こんにちは。ジモコロライターのギャラクシーです。
僕は現在、岐阜県の東白川村に来ております。
一体なぜ……?
実はこの村、つちのこ目撃例が日本一多い村なんです!
足元にサッと何かが飛んできた気がして、周囲を見回すと、草の中からチラチラと奇妙な生き物が見え隠れしていた。胴体は女性の腕より太かった。
茶畑で作業をしているとガサガサと音が聞こえた。見ると今まで見たこともないようなヘビがいた。ずんぐりしていて長さは35cmほど。ネズミのような尻尾がついていた。
山道を歩いていると、胴回りがビール瓶ほどもある妙なヘビがいた。落ちていた石を投げてみたところ、まるでタイヤに当たったような音がした。ヘビはこちらを振り返り、真っ赤な口をワッと開けて怒った。
上記はほんの一例。
東白川村は岐阜県で一番小さな村なんですが、なんと! 昭和21年から、実に20数件もの目撃例があるのです。
まるで つちのこのバーゲンセールだな!
さらに驚くべきことに、この村には「つちのこ名人」と呼ばれる人物まで存在しているという! つちのこってまだ誰も捕獲したことはなかったはずだけど……名人??? どういうこと?
というわけで今回は、謎の人物・つちのこ名人にレクチャーを受け、本格的に つちのこ捕獲に挑戦してみました。
つちのこ名人登場! 捕獲経験は……?
やってきたのはこちら、つちのこ館。
盛り上がったオカルト気分を打ち砕くファンシーな佇まい……っていうかただの土産物屋では……?
とにかくここに、つちのこ名人がいるという。さっそく中に入ってみましょう。
「ごめんくださ~い!」
「は~い、はじめまして」
この方が つちのこ名人こと安江豊司さん
安江豊司さん
東白川村の村民と村の各種団体、村役場が設立した、村ぐるみの地域おこし会社「ふるさと企画」代表。
「はじめまして! 安江さんが“つちのこ名人”と聞いてお伺いしました。子供のころから未確認生物とかオカルトみたいなものが好きだったので」
「うんうん、わかります。ロマンがあるからね~。うちの村はつちのこの目撃数が日本一なので、そういう方も多く遊びに来られますよ」
「僕、つちのこを捕まえたいんです! 長年の夢を叶えたいんです!」
「お任せください。私が知っている限りのことを教えますから!」
「おお、さすが つちのこ名人! 頼もしい! で、あの~、安江さんは実際に つちのこを捕まえたことはあるんですか?」
「え?」
「つちのこ名人と呼ばれるからには、つちのこの捕獲に成功したとか、目撃したといったご経験が……」
「ないよ」
「あ、そうなんですね。まあ、もし捕まえてたら今頃日本中が騒ぎになってますもんね」
「私は“ふるさと企画”という、村ぐるみの地域おこし会社の社長でね。『つちのこ館』の営業もその一環です。おかげで、つちのこに関してはかなり詳しいですよ」
「なるほど。それにしても『つちのこ館』って、良い土産物屋ですね~。つちのこグッズが魅力的すぎてめちゃめちゃ買い込んでしまいました」
つちのこ館一階には、つちのこキーホルダーやストラップなど、グッズやお土産がてんこ盛り! つっちーとのこりんっていうキャラクターが超かわいいのです!
「つちのこ館はね、ただの土産物屋じゃないんです。一階はつちのこグッズや特産品を販売してますが、二階には日本で唯一の『つちのこ資料館』があるんですよ」
「な、なんだってー!」
膨大な資料が揃う資料館に潜入!
2階に上がってみると、壁を埋め尽くす膨大な数の資料が!
全国各地での目撃情報や、古い文献なども必見!
※つちのこは江戸時代の百科事典『和漢三才図会』にも“野槌蛇”として紹介されているそうです
「すげええええ!!! 古い新聞の切り抜きとか、オカルトっぽくて良いですね~! 手書きのものも良い意味での安っぽさというか、生々しさがあってテンション上がります!」
「実際に目撃した村の方に話を聞いて作ってますから」
「あっ! 矢口高雄先生の『幻の怪蛇バチヘビ』もある」
矢口高雄
代表作は「釣りキチ三平」。自身が釣りをしている時に遭遇したというバチヘビ(東北地方での つちのこ の呼び方)のことを漫画にしたのが「幻の怪蛇バチヘビ」である。1973年に発売。
「よく勉強してらっしゃいますね。この本がきっかけで、全国的につちのこがブームになったんですよ。それが1973年の第一次ブームですね」
「第一次? では第二次は?」
「東白川村では今井さんという方がこの近所で目撃した時に、当時の役場の広報が取り上げて大変な騒ぎになりました。1988年のことです」
※今井さん=冒頭の目撃例紹介で、ツチノコに石を投げた人。2mという至近距離で15分ほど観察しており、信憑性が高い目撃証言。
「あれ? この村での目撃は今井さんが初めてじゃないですよね? なぜ今井さんだけがそんなに……?」
「実はこの村には『つちのこの話をすると呪われる』という言い伝えがありまして。みんな話題にしなかったんです。でも今井さんの証言が取り上げられると、『話していいなら言うけど、私も見た』『私も』と証言が集まってきたんですよ」
「つちのこ見すぎだろこの村……」
「平成元年には懸賞金100万を懸けてつちのこの捜索が行われました。まあ、結局見つけることはできず、翌年から1万円ずつ懸賞金が上乗せされて、現在では127万円になってます」
「127万円! 絶対つちのこを捕まえて賞金ゲットしよっと!」
「さて、ここまで色々な資料を見てもらいながら話をしてきましたが、このさらに奥に、つちのこが展示されてるんです。見ます?」
「な、なんだってー!」
幻の生物、つちのこが展示されていた!?
