こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。距離の遠いビデオレターみたいですみません。ひろし〜! 元気か〜?
突然ですが、ジモコロの取材で全国をまわっていると「地方創生」「移住促進」といったキーワードが、東京にいるときよりも身近に感じられるんですよね。
過疎化が進み限界集落を超えた消滅集落地域、主要駅前にも関わらず閑散とした商店街、跡継ぎのいない農家や製造業などなど…。人口が一極集中した東京ではあまり感じられない問題が、目の前の現実として押し寄せてきます。
あれ、マジでヤバいんじゃないか?
大阪から約7年前に上京した僕ですら、この現実を理解するのに時間がかかりました。ジモコロで全国を飛びまわっていなければ、なんとなく他人事のままだったかもしれません。
それこそ今の10代や20代にとって、テレビやニュースで目にする地方の問題も「よくわからない」のが実情ではないでしょうか。33歳という年齢ですが、具体的な地方の問題を解決する知識や方法を持ちあわせていません。正直むずかしい。なぜなら、その土地の性質や資源によって方法が変わるからです。
これまで「自分の息子にも絶対継がせず、技術が途絶えてしまった職人」や「あえて地元に残ることを選択し、独自に情報発信をしている若者」など、ジモコロでも地方の問題を切り取った記事はありますが、あくまで「魅力的な人物」を前提に作ったものです。
「もっと全体論として掘り下げていくべきなのでは?」
以前からそういったモヤモヤがあったのと同時に、自分自身が東京を離れて移住することは可能なのか…という自分事の視点も最近生まれてきました。
東京の恩恵は、仕事や友人など含めて人並以上に受けてきた自負もあります。上京しなければバーグハンバーグバーグにも入社してないし、当然ジモコロというメディアも生まれていないわけで。ぜんぜん違う人生を歩んでいたことでしょう。
だからこそ客観的な価値観が生まれる「移住」を軸にして、いわゆる「地方の問題」や「働き方」について考えていければと思います。そのノウハウを全部飲み込んで、咀嚼して、自分のモノにしてやるぞ〜!
富山に移住した「R25」元編集長に聞いてみた
今回は元「R25」の編集長、現在は富山県に移住して東京と地方の二拠点生活を送っている藤井大輔さんに、「東京と地方の暮らし」について色々聞いてみました!
「今日はありがとうございます。まずは藤井さんの現在のお仕事についてお伺いしても良いですか?」
「元々僕はリクルートでR25の立ち上げから関わっていて、2005年から2008年までR25の編集長をやっておりました。そして2013年にリクルートを辞めて産まれ故郷の富山に戻って、母が経営していた介護事業の経営に関わってます」
「今も東京と富山を行き来してらっしゃるんですよね?」
「そうです。東京でもコンテンツ制作の会社を経営していますし、妻や子供は東京に住んでいるので単身赴任みたいなものですね。週末は東京に居る事が多いですよ」
「おお、やっぱり東京のビジネスの最前線でバリバリやってて、そこから富山にっていう藤井さんの経歴は今回のテーマにぴったりですね! 実際、東京から地方に来てみて実際の暮らしってどうですか?」
「まず、食べ物は富山の方が美味しいですね。特に魚介類は富山湾の沿岸から急激に深くなっていて、漁場と漁港が近いという特性があって。新鮮な魚を手頃な価格で食べられるのはたまらないですね」
「富山でフラッと入った寿司屋が異常に美味しくてビックリしました! 金沢は観光客価格でやや高くなっていて、富山では同じクオリティの寿司が3割安く食べられるとか」
「あと仕事のあがりも早いので飲みにいくの時間が早いんですよ。東京だと仕事終わって、23時から飲んでタクシーで帰る、みたいな事が多かったのが、こっちだと18時から飲みに行ったりしますからね」
「早めに飲みに行って早めに帰る、みたいな」
「いや、結局18時から飲んで深夜1時に代行運転を呼んで帰ったりしてます」
「意味がない。結果7時間飲んでる計算になりますね」
「そうなりますね。お酒も美味しくて……」
「酒飲みにはたまらない、と……」
「あとはゴルフにもすぐ行けるし、冬場はスキー場も近いんですね。買い物はイオンモールとかでまとめて、って感じです。山も川も海も近いので、その辺の自然に囲まれた環境は素晴らしいと思いますよ」
「おお、羨ましい。あと富山は地震が少ないから、東京の企業のデータセンターが多いんですよね?」
「そうなんです。安全面で移住される方もいるようですし、YKKが富山に本社機能を移転したのもニュースになりました」
ビジネス面ではどうなの?
