こんにちは、ライターの友光だんごです。突然ですが、パセリはお好きですか?
こんな状態のパセリを見たことないですよね。僕もないです
僕は、正直そんなに好きではありません。というより、パセリの存在を気にしたことがなかった、といったほうが正しいかもしれません。
レストランで、メインの料理の端のほうに置いてあるパセリ。彩りを添える意味合いだと思っていたから、手をつけることはほぼありませんでした。
むしろ、付け合わせのパセリを食べている人を見ると「それ食べるの!」とつっこんでしまったりして。
ただ、世の中には「熱烈なパセリファン」がいるらしいのです。エッセイストの平松洋子さん、モデルの冨永愛さん。そして、ジモコロ編集部にもパセリラヴァーが。
「だんごさん、パセリって美味しいんですよ! しかも、栄養満点。付け合わせのパセリ、私はモリモリ食べちゃいます。あれじゃ足りないくらい。今度、静岡に行くなら、ぜひ行ってみて欲しいパセリ農家さんがあるんです!」
ということで、
来ちゃいました。
こちらは静岡県・浜松市にある「株式会社ソラーレ」。
『満天 青空レストラン』『チコちゃんに叱られる!』『ウドちゃんの旅してゴメン』など、多くのテレビ番組もパセリの取材に来ている会社です。
ソラーレでじっくりお話を伺っていると、知られざるパセリの魅力が明らかに。
・料理に付け合わせているのにはちゃんと意味があった
・レバーより鉄分が豊富・レモンよりビタミンCが豊富
・ブレスケアの主成分はパセリ。口臭予防効果あり
・美容にも効果的めん
・日本には江戸時代に「薬」として入ってきた
・そのままだと苦いけど、料理でとびきり美味しくなる!
……つまり、パセリは「飾り」じゃなかったんです。
この記事を読み終わったあと、あなたはきっとパセリを食べたくなるはず!
株式会社ソラーレ 代表取締役の日比野 稔さん(写真右)と、宮澤 諒太(写真左)さんにお話を伺いました!
パセリ栽培は、こんなに手間がかかっていた!
ビニールハウスの熱気がすごくて、メガネが曇っています
まずはパセリを栽培しているビニールハウスにお邪魔して、話を伺います。
「パセリの栽培されているところ、初めて見ました。ハウス栽培なんですね」
「品種や気候によって、ハウス栽培と路地栽培を使い分けていますね。だんごさん、せっかくだからパセリを召し上がってみてください」
「いいんですか。いただきます」
パクッ。
「こんな束のパセリにかじりつく体験に、まずテンションが上がっています。やっぱり苦さがガツンと来ますね! 久しぶりに食べたというか、パセリとちゃんと向き合ったこと、今まであったかな」
「パセリは、料理に使うことでびっくりするほど美味しくなるんですよ。他の食材と一緒に食べると、苦味もほぼ感じない。慣れてくると、パセリの苦さも恋しくなってきて、どんどん料理に使う量が増えていきます(笑)」
「本当かな……」
「後でレシピをお教えしますね。それと、今はオフシーズンなのでつくっていないのですが、うちでは『浜松選抜3号』という、通常のパセリよりグッと甘みの強いパセリも栽培しています」
見た目は普通のパセリと変わらない「浜松選抜3号」(画像提供:株式会社ソラーレ)
「甘いパセリ! ちょっと想像つかないですね……」
「『浜松選抜3号』を栽培しているのは11月~6月まで。浜松でしか栽培していないブランドパセリなんですよ。ぜひその時期にも遊びに来てください。甘くてびっくりすると思いますよ」
取材は7月に行われました。ギリギリ「浜松選抜3号」の時期に間に合わなかった……
「パセリって、栽培はけっこう難しいんでしょうか?」
「難しいというよりは、収穫までの期間が長いんですよね。例えば小松菜であれば、タネを撒いてから収穫までだいたい30日、キャベツだと2、3ヶ月。でもパセリの場合、製品になるまで大体4〜5ヶ月かかるので、その分、手をかけないといけないんですよね」
「キャベツの倍くらい時間がかかるんですね。それは大変そうだ……」
「成長過程で何度も間引きをするので、その手間もかかりますね」
「間引きのトーナメントに勝ち残った、最高のパセリが出荷されるわけですね」
「収穫のときも、葉がきれいに縮れているか見ながら束ねていきます。野菜の収穫というよりは、お花を摘むように、丁寧に」
「これ全部、手で摘んでるんですか? 機械では収穫できない……?」
「すべて手でやってます」
「手作業! パセリがこんなに手をかけて育てられてるとは、ぜんぜん知りませんでした」
