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役には立たない! 立ちたくない! 看板を20年も背負い続ける「UMA研究家」の生きざま

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役には立たない! 立ちたくない! 看板を20年も背負い続ける「UMA研究家」の生きざま

皆さんこんにちは、ライターの冨田ユウリです。私が持っているこの子、なんだかわかりますか?

 

ネッシーです。私はいま、公園の真ん中でネッシーのぬいぐるみを持って立っています。ネッシーが大好きだからではありません。どうしてぬいぐるみを持って公園に立っているのか。話は一週間前に遡ります。

 

ジモコロ編集長・だんごさんからのメッセージ

 

「(ウマ? だんごさん、ウマのことをUMAって表現するのか、シャレてる〜〜)」

「あまりよく知らないです! 乗馬したことはありますよ!」

「そのままでいてください」

「(“そのままでいてください”?)」

 

30分後、電話にて

「あ、もしもし! だんごです!」

「はい、冨田です」

「さっきはありがとう! UMA(ユーマ)、僕大好きで」

「(あ、ユーマっていうんだ)」

「UMA研究家の方を一緒に取材してほしくて。僕が詳しいから、UMAを知らないライターさんにお願いしたいと思ってたんです。何も知らない状態でいいから! むしろ調べないでね!」

「あ、え、はい」

「集合時間と場所はまたメッセージするから! じゃあ!」

(なんだか少年のようにワクワクしていたなあ。調べないでと言われたら、調べたくなっちゃう。ちょっとだけならバレないよね……)

 

 

 

 

ということで、UMA研究家の方に会いに行くことになりました。名前は「中沢健(なかざわ・たけし)」さん。

 

スマホの予測変換から、なんだかミステリアスな雰囲気漂う「UMA」。UMAをご存知の方も、そうじゃない方も、何も知らない私とUMAファンのだんごさんと一緒に、まずは中沢さんのご自宅へ向かいましょう。

 

中沢さん、UMAってなんですか?

「初めまして、UMA研究家の中沢健です。ようこそ僕の自宅へ」

「よろしくお願いします!」

「どうぞどうぞ、謙遜ではなくお見せできるような部屋ではないですが。さあ中へ」

「ありがとうございます。失礼します」

 

「わ〜、物がたくさん溢れてますね。なんだか宝探しできそう!」

「ふっふっふっ」

「この本はなんですか?」

「(おお、さっそく興奮気味に質問している)」

 

「『怪獣画報』ですね。特撮の神様といわれる映画監督の円谷英二さん監修で、世界中の怪獣が載っています。僕が生まれる前に発売された本ですね。ゴジラやウルトラマンの怪獣と一緒に、恐竜やUMAも紹介されています」

 

「すみません、そもそもUMAというのは……?」

「冨田さん、UFOは知ってます?」

「はい、あの空を飛ぶやつ」

「そう。UFOは未確認飛行物体ですね。UMAはUnidentified Mysterious Animal=未確認動物です」

「なるほど! UFOのアニマル版ですね!」

「UMAは日本人が作った造語なんです。英語だとHidden Animalとかいわれています。ネッシーは聞いたことありますか?」

「ああ! ネッシーは知っています!」

「ネッシーはまさにUMAです。僕は世界中のUMAの目撃地で調査をしていて、ネッシーを探しにスコットランドのネス湖にも行くんです。グッズがたくさんありますよ、ちょっと待ってくださいね……」

 

「これはね、ネッシーのゲームブック」

 

「語学が堪能じゃないから遊べはしないけど……」

 

「これはネッシーのバッグ。僕、グッズを集めるのが好きなんですよ」

「おお! 他には、他には!」

 

「これは山梨県にある本栖湖(もとすこ)のUMA・モッシーのステッカー」

「モッシー。ネッシーみたいなUMAが日本にもいるんですね」

「結構マニアックなので、地元でもあまり知られていないと思います。ヒバゴンという類人猿のUMAも日本で目撃されていますよ。あ、ヒバゴンのPOPがあった」

「POP? あの、お店に貼られているやつですか?」

 

「10年くらい前かな、ヒバゴンを探しに広島県の比婆山(ひばやま)に行って。お土産店に貼ってあったポップを見つめていたら、くださいとも言っていないのにおばちゃんがくれたんですよ

「よっぽど物欲しそうに見つめていたんでしょうね」

 

「これはそのとき買った、お饅頭『ヒバゴンのたまご』の箱です」

「お饅頭の箱まで取ってあるんですね。家には何点くらいグッズが?」

「うーん、数百点はあると思います」

 

