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日本の海、砂浜なくなりすぎ! 年間300頭から1頭まで激減しているウミガメが鳴らす警鐘

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日本の海、砂浜なくなりすぎ! 年間300頭から1頭まで激減しているウミガメが鳴らす警鐘

スイスイ〜

 

チャプチャプ

 

暖かい日差しがキラキラ反射する水槽に、悠々と泳ぐ大きなウミガメたち……。

 

うわ〜こんな近くで初めてみた! ウミガメってかわいいんですね!

 

こんにちは! ライターの髙木です。私は今、「うみがめ博物館カレッタ」に来ています!

 

文字通り、ウミガメを専門とした博物館で、飼育されているたくさんのウミガメたちを間近で見ることができるほか、ウミガメの生態や自然の大切さを学ぶことができます。

 

ウミガメってこんな顔してるんだ! 目がくりくり!

 

博物館の目の前には、大浜海岸というとっても綺麗な砂浜が広がっています。広々としてて気持ちいい〜!

 

ウミガメがいて、青々とした海があって、ここはどこだと思いますか?九州の南の方?それとも沖縄?

 

いえいえここは……

 

/徳島だー!!!!!\

 

ここは徳島県の南東側にある、美波町日和佐という海沿いの町。あんまりイメージが湧かないかも知れませんが、徳島って南国感のある美しい海が広がるところなんですよ〜!

 

 

取材はまだ寒い時期でしたが、日和佐は冬でも温暖です。

 

大浜海岸には、毎年5〜8月にウミガメが上陸して卵を産卵します。かつて、多い時では年間延べ300頭が産卵していましたが、今では10頭以下まで減少してしまっているとか。

 

施設には、年ごとのウミガメ上陸数を可視化したグラフがあるんですが……。

 

平成30年に至っては、1回!!

 

日和佐うみがめ博物館カレッタでは、そんなウミガメの深刻な現状も伝え、ウミガメの保護活動にも取り組んでいます。

 

「かわいいウミガメが見られて学びもある、めっちゃ良い場所! それにしてもウミガメの博物館って珍しいなあ〜。もっと詳しくお話を聞いてみたいな」

 

そう思って声をおかけした、学芸員の田中さん。

 

「あ、カレッタのことですか。お話はありがたいんですが……あの……じつはここ6月から休館しておりまして……」

「休館!!」

「施設のリニューアルのためなんですよね。令和6年3月末まで一時休館する予定です」

「1年近くも!?」

「でも、せっかく今日来ていただきましたし、この場所のことを知ってほしいんです。ウミガメが絶滅の危機に瀕している今こそ、ウミガメのこと、日和佐の海岸のことを記憶してほしいと思っています」

 

休館のお知らせから始まったインタビュー。お話を聞くと、リニューアルの背景には、ウミガメ保護発祥の地が辿った歴史と、新たなスタートを切ろうとするまちの姿があったのです。

 

登場人物:

徳島在住のライター。徳島のことが大好き。
日和佐うみがめ博物館カレッタの学芸員。ウミガメを愛する男。

 

地元の中学生が始めたウミガメ研究

1階ホールでは、ウミガメを含むカメの進化の過程がビジュアルで展示されている。床に描かれた巨大なシルエットは、約7500万年前に生息していた巨大なウミガメ「アーケロン」のもの

 

「改めて、今日はよろしくお願いします! そもそも、どうして日和佐にウミガメの博物館ができたんですか?」

「この地域には昔からウミガメがたくさん上陸し、海の神様の使いとして親しまれていました。しかし戦後の食糧難の時代、海岸の裏にあった日和佐中学校の生徒たちが、海岸でウミガメが人に食べられて亡くなっているのを見つけたんです

「ショッキングな光景だ……!」

「そんな悲惨なできごとを防ぐため『自分たちでウミガメの研究をして、地域の人たちにその存在を知ってもらおう』と活動を始めたことが日和佐のウミガメ保護の始まりです」

 

博物館に展示されている、当時の中学生たちの写真。自主的な活動でありながら、その当時は海外の専門家も驚くほど本格的な活動だったそう

 

「上陸の記録を毎日取ったり、ウミガメの人工孵化や飼育に取り組んだりと、物のない時代にも関わらずかなり本格的な活動だったようです」

「中学生が! すごいですね」

「彼らの活動は全国メディアにも取り上げられ、当初の目標は達成できました。その後、ウミガメたちが大きくなって中学校では育てきれなくなったため、プールのような水族館を行政がつくり、当時の日和佐町(現:美波町)が飼育を引き継いだと言われています」

 

当時の中学生が孵化させたウミガメの一頭、浜太郎。現在72歳で、年齢の分かるアカウミガメとしては世界最高齢!2023年8月13日に73歳の誕生日を迎える。

 

「そこからまちが関わっていたんですね」

「生徒の研究活動は一旦幕を閉じましたが、ウミガメを保護する活動は、そのまままちの観光へと活用されるようになりました。大浜海岸の近くに旅館『うみがめ荘』を建てて、昼間は水族館でウミガメを見て、夜は旅館に泊まって産卵を見るという、今でいうエコツーリズムのシステムをつくりました

「ウミガメづくしプランだ!」

 

博物館の隣には宿泊施設「国民の宿うみがめ荘」があるほか、ウミガメ上陸を見守る監視小屋が浜の側にあったり、

 

ちょっとずんぐりしてるけど、公衆電話がウミガメの形をしていたりと、いたるところにウミガメに関連したものが

 

「そして1985年、より専門的な知識を伝えられるよう、水族館から町営の博物館に生まれ変わったという歴史があるんです」

中学生たちの“ウミガメを守りたい”という思いが、まちに脈々と受け継がれたんですね」

 

 

日和佐から、ウミガメ研究の全国ネットワークが誕生したのだが……

展示コーナーでは、日和佐に上陸するアカウミガメのほかアオウミガメやヒメウミガメなど、多様なウミガメについて解説。甲羅のサイズも形も全然違う!

 

甲羅を背負えるコーナーも。意外と軽い!

 

「いろんなコーナーがあって、はしゃいじゃいました……博物館に生まれ変わってから、どうなったんですか?」

「開館から3年後、世界的にもウミガメ研究が進んできて、この博物館で『日和佐海亀国際会議』が開催されたんです」

 

国際会議では、各国のウミガメ研究者が一同に会したとか

 

「へー! すごい!」

「この国際会議が、日本のウミガメ保全活動の連携を目的とする『日本ウミガメ協議会』が誕生するきっかけにもなりました。年に1回ほど、研究者だけではなく、地元の漁師さんやフィールドワーカーなど全国各地のウミガメに関わる人が集まる場がつくられたんです」

 

矢印の人物、ウミガメ保護の礎を築いた近藤康男先生が、市井の人たちにもウミガメ研究にもっと携わってほしいと提言されて協議会が発足したそう

 

「国際会議がきっかけで、各地のウミガメ情報が共有されるようになったんですね」

「ええ。ただ、そうして情報が共有されたことで、アカウミガメの産卵回数が全国的に減りつつあることもわかってきたんです

 

「あれ……!?」

「それと連動するように1990年以降、大浜海岸に産卵するアカウミガメも減る傾向が進んでいくんです」

「あ、あれ、なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ……」

 

ウミガメの減少と、遅れていったウミガメ保護の知見

「ウミガメの情報が日本で共有されるようになったものの、全国的なウミガメの減少にはなかなか歯止めがきかなくて。大浜でも、減少傾向は止められませんでした」

「日和佐では、当時からウミガメ保全の活動を何かしていたんですか?」

 

「うーん……」と言葉を探す田中さん

 

「そもそも当時は、『ウミガメが減少している』『生物が絶滅の危機にある』という具体的な証拠は、まだまだ日本では認識されていない時代だったと聞いています」

「『このままだと絶滅する!』って危機感自体が薄かったと」

「その中で日和佐は『ウミガメを観光利用して世の中に知ってもらうこと』がウミガメと人との共生であると考えていたようです。ウミガメの保全や産卵地の保護といった考え方は、もっと後の時代になってから見えてきたことなんです」

「なるほど……」

「更に時代が進むにつれて、別のまちの水族館で人工繁殖に成功したり、発信機をつけてカメを追跡する研究が進んだりと、ウミガメの最新情報が日進月歩で更新されていきました。すると、日和佐のウミガメの聖地としての位置付けは薄れていってしまったんですよね。まるで浦島太郎状態でした

 

(……ウミガメだけに?)

「それにしても、いまとは環境や生き物に関する意識が大きく違いますね」

「ただ、博物館の初代館長は、大浜での上陸産卵数の減少は砂浜環境の変化のせいだろうと予想していたんです。1995年にはウミガメ保護条例をつくって、海岸周辺の街灯を暗くしようとしました

 

映像コーナーでは、産卵のダイジェストが流れる。映像のなかでは、真っ暗な砂浜を子ガメたちが海へと走る様子が

 

「すごい! その当時で原因を予測していたんですね」

「初代館長はウミガメ研究者の方と密に連絡を取り合って、最新の情報を仕入れていたんです。だから、砂浜環境の変化がウミガメの減少にも関係している可能性があると考えることができた」

「初代、さすがだ」

「でも、ここは町営の施設なので、スタッフは町役場の方が持ち回りで人事異動してくる。初代館長のようなウミガメ愛のある人がずっと担当を続けられるわけではなかったんですよね」

「まちとしては、施設を維持することが仕事ですもんね……」

 

じつは、ウミガメは水槽にぶつかって設備を壊してしまうことが多く、水族館にとっては困った一面もある生き物なんだとか。そのことも、ウミガメを専門とした博物館が珍しいとされる理由のひとつ

 

「なかなか手を打ってこられなかったことが、日和佐のウミガメ減少に繋がったんでしょうか?」

「研究者がいなかったことへのロスは大きかったと思われますが、それが日和佐のウミガメの上陸数の減少に直接関係しているとは言えないんですよ」

「ん?どういうことですか?」

 

人間の生活のしわ寄せが、海の生き物を追い詰めている

生息域が広いウミガメは、局所的な研究では把握できないことも多い。海流や地球の自転など、さまざまな地球の動きを読んで移動するとされている

 

「そもそも、ウミガメが減少する理由はすごく複雑なんです」

「というと?」

「日本近海で生まれたウミガメは、成長して大人になるまでの約40年を、太平洋を横断しながら生活します。さらに、成熟してからは東シナ海や太平洋の何千キロ沖に住み、産卵シーズンになると故郷の砂浜に帰ってくる」

「すごく広大だ! つまり、日本で生まれたウミガメでも、生息域は日本だけじゃないんですね」

「そうなんです。回遊するウミガメは、人間にとってはあまりに長く、広いスケールで生きている動物なんです」

 

「だから、どこに減少要因があるのか非常に見えづらいですし、なぜ日和佐で産卵が減っているかも、追及が難しい」

「なるほど」

「実際、海の中では漁師さんの網にかかってしまったウミガメが、窒息して死んでしまうこともあります。『漁業による偶発的な混獲』といわれるのですが、日本では、『ウミガメが漁業の影響を受けている』という事実すら知られていない現状があります」

 

漁船にぶつかった後遺症で甲羅が変形し、身体が浮いてしまっている子ガメ。カレッタでは、このようなウミガメも保護して飼育している

 

「じゃあ、ウミガメにとってはなにが一番の問題なんでしょうか?」

「一番がこれ、と明言はできませんが、深刻な問題がひとつあります。それは、日本人の生活が、気がつかないうちにウミガメの故郷を失くしてしまったことなんです。それは、砂浜の減少や、砂浜が産卵地に適さなくなっていることです

「砂浜?」

「砂浜がなくなると、産卵も孵化もできなくなってしまいます。今の日本は、ウミガメにとって健全な砂浜があまり残されていません

「そ、そうなんですか!?」

「砂浜というものは、川の上流から砂が流れてきてそれが滞留してできます。山があって、川があって、砂の溜まりやすい場所が海辺にあって……。複数の自然環境が整ってこそ、砂浜の砂が維持できるんです」

「いろんな環境が必要なんですね」

「だけど、日本は港湾環境的に波が荒れやすく、ひとの安全や利便性のために砂浜が成り立つサイクルを崩し続けてきました。その結果日本から多くの砂浜が消えちゃったんです」

 

川や海を舗装することで、砂浜ができるサイクルを崩してしまった

「なるほど。防災も大事ですもんね……」

 

東日本大震災をきっかけに防災観念も高まり、砂浜環境の維持は重要視されにくくなったそう

 

「ウミガメは産卵の時、約60センチの穴を掘るんです。だから砂浜が痩せてしまうと産卵できないし、産卵できたとしても卵が波に攫われてしまう」

「ふむふむ」

「さらに今後、地球温暖化が進むと海面が上昇するでしょう。本来なら、砂浜は陸地側へ後退すると言われているのですが、背後が防潮堤などで固められてしまうとそれもできないので、砂浜が消失してしまうとも言われています」

「消失!」

「ウミガメは、本来繁殖力の強い動物で、健全な砂浜が豊富にあれば、簡単に減るような動物ではないと思うんです。でも、繁殖できる場所がなければ、減少しますよね

「産むことも、生まれることもできなくなるから……」

「ウミガメは、産卵する砂浜を自分で決めると言われています。それほど砂浜の環境は大切なんです。防災を意識するにしても、そのやり方も考えなければいけないと思いますね」

 

