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お酒を楽しむ新機軸『酔い心地』の提案。クラフトビールで考える酒造りとは?

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お酒を楽しむ新機軸『酔い心地』の提案。クラフトビールで考える酒造りとは?

みなさん、お酒は好きですか???

 

お酒を飲みはじめてから、何年くらい経ったでしょう。大人になってから何杯のビールを飲んだかも覚えていないはず。

 

 

でも、大人になって「上手にお酒と付き合えているか?」と聞かれたら……正直、わかりません。

 

たまに深酒してしまったり、悪酔いしてしまったり。年齢を重ねるにつれて、「体にお酒が残る」という感覚もわかるようになってきました。

 

でも、ゴキゲンにほろ酔いになるのは大好き。だからこそ思うんです。「悪酔いしない、お酒との付き合い方」を覚えていきたいと。

 

そう考えていたとき、ジモコロ前編集長の柿次郎からある先輩の話を聞きました。その先輩は、「下戸だったけれど、いまは情熱を持ってクラフトビールを造っている」というじゃありませんか。

 

 

なんでも、飲むと気分が悪くなる体質だった先輩は、お酒の選び方を変えてから悪酔いすることが減ったらしい。

 

「お酒を選べば、悪酔いしなくなる」という経験は、僕らがまさに目指したかった「お酒との上手な付き合い」そのものなのでは……?

 

先輩にヒントを求めた僕たちは、群馬県・桐生市にある醸造所『FARCRY BREWING』へと向かいます。

 

そこで出会ったのは、お酒の味でも、スペックでもない、「酔い心地」という新しい概念でした。

“悪酔いしない酒”を求めて、下戸のコバさんに会いに行く

やってきたのは、群馬県・桐生市にあるアウトドアショップ『Purveyors』。桐生にありながら、地元よりも県外や東京から来るお客さんの方が多い人気店です。

 

そんなお店を営むのが、「下戸の先輩」こと小林宏明さん(通称:コバさん)。ジモコロでも、人気店を作り上げたコバさんのお店論を取材したことがありました。

 

都会で10年修業してローカルで稼げ! 地方に必要なのは「繋ぐ店」だった

アウトドアショップの店主でありながら、『森、道、市場』をはじめ全国のフェス・イベントづくりにも携わるコバさん。その“良い場所をつくる強度と覚悟”には、交流の続くジモコロチームも驚かされてばかりいます。

 

▼登場人物紹介

徳谷柿次郎|ジモコロ前編集長

体質的にお酒に強い訳ではないが、全国出張の行く先々で深夜3〜4時まで飲み歩いてもピンピンしている奇跡の人(翌朝の髪の毛はパサパサ)。

乾隼人|ジモコロライター

かつて大阪に暮らしていた頃から、街と夜にのまれ続けている。酒の飲み方がちょっぴり下手な人。

小林宏明|Purveyors オーナー

アウトドアショップ『Purveyors』オーナー。下戸だけど、みんなが集まる場は好き。

 

「コバさん、ご無沙汰してます!」

「おお!柿次郎ひさしぶり」

 

この方が、店主・小林宏明さん(通称:コバさん)。そんなコバさんが満を持して造るのが、2021年2月に立ち上げた醸造所『FARCRY BREWING』のクラフトビール。

 

Purveyorsで造られる『FARCRY BREWING』のクラフトビール。定番のラガーのほか、エールやIPAも製造

 

醸造家の阿久澤さんとともにビール造りに励むコバさんですが、元々はお酒の飲めない「下戸」だったそうで……

「コバさんが下戸だったってほんとですか…?」

「下戸“だった”っていうか、今でも頭が痛くなったり、気持ち悪くなったりすることもあるよ」

「普段飲まないと、ビール造りって難しくないですか?」

「実は、自分達でクラフトビールを造ると決めてから、ビールについて考えるために、下戸の俺でも飲めるお酒を探してみたんだよね」

「下戸のコバさんにも、飲めるお酒はあったんですか?」

「それが、あったんだよ。群馬・土田酒造の日本酒と、栃木のココ・ファーム・ワイナリーのワインは俺でも気分が悪くならずに飲めた

 

