こんにちは、ライターの朽木です。
ちなみに左の壁際でうつむいてメモをとってるグレーのパーカーが僕です。
先日開催された『大ベンチャー展』。前回はそこで行われたセミナーのレポート『編集者とクリエイターはテクノロジーを無視できない―佐渡島庸平×加藤貞顕』の模様をお伝えしました。
今回はセミナーの大トリ「DLE×SCRAP×バーグハンバーグバーグ『遊びをビジネスにする方法』」をレポートさせていただきます!
登壇者はこちらの御三方。まさに『遊び』に特化した会社の面々ですね。
株式会社ディー・エル・イー:FROGMAN
株式会社ディー・エル・イー所属。代表作「秘密結社 鷹の爪」はTOHOシネマズのマナームービーとして話題となり、現在はLINE LIVEで毎週新作を配信中。アニメでは絵とシナリオと声、ほぼすべてを一人で行う。今回のセミナーでも、その場で総統と吉田くんのやりとりを再現してくれて歓声が上がった。本人はプロフィールに『クソアニメとよばれ続けて10年』と書いていたが、海外での評価も高く、名実ともにトップクリエイターと呼ばれる存在。
株式会社SCRAP:加藤隆生
株式会社SCRAP代表取締役社長。ホールや遊園地、東京ドームなどを貸し切り、参加者を閉じ込め、謎を解かせて脱出させるというリアル脱出ゲームの生みの親。学生時代に作っていたフリーペーパーの一企画として始まったイベントだが、今や海外でもイベントが開催されるほど人気コンテンツに。
株式会社バーグハンバーグバーグ:シモダテツヤ
株式会社バーグハンバーグバーグ取締役社長。オモコロやジモコロといったメディアの運用を行うほか、ウェブを中心に、笑いに特化したワケのわからない広告を制作している。今回の大ベンチャー展でも堀江貴文氏とほぼ同じDNAを持つというホリエザウルス(全高2m超)や、SCRAPの加藤さんの祖先と称し“SCRAP原人”を製作した。
自己紹介で飛び出した知られざる過去!
写真左からDLEのFROGMANさん、SCRAPの加藤隆生(かとうたかお)さん、バーグハンバーグバーグのシモダテツヤさん
モデレーターにフリーライターのセブ山さんを迎え、いよいよトークがスタートしました!
「さっそくですが、壇上のみなさんに、どんなことをしている人なのか、改めて自己紹介して頂きましょう。まずはFROGMANさん」
「はじめまして、FROGMANと申します。株式会社DLEという会社でFlashアニメーション『秘密結社 鷹の爪』を制作しております」
「“鷹の爪”を知らない人は、この中にはいないですよね? 10年も続いている有名な作品です」
「当初は『クソアニメ』ってめちゃくちゃ叩かれたんですよ。その頃のアニメは有名な声優や監督、原作じゃないと、注目されなかったというのがあって。そんな作品を10年も続けることができて、よかったですよ」
「そんなドラマがあったんですね~。続きまして、SCRAPの加藤さん、よろしくお願いします」
「SCRAPの加藤です。『リアル脱出ゲーム』という体験型ゲームを制作しています」
「今回、加藤さんの自己紹介スライドにSCRAPさんの年表があるんですけど、2002年にバンド『ロボピッチャー』結成って、どういうことですか?」
「たぶん、この資料を準備したうちの社員の茶目っ気だと思うんですけど、昔バンド活動でメジャーデビューしていまして。『ロボピッチャー』っていうバンドなんですけど、嘘だろって言うくらい売れなかったですね」
ロボピッチャー時代の加藤さん(写真提供:株式会社SCRAP)
「売れなかったことを社員にイジられたってわけですね。じゃあ、最後はシモダさん、お願いします」
「はい、バーグハンバーグバーグ(以下BHB)のシモダと申します。インターネットの広告関係を制作したり、メディアの運用をしたりと、どちらかと言えばおふざけに寄ったブランディングの会社です」
「僕もBHBのメディアのひとつ『オモコロ』に記事を書いたりしていますが、説明するのが難しい会社ですね」
「この大ベンチャー展でも、隣に座ってる加藤さんの祖先みたいな展示物を作ってまして、本当に何の会社なのかわからなくなってきました」
展示されていたSCRAP原人
「ということで今回はそんなお三方に、『遊びをビジネスにする方法』をいろいろと聞いてみたいと思います!」
実は最初から商業をやろうと思って始めました
「まず最初にお聞きしたいのは『遊びからビジネスに変わった瞬間』についてです。FROGMANさん、どうですか?」
「いや、僕は遊びのつもりはなかったんですよ」