「他の野菜とは違った作業もあるので、専門的な仕事をしている感じがしておもしろいですよ」
「宮澤さんたちの手間暇を思うと、それだけでパセリが美味しく感じられるような。それにしても、これだけのパセリの畑、付け合わせに換算したら何皿分くらいになるんだろう……」
「いやいや、『パセリは付け合わせ』だけじゃないんです。ぜひモリモリたくさん食べて欲しいんですよ! 毎日の食事に取り入れて欲しいくらい」
「毎日ですか!?」
レバーより鉄分が豊富!? 知られざるパセリの栄養
「この資料を見てください」
「これらはすべて、パセリの効能です」
「『美肌効果』+『腸内環境』+『病気の予防』……? すごい。いろいろ書いてある」
「パセリは、他の野菜に比べても、秀でている成分が多いんですよ。特に鉄分は、100g中の含有量で言うとレバーよりも豊富なんです」
「レバーよりも鉄分が豊富!? そんな食品が存在するとは」
「僕、高校の時は駅伝選手だったんですね。長距離走って、すごい量の鉄分を使うんですよ。鉄分がなくなると貧血になって、パフォーマンスの質が落ちてしまう。あの頃の自分にパセリを食べるといいぞ、って教えてあげたいですね」
「スポーツ界では、パセリが鉄分豊富なことは知られているんですか?」
「いや、今はレバーやほうれん草を食べたり、サプリメントを飲んだりするのが一般的だと思います。でも、できれば自然な食べものから摂りたいですよね」
「うんうん」
「鉄分やビタミン等はすべての人間にとって欠かせないものですから、アスリートだけでなく、たくさんの人にパセリの効果を知ってもらいたいですね」
「ビタミンCも、レモンより多いです。βカロチンも相まって、紫外線による顔のゴワツキとか、乾燥のシミ、くすみなどを改善するとされています。さらに、肌の老化防止効果もあるとされていて、美容に興味がある方にうってつけなんですよ」
「化粧品の成分として、フェイスマスクなどにも使われています。うちでも、化粧品工場向けに出荷してますから」
「へえー!」
「あと、スーパーやデパートのお肉の広告写真を見ると、お肉の横に必ずと言っていいほどパセリがあるんですけど、なぜだかわかりますか?」
「なんだろう。赤い肉を映えさせるための差し色……?」
※イメージ画像です
「いえいえ。パセリには口臭予防効果があるんです。ニンニクや玉ねぎの独特な匂いの元となるアリシンを中和してくれるのが、パセリに含まれているアピオールという成分」
「焼肉屋のあとに噛むべきは、ガムじゃなくてパセリだったんだ!」
「焼肉を食べたあと、知らず知らずパセリを食べている方も多いかもしれないですよ。『ブレスケア』って商品があるでしょう。あの主成分はパセリオイルです」
よく見るとパッケージ右下に「パセリオイル」の文字が
「知らなかった!」
「他にも、お弁当やお刺身についているパセリは、食中毒予防のためでもあります。パセリって、すごいでしょう?」
「パセリにこんなに効能があるなんて知りませんでした。なんだか漢方薬みたいですね」
「元々、江戸時代に日本に入ってきた時、パセリは『薬草』だったんです。それから徐々に品種改良で苦味を抑えていって、食卓に並ぶような野菜になってきたんですよ」
「元々はもっと苦い『薬』だったんだ」
「我々が子どもの頃は、よく親から『パセリは栄養価が高いから食べなさい』と口うるさく言われてましたね」
「日比野さんのご両親の世代は、パセリの薬草としての効果を知っていた?」
「そうですね」
「それを、だんだんみんなが知らなくなっていった。なぜしょう」
「これは想像ですけど、いま50〜60代の僕くらいの世代は、子どもの頃にパセリが嫌いな人が多かったんじゃないかな。昔のパセリは、今よりもクセが強くて食べにくかったんですよ。私も子どもの頃は苦手でした。食べたふりをしてこっそり捨てたりして(笑)」
「そういえば僕の母も、パセリやセロリなどのクセの強い野菜がそんなに好きじゃなかったですね」
「本人が苦手意識を持っている野菜を、子どもに勧めませんよね。それでだんだんと食卓から消えていったんじゃないかな、と」
「徐々にパセリの効果を知る人も少なくなって、だんだんお皿の隅にある付け合せのイメージが強くなっていった……」
「そうかもしれませんね」
「でも、最近ではパクチーやハーブもよく使われるようになりましたし、パセリも若い人には受けるのでは?︎」
「そうなって欲しいですね。それにはまず、パセリを口に入れてもらうところからはじめないといけないんですよね。食べたことがない人も多いですから」