ここに、追い求めていた つちのこが展示されている……!? スタッフに緊張が走った。
ウイーン、カタ……カタ……ウイーン(モーターで動いている)
カタッ、ウイーン……コトン
ウイーン、ウイーン、カタッ……カタッ…………
「なるほど」
「どうですか? まあ、子供だましかもしれませんが、ハハハ」
「安江さん……」
「はい?」
最っ高ーーー!!! めちゃめちゃ気合入ってるゥゥゥ~~!! まさにこういうのがドストライクで好きなんです僕! 展示物に関してはこうやってリアル路線でいってほしいですよねぇ~!!! あっ、ほら、今度はこっちから つちのこが顔を出しましたよ!!!!
(ウインウイン、キリキリキリ……)「あああ~~~!! 今まさに! つちのこを捕まえんとする手が~!! 網を振り下ろそうと~~~!!!!!」
(カタンッ)「ていうか、つちのこより手の方が怖い~! ゾンビだ~! つちのこ対ゾンビ 東白川村大決戦だ~!!」
「こんなに喜ぶ人、子供以外では初めて見ましたよ」
※つちのこ館2階には入場料300円で入ることができます。1階で店員さんに声をかけて入場しよう!
いよいよ つちのこ捕獲のためのレクチャー開始!
ここからは捕獲のための実際的な話を聞いていきます。
「まず言っておきたいのは、つちのこを見つけても、決して一人で捕獲しようとしないでください、ということです」
「え? それはまた、どうしてですか」
「つちのこは猛毒を持っているという説があるんです。個人的にも、あの頭の形はマムシに似ているし、毒があるんじゃないかと思います。だから手で捕まえるのもやめたほうがいいですね」
「な、なるほど。命がけですね」
「また、人の目で捉えられないような速度で動きまわるとか、2mほどジャンプすると言われてるんで、そもそも一人だと逃げられてしまうでしょう」
「ということは二人がかりで挟み撃ちするのがいいんですか」
「その通りです。前方から一人が捕獲棒で首をおさえ、後方からもう一人が網で捕まえるんです。体長は30cm~80cmなので、網は大きめのものを持って行ったほうがいいでしょう」
捕獲棒は本格的なものでなくても、Yの字に分かれている木の枝でOK
続いて教えてくれたのは、どこを探せばいいのか、というポイント。目撃場所を記した地図を指しながら教えてくれた。
「茶畑での目撃例が多いので集中的に探してみてください。また、そもそも つちのこは水辺を好むので、川も捜索してはいかがでしょうか」
「か……完璧や……探す場所も捕まえ方も教わった。もう捕獲したも同然ですね」
「じゃあちょっと練習してみましょうか」
「へっ?」
「このあたりにつちのこを発見したとして、さあ、どうします?」
「えーっと、まずは前方から捕獲棒で……」
「違います! 一人で捕まえようとせずに、仲間を呼ぶ!」
「は、はい! お~い……発見したぞ~」
「もっと大きな声で! それじゃ捕まえられないよ」
「はいっ、すいません! お~い! 発見したぞぉぉぉ~~!!!!」
「はい、仲間が駆けつけました! 素早く捕獲棒で首をおさえてください!」
「こ、こうですか?」
「そぉいっ!」
「そしたら相棒が後方から網で……よいしょ~っと! これで捕獲完了です」
「さすがに腰が入った良いフォームですね」
「いやいや、あなたも飲み込みが早い。これでつちのこは確実に捕獲できます」
「あの~、もう一度確認しますが、つちのこを捕まえたことは……?」
「ないよ」
名人の教えを胸に、捕獲作戦決行!
名人からレクチャーを受け、日本で2番目の つちのこスペシャリストになったといっても過言ではない僕。実際に捕獲作戦を決行する時は来た!
捕獲の基本は二人一組(ツーマンセル)。というわけで、ジモコロ編集長・柿次郎をパーティに加え、いざ出陣じゃ~!