土田酒造:https://tsuchidasake.jp/
ココ・ファーム・ワイナリー:https://cocowine.com/

「丁寧に造っているからか、そんなに体にインパクトがなくて。このお酒を知って、単純に自分はまだ体に合うお酒に出会えてないだけだったんだな〜と思ったね」

「すごい。このお酒を飲んでいれば、水をガンガン飲んだり、二日酔いのときにOS-1を飲んだりしなくてもいい!?」

「そういうセルフケアも大事だと思うけどね。実はこの前、土田酒造のお酒と、ココファームのワインと、ウチのビールをひたすら飲み比べてみたんだけど、そこには共通項があって」

「共通項……一体なんですか?」

 

「それはね、“酔い心地” なんですよ」

 

「酔い心地?」

「味じゃないし、香りでもない。酔い心地こそ、良い酒の条件なんじゃないかって思うようになった

 

「へえ〜!でも『酔い心地』って、普段聞かない言葉ですよね?」

「そうなんだよ。造り手も、売る側も、まだ“酔い心地”って概念をあまり言葉にしていなくて」

「まだ、言語化されてない概念……!? 」

お酒の劣化が、酔い心地を変える?

「そもそも、“酔い心地”ってなんなんでしょう?」

「一言で説明するのは、まだ難しいんだよね。飲んではじめてわかるというか」

「なるほど……さっき教わった『にいだしぜんしゅ』とかは、コバさんも飲める“酔い心地のいいお酒”ですよね。反対に“酔い心地の悪いお酒”ってあるんですかね?」

「やっぱり、劣化しちゃったお酒は酔い心地が良いとは言えないよね。でも、お酒造りってそもそも劣化との戦いなんですよ

 

「ビール、日本酒、ワインみたいな醸造酒は、良いお酒ほど劣化しやすい。ウイスキーみたいな蒸留酒は製造工程がぜんぜん違うから劣化しづらいし、飲んで悪酔いすることも少ない気がするんだよな」

「たしかに旅先で買った日本酒を2年ぐらい放置してたら、『あれ?おもてたんと違う?』ってことよくありますね。保存が悪いから劣化してたのか!」

「大手メーカーさんのビールもそう。もちろん美味しいけど、流通の段階で劣化を防ぐには限界がある。あの物量を温度変化させずに、お客さんの元まで運ぶのは難しいから」

「工場から店まで冷蔵で運べても、届けた先で気温の高いところに放置するとアウトですもんね」

「だから、俺たちは酔い心地を守るために大手さんでは出来ない方法をやろうと思ってる。あとで話すけど、本当にめんどくさい方法をとってるからね」

「めんどくさい方法……たしかに、クラフトビール=それぞれ独自の造り方をするってイメージがあります」

 

「クラフトビールの定義って何か?っていうと『クラフトマンシップ』で。じゃあクラフトマンシップって何か?っていったら、大手には出来ない、丁寧で面倒な造り方をすることだと思うんだよ」

「なるほど」

「それも『クラフトマンシップがあるね』って言われるためじゃない。丁寧に造ることで、俺みたいな酒の弱い人でもちゃんと飲める、酔い心地のいいお酒を造るためにやるんだよ

「より幅広い人がビールを楽しめむために、面倒臭さも受け入れて造るんですね」

「土田酒造も、ココ・ファーム・ワイナリーも、ほんと正気の沙汰じゃないような造り方してるよ。それも酔い心地のためだと思うんだよな……」

 

「あと、カリフォルニア州のブリュワリー『アルマナック』、秋田にあるクラフトサケ醸造所『稲とアガベ』、福島県の日本酒蔵『仁井田本家』、千葉県の『寺田本家』がつくるお酒もおすすめしたいな」

「コバさん、他の酒蔵のこともめっちゃ好きですよね。すごい褒める」

「だって正気の沙汰じゃないよ!あんなの。いくら自然に造るためとはいえ、蔵付きの酵母、降りてこなかったらどうすんだよ、って。一生出来あがんないんだよ(笑)」

 

「彼らみたいに丁寧な酒の造り方をしてる人たちが、なんでそんなに面倒くさいことをしているのか? 根本的な理由をジモコロで伝えてほしい」

「これまでのジモコロ取材とも繋がりますね。大規模に作るんじゃなくて、『その過程で何かを削り落としていないか?』と考えている人たちと、僕らは出会ってきたというか

「酔い心地もそういうことだと思う。ただ、酔い心地ってアルコール度数とか、香りとか、味とかとは違うもの。だからうまく言葉にしづらいんだよね」

「当然、お酒のラベルを見てもわからないですもんね。判断できるのって、原材料とアルコール度数くらいかも」

「アルコール度数だけで酔い心地がいいかってわからないじゃん。実際、酔い心地を目指すのは酒造りのなかで『やらなくてもいいこと』なのかもしれない。それでも、やらなくてもいいことをやってる土田酒造とかココ・ファーム・ワイナリーの造り手が、報われてほしいだけなんだよね」

