こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。いきなり「カトちゃんケンちゃん」みたいな人間の縮尺ですみません。えー、読者の皆さまから見て右が僕で、左は前職である有限会社ノオトの代表取締役・宮脇さんです。
いま、我々は和歌山県に来てます。関西圏以外の人には「和歌山ってどこ?」と脳が小パニックを起こす可能性があるので地図を貼っておきますね。実際、大阪出身の僕ですら和歌山と奈良の位置がごっちゃになるときが…本当すみません。
宮脇さんは過去にジモコロのインタビュー記事にも登場していただいたんですが、ベテラン編集者として活躍する大先輩であり、僕が7年前に捨て身の上京をしたら「おう、柿次郎。うちの会社に来るか?」と武力18、知力7、魅力21ぐらいの状態で拾ってくれた大恩人でもあります。
いまジモコロをやれているのも宮脇さんの教育を受けたからこそ!
さらにバーグハンバーグバーグの現同僚であり、前職・ノオトの同僚 兼 先輩でもある加藤亮も和歌山取材に同行しています。脳みそのシワが増えない程度にややこしいので一回、イラストで図解しますね。
…という塩梅の関係性なんですが、「前職の師弟関係」といえばわかりやすいでしょうか。
ちなみにノオト→バーグハンバーグバーグの転職に関しては、元々親交のあった宮脇さんとシモダが三国志みたいなサシ飲みの席を設けて、男同士の話で円満に進めています。一回目はシモダが宮脇さんを酒で豪快で潰し、二回目は宮脇さんがシモダを酒でコテンパンにやり返したようです。武将か。
和歌山は「醤油発祥の地」だった
さて、ここでようやく本題。
和歌山出身、和歌山経済新聞編集長、和歌山と東京の二拠点生活を送る宮脇さんは“和歌山のプロ編集者”と言っても過言ではありません。さらにグルメ情報の王様「ラーメン」大好きおじさんでもあります。
そんな宮脇さんに連れられて…
奥深い和歌山ラーメンの文化を掘り起こしていきます!
まず訪れたのは、和歌山駅から車で約50分ほどの場所にある「湯浅醤油本店」(丸新本家株式会社)。
「宮脇さん、今回は師弟関係で和歌山の魅力を掘り起こすツアーじゃないですか。なぜ、いきなり醤油蔵に?」
「バカヤロー! お前、何年編集者やってんだ!?」
「え、いきなり熱血漢…」
「湯浅は日本醤油発祥の地なんだよ!」
「えー!大阪出身だけど全然知りませんでした!」
「つまり和歌山ラーメンを語る上で、醤油発祥の地が深く関わってくると?」
「加藤、お前は物分りがいいな。今回はディープな和歌山ラーメンの歴史を振り返りつつ、地元視点の和歌山観光情報を散りばめたツアーになる予定だから」
湯浅醤油では醤油の製造工程が学べる見学スペースがあるので、醤油の基礎を学ぶにはもってこいのスポットです。醤油樽が想像以上にデカい。
こちらは醤油の原材料。黒大豆を使うのは湯浅醤油の特徴です。
日本人にとって身近すぎる醤油ですが、その製造工程を理解している人はあまりいないでしょう。説明するとキリがないので、この便利な図でご確認ください。めちゃくちゃ手間ひまと時間がかかることだけは頭に入れといてね!