「柿次郎さんには捕獲棒係を任命します。柿次郎さんが前方から頭をおさえ、僕が背後から捕獲するパターンでいきましょう!」
「マジで捕獲できたらどうする? 127万円もらえるんでしょ?」
「柿次郎さんには2万円の報酬を支払います」
「分け前おかしいだろ」
目撃ポイントは、村を東西に横断する白川と県道62号線(通称つちのこ街道)に沿って分布している。特に村の中心からやや北東寄りに目撃例が多いようだ。
まずはそのあたりの茶畑を探してみるか……
といっても、お茶は東白川村の名産。ちょっと歩けばどこにでも茶畑が広がっている。地道に訪ね歩くしかない。
つちのこは日光を嫌い、穴に棲むという報告もある。地面の穴、岩の隙間などを丹念に調べながら歩く。
調査を続けるうちに奇妙な石碑を発見。地元の方に聞くと、どうやら江戸時代あたりに作られたお墓らしい。
よく見るとここにも、あそこにも……
「ま、まさかっ! これらの石碑を線で繋ぐと五芒星が浮かび上がり、積層型立体魔法陣が発動……!?」
「ないから」
「そしてその中心に、やつ(つちのこ)は居る……というのか!?」
「だから、ないって言ってんだよ聞けよ!」
平成二年には川での目撃も一件報告されている(しかもそれが最後の目撃例)。特に念入りに調査した。
いない……。範囲を広げ、更に調査を続行するが、何の痕跡も発見できないまま時は過ぎ……
夜。
どこー? つちのこ、どこよー? まったく見つけられる気配がないんだけどー!
田舎なので周囲に明かりは少なく、本当に真っ暗闇。つちのことは関係なく、普通に危険ですねコレ。やはりつちのこを捕獲するなんて、我々には無理だったのか?
ご安心ください。
こんな時のために我々は秘密兵器を持ってきていたのです。
それは……人の髪の毛! つちのこは髪の毛を燃やすニオイを好むとの情報があるのです。
モサアアアアァァ!!
こちらが秘密兵器・人の髪の毛。いきつけの散髪屋さんに、コンビニの袋がギチギチになるまで詰め込んでもらいました。
ではさっそく燃やしてみましょう。
ガサガサ
ジュオッ
「…………ん?」
「くっさ!!!!!!!」
「だがこのニオイに惹かれて、やつは現れるのだ」
ジュオッ
「くっさ!!!!!!」
「さあ、ニオイに惹かれ、やって来い つちのこ よ! 1匹と言わず、6匹くらい集まって来い! そしたら762万円ゲットじゃい! フッハハハハハ……」
「クククク……」
「……ハッハハ………… 」
「山の朝って寒いんだな……」
というわけで、残念ながら今回は つちのこを発見することはできませんでした。
悔しい! 本当に悔しいです!
しかし、つちのこはこの村のどこかに、必ずいるのです……。
我々ジモコロミステリー調査班は、これからも諦めることなく、つちのこを探し続けたいと思います。
それでは、さようなら~!
おわり
岐阜県東白川村:観光情報
今回訪れた岐阜県東白川村は、大自然と人が暮らす場所とがうまく調和した、とても美しい村でした。
名産である檜(ひのき)。深い……!
自然がすぐそこにあるから、登山やトレッキングが好きな人も楽しめそう
そして山と川の幸がうますぎる! 東京一人暮らしで弁当屋→牛丼屋→弁当屋の永久ループを繰り返す身としては怒りがこみ上げてくるほどにおいしかった!
白川茶は“お茶ソムリエ”の方に淹れて頂いたんですが、この風景で飲むならこのお茶しかないわ!というスッキリ落ち着く味でした。
こちらは村のおばさんが考案したという「つちのこ焼き」1個130円。かわいい~! 東白川村のつちのこグッズって、デフォルメとリアルのバランスが絶妙なんですよ。中にはあんこがギッシリ詰まってておいしかった~!
僕らが宿泊したのは『こもれびの里』という施設。“つちのこ名人”安江さんが代表を務める「ふるさと企画」が運営してます。
バーベキューやトレッキング、チェーンソーの体験学習などをやらせてもらいました。「チェーンソーの素質がある」と言われたので、来年の今頃はライターじゃなく木こりになってるかもしれません。
・宿泊施設、体験学習
住所:岐阜県加茂郡東白川村神土606
電話:0574-78-3222
料金:一人3980円 食事1100円~
・特産品、つちのこグッズ、つちのこ資料館
住所:岐阜県加茂郡東白川村神土426-1
電話:0574-78-3192
2階の資料館は、大人300円/小人100円
・つちのこ焼き、お寿司、餅など(食事可)
住所:岐阜県加茂郡東白川村五加下野
電話:0574-78-3358
・特産品販売、村野菜や郷土料理が味わえる道の駅
住所:岐阜県加茂郡東白川村越原1061
電話:0574-78-3123
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy