたこと自体ないんですけど……大丈夫なの?」
まさか生のシイタケを丸かじりするとは思ってませんでしたが、本当に採った状態のまま、ガブリといってみました。
※シイタケは通常、精算後に食べるシステムですのでご注意ください。今回は特別に許可をいただきました。
Fresh!!!!!!
なにこの瑞々しさ……シイタケなのに果汁感というか、フルーツみたいな甘みがある!
「これ、いつも食べてるシイタケどころじゃない美味さのやつだわ……」
「原宿さん、驚きすぎて顔が老いたチンパンジーみたいになってます」
「なってないよ。いや、斎藤さん、このシイタケちょっとすごいですね!」
「うちのシイタケは「長生きシイタケ」と言って、農薬や成長促進剤、雨水は一切使わず、地下50メートルから汲み出した天然水だけで育てています。シイタケはカロリーがほとんどなく、8割が水分でできているので、水質がとっても大事なんですよ」
「なるほど、だからこうして菌床をお風呂に入れているんですか? 」
「これは『浸水作業』と言って、水分補給の意味もあるんですが、地下水と室内の温度差でシイタケに刺激を与え、芽出しを促進させる効果があるんです」
「それって犯人の顔を水風呂に突っ込んでから引き上げることで、自白をさせる刑事みたいなことですか?」
「例えが悪すぎますが、刺激を与えるといった意味ではそうですね」
「水の他に、シイタケ栽培にとって大事なことはあるんでしょうか?」
ス………(そっと天井を指差す斎藤さん)
「シイタケ栽培に必要な3大要素は『水・空気・温度』と言われています。キノコの菌床栽培は、ジメジメした蛍光灯の明かりだけの部屋で行われることも多いのですが、佐倉キノコ園ではできるだけ『自然の林に近い環境』を整えてあげています。この屋根からの光、何となく木の間から射す木漏れ日みたいでしょ?」
「確かにハウスに入った瞬間、森の中にいるような爽やかさを感じたんですよね。自然に近い気持ちいい環境でスクスク育ったシイタケ……焼いたらさぞ……さぞや……」
「ではさっそく、バーベキュー場で焼いて食べてみますか」
「よっしゃ~~~!!!!!」
収穫したシイタケをかごに入れ、バーベキュー場に移動。ちなみにこの量で500gぐらいでした。100g200円だから…こんだけ採っても1000円!?
「安いけど、1トン収穫したら200万円だなあ」
「1トン収穫したら、それはもはや業者ですけどね」
ちなみに各種飲み物やお酒、地元農家で採れた新鮮な野菜やお肉なども園内で買うことができますので、手ぶらでのバーベキューが可能です。シイタケと千葉の地酒で一杯やりたくなったら、いつでもその身ひとつでぶっ飛んでこよう!
こちらが佐倉きのこ園に併設されたバーベキュー場。なんとも広々としていて気持ちがいいです。使用料はHPに記載されてますが、大人4人でくれば大体1人あたり1000円というところ。こんなスカッとした場所で美味しいシイタケを味わえる場所が、都内からほど近くにあったんですね。誰かもっと早く教えてよ! インターチェンジからもめちゃくちゃ近いしよ!
シイタケ狩りのガイドばかりか、バーベキューの火起こしまで斎藤さんにしていただきました。長年の経験から言えることは、「バーベキューの着火剤は“ベスター”に限る」とのことです。
「シイタケと全く関係ない有益情報までゲットしてしまった」
「炭に火が入るまでしばらくかかるので、食前に“シイタケ茶”をどうぞ。うち一番の人気商品です」
「ほおー!シイタケのお茶なんてあるんですか!これは面白い!ARuFaくん飲んでみなよ」
「ええ? 全然おいしいイメージ沸かないんですけど……どれどれ……」
ズッ………
あっ
うっまぁ……………
「めちゃめちゃ美味いですこれ! 全身の力が抜ける味がします。なぜか絶景も見えましたし」
このシイタケ茶、お茶というよりは「上品な味のお吸い物」という感じの味なんですが、あまりにも胸に染みる美味さでした。天気のいい日に縁側ですすったら、それだけで人生がゴールしちゃう味。
1缶で100杯分飲めて580円という爆安価格で売っているのですが、僕とARuFaで5缶買って家と会社に常備しました。一杯飲むと嫌な思い出がひとつずつ消えていき、最終的に記憶喪失になって仕事が手につかなくなります。ネットでも買えます。
そして僕達が、シイタケ茶をペチャペチャすすっている間に……
きてるきてる……
きてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!
