スマホを見ながらこんにちは。ライターの桃沢もちこです。
皆さんは1日にどれくらいスマホに触れていますか?
わたしは暇さえあればスマホを触っています(むしろ暇じゃない時でも触っています)。起きてる間でスマホを触っていない時間のほうが短いかも……
これって俗に言うスマホ依存症では!?
そんな不安を解消すべく、今回は『スマホ依存から脳を守る』の著者でもある旭山病院精神科医長 中山秀紀先生にお話しを伺いました!
スマホ依存から脳を守る (朝日新書)
スマホ依存ってどういうもの?
「今日はよろしくお願いします! さっそくなんですが、日本人のどれくらいの人がスマホに依存しているんでしょうか?」
「ネット依存が疑われる人は20代で5%、30代で4%、40代で3.7%、と言われていますね。年々増加傾向にあります」
「ん?ちょっと待ってください。今ネット依存とおっしゃいました? 私はスマホ依存のことを聞きたいのですけど、その2つって同じなんですか?」
「まず、日常生活よりもネットなどを優先してしまい支障が出るといった症状を『ネット依存』と言います。かつてはそれがパソコンなどを入り口に起きていたのですが、今はスマホを入り口に起きることが多くなってまして」
「あぁ~なるほど! 『ネット依存』という大元があって、それがスマホによって起きている場合を『スマホ依存』と呼ぶんだ!」
「わかりやすく言うとそういうことです」
「スマホはパソコンより携帯性が高くて普及率もすごいから、問題が大きくなってきたんでしょうね。一体、人はなぜスマホに依存してしまうのでしょうか?」
「スマホ依存というのはスマホそのものに依存しているのではなく、スマホの中のコンテンツに依存しているんです」
「コンテンツ……というと例えば?」
「ゲームやギャンブル、SNSなどです。ただしどのコンテンツに依存してるのかは周囲から見えないので、一般的にはひとくくりにスマホ依存と呼ばれてるわけです」
※専門的にはゲーム依存、SNS依存などにちゃんと区別されている
「なるほど。私の場合はSNSばっかり見てるから“SNS依存”なのかな……」
「桃沢さんのように『自分はスマホ依存ではないか?』と心配している人も多いと思いますが、我々は『スマホのせいで日常生活に支障をきたしているかどうか』で判断しています」
「スマホのせいで日常生活に支障をきたす??? スマホに牙が生えて夜な夜な襲ってくるみたいなことですか?」
「全然違います。ゲームに夢中で学校に行かなくなったとか、そういうことです」
「でも、仕事中にスマホを触っちゃって業務が後ろ倒しになる……なんてこと、一般的にもよくありますよね? ゲームで夜更しした結果、遅刻とまではいかないけど、日中すごく眠くて業務効率が落ちるとか」
「まあ、それくらいのレベルなら、パフォーマンスは落ちているけど『生活はできている』状態ですね」
「なるほど。生活に支障が出るっていうのは、『学校に行かなくなる』とか『借金をしてしまう』とかそういうレベルなのかな。私は今のところそこまでではないので、大丈夫か……」
「どのレベルかによらず、『かもしれない』に加えて『なんとかしたい』と思ったら、一度病院で相談してみましょう!」
なぜ依存してしまうのか?
「私が『スマホ依存かも?』と心配し始めたのって、コロナの時期なんです。外にも出れず人と会わなくなって、スマホばかり見るようになってしまった。実際にコロナ禍でスマホ依存者って増えたんですか?」
「病院に来る患者さんの数はそんなに変わらないけど、スマホの利用時間に関しては増えたという報告がほとんどです」
「わたしだけじゃなかった」
「外に出なくなると暇な時間が増えますよね? 依存って忙しい人はなりにくく、暇な人ほど悪化しやすいと言われていて」
「え! じゃあ『私はスマホ依存です』なんて言ったら、暇なやつだと思われるってこと?」
「いやいや、あくまでそういう傾向が多いという話です。逆に、忙しさのはけ口として何かに依存するケースもありますから、一概には言えません」
「スマホ依存はコンテンツ依存ということでしたが、どういったコンテンツへの依存が多いんでしょうか」
「主に挙げられるのが、ゲーム、ギャンブル、SNSですね。ゲームとギャンブルは似た部分がありますが、とても多いです」
「そうなんだ……なぜゲームがそんなに……」
「ゲームは友達と一緒にプレイするから途中で抜けられないとか、何時から何時まではボーナスタイムだ!などの縛りがあったりしますよね。課金の要素も多い。それで生活がめちゃくちゃになってしまうみたいなことがあるんですね」
「当人やご家族にとっては大変なことですよね。そもそもなぜ人は依存してしまうんでしょうか?」
「簡単に言うと人の心が快感を求めるから、ですかね。快感を求める心には正の強化と負の強化というものがありまして―」
「正の強化と負の強化……?」
「例えばゲームのガチャでレアなアイテムが出た時、人は強い快感を感じます。これが正の強化です」
「ほうほう、では負の快感とは?」
「レアアイテムが出た時の強い快感を、脳は覚えてるんですね。すると『その快感がない』状態に物足りなさや不安を感じるようになります。そこで、物足りなさや不安を解消するために課金を繰り返してしまうことがあるんです。これが負の強化です」
「快感を求めてやっていたことを、『快感がない』ことが不安になってやっちゃうんだ! こわっ!」
・正の強化=快感を求めてやってしまう
・負の強化=不快の解消のためにやってしまう
「ちょっと気になったんですけど、先生自身はゲームしないんですか?」
「やりますよ。でもオンラインゲームはしないと昔から決めていますね」
「それは自分がハマってしまうからってことですか?」
「そのとおりです。依存は人によるのでオンラインゲームそのものがだめってわけではないのですけど、私はたぶん依存しやすいタイプだと思うので」