「ええ~~! せっかくテーマに沿って話してもらおうと思ったのに! じゃあどういうつもりでアニメを作り始めたんですか」
「1990年代の終わりから2000年の始まりにかけて、2ちゃんねるとかでFlashアニメが流行ってましたよね?僕は当時、実写の映画やドラマの仕事をしていたんですが、訳あって島根で暮らすことになり、Flashアニメなら島根からでもできるな、と思ったんです」
「もともと実写をやっていたなら、島根で実写映像を作ればよかったのでは?」
「もちろん実写もやろうとしました。でも島根ではそういうプロジェクトに、誰も付いてきてくれなくて。『じゃあ、1人でできる映像はないかな』と考えていたら、アニメに行き着きついたわけです」
「なるほど! アニメだったらシナリオも絵も自分でできる!」
「そうなんです。だから僕の場合、最初から商業アニメを作ろうと思ってやり始めたんですね。実は三十歳過ぎまで絵すら描いたことがなかったんですが、他に選択肢はなかったし」
「それでも、ウェブサイトを立ち上げて動画を公開するうちに、1日で7〜8万人が来てくれるようになったわけですよね?」
「そうですね。でも、みんな観て帰るだけで、正直お金にならなかった。キャラクターを起用したいわゆるバイラルムービーやバズムービーを制作するようになってから、次第にいろいろなところからコラボや広告のお仕事の声が入るようになりました」
「そうやって『秘密結社 鷹の爪』が誕生したんですね~。加藤さんはどうですか?」
「僕は逆に、ずっと遊びのつもりでした。学生時代にフリーペーパーを発行していて、ファンに謎を出すとか、そういうことをやっていくうちに、集まる人がワーッと増えて」
「会社としてここまで大きくする過程には、かなりの苦労があったんじゃないですか?」
「いや、リアル脱出ゲームって先行投資が特に要らないんですよ。例えば、今この場所でも、紙を10枚くらいとペンを用意してもらえれば、たったそれだけの材料で、30分くらいでリアル脱出ゲームは作れるんです」
「えっ、それはやってもらえるってこと……?」
「いえ、やらないです(笑)。もう今はビジネスなので、もちろんお金をいただきます」
(会場笑い)
「当時の僕にとってリアル脱出ゲームというイベントは『お小遣い』くらいの感覚でした。なぜなら、その頃まだ自分の本業をミュージシャンだと思っていたので」
「ああ、『ロボピッチャー』の(笑)」
「今なんか、バカにしませんでしたか?」
「してないです! あの資料を作った社員はバカにしてるかもしれないけど、僕はバカにしていないです」
「それくらい軽い気持ちでやってたんですが、いつの間にか、自分たちのお店を作るようになったんですよ。で、ある時、原宿の大きなお店を借りようってことになったんですけど、初期投資が2000万円かかかると言われて。『ああ、この2000万を払ったら、もう“ビジネス”だな』と」
「なるほど、その瞬間にビジネスに変わったんですね」
「でもね、すごい迷った。生まれて初めて泥酔するくらい飲んで、道端にいた占い師に『今から人生の勝負に出ようと思うんだけど、観てくれない?』って頼んでみたんです。そしたら『今は勝負の時じゃないから止めなさい』って」
「あら~。で、どうしたんですか」
「ムカついて、その場で電話して借りました」
「すごい! 占いを信じなくてよかったですね!」
「僕の場合は、もともと『オモコロ』っていうバカ記事ばっかり作ってるメディアを10年前から運営してまして。だから会社より先に、まずオモコロがあったんです」
「僕も以前からオモコロで活動させてもらっていますが、初期の頃の運営はどんな感じだったんですか?」
「色々くだらないことをしていたら、いつの間にかお仕事をいただけるようになってきたんですよ。 で、当時はライター代も雀の涙くらいしか払えていない、という状況だったので、お仕事が来たらそれをみんなで山分けするシステムでした」
「斬新なシステムですね」
「でも、ビジネスのやり方もわからなくて。例えば『いろんなおもしろい言葉を500パターンくらい用意する』という内容の仕事がきた時、『1パターン書いてくれたら500円払う』と言ったんです。そしたら『うんこ』とか書いてくるヤツがいて」
「ヒドい」
「仕方ないから『うんこ』って書いたヤツにも500円払ったんです。そしたら別のやつがまた「うんこ」って書いてきて。だから僕の場合、最初に『うんこ』って書いたヤツに500円を払ったときから、ビジネスが始まったのかもしれないです」
半年くらいまったく働かなくなって気づいたこと
「ここからはお三人に『これで食っていけるな』という自信がついた瞬間を聞きたいと思います」
