こんにちは、ライターの吉野舞です。
写真は近所の魚屋で見つけたかわいい猫ちゃんです。
みなさんの中には、外出自粛やテレワークにより家の中で過ごす時間が増えたことで、犬や猫などのペットを飼い始めた方もいるのではないでしょうか?
心に癒しと成長を与えてくれるペットの存在は偉大で、共に過ごす時間はかけがえのないものですよね。
私も仕事の休憩中や寝る前に、猫の動画を見て、とめどない愛くるしさを感じています。
こちらは友人宅で飼われている女の子の「ちーさん」。線路脇で弱っているのを保護して、家族の一員に
しかしコロナ禍の現在、ペットを飼う人が増えると同時に、家から脱走したり、迷子になったりして、行方不明になるペットも急増しているんです!
そこで活躍するのが「ペット探偵」というお仕事。その名の通り、迷子になったペットたちを探す専門の「探偵」です。
だけど正直、ペット探偵って何をしているの…….?
どんな方法で動物を捜索するの? ペット探偵になるには資格が必要?
ということで今回、神奈川県藤沢市に本拠地を置く「ペットレスキュー」代表の藤原博史(ふじわらひろし)さんにお話を伺ってみました。1997年の創業以来、約3000頭のペットを見つけ出し、成功率は約7割というペット探偵のカリスマです。
話を聞いた人:藤原博史さん
1969年兵庫県生まれ。1997年に迷子になったペットを捜す動物専門の探偵社「ペットレスキュー」を設立。これまで受けた捜索依頼は3,000件以上、発見率は約8割。「情熱大陸」に出演し、一躍話題に。ドキュメンタリードラマ「猫探偵の事件簿」(NHK BS)のモデルに。著書に『ペット探偵は見た!』がある。
ペット探偵のひみつ道具
「今日は初めてペット探偵の方とお話しするので、楽しみでした!ペットレスキューでは、どのような動物が捜索対象になるのですか?」
「犬、猫、ウサギ、鳥、フェレット、プレーリードッグなどです。最近、一番よく探しているのは迷子の猫ですね」
「ペット探偵ってどんなことをしてるんですか?」
「仕事の流れとしては、まずは依頼者からの電話が来て、話を聞きます。そして捜索となると実際に現地に出向き、ペットの性格や地形を考慮したアプローチ方法を考えます」
「アプローチ方法にはどんなものがあるのでしょう」
「基本は迷子のペット情報が書かれたチラシを捜索地域に投函し、聞き込みを行います。同時に、一軒一軒、敷地外から目視できる範囲で現場確認を行い、猫の好む場所やエサ場、その地域の生ゴミの日などの情報収集をします」
「そんなに細かく!?」
「そして範囲が決まれば、プロの捜索用の道具を使用するんです」
「ペット探偵のひみつ道具、見てみたいです!」
「お見せしましょうか。この3つがよく使う道具になります」
「中央は動物専用の『赤外線カメラ』で、動いたものに反応して30秒で撮影するようになっています。目星を付けたところにカメラを置いて潜伏場所を探すので、普段から10個以上は持ってますね」
「次は、工業用内視鏡の『Jスコープ』。これは洞窟や排水溝などの細い場所にいるのを確認します。実際に水道設備工事でも使われているんですよ」
長いケーブルの先についてカメラを使い、人の入り込めない場所も捜索する
「最後は、『LED ヘッドライト』。両手が使える状態で手元や遠方を明るく照らせるので、暗闇での歩行や作業時に欠かせないものとなっています」
「動物を保護する時って鉄の頑丈な箱を使うイメージが強いのですが、そういったものも使うのでしょうか?」
「はい。こちらが『猫専用捕獲器』です。中にエサを置いてペットが自分から入り込むのを待ちます。そして床に貼られた板をペットが踏むと、その重みで入口が塞がれる仕組みになっています」
捕獲に使う道具はアメリカから調達
詳しい捕獲の様子を実演してもらいました
「他にも、人が近くに待機して、ヒモで捕まえるのもあります。近づきすぎると猫が警戒するので、仕掛けをする時は大体50mくらい離れます。音も立てず……食事もせず……来たと思ったら引く!」
路地の奥に捕獲器が設置されています
「一瞬!!!」
「猫はとにかく行動が早いから、あのスピードでも捕まえられるのは捕獲器の出口ギリギリ。なので、トラップを設置する前に『この子だったらどんな行動をする?』と作戦を練ることが重要です」
「とにかくたくさんトラップを設置して、保護するんだと思っていました!」
「闇雲に設置しても、他の猫が捕まるだけなんです(笑)。私たち人間がひとりずつ違う個性を持っているように、猫だって100匹いれば100通りの性格をしています。そのため住宅街も山奥も『事件現場』になるんですよ」