「ビジネス的な視点だとどうですか?」
「うーん、情報の集まり方は東京とは全然違いますね。やっぱりネットビジネスの最前線は東京ですよ。破壊的イノベーション合戦と言いますか、東京はみんなガチンコで殴り合いをやってますよね。ベンチャーキャピタルとかも入ってきてもうほんとに戦争してる感じで」
「WEBサービス一発で当てたるぞ!って勢いはヒシヒシと感じます」
「そのぶん競争は大変でしょうが、チャンスも多いと思います。会社を上場させようとか一発当てて成り上がってやろうとか、そういった人に関しては東京の方が圧倒的に有利でしょうね」
「東京は頭一つ抜けてますよね」
「ですね。東京で10年間ビジネスを続けていれば、グローバル化のチャンスもあるかもしれませんし。地方から直接海外に出るケースももちろんあるでしょうけど、ローカルを相手にしたビジネス中心で海外になんていけないし、上場とかも厳しいでしょうね」
「なるほど」
藤井さんが専務取締役を務める「株式会社アポケアとやま」
「業種によっては地方の方が進んでる分野もあるんですよ。例えば僕が今携わっている介護事業。地方の方が高齢化が進んでいるため、ある意味では介護ビジネスの最先端だったりするんですよね。だから僕個人のことで言えば、田舎に引っこんだつもりもなくて、介護ビジネスの最先端に飛び込もうという気持ちです。介護、福祉、医療なんかは地方にも最前線があると言っていいでしょう」
「都心部と地方でビジネスの住み分けができるといいですね。それこそバリバリ稼いで成り上がろう!って人は東京、地に足つけてコツコツと仕事をして暮らしたい人は地方みたいな」
「うーん。正直、田舎に引っ越すっていうのもそんなに簡単じゃないんですよね。例えば、僕は東京から富山に引っ越してきたわけですが、元々富山県出身ですからね」
「うんうん」
「生まれ育った故郷だから、もちろん同級生や友人がいっぱいいる環境じゃないですか。さらに親が地元で商売をしている。要するに元々、土台があるんですよね。だからUターンという形になっても、多少は受け入れてもらえやすいというか。仮に全然繋がりがない土地に引っ越したら、警戒心の強い田舎の人たちに受け入れてもらうのは時間がかかると思います」
「藤井さんも最初は苦労したんですか?」
「地元出身の僕ですら結構言われましたよ。『お前は東京と地元のおいしい所だけを取ってるんだろ?』とか、『お前はどっちの人間なんだ?』とか。最初の1年目はお客さんくらいの扱いで歓迎してくれるんですが、2年目は『で、お前は地元に何をしてくれるんだ?』っていう目に変わるんです」
「めちゃめちゃシビアですね…」
「僕も2年経ってやっと少しづつ馴染めるようになったかなぁ。完全に『お前はもう地元の人間だな!』って認めて貰うためには…少なくとも5年間ぐらいかかるんじゃないかな。これが全然繋がりのない土地だともっと厳しいでしょうね」
「移住のロールモデル的な扱いをされてる町や離島とかでも、せっかく移り住んだのに馴染めず離れる人も少なくないようですね」
「もちろん地元の人たちも移住者を頭ごなしに嫌ってるわけではなく、期待もしてるんですよね。ただ、その期待に応えられるかどうかが、受け入れる側の基準になっているかもしれません。石の上にも三年という言葉がありますが、それぐらいの覚悟をもって、時間をかけてコミュニケーションを取っていくしかないと思います」
「移住の魅力だけを語るのではなく、今後は難しさも語っていくべきなんでしょうね。歴史の上に成り立っている土地に移り住むというのは、思っていたほど軽いもんじゃないんだなと思いました」
「こんな話がヒントになればいいんですけど(笑)。一度受け入れてもらえたら、後は地元の人たちがしっかりフォローしてくれますよ。その段階までコツコツとやっていくしかないですね」
「最後に藤井さんの今後の展望を教えてください」
「第一に日本の介護問題ですね。現在、介護保険費って年間8.9兆円かかってるんですが、10年後には20兆円になるって言われてるんですよ。2倍以上に膨れ上がる見込みなんです。そうなるとお金をできるだけ使わずに介護できる仕組みを作らないとどうにもならないでしょう」
「高齢化社会のツケが10年後にやってくるんですね」
「超高齢社会が到来するのは仕方ないとしても、自分が入りたいと思える介護施設が今のところないので、それは作りたいな、と。まぁ、大変な仕事ではありますが、介護ビジネスは面白い仕事でもあると思いますよ。リクルート出身のせいかどうしてもビジネス的な考え方をしちゃいますが…あれ、そういえばジモコロのクライアントって求人会社のアイデムさんですよね? リクルートの名前出しても大丈夫なんですか?」
「アイデムさんは懐が広いので大丈夫です!」
まとめ
藤井さんは生まれ育った富山にUターンし、東京で培ったビジネス観を生かして地域に根付こうとしています。まさにジモコロのコンセプトである「地元」と「仕事」を掛けあわせた新しい働き方といえるかもしれません。
一方で「移住」といえば、ゼロの状態で環境を移す…そんな風に捉えている人がいるのも事実で。主体的に仕事を作り、移住先の土地に貢献し、長期的な視点でコミュニケーションを取る必要があるのではないでしょうか。藤井さんの話は、“富山にUターンした優秀なビジネスマン”だから言えるのではなく、普遍的な働き方として覚悟を持つべきだと示唆してくれていると思います。
今後も移住者の正直な声を拾っていく予定ですので、ひとつの価値観として参考にしてもらえると嬉しいです!
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※写真提供 「とやま観光ナビ」
書いた人:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916