「最初の作品はDVDも自分の手で焼いて、ECサイトも自分で借りてきて、全部手で売ったんです。1枚2,000円でしたが、かなり売れたんですよ。やったー!とは思いましたけど、『これで食っていける』なんて確信はぜんぜんなかったですね」
「2,000円のDVDが売れるって結構すごいことですが、それでも食っていける確信は持てなかったと」
「そうですね。ただ、当時はそろそろPCとかモバイルで動画が流せる時代がやって来ると言われ始めた時代でした。でも既存の制作会社は、1分の動画を作るためにも、何百万っていうお金をかけなきゃいけない」
「動画にはコストがかかるというイメージがありました」
「この先インターネットが普及したときに、動画を作る人たちは、きっと1人とか数人、そういうマイクロプロダクション的な手法になるはずだと思ってました。そんな時、椎木(DLE代表・椎木隆太氏)と出会ったんです」
「おお、社長と! 運命の出会いですね」
「椎木は僕の意見にすごく共感してくれて、『ずっとそういうことがやりたかったんだ』と言ってくれました。僕も椎木に対して『この人は絶対、次の時代のコンテンツがわかってる』と思えたんです。この頃ですね、ようやく食っていけると確信が持てたのは」
「時代と、出会いが確信を持たせてくれたってことでしょうか。加藤さんはどうですか」
「僕の場合は、リアル脱出ゲームがおもしろいっていうことにはすごく自信があったんです。一方で、ビジネスのことはホントに、全然わかってなかった。だから、お客さんはどんどん増えていくのに、不安で不安でしょうがなかったですね」
「お客さんが増えてるならもっと自信を持っていいと思うんですが」
「最初の頃は単なるブームだって言われてましたから。それでもとうとう東京ドーム開催にまでたどり着いて、イベントは無事成功しました。で、打ち上げすることになったんです。スタッフの方に『撤収が終わったらお店に来てください』って言われて」
「ほう、良いじゃないですか。撤収さえ終われば楽しい飲みの時間だと」
「僕は『わかりました、じゃあ15分後に行きます!』って言ったんですね。そしたらスタッフさんがすごいビックリして。1万人も2万人も集めた公演が15分で撤収できるって、キミらのエンターテイメント、ヤバすぎるぞ!って」
「なるほど! 言われてみたらものすごいことですよね」
「それまで、おもしろさには自信を持ってたけど、低カロリーでできるって利点にあんまり気づいてなくて。東京ドームに普通の車で乗り付けて、パネルを10枚くらい会場中に貼って、あとは来るお客さんにA4の紙を1枚ずつ配っただけのゲームで、人を集められるんだと」
「まさに低カロリーですね」
「自分たちはアイディアだけで、コストをかけずにここまで来ているんだなって気づいたときに、『ああこれは、ひょっとしたら食っていけるのかも』と思いました」
「お話を聞いていると、最初にコストをかけずに、自分たちの手が届く範囲からやるというのが共通点でしょうか。では次に、シモダさんはどうですか?」
「会社を設立したときって、すごくワンマンだったんです。何やるのにもジャッジは自分、企画も僕が気に入らないとやらない。こだわりがとても強かったんですけど、そうすると仲間たちは、『何で俺のアイディアは通らないの』みたいな雰囲気になってきたんですね」
「社長になったということで、シモダさんも気合が入りすぎてたんですかね」
「そう!『自分がすべての責任を背負っている』と過剰に思ってたんですね。人に任せるのがすごく怖かった。でも、そうこうしているうちに、僕が離婚しまして。それから半年くらい、働かなくなったんですよ、ショックすぎて」
「こう見えてナイーブですから」
「もう、きれいな夜空を見ていたら、涙がツーって流れてくる、みたいな状態になって。 毎晩飲んで気絶するように寝て、会社に行くのも16時とか17時とか。で、また19時くらいから飲みに行くという生活をまあ、半年くらい続けました」
「最低じゃないですか。気持ちはわかりますけど」
「普通ならそんな社長を見捨ててしまうと思うんですが、社員のみんなが『シモダがヤバい! 俺らがなんとかしないと!』って言ってくれて。頑張ってくれるようになったんです」
「めっちゃいい話じゃないですかー!」
「それを見たときに、『ああ、食ってけるなあ』って。『もうずっと、食わしてもらおう』と」
「ヒモじゃないですか! まあ、でも、『自分がいなくても会社が動く』と気づけるのはいい経験ですよね」
仕事よりおもしろいものが他になくなって不感症に……?