「今回の話は、飲み手に『酔い心地』というテーマの種をバラ撒くための話なのかも。その先に、いいお酒の場について考える言語化があるんじゃないかな」

酔い心地のいい酒を造る、FARCRY BREWINGのやりかた

「『酔い心地ってなんだろう?』って話はひとまず置いておいて……コバさんの『FARCRY BREWING』では、どんなビールを造ってるんですか?」

「ウチはいろいろ造るけど、メインはラガーかな。俺はウチのラガーが日本で一番うまいと思ってる」

「おお!そういう話も聞きたいですね」

「普通のビールって、冷やして喉越しを楽しむって感じでしょう。放置して常温になったビールなんて飲めなくないですか? ウチのビールは、飲めるんですよ。普通に美味しい」

「へえ〜!」

「むしろ温度変化によって出てくる香りも楽しんで欲しい。ウイスキーとかと同じで、冷たくすると香りがわからなくなっちゃうから」

「じゃあビールを冷やしてる理由って、『その方が美味しいから』じゃない…?」

「そう。ウチの場合、ビールを冷やしてる理由は『生ビールで、酵母が生きてるから』だよ」

 

酵母が…生きてる…?

「低温で保存しておかないと、生ビールのなかで生きている酵母が活動をはじめて、味が変わったり度数が変わったりしちゃうんだよ」

 

「ウチのビールは瓶もタップも熱処理をしてないから、全部生ビール。だからこそ、お客さんの手に渡るまで徹底的に管理しないといけない」

 

「ビールにとって“紫外線”は劣化のきっかけで。だから製造工程でビールを通す管にも紫外線が入らないようにしてあるし、店にある販売用の陳列棚にも、紫外線保護のシールを貼ってる。屋内なのにだよ? それくらい、劣化させないために気を使ってる」

 

フェス出店の際は、タップごと移動できる車で

「フェスにも出店するから、タップごと冷蔵管理できるようにキッチンカーを改造して、美味しい状態で出せるようにしたんです」

「フェス出店まで…!それだけ、生ビールがデリケートなものってことなんですね」

「だから、卸してもらうお店のことも真剣に選んでます。ウチのビールは冷蔵保存できる設備のあるお店にしか絶対に卸さない。飲んでいる途中に味が変わるのはいいけれど、飲む人の元に届くまでに味が変化していたら、それは俺たちが目指すビールと違うものだから

「シビアだ。信頼して預けられる店にしか卸さない、ってことなんですね」

「反対にいえば、いま生のクラフトビールを仕入れてるタップバーのようなお店は当たり前のようにその品質管理をやってくれてるってことだから」

「すごい、お店に感謝しなきゃ……」

「コバさんのお酒のことももうちょっと聞きたいんですけど、FARCRY BREWINGのクラフトビールのことをみんなに伝えるとしたら、どんな特徴がありますか?」

「いろいろあるけど、わかりやすいのはこのあたりかなあ」

 

「ナチュラル・カーボネーションをやるのも、炭酸を添加する過程でビールが劣化する可能性があるから。少しでも酔い心地をよくするための工夫なんです」

「やっぱり、“酔い心地のため”に落ち着くんですね!」

「醸造担当の阿久澤のやり方も、特別なんだよ。彼はレシピを真似たりせずに、ゼロから設計する数少ない醸造家で。それがビールの個性につながるし、ひとつも手を抜かないから酔い心地が良くなるんだろうなって」

「すごい手間をかけていそうですね……それにしても、こういうビールの製造工程って知らないから、面白いです!」

「最近はストーリーとか知識でお酒を楽しみがちだけど、最終的に“酔い心地が気持ちいいから好きなんだ”ってところに落ち着くのもいいよね」

「本当にね。うちの醸造酒は、今日みたいにみんなで語り合う時間のために造ってるんだよ。美味しいか美味しくないか、は個人差だから、正直どうでもいい

「昔、瓶ビールの赤星を取材したときにもそんな話が出てました。いい店構えで、いい人と飲んでて、そこに赤星があるだけで、そこはいい飲みの場になるんだって」

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「丁寧に造られたお酒を選ぶことで、酔い心地も変わるってこと、覚えておきたいなあ」

