どうも、元肉屋の加藤です。
ぼく、「豚アレルギー」になったことがきっかけで豚肉をあまり触れなくなり、肉屋をやめました。
元肉屋を利用して、肉の記事を書いたらおそろしく拡散されたこともありました…。
触るとかゆくなってしまうため、豚肉に関しては完全な「食べ専」になってしまったのですが、今回はさらに豚肉の知識を深めるため、養豚場へやってきました!
普段、おいしく食べている豚肉がどうやって育てられているのかを見てこようと思います!
今回おじゃましたのは、千葉県旭市にある下山農場。代表の下山正大さんにお話を伺いました!
意外と快適そうな豚たち
「思ったより広いところにいますね! 養豚場ってもっとギチギチのところで管理されてると思ってました」
「ここは通常の豚舎の2倍くらいの広さだからね。広々と遊ばせてる。こういう豚舎は全国でも少数で、床はコンクリートだけでなく堆肥をひいてる。『発酵床』っていうんだけど、糞尿をしたら堆肥の微生物が分解してくれるんだよね」
「その辺にうんこやおしっこしても分解されちゃうんですか!?すげぇ!そういえば、養豚場って思っていたより臭いがしないですね。動物園みたいな獣臭がしないというか…」
「糞の処理もしなくていいし、楽だよ。腐るのと発酵は違って、発酵の場合は臭いはしなくなるの」
「じゃあ、ぼくもここにうんこしちゃっていいですか?」
「ダメ。人の糞に入ってる菌がどういう影響を与えるかわかんないから」
「道徳的な問題じゃないんだ…」
「フゴッ!!(ダメ!!)」
「臭いといえば、よく豚やっている人と鶏やっている人と牛やっている人で、『お前のところが一番臭い!』って話はでるね。自分とこの臭いに慣れちゃっているから、ほかの畜産の臭いに敏感なのよ」
「すごい畜産あるある…」
「個人的に牛はあんまり臭わないけど、やっぱり鶏が臭いね。小さい鶏ほど臭いのは、高タンパクなエサをたべるから。そうすると排泄物中の消化されないタンパク質が腐敗するから臭いんだよ」
「理屈に筋が通った『臭い』ですね…」
「あと、出荷できる大きさになったら勝手に仕分けされる秤があって…。豚がエサを食べに行く際、体重計を経由して出荷できる重さだったら別の部屋へのゲートが開くような仕組みでね。カナダにあったんだけど、これと発酵床を日本ではじめてウチが採用することで、とにかく楽になったね。500頭いる豚を2人で管理できるから」
「500頭もいる豚を2人で管理できちゃうんだ…。カナダにそういうすごい装置がある! って情報は、養豚をしているコミュニティーだったり、業界紙だったりで入手するんですか?」
「ううん、ネット」
「ネットなんだ…」
「使い終わった堆肥は、リサイクルして取りに来てくれる農家の方へ差し上げたりしてるね。これがいい肥料になるから。捨てるのもお金がかかるけど、タダであげればその分の手間もコストも省ける」
「合理的…! いい土を作るのは大変っていいますからね」
「あと、ウチの豚はいいうんこしてると思うんだよね」
「うんこにいいも悪いもあるんですか!?」
「ウチの豚はSPF(スペシフィック・パソージェン・フリー)、特定病原菌不在豚という特定の病原菌がいない豚。種豚を作る大本の会社があるんだけど、そこではハイレベルの衛生状態を維持した豚を育てていて、その子どもを帝王切開で取り出すことでできるだけ菌を少なくしている。その種豚からぼくらが肉豚を作るわけ。経済的にマイナスになるような病気にかかりにくいんだよ」
「2代前まで衛生状態がいいと、3代続いても病気にかかりにくいんですね」
「SPFの豚は病気になりにくいということで、抗生物質を使うのも最小限だから肉質もいい。だから、きっとその糞からはいいバクテリアたくさんいるはずなんだよ。だからいいうんこになると思う」
「なるほど、たしかにいいうんこな気がしてきました。ぼく、持病が多くて薬ばっか飲んでるんで悪いうんこですね。ここでうんこしなくてよかった…」
うまい豚肉ってどうやって作るの?
