1977年にロッテから発売された「ビックリマンチョコ」。おまけ付きお菓子として日本最大級のヒットを巻き起こし、今も『鬼滅の刃』などとのコラボで人気を博す。
中でも1985年からはじまった「悪魔VS天使シリーズ」は大ブレイクし、店に置けばすぐ売り切れ。最盛期は年間4億個売れ、「1人3個まで」と販売が制限されるほどの人気だった。
だが、おまけのシール人気が過熱するあまりに、肝心のウエハースチョコを食べきれない子どもが続出して社会問題に。その課題は今も続いている。
しかし、あのウエハースチョコこそ、「おいしい」と思う人は私だけではないはず。かつてはピーナッツやアーモンドが入り、現在はクッキークランチの入ったチョコ。味への評価は後を絶たない。
ほどよい厚さで歯ごたえのあるウエハースをかむと、しっかりとした味わいのチョコが姿を現す
長らく「ウエハースチョコのフードロス」について警鐘を鳴らしていたロッテも、最近はチョコをより食べてもらうための大きな動きがあり、何やら本も出したと聞く。
話題になるのはもっぱらシール。半面、これまであまり語られなかった「ビックリマンチョコ」の「チョコ」。その話を今こそ、ロッテに伺おうではないか。
「あんまりウエハースチョコの取材を受けることがないんですけども」と打ち明けるのは、ここ10年ビックリマンチョコの担当者を務める、ロッテ マーケティング本部の本原正明(ほんばら まさあき)さん。
同僚から「令和のビックリマン博士」と信頼を受ける彼に話を聞いた。
日本でなじみのない「ウエハースチョコ」を広めるために生まれた
「まず、ビックリマンチョコはどのように生まれたんですか?」
「ヨーロッパの商品からヒントを得たと聞きます」
「となると?」
「実は1970年代当時の日本にウエハースの商品はほとんどなかったんです」
「たしかに。私が記憶にある80年代でも、ウエハースはビックリマンとその類似品くらいしか見なかった気が」
「ロッテはオリジナリティを大事にする会社で、当時からウエハースがヨーロッパではポピュラーだったので、着目していました」
「過去の開発担当者へのインタビュー記事(※)を読むと、『ウエハースをヨーロッパから取り寄せて研究したり、ドイツから研究者を呼んで開発を進めたりした』とありますね」
※『モノマガジン』(ワールドフォトプレス)2007年11月16日号より
「はい。ロッテのチョコレート事業はヨーロッパの権威マックス・ブラック氏を招き、本場スイスの味をめざしてはじまりました。その一環で「ウエハース」も入ってきたようです」
「前述のモノマガジンの記事によると、『ウエハースを広めるため、当時ロッテで他のチョコレートで実施していたおまけシール付きという企画に白羽の矢が立った』と聞きますが……」
「当時は子ども用のお菓子が売れ筋だったので、子ども向けにおまけ付きのお菓子を作っていました」
「あくまでウエハースを広めるために、シールを付けたんですね」
「どちらも主役ですが、やはりお菓子の会社ですので『お菓子』がメインだと考えています」
ビックリマン専用チョコで作るウエハース
「ビックリマンチョコは1977年から基本レシピを変えていないと聞きます」
「中身がアーモンド→ピーナッツ→アーモンドクランチ→クッキークランチに変わりましたが、基本的にはレシピは変えていません。ただし、よりおいしくなるように、日々品質をアップデートしています」
「ウエハースの味のこだわりはありますか?」
「味には菓子メーカーとしての意地がありますね。しっかり焼き上げて香ばしい厚みのあるウエハースと、ロッテの他のミルクチョコと比べて甘めのビックリマン専用のチョコで作ります」
「甘さをなぜ立たせているんですか?」
「ウエハースのインパクトに負けないようにするためです。普通のミルクチョコレートより、甘みの強いチョコレートを合わせます」
「たしかにいま流行りの『甘すぎない』というより、ちゃんと甘い感じですよね」
「はい。さらにクッキークランチのサクサクした食感と、ウエハースのザクザクした食感が合わさって、より軽快に楽しめます」
同色なのでわかりにくいが、チョコの間に砕いたクッキーが入っている
「最初は少し歯ごたえがあって、食べ進めると軽快にどんどん食べられる印象ですね」
「この軽快さは、シールを集めるときの楽しさにもつながると考えています」
「え?」
「弊社調べで、お客様は軽快な食感の商品を楽しいときに食べることが多いのです」
「たしかにあのサクッとした食感は、ビックリマンの楽しさとイコールでした」
「楽しさを演出する情緒的な価値にもなっていると思っています」
「ピーナッツ」はなぜ消えた?