「猫と犬で行動パターンも違ってくると思うのですが、探し方も変わるんですか?」
「猫は『面』で、犬は『線』で探します。犬の場合『短時間で遠くに移動』することが多く、1キロ以上離れた場所で見つかることも少なくないんですよ。SNSやポスターを使って情報を発信しつつ『線を抑える』ことで見つかりやすいです」
「猫の『面』はどういう意味でしょう?」
「猫は性質上、天井裏や床下に潜り込みやすく、狭い範囲で立体的に移動します。そのため実は自宅の敷地内に潜んでいたけど1ヶ月間見つからなかった、なんてことも。そのため、そもそも人目につきませんから当然、情報を募っても見つからない。なので闇雲に捜さずに、近い距離で『面をつぶしながら』探すのが重要です」
コロナ禍で人と動物の関係が変化
「もし自分のペットが行方不明になってチラシを作る場合、どんなことを書いたらいいのでしょうか?」
「写真、名前、行方不明日、性別、身体的特徴、連絡先、一言は必須です。報酬はトラブルの元になるので書かない方がいいです」
提供:ペットレスキュー
「お金が絡むことによって、捜索に悪影響が出る可能性もあるんですね」
「高額な懸賞金を書いているパターンって、実は最終的に見つかっていないケースが多いんですよ。あとチラシを書く場合、ペットの毛の色が白や黒ならモノクロ写真のコピーでいいですが、茶系の場合はカラーでないとわかりにくいためカラーコピーをオススメします」
「チラシに載せるペットの写真って一番かわいく写っているものでいいですかね!?」
「飼い主さんが選ぶ写真は、かわいさ重視なものになりがち。なので、あくまで全体がわかるのものであればいいと思います」
「なるほど! そもそも今、どうして迷子の動物が増えているのでしょうか?」
「保護犬や保護猫を飼う方が増えているような世の中の流れが影響してますね。外で暮らしてきた動物達は、家の中で生活する概念がないので逃げてしまうことが多いんです」
「やっぱり元々は野良だと、外に出たくなっちゃうんですしょうか?」
「一概にそれだけが原因とは言えませんが、動物の習性から見ても、ペットが『いつ脱走してもおかしくない』と思って心構えをしておいたほうがいいですね。玄関を締め忘れたり、窓をちょっとでも開けっぱなしにしたりしないで、細心の注意を払ってください」
「一緒に暮らしているペットも当然、動物だから、十分注意する必要があるんですね」
探偵になったきっかけは、20代で見た不思議な夢!?
「藤原さんがペット探偵になったきっかけって何だったんですか?」
「子どもの頃からあらゆる動物が好きで、親が言うには1歳の時から歩いて虫を追いかけ回してたんです。昔の写真を見ると、制御できないからって犬のリードで繋がれていて」
「捕まえられる側だったんですね(笑)」
「物心がつくと、木の皮をめくってテントウムシを眺めたり、地中で冬眠しているトカゲを発見したりしていました。布団で寝ている時も『僕は今、ミノムシの繭の中にいて幸せだ〜!』って動物の気持ちに同化していたんです」
「飼ってみたいという気持ちとは、また別物だったのでしょうか?」
「とにかく動物の気持ちを知りたくて、動物側の視点にチャンネルを合わせるのが好きでした。それから中学3年生の時に1年間、家出をして。路上で犬と抱き合って暖を取って、野良猫と一緒に食事を探す生活を送っていました」
「えっ(笑)、完全に動物側の生活へ移行!」
「何の縛りもない生活を追い求めていたら、そうなっていましたね。めちゃくちゃ楽しかったです」
「特殊な環境で育った子ども時代に今の藤原さんの原点があったんだなあ。ペット探偵になろうと決意したのもその頃ですか?」
「沖縄で漁師をしていた20代半ばの時に、自分が行方不明の犬を探して、ペット探偵として大活躍しているというリアルな夢を見たんです」
「それは、きっとお告げですね」
「僕は占いとか全く信じないタイプなんですけどね(笑)。起きた瞬間『この仕事をしなければいけない!』と思い、東京に出て、ペット探偵事務所で2年間弟子入りしました」
「弟子入りしてみてどうでしたか?」
「この世界は弟子入りしても関係ないと思いましたね。いまだに捜索方法の『正解』が確立されていませんし、自分で仕事のスタイルを作り上げていくことが大切です。基本的な捜索方法は教えられるけど、その日の気温や風で判断する所まで説明するのはとても難しい」
「藤原さんがペット探偵を始めた25年前から、依頼は多かったんでしょうか?」
