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高校生が1日漁師バイト! 石巻のフィッシャーマンが目指す、水産業に人が集まる未来

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高校生が1日漁師バイト! 石巻のフィッシャーマンが目指す、水産業に人が集まる未来

こんにちは、ライターの乾です。

 

みなさんは学生の頃、どんなアルバイトをしていましたか?

 

いま思えば「アルバイト」って、色んな職業を少しの期間だけ体験できるいい時間でしたよね。コンビニ店員、居酒屋のキッチン、遊園地のスタッフに塾の先生……珍しいアルバイトをしたことがある人は、「こんな仕事したことあって〜」なんてエピソードトークがあるだけで、その場の人気者になれちゃいます。

 

もっといろんなバイトをしてみたらよかったな〜なんて考えていると、宮城県石巻市で、期間限定で変わったアルバイトの募集があると耳にしました。それは……

 

1日だけ、漁師になるアルバイト。

 

漁師さんって、そもそもどんな仕事をしているのか? 自分でも、漁師の仕事についていけるの? 疑問が尽きません。

 

詳しく話を聞いてみると、それは石巻市の地元高校生が対象になった「水産業を体験するアルバイト」企画だといいます。

 


・2023年3月25日〜31日に、宮城県石巻市で開催されたイベント

・一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」が企画したアルバイト型職業体験イベント

・牡蠣養殖や水産加工など、さまざまな水産事業者が高校生を受け入れ

・時給は1000円、3〜4時間働いて日給3000〜4000円がもらえる

・船に乗って、漁師さんの働く海を見学することができる

・お昼ごはんには、豪華な「海鮮まかないメシ」が!?

 

石巻にしかないアルバイト……? 海鮮まかないメシ……? わからないことも多いけれど、高校生たちに混じって、漁師の仕事に触れてみようと思います!

 

前編:高校生と水産業を体験! 牡蠣養殖の現場

後編:漁師団体にインタビュー!「働く先に、水産業が選ばれる未来」について

牡蠣養殖の現場へ

「すギョいバイト」が開催された3月26日。石巻に着いて早々、僕は漁船の上にいました。隣にいるのは、一緒にアルバイトをする高校生の面々。

 

「漁船って乗る機会ないから緊張するね。めちゃくちゃ雨降ってるし、思ったよりハードになりそうな……?」

「船に乗ってみると、海ってすごい迫力がありますね……」

 

雨の降る海の迫力に、ライターも高校生もちょっぴりビビり気味です。こんなんでちゃんと働けるのか?

 

この日に乗せてもらったのは、石巻市雄勝町で銀鮭・ホタテ・ホヤ・牡蠣養殖を営む大洋丸さんの船。親方の佐藤一(はじめ)さんと、20代の若手漁師2名の計3名が働く船です。

 

「こんな雨の日にも船を出していただいて、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!!」

「高校生のみんなにも、地元の海を見てほしいからね」

 

連れてきてもらったのは、石巻市・雄勝湾にある牡蠣養殖の漁場。ここに、数年前に仕込んでじっくりと育っている牡蠣が生きているのだとか。

 

「ちょっと引き揚げてみようか。養殖中の牡蠣なんて、見たことないでしょう」

「(高校生の手前、率先してがんばらねば…!)水揚げですか!? 非力だけど頑張ります!! どこを引っ張れば良いですか!?」

「いや、ウィンチ(巻き上げ機)で引き揚げるから大丈夫だよ」

 

そう言うとはじめさんは、ロープを海中から引き揚げてくれます。

 

「ゴロゴロとした黒い塊が……!! 思ったより見た目がイカツイですね!?」

 

海藻のこびりついたロープには、何十個もの牡蠣が鈴なりにぶら下がっています。この一つひとつが、数年間かけて種牡蠣が成長した姿。

 

「牡蠣がいっぱいくっついてる……? 養殖の牡蠣ってこんなふうに育つんですね」

 

「すごい! 身がプリップリですね!」

「そうでしょう。はじめは小指よりも小さい種牡蠣が、養殖するとこんなに大きくなるんだよ」

 

「これって育つのにどのくらいかかるんですか?」

「種牡蠣の状態から、1〜2年で収穫できるようになります。実はただ待っているだけじゃなくて、養殖にもいろんな段階があるんです」

 

「穏やかな海で牡蠣が大きくなるのを待つ『仮殖』をしたり、潮通りの良い沖の漁場に牡蠣を移動させる『沖出し』をしたり……牡蠣の成長を促すための、いろんな作業があるんです」

「当然だけど、知らない作業ばっかりでした。季節にあわせて、牡蠣が育ちやすい状況をつくりつづけるんですね。段取りを考える力が必要そうな仕事だ……」

「そうだね。育った牡蠣を水揚げして出荷するのは、大体10月〜夏にかけて。テレビでも秋になると牡蠣剥きのニュースが流れてくるでしょう」

「(漁師の仕事、ちょっと忙しそうだな……)暇な時期とかはないんですか?」

「夏は銀鮭とホヤの水揚げをして、春〜冬にかけてはホタテの水揚げをして、冬からは牡蠣の水揚げもあるし……って考えると、ずっとやることはあるかなあ」

 