「1985年からの第1次ブーム時は、ピーナッツ入りでしたよね。すごくおいしかったんですが……なぜ変えたんですか?」
当時のパッケージにも大きくピーナッツの姿が
「その当時、あまりビックリマンが売れていなかったからなんです」
「え?」
「第1次ブーム後には1999年発売の『ビックリマン2000』が一時期盛り上がりましたけど、2〜3年で終売しまして。新しい風を入れるために、2001年にピーナッツをアーモンドにしたんです」
「ただ、ピーナッツ時代のチョコはいまだに待望論が根強いですよね……?」
「ご要望をいただくことは多いのですが、現在、弊社でピーナッツを使う商品はないんです」
「ええ?」
「ピーナッツは重篤なアレルギー症状を起こしやすいため、どなたでも安心して食べられるようにお菓子の素材としては避けるようになりました」
「そ、そうなんですか……!」
「でも、ピーナッツの味が忘れられない方は多いんですよ。『味変わりましたか?』という問い合わせは、大量に来ました」
「私と同じように、ピーナッツ好きが多かったんですね。ピーナッツ入りのビックリマンチョコは復活しないですか?」
「今のところ復活は考えていません」
「すごく注意書きが大きくなったり、高くなったりしてもいいので、いつかまた売ってほしいです……!」
食べきれなかったチョコのために「消費レシピ」
「そんな中で、第1次ブームのときから、シールだけ取ってチョコを余らせてしまう子どもが社会問題になっていました」
「弊社としても、以前から何とかしたいと思っていました。そしてレシピや本を出したきっかけが、2020年に発売したコラボ商品の『鬼滅の刃マンチョコ』です」
「これ、すごく売れていますよね!」
「ビックリマン第1次ブームが再来したように売れました。ただし、SNSで『チョコが余った』との声や、チョコがないがしろにされている写真までがあふれていて」
「そこも再来したんですか……」
「そこで2021年4月1日『ビックリマンの日』に、2つの施策を行いまして。1つ目は、「ビックリマン憲章」の2021年版を出しました」
「これ! ビックリマン好きのバイブルだったコロコロコミック(小学館)に掲載されて、当時はムーブメントになりましたよね」
ビックリマン憲章2021。シールに言及した項と入れ替えでアレンジレシピの項が追加された
「コロコロコミックさんにも了承を得て、新しくしました。あとは、もっとおいしく食べてもらおうと思いまして。41種のビックリマンチョコのアレンジレシピを2021年4月から1年かけて公開しました」
「おお、何やらダイナミックなレシピがたくさん……!?」
「これが好評で、主婦の友社さんからお声がけいただき、パティシエやフードコーディネーターさんと組んで2022年7月に本を2冊出版しました」
「この本たちですね!」
2冊同時発売。天使編はポップ、悪魔編はアグレッシブなレシピが並ぶ
「天使編と悪魔編の2冊です。ウエハースチョコの消費を加速するレシピとして、『ビックリマンチョコ激うま消費レシピ』を出版しました」
天使編より
悪魔編より
「めちゃくちゃおいしそうだ……。出版後の反響はいかがでしたか?」
「特に女性の反応がよかったですね」
「意外ですね。当時、ビックリマンシールをよく集めていたのは男子のイメージなので」
「シールを集めていた男の子が、『ウエハースチョコを食べきれないから』と周囲にチョコをあげるケースも多くて。実は女性もビックリマンチョコをたくさん食べているんですよ」
「ああ!」