ウミガメは一度の産卵で120〜150個ほどの卵を産むが、孵化するのは半数程度、さらにそれが大人まで無事に育つのは1%以下だという。だからこそ産卵場所があることが大切だ

 

「人間の生活のしわ寄せがウミガメに……!」

砂浜周辺の明るい街灯や家の光も、ウミガメの産卵には悪影響です。強い光は親ガメの産卵を忌避させるうえに、子ガメは砂浜の明るさを頼りに沖へ目指す習性があるため、より強い光があると、それに引き寄せられてしまうんです」

「私たちの暮らしがウミガメにそんな影響を与えていたとは……」

「そのまま、海に帰れずに鳥に食べられたり、昼間の灼熱の砂浜に焼かれて死んでしまう場合もあります」

 

「ウミガメは、海のひとつの“バロメーター”だと言われています。あんなに力強いウミガメが減るってことは、もっと繊細な魚介類や虫たち、植物や鳥たちは更に強い影響を受けているとも考えられるんです」

 

 

ウミガメと共存し、世の中の意識を変えていくためのリニューアル

生まれて1年目の赤ちゃん子ガメ。ほんと〜にかわいいんです! 守りたいこの命

 

「ウミガメと共存していくために、まちはどういうことを目指しているんですか?」

まずは砂浜の保護の徹底です。産卵地として機能している美波町が砂浜を残していくことは、ウミガメ保護発祥のまちの責務だと思っています。かつて年間300頭も上陸していたウミガメも今は10頭未満、年によってはゼロということも珍しくありません」

「改めて聞くと、とんでもない減り具合ですね」

「今では、徳島県内でもこの場所がウミガメの産卵地であることを知らない人もいるんですよ」

「観光資源としてのウミガメの価値が低下すると、いよいよ人々の意識が保てないと」

「そうです。悪循環ですよね。でも、小さい頃からウミガメに親しんで育ち、ウミガメを守ろうとする人がこのまちに少なからずいます。それに、日本や世界には、ウミガメの保護のために最前線で取り組む人たちがいることを忘れてはいけません」

 

「博物館のリニューアルにあたり、町役場の方をはじめとする地域の人が資金集めにとても尽力してくださいました。今もたくさんの方に全面的にご協力いただきながらなんとか準備を進めています」

「美波町をあげてのプロジェクトなんですね」

「そうです。そんなまちの人の思いを乗せて、大浜海岸を守り、ウミガメなどの野生生物と人とが共存していく姿勢をモデルケースとして世の中に示し続けていくことこそが、この施設の役割だと考えています」

「それにしても、みなさんの情熱もすごいですよね……なぜそうまでして、ウミガメの保護ができるんでしょう?」

「私は、アカウミガメの生息数がそう遠くない未来に回復傾向に向かっていくことを信じています」

「うんうん」

「でも、ウミガメたちが帰ってきたその時に、ウミガメの聖地である大浜海岸が残っていなかったり、徳島自体にウミガメの故郷がなかったり……そんな事態になるのは防ぎたい。だからいま、このまちにできることとして、いつでもウミガメ達が帰ってこれる状態を保持しておきたいんです」

「ウミガメの故郷を守るため、なんですね。施設はどんなふうにリニューアルされるんでしょう」

 

ウミガメたちにごはんを上げる田中さん

 

「老朽化が進んだウミガメのプールを、彼らが暮らしやすい環境に改修することが第一の目的です。ただ、施工の関係で先に展示を刷新することになりました。最新の情報を集約して、正しい知見や全国の現場の声を発信し、自然への理解がより深まるような博物館にしていきます」

 

展示では、ウミガメの生態や、産卵について解説されていたが、情報更新が進んでいなかったため全体の刷新がおこなわれる予定

 

「さらに、来館者に体験を提供するような事業もおこなっていきたいと考えています」

「体験の提供ですか?」

「現状では、大浜海岸のウミガメの産卵観察は、その数の減少からサービスとして立ち行かなくなっています。それよりもウミガメの調査員が普段おこなっている活動や、フィールドワーカーにしかわからない驚きや感動を味わってもらうような質の高い体験の提供にシフトしていかないといけない」

「専門家たちの活動が私でもできる!? やってみたい……!」

私たちが自然の営みに合わせることが大事ですね。これはウミガメに限った話ではありませんが、生き物を知る現場と、一般の人との意識にはかなりの乖離があって……」

「ああ、少し前にウミガメの放流会が問題にもなっていましたよね。夜中に孵化した子ガメを日中に放流すると、結局ほぼ死んじゃうとか」

「カレッタでも、2010年ごろまでは放流会をやっていました。夕方に放流するなど『子ガメに配慮した放流会』を模索していましたが、一方で子ガメの可愛さから、絶大な集客力や教育効果を感じていたのも事実です」