「楽しみながらお仕事されている一方で、遊びをビジネスにする苦労とか苦悩っていうのもあると思うんですが、いかがでしょう」
「社長に言われているのは『絵が上手くなっちゃダメだ』と。あの特有のゆるさというか、いわゆるヘタウマ感というのが大事だということですね。あと、うちの作品はやっぱり、情報をどう削ぎ落としていくかがテーマなんで」
「足し算ではなく、引き算で制作されている、と」
「少ない情報だけでいかに効果的に、相手へのメッセージを伝えるかが重要で、だからラグジュアリーな映像をやっちゃいけないっていうのが、うちの会社ではひとつのルールになっています」
「お金と時間をかけた大作をやるより、むしろ難しい作業じゃないですか?」
「ひらがなだけで相手を感動させる小説を書け、と言われてるようなものですね。でもそれをやらなきゃいけないのがうちなので。これからも『クソアニメで居続けろ』ということなんでしょうね」
「見ている人からすると『楽しやがって』と思うかもしれませんが、苦悩してあの絵に辿り着いてるわけですね。続いて加藤さんはどうですか?」
「一時期真剣に悩んだのが、仕事以外に何をしても不感症になってしまったことですね。映画を観るとか漫画を読むとかより、仕事のほうがエキサイティングだから、他のものが面白くなくなってしまったんです…」
「遊びを仕事にしてしまったがゆえに、他の遊びが楽しめない――羨ましい悩みでもありますけどね」
「でも仕事自体が目的になってしまうと、働くことで得られる何かしらの目的がなくなってしまって、『何のために働いているんだろう』って思っちゃいますよ」
「じゃあ仕事以外のすべて……たとえば合コンに行っても楽しくないんですか?」
「え? いや、合コンは……まあ、ほら、今日は合コンの話じゃないから」
「普通の人間」が遊びをビジネスにしたときの、リアルな本音
「続いては、『遊びをビジネスにする表と裏』というテーマなんですけど、シモダさんはどうですか?」
「仕事がふざけた内容ばかりなんで、初対面の人と名刺交換する時なんかに『意外と普通なんですね』ってよく言われるんですよ。『どうしたらいいんだ』と。頭のおかしなキャラクターを期待されても、僕だって人間なんで、そういう時は普通なんですよ」
「シモダさんって結構ちゃんとしてますからね」
「まあ、酔っ払ったら、セブ山さんの部屋でおしっこしたりとかはありますけども」
「!! あったわ、そういうこと! 部屋で飲んでた時ね! 『トイレ借りるわ』って言って、洗濯機の中にオシッコするんですよ! 空(から)じゃないですよ? 服が入ってる洗濯機ですよ!?」
「オシッコで言うとね、豆知識ですけども、歩きながらオシッコって、できないんですよ。進行方向だから自分にかかってしまって」
「ああ! なるほど」
「何の話をしてるんですか! FROGMANさんも『ああ!』じゃないですよ。『遊びをビジネスにする表と裏』についてトークしてください!」
「僕もシモダさんと一緒で、変な人だと思われているんですよ。周囲からの期待と本当の自分とのズレみたいなものが悩ましいですね。だから帽子被るとか、サングラスかけようとか、口ひげ生やそうかなとか、いろいろ考えています」
「もしキャラ付けしたいんだったら、このスーツをお貸ししますよ」
「絶対嫌です」
「そうですか……。他に悩みはありませんか?」
「あとは、僕は基本的に何でも1人でやっているので、あまり他人に頼らないんです。もちろん、会社にはアシスタントとか一緒に働いている仲間はいますが、“悩みを聞いてくれる友だち”みたいな相手はいなくて。そういう人が欲しいとは思ってますね」
「わかる! 悩みを話したい! 僕は“業界がない場所”に一人でポッと現れたので、先輩がいないんです。遊び仲間も」
「僕もわかります。どうしたらいいかアドバイスがほしくても、聞くべき人がいない。この業界で自分より経験が上の社長がいたらいいのになってよく思います」
「『連れ回される』という体験をしてみたいですね。芸能人ってすごく羨ましくないですか? 脈々と受け継がれている歴史の中で、自分は今ここのポジションだっていうのが、わかりやすいじゃないですか」
「はいはい、『師匠に連れて行ってもらった』とか」