「ポケモンウエハースチョコという商品も発売しているんですが、お母さんになって子どもと一緒にチョコを食べているとも聞きます。『子ども時代を思い出しました』って」
「歴史は繰り返すわけですね。ちなみに、僕は料理が苦手でして……」
「そんな方へのオススメが『焼きビックリマン』です」
「うお! ビックリマンがこんがり焼かれている!」
「焼いたビックリマンは最もカンタンかつ、一番うまいかもしれません。ウエハースがカリッと焼け、中のチョコレートがトロッとします。パンみたいな感覚ですよ」
「オーブンで5分焼くだけでいいんですね……これは試します」
「あとは、アイスと絡めるとか」
「ダイナミックだ!」
「そのほか、パンにはさむのもなかなかです」
「こうしたレシピは、どのように考えたんですか?」
「2015年、アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉とコラボメニューを出したのがきっかけでした」
「なんだこれ、高級フォアグラのせビックリマン(2,200円)!?」
あまりにも実験的な品々
「はい。少し高いメニューですが実はけっこう売れたんです。『高いお金を払ってでも食べたくなるものにできるんだ』と実感しました」
「これが後につながるわけですね」
「いい食べ方を提供できていなかった」
「ビックリマン担当の前任者から、教わったことはありますか」
「いろいろありますが、一番印象に残ったのは『ビックリマンチョコはシールだけじゃない』です」
「たとえば?」
「『忘れるなよ』と伝えられたのは、『シールに意識が行きがちだけれども、我々はお菓子メーカーだから。お菓子はおいしく、シールも楽しくを追求していこう』と」
「お菓子メーカーのプライドが感じられますね。ちなみに『高くなった』との声もありますね」
「『値段だけ上がっている』みたいに言われますが、チョコも大きくなっているんですよ」
「言われてみれば、そうですよね」
「そこに気づきにくいのは……子どものころの小さい手で持っていた、当時のウエハースチョコのサイズと、大人の手で持つ、今のチョコのサイズがだいたい一緒なんです」
そう言われてみれば、同じ気もする
「口も大きくなっているし。『自分がでかくなった』ことに、大人はあまり自覚がないですからね」
「だから変わらないように見えて、実は大きくなっているんです」
2019年、筆者が個人的に買った悪魔VS天使シール34弾のビックリマンチョコ
「ウエハースチョコはフードロスとして社会問題になるなど、担当者として悔しい経験もしたかもしれません。率直に、どんな思いがありますか?」
「『大量に買ったときに食べきれない』と思わせていたのは事実なのかなと思います。『食べてください』だけじゃなくて、こう食べるともっとおいしいとか、それを提案できていなかったメーカーにも責任があるのかなとは考えています」
「自らを責めすぎでは……」
「おいしく食べていただいて楽しく集める。この二つを両立する普及活動をしていくのが、メーカーの役割だと思っています」
「僕、ビックリマンの取材をこの10年間でたくさん受けましたけれど、ウエハースチョコについてこんなに話すのは初めてくらいです」
と語っていた本原さん。
いつもスポットライトがあたるビックリマンシールに比べ、影の存在だったビックリマンのチョコ。
正直、ロッテにすら忘れられた存在だと思っていたが、思った以上に考え抜いてくれていてうれしかった。近い未来に食糧危機も叫ばれる今、レシピも参考にしてますますおいしく食べていこう。
いつか安全にも留意するなんらかの形で、「ピーナッツ入りビックリマンチョコの復活」を夢見ながら――。