「大変失礼なんですが、正直、パセリは彩りで、積極的に食べるものではないと思っていました。スーパーで買ったこともなくて……」
「スーパーの野菜売り場で、じゃがいもや人参が置かれているメインの売り場にパセリが置かれる機会ってほぼ確実にないですし、けっこう探さないと見つからないと思います。しかも、手間がかかっているぶん、1袋100g入りで198円くらいはするから、高いと感じる人も多いみたいで」
「あと、1袋は使い切れなさそう……と思っちゃいます」
「そう思われる方は多いですね。なので、必然的に飲食店さんが買って、料理の付け合わせに使って、お客さんは飾りだと思っているから食べずに、そのまま捨てられてしまうという構造に……」
「栽培にも手間がかかるのに、それでは寂しすぎる……。そもそも、ソラーレさんがパセリを栽培するようになったきっかけが気になってきました」
人間も、野菜も、いいものを食べて育つのが一番
「パセリをつくりはじめたきっかけは、元々、ここ静岡県西部でパセリ栽培が有名だったからですね。農業起業する際にJAさんに相談しに行ったら、パセリ農家さんが激減している現状を話してくれて。十数年前は250軒あったパセリ農家が、今では60軒くらいになっているんです」
「4分の1以下に」
「だったら守ろう、と思いまして。辞められた農家さんの畑が耕作放棄地にならないように、私たちがお借りしてパセリ栽培を続ける。そして、今まで畑仕事をされていたおじいちゃんおばあちゃんを雇って、お小遣いくらいの収入は入るようにしてあげる」
「いろいろな人の困り事を解決しているんですね」
「そういった課題を解決するために農業で起業する、と息子に相談したら、一緒にやろうか、ということで」
「息子さんと起業されたんですね」
「さらに息子から、『僕の親友で、農業で将来独立して飯を食いたい人がいるよ』ということで紹介してもらったのが、」
「僕です」
「つまり息子さんと、その親友と、3人で起業したんですか!? すごい展開」
「息子と宮澤には『お前たちは10万円ずつ出しなさい。あとは俺がお金を出す。経営もいちから教えてあげるから』と」
「かっこいいエピソードだ」
「自分は農業資材を売る会社でサラリーマンをやっていたんですが、自分で野菜を栽培するのは初めてで。知識もなかったので、人と話したりとか、本を読んだりとか。最初は合っているかどうかわからなかったけど、とにかくやってみようという感じで」
「ソラーレさんは、土づくりにもこだわりがあるんですよね」
「うちは有機農法をしているんですが、『有機農法』って、言葉の範囲がすごく広いんですよ。極端に言えば、一本の髪の毛を土に入れれば、それも有機物を入れていることになる、という世界なんですよね」
「髪の毛も有機物だから?」
「はい。すごく奥の深い世界なんですが、僕が思うに、いい土というのはインターナショナルなんです」
「どういうことですか?」
「土のなかにいろいろな微生物がいる状態のことですね。一種類の微生物だけだと、食べるものが一緒なので喧嘩が起こってしまうし、天敵が来たら全滅してしまう。畑がインターナショナルになると、農薬がなくても大丈夫な強い土になってくる。土づくりが大切というのは、そういうところなんですよね」
「なるほど。多様性は強さ」
「そうですね。なので、年ごとに土の状態を見て肥料設計も変えて。野菜って、育ちすぎるのもよくないんですよ。土に混ぜる量とかタイミングとか種類とか、すごく難しいですね」
「野菜がナチュラルに育つように、土を調整してつくっていく」
「先ほど、『鉄分を摂るならサプリでなくパセリを食べて欲しい』と話しましたけど、それと同じように、パセリを育てる時にもできるだけナチュラルな方法で栄養をあげる。そして手間をかけてあげるということですね」
「人間も、野菜も、いいものを食べて育つのが一番ということですね」
「いま、共働き世帯が増えたり、食文化の変化があったりで、年々『簡単につくって簡単に食べたい』という需要が増えて来ている気がします。さらに、金銭的な余裕があるかというと、そうも言えない世の中ですよね。そんな時にスーパーでパセリを手に取るかと言うと……」
「忙しくて、節約思考だと、使い方がわからない野菜に挑戦する余裕はない気がしますね」
「でも、パセリって本当に魅力的な野菜なんですよ。私たちの日々の健康を支えてくれる食べものなんです。だから、パセリはお皿の端っこの飾りじゃなく、積極的に食べて欲しい野菜。これをもっとみなさんに伝えていきたいと思います」
「ありがとうございます。僕たちもがんばって伝えます!」