アルバイト募集に集まった地元の高校生達も、水揚げしたばかりの牡蠣に恐る恐る触れます。海から揚がったばかりの牡蠣は厳つい見た目で、ちょっとだけ怖いですよね。

 

更に、「せっかくだから……」とはじめさんは船を走らせ、養殖中のホヤやホタテも見せてくれます。

 

その見た目は大迫力! ピグモン(ウルトラマンに出てくる怪獣)みたいな見た目のホヤ。

 

さらに、こちらも鈴なりのホタテ貝。漁師さんのなかには、1種類じゃなくさまざまな魚介類の養殖を並行して仕事にする人が多いのだとか。

 

「この雄勝湾にある何ヵ所かの漁場に、毎日行って仕事するんだ。銀鮭も養殖してるから、毎朝の餌やりをしたりね」

 

養殖とはいえ、漁場を見て回ると「自然に左右される仕事なんだな」ということを強く感じます。言ってしまえば、常に「どうなるかわからないもの(自然)」と一緒にやるプロジェクトを、いくつも並行して進めているようなもの……それってかなり大変では?

 

「大洋丸さんの船では若手漁師も働いてるんですよね? お仕事って、やっぱり難しいんですか?」

 

話してくれたのは、山形から移住して漁師になった翔さん。

 

「仕事は面白いですよ。自分は元々生き物を育てることに興味があったので、いろんな養殖ができるのも楽しいし、やっぱり育ったものをみると新鮮に感動したりして

「(あれ、意外と楽しそう?)大変だな〜って思うことはありますか?」

決まった休みがないこと、とかはちょっと大変ですね。雨が降ったら休みだけど、朝早くから2時間だけ漁場に行ってこの作業しないとな、みたいな日が結構あって。土日休みの仕事とは違うかも」

「朝だけ仕事の日もあるんだ! そういう日は昼から何してるんですか?」

「一旦昼寝して、最近買ったプロジェクター使って家で映画みてますね」

「(ちゃんと休みを楽しんでるな)」

 

「沢山見学させてくれてありがとうございます! でも、船の上では僕らあんまり働いていない気が……! こんな感じでいいんですか!?」

「まずは僕らの仕事場を見て欲しくて連れてきただけだからね。これから、牡蠣養殖のための下準備を手伝ってもらいましょう!」

 

アルバイトスタート!

ここからは、参加者の高校生もさらに増えてアルバイトがスタート! 教えてくれるのは、「漁師になりたい!」と2017年に大阪から移住して漁師になった、三浦大輝さん(28歳)です。

 

ガラガラガラ!!!!

 

と大きな音を立てて高校生たちの前に並べられたのは、たくさんのホタテ……? よくよくみると、これから牡蠣になる「種牡蠣」がたくさんくっついています。

 

「この小さいのがあるでしょ、これが全部牡蠣なんです」

 

小さく見える出っ張りのようなものが、種牡蠣です。1つの貝殻に数えきれないくらいくっついています

 

「こんなに小さいんだ……!」

「これがさっきの岩の集まりみたいな牡蠣になるってこと? なんか神秘的だな……」

 

さて、ここからはひたすらに作業をする時間。先輩漁師に教えてもらった通り、種牡蠣の原盤(ホタテ貝に種牡蠣がついたもの)をロープに挟んで、さっき見た「牡蠣が鈴なりになるロープ」をこしらえていきます。

 

固く結われたロープに隙間をつくって、

 

そこに牡蠣の原盤をはさみこみ、

 

きつく縛る。これをひたすら、牡蠣が育ちやすい間隔を保ってつくっていきます。

 

「単純作業だし意外と楽しいな」

「…………………」

「めっちゃ集中してるな」

 

高校生のみんなも、すっかり真剣です。たまに雑談をはさみながら、着々と手を動かしていきます。

 

「そういえば、どうしてこの企画に参加してみようと思ったんですか?」

 

僕のおじいさんが昔、漁師をやっていたらしいんです。でも、実際に海で仕事をしているところを僕は見たことがなくて。だから、なんとなく『漁師』って仕事に興味を持ってたんです」

「そうか、おじいさんが……石巻に生まれると、意外なところで漁師の仕事と縁があるものなんですね」

 

なぜ高校生を受け入れた? 漁師の想い

それにしても、どうして牡蠣養殖の漁師さんは「高校生にアルバイトしてもらう」企画を受け入れることになったのでしょう? 親方のはじめさんに聞いてみます。

 

「どうして今回のアルバイト企画を受け入れようと思ったんですか?」

「実は、いまウチで働いてくれている大輝と翔が入ったきっかけが、今回の企画をやっている『フィッシャーマン・ジャパン』(以下、FJ)の担い手育成事業だったんだよ。お世話になったから、手伝えることがあれば手伝おうと思っていて」