「DVDもたくさん。オカルト系のものもありますね」

「幽霊もUMAも同じオカルトというジャンルで扱われることもあって、オカルト系の仕事もあるんです。この前は心霊物件を扱った番組収録の前日に、突然天井が落ちてきて

 

「やだ、怖い。幽霊もUMAなんでしょうか?」

「難しい質問ですね。UMAも幽霊も正体は未確認のものですから、幽霊として語られているものの中には未確認の生き物だって含まれているかもしれません。その逆でUMAと言われているものの正体が幽霊の可能性だってありますよね?」

「たしかに……」

「最近だと、河童とかの妖怪もUMAとして紹介されている場合が多いです。そのあたりの定義ってあいまいで。ただ、目撃情報があることは必須です」

「なるほど! あれ、中沢さん、シャツに紙を貼っているんですか?」

 

「安全ピンで留めてある」

「自宅以外ではこれをこのまま着ているんです」

「外に出るときに?」

「ここだと狭いので、続きは外で話しましょうか。近くに公園があるので」

 

一人でも、電車でも、いつでも正装

「みなさん、お待たせしました!」

 

「……この格好でいつも外を歩かれているんですか?」

「はい、そうです」

「一人でも?」

「はい」

「仕事じゃなくても? 電車でも?」

「そうですね」

「……」

「……」

「とりあえず、座ってお話を伺いましょうか」

 

「今日は暑いですね」

「中沢さん、長袖シャツだと暑くないですか?」

「これが一番薄い生地なんですよ」

「一番薄い生地? Tシャツもあるじゃないですか」

「Tシャツに安全ピンは、ちょっと……」

「そ、そうなんですね。冬は寒くないですか?」

「冬は流石に寒いので、コートにこの紙を付けるようにしています」

「なるほど、一番上に着るものに装着されるんですね」

 

誰かに見つけて欲しかった

「改めまして、今日はよろしくお願いします。まず聞きたいのが……いつからこの格好に?」

「大学で茨城県から上京してからだから、もう20年たちますね。僕、もともと小説家になりたくて

「読みました、中沢さんが書かれた小説。いつから作家志望だったんですか?」

「記憶にないのですが、5歳くらいだと思います。4歳のときに書いていた将来の夢が『ウルトラマン』で、5歳で『本屋さん』に変わっているんですよ

「たった一年で大きく変わりましたね」

ウルトラマンは人に作られたもので、なれないと気づいたんじゃないかな。当時は本屋さんが自分で本を書いていると思っていた気がする。いわゆる作家になりたいという意味だったんだと思います」

 

「作家になりたくて上京して、どうしてこの格好を?」

「路上ミュージシャン、いるじゃないですか。僕が上京した頃って今以上にたくさんいて」

「東京は道端でパフォーマンスをされている方が多いですよね」

「そう、通りがパフォーマーだらけだったんですよ。で、僕も作家志望らしいパフォーマンスをしようと思って、小説とか詩を貼り付けて歩くようになったんです」

「だいぶフィジカルな方向に行きましたね」

 

「今はイラストが中心ですが、作家志望のパフォーマンスということは、もっと字がぎっしりと?」

「はい、ほぼ活字でした。短編小説を身につけて歩いていて、作品を読んでもらいたかった。当時はまだ本も出していなかったので、誰かに見つけてほしかったんです。出版社の人に声をかけられないかなって」

「実際、声はかけられました?」

これを普段着にして2週間後、池袋の本屋で東スポの記者さんに話しかけられて、記事になったんですよ」

「すごい!!! どういう記事だったんですか?」

「タイトルは『看板男、現る』だったかな」

 

「看板男、現る」

 

「確かに看板化してますね。素晴らしいタイトル! 読んでみたい!」

『歩く雑誌』ともよく言われていました」

 

メッセージ性を「弱めたい」

「頭の『動く待ちあわせ場所』っていうのはどういう意味なんですか?」

「ああ、これはメッセージ性を弱めたかったんですよね

「え、強めたい?」

「いえ、弱めたい」

「え?」

 

「弱めたくて」

 

「(強めたいんじゃなくて……?)」

「細かい文字が書かれてあると、なぜか政治的メッセージを発信したい人に思われるみたいで。僕はそういったメッセージを届けたいわけじゃないから、どうしようかな、と」

「ほうほう」

役立つメッセージを発信する人だと思われたくなかったんです。だから、動いたら役に立たないものを考えて」

「まさか」

「待ち合わせ場所は、動くと役に立たないじゃないですか。だからいいかなって」

「一休さんのトンチみたいですね」

 