「お酒が美味しいかどうかって個人差ですよね。でも、今日聞いた“酔い心地”はみんなに共通するものかもしれない」

 

「最近、『お酒は無理に飲まなくてもいいよ』って風潮もあるじゃないですか。コバさんとしては、飲めた方がいいと思いますか?」

「俺は正直、飲めても飲め無くてもいいと思うんですよね」

「おお、そうなんですか?」

「『酒の力を借りる』みたいなことって嫌いなんですよ。酔っ払ってても酔っ払ってなくても人に真剣に対応できると思うし、それとは違う感覚だと思うんだよなあ、酔っ払うってことは」

「酒の力=エナジーを足す、みたいな印象がありますよね」

「それより、お酒を飲むことで内面に気づける可能性があると思うんですよね。元々は俺も、酒ってこういう場の潤滑油になると思って飲んでたんだけど、最近は家でも飲むようになって」

「家でも飲むんですね!」

「合法のドラッグみたいな感じなんですよ。ディープリラックスというか。酔いたいんじゃなくて、酔った状態でいろいろ考えるとまた違うことが考えられていいな、って感じ」

「それって結構面白い現象ですね。自分で内省する時に、酔いがあった方が考えが広がるのか……」

「人によるとは思うけどね。俺はそんな感じがするなあ」

「なんかいいですね。『お酒を飲んで酔う=陽気になって楽しむ』ってことだけじゃない。“酔っ払う”ってことを、もう少し広く解釈できる気がしました」

「お酒を飲みながら、お酒の解釈について話すような時間があるのもいいと思うんだよね」

「『酔い心地』について、これからいろんな問いが生まれそうですね。いつか酒屋さんに『酔い心地のいい酒』コーナーができたり、dancyuで『酔い心地のいい酒』なんて特集が組まれることもあるかもしれない」

「いいね!それは読んでみたいなあ」

取材を終えて…

「コバさんの“酔い心地”の話、聞いてみてどうだった?」

「『酔い心地とはこれのことだ!』って答えは出ないんですけど、楽しく酔える場をつくるのは、お酒だけじゃないよな……って思いました。人とかお店とか、自分の体調とか……そういう要素がたくさんある上で、『酔い心地のいいお酒』まであれば最高!だなって」

「人によって、『酔い心地のいいお酒』がなんなのかも違うだろうしねえ」

「僕の場合、『酔い心地のいい夜』にあったのは、ビールの赤星と、にいだしぜんしゅでした。栃木にある『あくび』って店が大好きなんですけど、そこで日本酒とビールを飲んでいると、自然と周りに悩みを打ち明けられたり、『ああ、やることやってれば大丈夫かも』って思えたりするんです」

「へえ〜。めっちゃいい夜過ごしてるやん」

「これからも、自分にとっての“酔い心地のいいお酒”と、楽しく酔える夜をさがしていきたいですね!」

 

 

 

 

5月26日〜5月28日の3日間開催される野外イベント『森、道、市場2023』のなかで、「酔い心地」をテーマとしたトークイベントが開催!ぜひ、チェックしてみてください。

 

森、道、市場2023

開催日:5/26(金)〜28(日)
会場:大塚海浜緑地(ラグーナビーチ)&遊園地ラグナシアhttps://morimichiichiba.jp/

▼イベント概要

『The Sense of Intoxication.』
https://morimichiichiba.jp/special/1360/ 

森、道、市場に一際異彩を放つ酒場「センスオブイントキシケーション」が登場。「The Sense of Intoxication:酔い心地の感覚」という概念が世の中の共通認識として、業界の根幹となる哲学として強く染み込むよう普及するべく、日本酒、クラフトビール、ワイナリー、ジン、さらにはクラフト酒など既存の枠を超えた酒の造り手が参加します。土日限定で、参加店舗の方々と「良い酒の条件」をテーマにトークショーも開催。

▼トークイベント開催概要

5/27(土)18:50~20:00
寺田本家(日本酒)/冨田酒造(日本酒)/ぷくぷく醸造(クラフト酒)/りんねしゃ

5/28(日)14:00~15:00
仁井田本家(日本酒)/FARCRY BREWING (クラフトビール)/稲とアガベ(クラフト酒)/YOHAKHU(クラフトジン)/ココ・ファーム・ワイナリー(ワイン)

5/28(日)17:10~18:00
角谷文治郎商店(みりん蔵)/澤田酒造(日本酒)/haccoba(クラフト酒)/りんねしゃ


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