「斎藤さん!きてます!」
「きてますね。しいたけは5分もすれば火が通るので、遠火の遠赤外線で焼くのがポイントです。直火だとすぐ焦げちゃいますからね。あと焼くのは片面だけでいいんですよ」
「へー、シイタケってあんまり念入りに焼く必要なかったんですね」
さらに味付けはしょう油やバターもいいけど、本当に美味いシイタケは塩で食べるのが一番なんだとか。炭火にあおられたシイタケアロマが薫る中、網の上から塩をパラパラ……。
「うわ~もうやばいよ! だって見てよこれ……」
“ツユ”が、さあ……
ツユが染みだしてさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「早く! 早く食べましょう! 一刻も早く!」
もう、言葉はいらない……
「このタイミングでタイトルコール?」
「完全に分かっていたことですが、美味すぎです。何このプリプリさとジューシーさ! 噛んだ瞬間、ふくよかなシイタケの旨味と汁気で口がいっぱいになる……」
「僕、今までシイタケって全く興味なかったんですが、こんな肉厚で旨味のある食べ物なんですね。やり方次第では『肉越えるな』って感じすらしてます。しかもカロリーほとんど無いし!」
「ありがとうございます。僕も最初はシイタケ嫌いだったので、シイタケがあまり好きでない方に『おいしい』と言ってもらえるのはすごく嬉しいですね」
「え!? シイタケ嫌いなのにシイタケ農園始めたんですか!?」
「はい。昔のシイタケってあんまり美味しくなかったんですよね。自分が満足いく“菌”に出会えるまでは、結構長い時間がかかりましたね」
「んっ? シイタケの菌ってひとつじゃないんですか?」
「数百種類ありますよ」
「シイタケだけで!?」
「同じシイタケでも菌によって色々特徴があるので、気候や気温によって使い分けたりとかしますね。あとは普通のシイタケよりジャンボに生育する菌もあります」
「話は戻りますが、シイタケ嫌いの斎藤さんを唸らせたシイタケ菌って気になりますね」
「松原食茸という会社が開発したシイタケ菌『854』です。これはすごかった。もはや革命ですね」
「それだけ聞いても全然何のことかわからないんですが、なんとなく『レジェンド感』だけは感じてます、今。そもそも斎藤さんが『佐倉きのこ園』を始めたきっかけって、何だったんですか?」
「はい。僕の前職は不動産会社の営業マンで、この『佐倉きのこ園』がある場所も、もともとは父親が経営していたコンクリートブロック工場の用地だったんです。でもブロックが中々売れなくなって、土地の有効活用を何か考えなきゃねと。そんな時、たまたま日経新聞を読んでたら“シイタケの菌床栽培”の記事が載ってまして、『あそこでシイタケ始めたら面白いかもな』と思ったんです」
「たまたま読んだ一つの記事で人生が変わったんだ! ジモコロもそうあれかし……」
「でもいろんな農園を見学しに行って、たくさんのシイタケを食べてみたんですが、どれも美味しくないというか、食べても驚きがないんですね。一生懸命育ててこのぐらいの味だと、ちょっとどうかなあと。そんな時、同じ千葉県の入江農園という農家さんも菌床栽培をしてるという話を聞いて見学に行ってみたのですが、そこで出会ったのが……」
「823」
「854ですね」
「はい。これが飛び上がるぐらい美味しかったんです。しかも入江農園さんはジメジメした暗室と蛍光灯の光ではなく、現在の『佐倉きのこ園』のような自然に近い環境でシイタケを育てていたんです。すっかり感動して『これだ!』と」
「なるほど。現在の『佐倉きのこ園』を形づくったのが入江農園、そしてシイタケ菌『854』だったんですね。ということは、さっき僕らが食べたのも『854』……?」
「いえ、残念ながら松原食茸という会社は無くなってしまい、『854』という菌種は今は存在しません」
「もう二度と味わえない幻のシイタケ菌か……」
「でも松原食茸にいた研究者の方が、その後『854』の特徴を受け継ぐような菌の開発に成功しましてね。僕に送ってくれたんですよ。育てて食べてみると……これがとっても美味しい! そして『854』によく似ていたんです。シイタケの栽培をやっていて、感動した出来事の一つですね」
「シイタケの菌にそんなドラマがあるなんて思いもよらなかったです」
「佐倉きのこ園の次なる展望とかはあるんですか?」
「きのこ園もなんですが、僕は佐倉市全体の農家や畜産家をもっと盛り上げたいですね。実際来られてみてわかったと思うんですけど、佐倉市って東京からすごく近いんですよ」
「そう! 車で1時間かからず着いちゃったので、『こんなに近いの!?』って驚きました」
「美味しい食べ物も多いし、自然も多いし、東京からお客さんを呼べるようなネタはいくらでもある土地なんですが、まだまだ生産者側の売り方が下手だなと感じてるんです。佐倉きのこ園の『観光農園』としての経験を周りにも伝えて、もっともっと外から人を呼べる場所を、佐倉市に増やしていきたいですね」
「なるほど、それで地域ごと盛り上がっていけば、佐倉きのこ園も潤うってことになりますもんね! 東京からいつでも来れるし、佐倉市にどんどん面白い場所が増えていって欲しいな~。斎藤さん、本日はご案内ありがとうございました!」
採れたてのシイタケは、本当に美味しかった。佐倉きのこ園はリピーターがとても多く、「ここのシイタケ以外は食べない!」と決めてるお客さんも多いんだとか。一度食べたらヤミツキになる肉厚シイタケ、皆さんもぜひ一度ご賞味ください!
佐倉きのこ園
千葉県佐倉市太田2395
休園日…月曜日(月曜日が祝祭日の場合は火曜日がお休みです)
※クックパッドの産地直送便でも買えます!
ライター:原宿
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。ご飯をよく噛むオモコロ編集長として活動中。Twitter:@haraajukku