「なんとなく醤油の製造工程は理解したんですが、和歌山が醤油発祥の地ってどういうことですか?」
「1200年代に覚心(法灯国師)という中国帰りの偉いお坊さんが、和歌山の日高郡由良町に禅寺を開いたんだよ。その覚心が中国で学んだ『金山寺味噌(きんざんじみそ)』の醸造方法を和歌山に根づかせたのがそもそものきっかけらしい」
「金山寺味噌?」
「なめ味噌って言われていて、調味料として使うのではなく、ご飯のおかずとして現在でも和歌山の食卓に並ぶポピュラーな味噌のことだね。先に味噌作りが普及したんだけど、その製造工程の流れで桶底と上澄みに赤褐色の液体が出ることに気づいて。職人さんが、ペロッと舐めてみたら『こりゃ、美味い!』となって湯浅の味噌屋が醤油の研究を始めたといわれている」
「へー! たまたま舐めた赤褐色の液体がきっかけだなんて。その液体が不味かったら醤油は生まれてないのかもしれませんね」
「ちなみに湯浅は、江戸時代に徳川御三家紀州藩の保護を受けて醤油屋が栄えた背景がある。この時代は和歌山の漁師たちが千葉の房総半島へ移り住んだこともあって、『白浜』『勝浦』といった同じ地名があるんだよ。航路としての相性の良さもあって和歌山から東京(江戸)へ醤油が伝わっていったんだろうなぁ…。ロマンだなぁ…。なぁ、加藤…」
「へい! 一応、諸説あるって言っときましょう!」
「そう。歴史に諸説ありだな」
「仲良いなこの二人」
湯浅町は2006年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれていて、味噌や醤油といった醸造業の建物が残っています。
天保12年創業の醤油蔵「角長」は今も現役!
立ち寄ったら「濁り醤 匠」を買って帰りましょう。美味い醤油は料理を豊かにする。
お前たちの知らない「和歌山ラーメン」の世界
「醤油発祥の話をしたことだし、本題の和歌山ラーメンを食べてみよう。柿次郎は食べたことあるの?」
「いえ、和歌山自体ほぼ初めてなんですよね。白浜に行ったことがあるぐらいで」
「大阪人は和歌山駅周辺を通りすぎて、そのまま白浜まで行っちゃうからな。今度通り過ぎたら末代まで恨むぞ」
「そんなに!?」
宮脇さんおすすめの和歌山ラーメン屋は、和歌山駅近くの中心街にある「中華そば 味」。朝5時までやっているため、飲んだ後のシメにもぴったりだそうです。
TEL:073-423-2646
住所:和歌山県和歌山市元寺町1丁目63
営業時間:11:00~翌5:00(年中無休)
こちらが味の「中華そば」(550円)。いわゆる豚骨醤油系。早速、ズズッと麺とスープをいただきます。
見た目よりも、全然しつこくなくて美味い!
「どうだ。美味いだろ」
「30歳過ぎてから脂っこいラーメンがしんどくなってきたんですけど、このラーメンは全然いけますね。麺は柔らかめ。スープは豚骨醤油の味がしっかりきいているのにアッサリしてるというか。麺の量も少なめで、胃弱の僕には最高です」
「懐かしい中華そばに、とんこつの風味が良い塩梅でミックスされてますね。濃い味文化の名古屋人なんですけど、これはちょうどいい!」
「和歌山ラーメンは大きく分類すると豚骨ベースでマイルドなスープが特徴の『井出系(いでけい)』、醤油ベースで黒く透き通ったスープの『車庫前系(しゃこまえけい)』の二種類ある。ここはオーソドックスな井出系の和歌山ラーメン代表と言っていいだろうね」
「なるほど。独特のラーメン文化だなぁ。そういえば和歌山ラーメンって急にご当地ラーメンの代表的な謳われ方してますけど、きっかけはあるんですか?」
「うーん。TVチャンピオンでラーメン評論家の石神秀幸さんが井出系ラーメンを推したのがきっかけなんて言われてるけど…」
「けど?」
「個人的な意見だけど…引き金となったのは、1998年に起きた和歌山毒物カレー事件じゃないかと思ってる。林真須美被告の自宅周辺に記者が泊まり込みで張りついてただろ? あのタイミングで全国の記者が『和歌山のラーメンが美味い!』って騒ぎ始めたんじゃないかなと。それまで地元で親しまれていただけだからなぁ」
「な…なんだってーーー!!でも、地方の文化が大きな事件やイベントきっかけで全国に知られた話はよく耳にするので、その説もありえますね」
「あくまでひとつの説ですね」
「加藤の保身コメントがすごい」
「さっきから気になってたんですけど…無造作に置かれてるコレはなんなんですか? ゆで卵の隣にあるのは…?」
「これは『早寿司(はやずし)』。塩で浅く発酵させた鯖寿司みたいなもんなんだけど、和歌山のラーメン屋にはほぼ必ず置いてあるんだよ」
「なんすかソレ。聞いたことなさすぎる」
「物心ついた頃からラーメン屋には必ず置いてあるんだよ。和歌山のソウルフードみたいなものかもな。ちなみに早寿司とゆで卵は自己申告制で後会計。県外に初めて出て、ラーメン屋に入ったら早寿司が置いてなくてパニックになったことを覚えてる」
「おすすめの食べ方は…ラーメンとスープをすすった後に早寿司を口に放り込む!」
「お、たしかに。とんこつ醤油のスープと不思議と合いますね」
「な?」
「和歌山ラーメン関連の情報が多すぎて戸惑ってます」
和歌山取材初日は「醤油発祥の地」「和歌山ラーメンは美味い」「謎の早寿司文化」というキーワードを得て、宿泊先のゲストハウス「RICO」ヘ。和歌山駅から徒歩圏内の立地で1泊3000円〜。オススメです。
住所:和歌山県和歌山市新通5-6
TEL:073-488-6989
朝ごはんのパン、コーヒーも美味い!