「いえ、そんなことはなくて。よく新手の詐欺だと勘違いされましたね。当時はポケベル時代で、今みたいにSNSでの宣伝の方法もなかったですから」
「そこから、どうやって依頼が増えていったのですか?」
「無事ペットを見つけたことで徐々に口コミで広がっていき、それがメディアの方に留まって多くの依頼をいただくようになりました。今は問い合わせの電話が毎日かかってきて、10分の1くらいの依頼しか受け入れられていません」
「時代と共に成長したお仕事だったんですね」
ペット探偵に向いているのは、「変態な人」
「ペット探偵に向いている人は、どんな人だと思いますか?」
「人間の思考で探してしまうと、どうしてもズレが出てきてしまうので、個々の動物の思考にチャンネルを合わせられる人。まあ、一言で言えば『変態』ですね」
「藤原さんからは変人っぷりがすごく伝わってきます(笑)。それに『探偵』という言葉にふさわしいくらいの鋭い眼光をお持ちですよね……」
「僕は非言語コミュニケーションを行う動物と接しているので。こうやって人と初対面でお会いした瞬間の印象からインスピレーションを感じて、その人がどんな人なのか判断している要素は強いかなと思っています」
「(ドキッ)超能力的な……?」
「いえ、お会いした瞬間に感じた印象がその後会話をしたり同じ時間を共有してもあまり変わらない事が多いので、わりとその感覚を信用しているんです。『第一印象』といいますが、視覚や声、体臭などから得られる情報って、本来ものすごく多いのかもしれませんね」
「なるほど、第一印象で!」
「元々、人間も言語を備わっていない動物だったのに、言語が発達したことで直感力が衰えていきました。動物界では今でも、言語なしの会話が当たり前ですから」
「すごい……! このお仕事を続けているのも、自分の直感に従って行動している部分が大きいからですか?」
「もちろん動物への愛もあるんですけど、本音を言えば、人間が本来持っている『狩猟本能』が働いていると思います。僕は根っからの飽き性で、10分の行列も待てないんですよ。けど、仕事でペットを探している時は、8時間でも身を潜め続けることができます」
車で全国どこでも捜索に向かう藤原さん。取材後は静岡へ向かっていった
「この取材前に『依頼に合わせて仕事のスケジュールが決まるので、自分が明日どこにいるのか分からない』とお話されていましたが、そんな不規則な生活も、飽き性ならぴったりですね」
「ペット探偵の仕事に興味を持ってくれる人も多いのですが、『人間が苦手だから、動物と関わる仕事をしたい』という動機の方は続かないと思います。ペットがいなくなってパニック状態の飼い主さんとのコミュニケーションは、普段の会話より何倍も神経を使うので」
「ペット探偵って動物と人の双方に対して、エネルギーが必要な繊細な仕事でもあるんですね。最後に、行方不明のペットを探す時に注意しておくべきことはありますか?」
「飼い主さんがパニックになって叫ぶと、動物もパニックになるので、まず冷静になること。あとは、ペットにも個性があります。捜しているペットの気持ちになって『この子ならどうするだろう?』という問いかけを行いながら作業を進めてください」
「動物の立場に立って考えるようにします!」
「『たかがペットじゃないか』と言う方もいますが、生き別れてしまったペットへの思いはどう決着を付けていいのか分からず、一生の心の傷に残ることも。なので、1日も早く捜索を開始して家族の元に戻してあげたいですね」
「私もこれから街中やSNSで見る『行方不明のペットを探しています』の情報に目を通して、誰かの大切なペットのために協力していきたいと思います〜!」
まとめ
飼い主さんの祈りを背負って大事な家族を探す「ペット探偵」。
私が数年前ドイツへ旅行に行った時、犬を屋内で飼育する場合は「昼夜の生活リズムを維持するために、自然光や新鮮な空気の供給が保証されている室内でなければいけない」といった飼育規定が決められていることを知りました。そこで、動物の視点から、犬の権利が守られていることに驚いたんです。
動物への接し方は、その国の異文化コミニュケーションへの姿勢が顕著に現れるような気がします。私たちは動物から自分とは違う他者への心の開き方を学んでいるのかもしれませんね。
何かの手違いで離れてしまったペットが愛する家族の元へ戻ってきてくれるように、ペット探偵の活動を心から応援しています〜!
「ペットレスキュー」に捜索を依頼したい場合は、以下のサイトをチェックしてください!
ペットレスキューHP
撮影:番正しおり
イラスト:花原史樹