「子どもたちが見たら、きっと感動しますもんね」

「それでも、私たちが放流会を完全にやめたのはもう10年以上も前のことです。それがいま、『新しい知見』として全国で話題になっていることには、正直驚いています。自然保護を考えることがいかに難しいか、現場の声がいかに世の中に届きにくいかがよくわかる事例だと思いますね

「専門家たちと市井の人たちとのあいだには、かなりのタイムラグがあるんですね」

「そういう情報を更新するためにも、体験事業や博物館による教育が必要だと思います。『人が自然に合わせる、寄り添う』という姿勢を大切にして、いつかは世の中の人たちが『日本中の砂浜が自然な状態になってほしい』と当たり前に考える日が来ると願っています」

 

目の前にある大浜海岸に移動してきました

 

「日和佐とウミガメのあいだには、本当にたくさんの人の関わりと歴史があったんですね」

「ええ。そこには成功も失敗もありました。ただ、日本各地で砂浜がなくなりつつあるいま、日和佐のウミガメ保護の活動がなければ、大浜海岸が今の形で残っていなかったかも知れません。そういう意味では、さまざまな人がこの大浜を守り続けてきたと考えることもできます」

 

「カレッタのリニューアルは、このような地域のあり方が見直され、問題の解決にむけて前進していく大きな転換点だと考えています」と田中さん

 

「そのうえで私は、ウミガメとまちの人が『ふるさとを共有』できるようになるのが理想的だなと」

「『ふるさと』ですか?」

 

「自分たちが生まれ育った地元の、あるいは故郷の浜辺が、ウミガメにとっても地元や故郷なんです。種族の違う生き物がともに生きられる場所って、誇らしい場所だと思うんです。それを地域の人がもっと意識することで、環境整備のあり方や観光コンテンツのつくりかたも変わってくる

「ウミガメにとっても、人間にとっても魅力的なまちにすることが『共生する』ということなんだ! 田中さん……!」

 

まあ、私は正直、まちの発展というよりは、ウミガメのことが第一なんですが……

「田中さん〜〜!!」

「私個人の思いとしては、自分が関わった場所にウミガメが来なくなってほしくないし、関わった以上は改善につなげたい。ウミガメのことを第一に考えておきたいんです」

「ウミガメファーストの田中さんだからこそ、観光開発の楔になるのかもしれないですね」

「ただ、やれることを全てやっても上陸数がすぐ戻るとは思っていません。長期的に地道にできることをやっていきます」

「これからが本番ですね」

「はい。でも、私たちが閉館している時も、ウミガメはやってきて、卵を産み落としていくことに変わりはありません。閉館している時も、このことを忘れないでくださいね」

 

おわりに

ウミガメが大好きで、ウミガメが生きる場所を守りたい田中さん。

 

だけど、人の営みや意識の違い、施設の慣習などいろいろなことが壁になり、個人の思いだけでは自然破壊を食い止めることができない実情と、だからこそ、地域との連携や、人々の意識を変えていく活動のなかで葛藤する田中さんの姿が印象的な取材でした。

 

今回の取材で、地元の自然に対してのまなざしが変わりました。自然は当たり前にあるもので、何もしなくてもずっとそこにあると思っていましたが、自分の知らない間にウミガメたちが追い詰められ、健全な自然環境はどんどん失われつつあった。誰かが守ろうとしてくれているから、それが残っていたのだと。

 

博物館があったからこそ、そのことに気づけました。夏、多くの人が海にいく機会が増える季節です。ぜひ遊びの合間に、海辺の様子はどうなのかチェックして、海の環境について考えてみてください。

 

そして、ウミガメ博物館がリニューアルした暁には、徳島に遊びに来てくださいね! 雄大でとってもキュートなウミガメたちが、癒しと一緒にいろんなことを教えてくれますよ。

 

/待ってま〜す! \

 

【施設情報】

日和佐うみがめ博物館カレッタ

住所:徳島県海部郡美波町日和佐浦370-4
休館期間:令和5年(2023)6月1日〜令和6年(2024)3月31日(予定)
HP:https://caretta.town.minami.lg.jp/

※令和6年(2024)4月1日からは博物館建物内の1階部分のみを公開し、仮オープンする予定です。全面面改修工事の完了は令和7年(2025)3月31日の予定となっております。

 

編集:ヒラヤマヤスコ
撮影:福井亮陽


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