和歌山ラーメン×早寿司のルーツを探る
翌日、我々は超人気ラーメン屋へ向かいました。
どうやら「食べログ 全国ラーメンランキング TOP100」で1位に君臨し、食べログ読者が投票形式で選ぶ「Japan Ramen Award 2016」でも2位にランクインする化け物みたいなラーメン屋「和 dining 清乃」が和歌山県有田市にあるようです。
市内から車で約30分程度かかる場所にも関わらず、連日混雑している超人気店。アクセスの悪い店舗って行くまでの過程で期待値が上がりますよね。いやー、楽しみだな。
2016年6月1日時点の全国ラーメンランキング TOP100
脅威の4.31評価!
こんな高評価のラーメン食ったことねぇぇぇ〜!!
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気を取り直してお次はこちら! 宮脇さんが10代の頃から通っていたという車庫前系のラーメン屋「まるやま」。電話番号が7桁で覚えやすい!
まるやま中華そば 小松原本店 (まるやまちゅうかそば) - 築地橋/ラーメン [食べログ]
TEL:073-423-6071
住所:和歌山県和歌山市小松原6-1-14
営業時間:平日=11時~15時、17時〜翌1時30分、土・日・祝=11時〜翌1時30分(月曜定休)
「ここにも早寿司が! 昨日食べた井出系のトロっとしたスープの『味』と違って、あっさり豚骨醤油って感じでこれはこれで美味いですね。醤油の風味が立っていて香ばしい。東京のラーメンの7割ぐらいのボリューム感でペロっと食えます」
「1960年創業、車庫前系の老舗ラーメン店だな。数十年通っているけど、変わらない味でたまらない。名物のおでんも美味い」
「(ズズズッ)」
「車庫前系で言えば、ほかにも『丸宮』『丸木』『丸平』とか有名なお店があるな。元祖車庫前系ラーメンの『丸高』から丸の頭文字を取って派生したらしい」
「店名が『まる○○』だったら車庫前系ってことですね。覚えやすい!」
「これだけ歴史のあるお店だったら、早寿司の起源も知っているはず!」
「え、早寿司の由来? 改めて聞かれるとわからないね…。私が生まれた約50年前にはもう当たり前のようにあったから。疑問に思ったことがないね」
「え〜。老舗でもわからずの早寿司文化!」
「いろいろ調べたんだけど、どこにも載ってないんだよな…。和歌山はサバが多く獲れる土地ではあるんだけど。冷蔵庫がない環境でもご飯モノを提供するために生まれたとか、客単価を100円上げるためにテーブル常時配置×自己申告制にしたとか、寿司屋と結託して生まれたとか、いろんな仮説は考えられる」
「早寿司の元となった熟寿司(なれずし)は、紀南の方に文化として現在でも残ってるみたいですね。祭りで食べるとか。味は超独特みたいですが…」
「中には30年モノのトロットロの熟寿司もあるらしいぞ。お酢が生まれる前の発行文化として、世界のとある民族では誕生年に熟寿司を仕込んで、還暦のお祝いで食べるとかって話も聞いたことがある」
「熟寿司の奥深さも尋常ないですね。うーん、これは今回の取材で明らかにできなかったので探偵ナイトスクープに依頼しときます!」
「他人任せかい」
和歌山のおすすめグルメスポット3連発!