「子どものころは豚肉ってあんまり好きじゃなかったんですが、大人になると豚ばっか食ってしまいますね。豚肉って、昔と比べておいしくなっていってないですか…?」
「出身ってどちら?」
「ぼくは名古屋です」
「あー。関東は豚肉文化だから非常に豚肉のレベルが高いんだけど、それに比べると中部や関西の豚肉のレベルは落ちてしまうからね。箱根より西は豚肉文化じゃないんだよ」
「確かに、関西は『肉』っていったら牛のことっていいますよね。じゃあ、ほかの地方のおいしい豚肉が入ってきてからおいしく感じ始めたのかもしれないですね…。九州は豚肉のイメージは強くないですか?」
「そうだね。九州からはまたレベルが高くなる。おいしい豚肉を求める人が少ないから、コストダウンする傾向があるんだよ。養豚場自体も関東に比べて関西は少ないね」
「ぼくが生まれ育った土地は、豚肉がおいしい地域ではなかったのか…!」
「今は、コストをかけてもおいしい豚肉を作ろうとしている人もいるかもしれないけどね。日本の豚肉、僕らが子どものころは臭かったんだよ」
「最近は、おいしくする方法がわかってきたってことですか?」
「脂をうまくするにはどういう餌を食わせばいいか…というのがわかってきた。昔はよく豚に食品残さ…つまり残飯を食わせていた。そうすると肉が臭くなっちゃうんだよ」
「雑食だから…。食べたものがそのまま反映されるんですね。わかりやすい!」
「世の中で出た食品残さを普通に処理するより、豚に食べさせて排泄物にしてから処理するほうがお金かからないわけよ。国が方針として一時それを推奨してて。補助金がでるし、エサ代も浮くので協力する人たちがいたけど、いい肉はできないよね」
「そんなことが…! 今ではもうやってないんですか?」
「今でもやっているところはあるよ。豚は、1カ月半で脂が変わるから、それまでどんなに悪いものを食べさせても。出荷1カ月半前からいいエサを食べさせればいい肉ができちゃうんだよ。そういう方法でエサ代を抑えつつ、国の補助金を受けながら、いい肉を提供しているところもあるよ」
「すごい…! ナウシカみたいな世界になったら、豚を大量に増やさないとですね…。豚って食べられるだけじゃなく、畑の肥料を作ったり残飯の処理してくれたり、めちゃめちゃいいやつですね!」
「そうだね。豚肉の脂身はエサで決まる。エサの研究がされて、おいしい肉ができるようになった。ちなみにウチでは、シンプルなエサが6~7割でとうもろこしは3~4割程度にして、あとはイモ類や麦を混ぜてる。とうもろこしを多くし過ぎると、1匹あたりのコストは下がるんだけど脂がちょっとしつこくなる。マイルドで甘みがある肉を作るためにエサを工夫してるんだよ」
「へー! ぼくもイモ食べよ! 脂身以外はどうやって決まるんですか?」
「赤身の肉質は、品種の掛け合わせで変わってくるね。黒豚や中ヨークシャ種は肉質はよくなるけど発育が悪い。なのでコストダウンするために1頭の豚でできるだけたくさんの子豚を育てて、なおかつ少ないエサでできるだけ発育を早めて…としていくと肉質がどんどん悪くなるワケ。ウチはLWDっていって、いわゆる三元豚」
「3つの種を掛け合わせてるから三元豚なんですよね。肉屋時代に習いました。そういった掛け合わせで、コストと赤身の肉質を調整しながら、エサで脂身をよくしていく…というワケですね」
「そうそう。方程式なんだよね。ウチは大衆肉だから、毎日食べられるおいしい豚肉を目指してる」
「ぼくはWebの編集者なんですが、インターネットの記事も品質が悪いというか安くいっぱい記事を作るタイプと、時間やお金をかけてしっかりいい記事を作るタイプがありますね。いいものを作るには、お金もかかるし手間暇もかかりますよね」
「そうだね。やっぱり、なんでもちゃんとしたものを作るとお金かかるんだよね」
養豚農家になったきっかけ
「下山さんは親の後を継いで…というワケじゃなく、1代で養豚を始めたんですよね。きっかけってあったんですか?」
「本当は獣医として養豚農家のコンサルタントになろうと思ってたんだよ。大学生のころ、養豚の教授に相談したら『養豚農家にバカにされないようにするには、現場をしらなきゃダメだよ』って養豚農家に修行しにいったんだけど、それがもう厳しくてさ…」
「今の下山農場さんみたく、農場が効率化されてないですしね」
「朝6時から起きて夜7時まで仕事して、全寮制だからすぐ寝て…っていうのを繰り返してた。農場でも言ってたけど、昔はうんこをリヤカーに積んで堆肥舎まで引っ張っていたんだよ。臭い臭い!」
「そのままコンサルタントにはならずに養豚農家になったんですか?」
「いい話が来たから2年で辞めて、農場のコンサルをしてたね」
「つらかった2年があったから、自分の農場はできるだけ楽にしようといろんな方法を導入してるんですかね?」
「そうだね。あんまり働きたくないから…」
新しい人材について
「最近、養豚業界の人材ってどうなんでしょう?」
「新しく現場に入ろうとしているのは、女性が多いね。非常にやる気があって」
「養豚に女性! なんか意外ですね!」
「畜産大学の学生で、養豚の現場に入ろうという男はほとんどいない。だから、養豚業界も女性が勤めやすい環境を作らないとね。雇う側も時代に合わせなくちゃ生き残れないよ」
「どういう人がほしいってありますか? 一応、求人のアイデムがやっているメディアなのでそういう情報も入れたいんですよ…!」
「どんな人でも、素直でやる気があれば。ぼく、だいたいは仕込めるから」
「新人教育に自信が相当ありますね!」
「あるねえ! ぼく、自分で仕事するのは好きじゃないんだけど、人を育てるのは嫌いじゃないんだよね。育っていく姿を見るのがすきなんだ。マメにコツコツやるタイプじゃないから、労働時間長いとか大嫌いだし」
「仕事のコツとかめちゃめちゃ教えてくれそう…! でも、楽で稼げるならそれが一番いいですからね」
「そうそう。それにこの仕事はちょっと特殊だからね。去勢もしなきゃいけないし。玉をだよ? それ見て倒れちゃう女子大生もいたんだよ」
「確かにめちゃめちゃ特殊ですね…。じゃあ、やる気があって去勢に抵抗がない人はぜひ養豚農家にですね!」
「まぁ、去勢も何回もやってればなれるけどね!」
「なれるらしいので、この記事を見ている去勢がダメな人もぜひ!」
「養豚場を取材させていただいたおかげで、豚知識がたくさん増えました! ちなみに、下山農場さんの豚一頭はだいたい3万3000円~4万円くらいのお値段だそうですよ。プレステ4とだいたい同じ!」
「フゴ!(プレステ4と比べんな!)」
ライター:加藤 亮
株式会社バーグハンバーグバーグ所属の編集者。好きなモビルスーツは「ザク2」。Twitter:@katokato