「あのときの気持ちは今でも変わっていないですね」

「役に立つことを発信したくない、という?」

「はい。UMAって、何の役にも立たないんですよ。オカルトの中には陰謀論とかもありますよね。あれって、ある意味、社会をよくしたいという動機もあって広められているものだと思うんです」

「社会とか政治に対して『隠されている真実がある!』というものが多いですもんね」

「でも僕自身は『世の中をよくするために』とか、そういう熱意はない。ネッシーがいようといなかろうと、生活が変わるわけではないですから。ただ自分が好きだからUMAを探している。そういう姿勢を大事にしたくて

「すごく素敵ですね」

「『役に立たないものに興味を持って何になるんだ』って昔から、今でもよく言われます。でも、僕にとってUMAより面白いものってないんですよね」

 

「ところで中沢さん、公園に来るとき荷物を持ってこられてましたけど」

「これはですね……」

 

「ぬいぐるみを持ってきました。僕が描いたイラストが昔、UFOキャッチャーのぬいぐるみになったんです」

「え! すごい!!」

 

「とってもかわいい! これ全部、UMA?」

「UMAじゃなくて僕の想像上のキャラクター、『イマジナリーフレンド』です」

「中沢さん、イラストお上手ですね」

「いや、自分では上手だと思っていません。美術の成績は2でしたし。でも安齋レオさんという玩具プロデューサーの方に気に入っていただいて、こうやって商品化できて」

「自分のイラストが形になるって、嬉しいですね」

 

「そうですね。僕のイラストは小さい頃から上達していないし、プロとはいえません。でも、100人中99人に褒められなくても、1人に素敵だと言ってもらえるものを作れたら、仕事になることってあるんですよね」

「イラストを見せることが恥ずかしいとか、そういう気持ちはなかったんですか」

「『作品のクオリティがもっと上がったら』とか『今この段階で世に出すのは』とか、表に出すことを躊躇する人もいると思うんですが、ビビらず見せていくほうがいいんじゃないかな。行動しなくちゃ何も生まれませんから」

「いや〜、しかし本当にかわいい〜欲しい〜〜」

「この緑の子“ほしくい”は、人間の“スター性”を食べちゃうんです

 

「やだ! かわいいけど、そばにいてほしくはないかも!」

 

「いやあ……かわいいよ……」

「(だんごさんのスター性が……危ない……!!!)」

「これはスコットランドにネッシーを探しに行った時に買ったぬいぐるみですね」

 

「ネッシー、かわいい!」

「(たしかに超かわいい)」

「興奮したら暑くなってきちゃった。どこかカフェでも行きますか」

「大賛成です!」

 

ゴリラもパンダもUMAだった

「カフェでもずっとその格好なんですね」

「そうですね」

「ですよね、当たり前のことを聞いちゃってごめんなさい。UMA研究家の活動って、UMAが目撃された場所へ行って探すんですか?」

「はい、UMA研究家を名乗り始めたのは10年前くらいからかな。当時は時間はあったけどお金がなかったので、車中泊で日本中を巡って、UMAを探した記録をブログやmixiに載せていたんです」

「そこからお仕事に」

「だんだんと雑誌やウェブメディアで記事を書かせてもらったり、イベントに呼ばれたりするようになっていきましたね。ありがたいです」

「そうだ、近々UMAの本を出版されるんですよね」

「そうなんです」

 

「『となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-』という図鑑です」

 

「へえ〜〜、たくさんの UMAが並んでる! イラストじゃなくて造形を写真に撮ってるんだ! かわいい! 手触りまで伝わってきますね」

「フィギュアイラストレーターのデハラユキノリさんに、全て粘土で作ってもらったんです」

 

「あれ、ここに載っているUMAたち、僕が知っているビジュアルとちょっと違うような……」

「さすがですね。デハラさんには今回、UMAの一般的なイメージに捉われず、自由に作ってもらいました」

「本当だ、さっき中沢さんの家で見たヒバゴンも、全然違う」

 

『となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-』より

 

「よくあるのは大型の猿っぽいやつですよね。イエティとかビッグフットみたいな」

「ですね。最近だとヒバゴンってゆるキャラっぽく描かれがちですが、実際の目撃情報だと『あんなに可愛くない』っていう人は多いんですよ」

「え、ネッシーにはタコみたいな足がついてる!」

 

『となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-』より

 

「こんなネッシーは初めてみました」

「僕はずっと、ネッシーはタコに近い生物なんじゃないかと主張していて。それを取り入れてくれていますね。UMAって全体像がわかっている生物ではなくて、見られているのは“一部”だけ。姿形を自由に想像できるところが面白いんです」

「でも、なんとなくUMAって似たような姿で描かれますよね。ネッシーだと首が長い恐竜のような形がほとんどな気がします」

「イメージが固定化されていますよね。今回ありがたいことに、デハラさんはUMAについてそれほど詳しくなくて。僕の説明を元にイメージだけで作ってもらうことができました。もしかしたら『こんなのUMAじゃない!』って怒る方もいるかもしれないけど、『UMAはこういう形』と決めつけるのは違うと思っていて

「先入観なく、新しいUMAを作ってもらったんですね」

「そうなんです。『この本のUMAが正解の形です!』と言いたいのではなくて、読者の方にもそれぞれのUMAを自由に想像してほしいと思っています」

 

「そもそもUMAってどれくらいいるんですか?」

「数えきれないほどたくさんいます。そもそも、新種の生物は毎年約1万8000種類近くも発見されています。この地球にはまだ確認されていない生物のほうが多いんじゃないかな?

「そ、そんなに!」

「今回の本にはこれまでのUMA図鑑には載っていない、新しいUMAがいますよ」

 

『となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-』より

 

「これはシャイニングバット。『頭はなくて羽だけが光って飛んでいた』という目撃証言をもとに名付けました」

「本当にいろんなUMAがいるんですね! 実在することを証明されたUMAもいるんですか?」

「実は、ゴリラもパンダも昔はUMAだったんです。存在することを証明されてはいなかった。でも、今では動物園で会うことができますよね。僕たちの身近にいる生物のなかに、もともとUMAだったものは多いんですよ」

 

いつかUMAを見つけたい

「なんだか私も、UMAを探したくなってきちゃいました」

「お、いいね」

「中沢さん、UMAを見つけたらまず、何をしたらいいですか?」

「僕に連絡してください」

「おお。私、名前もつけたいんです」

初めて発見されたUMAに名前をつけて発表すれば、もうその名前になりますよ

「なんと! とりあえず見つけたらすぐに連絡しますね。中沢さんはUMAをどれくらい見つけてきたんですか?」

「見つけたことはないですよ」

「え!?」

「僕もいつか見つけたいですが、探しても簡単に見つけられるものではありません。それに、“いる”と思うだけでワクワクするんです。UMAを知ると、世界はきっと楽しく見える。今回の本にはそういうワクワクを詰め込みました」

「子どものときに読んだら夢中になっていただろうなあ」

「僕もそう思います。この本は、多くの子どもたちに届けたくて。UMAがいるかいないかではなく、『面白さ』を感じてほしいんです。想像する楽しさを味わってもらえたら嬉しいですね」

 

「今日はありがとうございました! お話聞けて楽しかったです!」

「じゃあ、僕は今からファミレスへ行くので」

「(やっぱりその格好でうろうろするんだ)」

「はい! お気をつけて!」

 

「最高でしたね、今日の取材」

「そうだね」

「UMA、探しに行きたいなあ」

「わかる」

 

「あの、失礼かもしれないんですけど……。中沢さん自身がもはやUMAだった気がしてきました。本当に実在しているのかな」

「わかる」

 

おわりに

UMAを「何も知らない」状態からスタートした今回の取材。取材を終えたその日から、電車でも道端でも家の中でも、UMAを求めてキョロキョロする日々を過ごしております。

 

スマホの充電が切れると今までは「連絡取れなくなっちゃう!」だったのに、「UMAを見つけても写真が撮れない!!」へと気持ちが大変化。どこへ行っても何をしていてもワクワクして、日常が楽しくなった気がします。次回はUMA探しの旅へ、行きたいな!

 

☆お知らせ
中沢さんの新刊『となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-』は7/26(水)に発売! 
7/23(日)まで、以下のページで予約を受付中です。

【予約版】となりのUMAランド -写真で見る未確認生物図鑑-【2023/7/23 まで】

①『UMAを愛でる!!』をテーマにしたUMA座談会の記事(PDF)
②『これってUMAですか?』な怪談を豪華ゲストが語り合う特別動画
③UMA特製ステッカー(ランダム)
上記3つの予約特典も。書籍や特典の詳細は予約ページをどうぞ!

 

撮影:萩原楽太郎


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