ここからは和歌山観光に役立つグルメスポットをご紹介します。とりあえずこのスポットをルートに入れると旅の満足度が上がること間違いナシ。
●和歌山のニュースポット「じゃんじゃん横丁」
和歌山の若者が盛り上げているニュースポットが、島崎町2丁目の交差点近くにある「じゃんじゃん横丁」 。元々歓楽街だった横丁にレトロな佇まいを生かした飲食店が並んでいます。
検索してもあまり情報が出てこないんですが、こだわりのコーヒーとスイーツを提供する喫茶店「珈琲もくれん」や洋菓子店「パテセリエ みょうらく」、他にも居酒屋やBAR、占い屋などなど、かなりおもしろい土地になっています。
この独特の雰囲気が伝わりますか。詳しくは公式Facebookページで!
●超大盛しらす丼!新鮮ワカメのしゃぶしゃぶ! 「満幸商店」
続いて和歌山に来たら必ず寄って欲しい飲食店がこちら! 海の幸を思う存分楽しめる超人気店「満幸商店」です。
TEL:073-459-0328
住所:和歌山県和歌山市加太118 淡嶋神社境内
営業時間:9時〜17時(基本無休)
今朝獲れたばかりの新鮮なワカメのしゃぶしゃぶ!
ギガ盛りすぎるシラス丼!! なんだこれー!!
ちなみにこのサイズで3〜4人前のダブル(1,980円)。かき氷みたいになっていますが、丼の中はご飯がぎっしり詰まっています。幸せが満ちる…!
7〜8人前のトリプル(3,980円)は、ダブルサイズの3倍だそうです。産まれたての赤ちゃんぐらいの重量。大人数で行ったときはチャレンジしてみてください。
●和歌山駅近くで迷ったらココ! 魚介類の天国居酒屋「くろしお」
もし和歌山駅周辺で「どこに飲みに行けばいいんだろう?」と悩んだときは「くろしお」へ。
TEL:073-423-0480
住所:和歌山県和歌山市杉ノ馬場1-42
営業時間:17:30~23:30
和歌山の漁業は盛んで、生マグロの水揚げ日本一になったこともある那智勝浦があったり、春が旬のケンケン釣り鰹が超美味かったり、実は魚介類に自信あり! この日は太刀魚をいただきました。他にもイワシやキンメダイなど、紀南の海の幸は「くろしお」にお任せあれ。
全国の良い日本酒や地酒など豊富に取り揃えているので酒飲みにはたまりません。
2時間後…
酒が進むに連れて師弟関係の雰囲気になってきました。こうやって宮脇さんと長時間一緒に居たのはノオトを卒業してから初めてのことで。
「こうやって宮脇さんとじっくり話す機会もなかったですね」
「たしかに。ちょいちょい飲んではいるけどな」
「実は今回、聞きたいことがあるんです。ノオトを卒業して5年経った今だからこそ、僕と加藤くんに何か言いたいことないですか?」
「うーん、特にないな! 好きにやったらいいんじゃないか?」
「ないんかい!」
というわけで今回の和歌山取材ツアーを通して、和歌山ラーメンの奥深すぎる文化を学びつつ、宮脇さんとの師弟関係を深めることができました。これぞジモコロが掲げる「公私混同」の見本と言ってもいいのではないでしょうか。
美味いモノを食って、一緒に酒を飲んで熱く語り合い、風呂で裸の付き合いをする。取材旅行とはいえ、旅で生まれた会話きっかけで次の出会いや仕事に繋がるものです。
公私混同の関係性だからこそ生まれるジモコロのスタイルで、今後もその土地の文化を掘り起こしていこうと思います。それでは!
※お知らせ
宮脇さんが運営する五反田のコワーキングスペース「CONTENZ」が7月1日(金)、分室としてスナックをオープンするそうです。どういうこと??
書いた人:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916