「そうだったんですね!」

「これまでも、繁忙期に人がほしくて求人を出したり、ハローワークを見て来てくれた人はいたんです。でも、そういう人は数ヶ月いろんなことを教えても、『そろそろもう少し任せてみるか……』ってタイミングで辞めてしまって、『またイチから新しい人を育てるのか……』ってなることが多かった

「漁業の担い手が減ってる、って話はよく聞いていたんですが、そういう実情があったんですね。育てようとしても、なかなか続かない人も多い」

「もちろん、それぞれに事情があると思うから仕方ないけどね。やっぱり、続くかどうかは『少しでも条件のいいところで働きたい』と考えている人か、『漁業・水産業がやりたい』と思っているかの違いだと思うんです」

 

「漁師になって大輝は6年目で、翔も5年目。仕事も任せられるようになってきた。大輝に関しては雄勝湾の漁業権も取得して、もう自分ひとりでも漁をする資格があるんですよ

「すごい! でも、大輝さんはなんで漁師として働きはじめたんですか?」

「もともとは証券会社で働いてたんですけど、自分のやりたいこととは違うなと思いはじめて。FJの企画した漁師学校ではじめさんの現場に来て、『はじめさんのところで働いてみたいな』って思うようになったんです」

「はじめさんにとっても大輝さんにとっても、担い手育成事業でいい出会いが生まれてたんですね!」

「そうだね。それに、担い手として受け入れてからも、若手の漁師たちのことを気にかけてくれてるみたいだし。FJは本気で漁業の担い手のことを考えてくれると思うから、今回みたいな企画には協力しようと思うんだよ」

 

いまは高齢化ですっかり浜に人がいなくなってる。だから、繁忙期に1日来てくれる、って人がいるだけでありがたいんです。それはたまたま帰省してる大学生でも、パート的に働きたい大人でもいい。この企画も、浜に人が増えるきっかけになるといいよね」

浜に人が増える……いい言葉ですね。担い手というと重く聞こえるけど、はじめは『浜に興味を持って、参加する』くらいの関わり方でもいいのかもしれないですね」

 

みんな、2〜3時間は集中して作業したでしょうか。気づけば牡蠣付きのロープが

 

これだけの量、出来上がりました。

 

「ありがとう! 助かったよ」

「高校生のみんな、真剣に取り組んで偉いな……アルバイトとはいえ、なんでそんなに頑張れるんだ……」

「じゃあ、そろそろ約束のあれを……」

 

「うわ!! 海鮮まかないだ!!」

「今日は銀鮭の刺身、銀鮭ムニエル、ホタテのバター炒め、蒸しボヤ、ホヤの刺身に魚のあら汁です。いっぱい食べてね」

「お昼ご飯って、いつもこんな感じですか?」

「今日はみんな向けにちょっと品数増やしてるけど、まあ、大体こんな感じだよ」

「最高のまかないだ……確かに働きたくなる……」

 

もちろん、プリプリの牡蠣も! バイトのまかないが蒸し牡蠣だなんて、すごい世界線があるもんだ……

 

最後にしっかりバイト代を渡して、今日のアルバイトは終了です。漁師の仕事を手伝う、滅多にないアルバイト。参加した高校生たちはどんな思いを抱いたのでしょう?

 

「漁師さんのところでアルバイトするなんて、あんまりない体験だったと思うけど、実際に参加してみてどうでした?」

「楽しかったです! 美味しい牡蠣も食べられたし、船で海の上にも行けたし……今回はそんなに『労働』って感じでもなかったし」

「今日は地道な作業を楽しんでたもんね。ちなみに、元々水産業に興味があって参加を?」

「水産業ってジャンルの仕事を体験してみたいな、って気持ちはありました。あとは地元のことも知りたいなと思って」

「じゃあ、今日はぴったりの日でしたね。実際に体験してみて、水産業の仕事への興味は変化した?」

「お話を聞いてると、漁師になるには体力に自信がないかも、って思いました。でも、魚の加工をする会社とか、そういうところならもしかしたら

「そうか、水産業で働く=漁師になるだけじゃないもんね。その視点を高校生の時に得られるのって、いい体験だな……

 

地元の高校生に向け、水産業の現場を体験してもらうために企画された今回の『すギョいバイト』企画。大洋丸以外にも、高校生たちはたくさんの現場で海と漁業に触れたようです。

 

1日のアルバイトでわかることは少ないかもしれないけれど、漁師の働く現場を見て、仕事を手伝って、「水産業」という仕事の広がりを、高校生たちは知りました。

 

こうした企画がなぜ生まれ、なぜ漁師たちは手厚く受け入れてくれたのか? そこには、担い手が減り続ける水産業の現実に向き合う、ある団体の想いがありました。

 

次のページでは、この企画を運営した一般社団法人「FJ」にインタビュー。企画の背景に迫ります。

 

『すギョいバイト』企画の生みの親、FJ担当者にインタビュー


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