「居酒屋でくだを巻いているサラリーマンの人たちが、真剣にうらやましいんです。自分はそういう経験がないまま来てしまったので」
僕のところは、みんな昔からずっとインターネットをやっていたヤツらばっかりなので、今“遅れてきた青春ごっこ”をしているところが大きいですね。体育会系に憧れてます」
「その結果が他人の洗濯機におしっこするってこと……?」
会場からの質問「自分は天才じゃないか!? と思った瞬間は?」
最後は会場から質問タイム。みなさん真剣な眼差しで質問してくれました。「これまでたくさんの制作をされていますが、ひらめいた瞬間に『自分は天才じゃないか』と思った経験があれば、ぜひ教えてください」という質問に対して…
「誰も思いつかないような圧倒的なものがパーンと降りてきて、“絶対当たる!”と確信できたときっていうのは、何度かありました。『インド人完全無視カレー』なんかは、字面を見ただけで、これは売れるなーと思えましたね」
「僕はやっぱり、リアル脱出ゲームっていう形態を思い付いた瞬間です。ホントに雷に打たれたような感覚でした。僕は『誰も思いつかないこと』よりは、『誰でも思いつきそうなのに誰もやってないもの』を思いついたときに、やった! と思いますね」
「僕は、お二方とはちょっと毛色が違うんですけども。テレビ朝日で鷹の爪のセカンドシーズンを放送することになって、提供がサントリーさんだったんですね。で『ただスポンサーについてもらうのではなく、何かおもしろいことをやってほしい』ってことになって」
「“サントリーさんがスポンサーである”ということを使って面白い企画を考えてねってことですか?」
「そうです。で、『サントリーが提供しない番組にしよう』と。公式のWebサイトで8月くらいに『10月から鷹の爪のセカンドシーズンがはじまります、スポンサー募集!』って告知を始めて、8月の終わりになったら、サントリーがスポンサーについてくれます、と発表したんですね」
「ほうほう、ここまではごく普通の“お知らせ”ですね」
「でも、9月の直前になって、『吉田くんのミスでサントリーさんがスポンサーについてくれなくなりました』と」
「視聴者の人たちは、どうなっちゃうの?ってなりますよね」
「オンエアを観ると、『この番組はサントリーが提供していません』『非提供』という文字が出る。それを毎週やったんですよ。そして、最後の最後にサントリーが提供してくれて『祝提供』っていう文字が出る。
「エイプリルフールみたいなことだったんですね!」
「そうです。でも、テレビでウソをつくっていうのは、バラエティ番組などではよくありますけど、本当はNGなんです。そんな企画を持っていった時、テレビ朝日がカッコよかったのが、『本当はダメだけど、おもしろいからやりましょう』って言ってくれたんですよ」
「えーーー! カッコいい!」
「サントリーさん側から『こういうウソをテレビでやるのは大丈夫?』という意見が出たときには、今度は広告代理店が『わかりました、じゃあ本当にサントリーからお金をもらわなければウソにはならないですよね? うちが立て替えます』って言ってくれて」
「うわーーー! それもカッコいい!」
「もともとは僕の思いつきで無茶なことを考えたのですが、みんなが一生懸命に男気を見せてくれて。最後、本当のサントリーのCMが番組中に流れるんですけど、なんか感動しちゃいましたね」
「最後に来てめちゃくちゃいい話でしたね! 今日はみなさん、ありがとうございました!」
まとめ
レポートのことなどすっかり忘れて、ゲラゲラ笑いっぱなしだったこのセミナー。
ビジネスのつもりで遊びをするのも、遊びがビジネスになるのも、まず卓越したセンスが必要なのは間違いないようです。しかし、そこから先に進むために必要なのは、リスクを取り、マナーを身につけ、人間らしく苦労と苦悩をするという経験。つまるところ、普段の仕事とも大きな差はないと感じました。
唯一無二の超人のように見える彼らの、一見して特殊な経験からは、僕たちもたくさんの学びがありそうです。
書いた人:朽木 誠一郎
編集プロダクション「ノオト」の記者・編集者。見た目は超人。最近つけられたあだ名は「ハム」。 Twitter:@amanojerk