「研究者の人がそこまで言うなら一般の人なんてすぐにタガが外れてしまいそう……」
「ゲームに比べるとSNS依存は少ないとのことでしたが」
「有名人や友達などのSNSを過剰に気にしちゃう人はいます。発信側だと『いいね』や反応などを求めて依存してしまう人とか」
「『いいね』を異常に求めてしまう気持ちめっちゃわかる。なのにゲームより依存する人は少ないんだ」
「SNSって、友達と一緒にプレイするとかボーナスタイムとか無いじゃないですか。課金要素もないし。だから“生活が”めちゃくちゃになってしまうことが少ないのかなと」
「なるほど。少し気になったのが、ゲームにせよSNSにせよ、今の時代って誰だってやりますよね? 依存しやすい人、しにくい人の違いって何なんでしょうか」
「そのコンテンツをおもしろいと思えるかどうかというのは、一番大きな要素ですね。ゲームなんかだと全然おもしろいと思わない人もいて、一生やらない人だっている」
「確かに」
「あとは実生活が上手くいってるかなどの影響もあると考えられてます。どちらかというと、上手くいってないほうが依存しやすい傾向にあります」
「冒頭で暇な時間が多すぎると依存しやすいともおっしゃってましたね。でも、今の時代は空き時間があればとりあえずスマホを触っちゃうことが多いはず。どうしたらスマホ依存を防げるのでしょうか?」
「お子さんの場合は、学校に行かなくなるのが最大の問題だと思うので、親が時間に注意して制限するとかですね」
「子どもは嫌がるだろうなぁ……難しいですね」
「大人の場合も深刻なんですよ。大人だとアイテム課金など、お金に関わってくるものを自分の裁量でどうこうできてしまうから」
「あぁ~、なるほど! レアアイテムのために数十万も課金したなんて話、よく聞きます」
「大人世代は『会社に行かない』みたいな状態の人は稀ですが、『お金を使ってしまう』タイプが多いです。依存しやすい人は、ギャンブル要素が高いコンテンツを最初から遠ざけたほうがいかもしれません」
「大人も子供も、スマホやゲームには依存のリスクがあるということを把握しておいた方が良さそうですね」
治ることってあるの?
「依存って他にもいろいろあるじゃないですか。例えばアルコールとか。その中で、スマホ依存はどれくらい強力なんですか?」
「アルコールとかに比べたら依存自体の強さはそこまで高くないです。しかしスマホには厄介な特性がひとつありまして。それは―」
「スマホ依存の恐ろしさは、これに尽きます。アルコールは『売っている場所に近づかない』『飲み会に行かない』という手段をとれますが、スマホはそれが難しい」
「確かに! 今や仕事でも私生活でもスマホは無くてはならないもの。『使わない』というわけにはいかない。そしてみんな使ってるから周囲にはスマホが溢れかえっている!」
「そういう意味ではとても厄介な依存症です」
「実際にスマホ依存って治すことは可能なんですか?」
「カウンセリングを地道にやっていって、考え方がすこしづつ変わり回復していった人はいますね」
「それってどういったタイミングで回復されるんですかね。たとえば熱中してるゲームのサービス期間が終わると治るんでしょうか?」
「サービス期間は、ゲームによっては10年以上続くものもあるので」
「まあ、そうですよね」
「本人がゲームに飽きてって形もあるんですけど、生活が変わったタイミングで回復することも多いです。進級や転職をきっかけにって感じですね。こちら側もそういったタイミングにあわせてカウンセリングする意味はあるのかなと」
「本人がその期間になったときに準備を整えておくということか……」
「でも回復したとしても結局スマホを持って会社や学校に行かなきゃいけないわけで、再発のリスクは常にある。本人にとってすごく依存的なゲームやコンテンツに関しては、アカウントやコンテンツを削除することがおすすめです」
「わたしの場合スマホが視界に入ってると集中力が途切れちゃうので、最近はスマホを別部屋に置いたりしているんですが、対処法として効果はあるのでしょうか?」
「とても良いですね。寝室などの別部屋に置くとか、スマホを置いて出かけるとか、物理的に距離を離すのは効果的です」
「よかった〜。これからも続けていきます」
「アルコールでも薬物でもギャンブルでもそうなんですけど、依存からの回復って依存対象となってるものを排除するのが原則なんですね。ただ、大人は自制心でコントロールできるかもしれませんが、未成年の場合は難しい子もいます」
子どもとスマホ
「未成年のスマホ所持率って、今どれくらいなんでしょうか?」
「小学生で3割、中学生で7割、高校生で9割ですね」
「小学生で3割!? それに中学生だと7割も……! 私たちの子供時代にはこんなに便利なものは無かったので羨ましいですが……先生のお話を聞いてると同時に怖くもありますね」
「子どもにスマホを持たせるなという話ではありませんが、少し依存的という子は結構多いように思います」
「何%かは依存のリスクがあると。未成年のスマホ依存ではどんなことが問題になっているのでしょうか?」
「病院に来られる方の中には、ゲームをやりすぎて就寝時刻が遅くなり、遅刻・欠席・不登校になってしまうパターンが多いです。親御さんが何とかしようとしてもどうにもならなくて相談に来られる」
「親御さんは心配になりますよね……」
「あとは親のクレジットカードを使って、ガチャで何十万も使っちゃったというパターンもあります」
「いっそのことスマホを取り上げたらダメなんですかね?」
「親御さんがスマホを取り上げようとしても喧嘩になるだけってことが多いです」
「あ~、そうなっちゃうのか……むしろ逆効果なこともあるんだ」
「なので無理に取り上げるのではなく、一緒に外に出る機会を作ったり、他の体験をさせることをおすすめしてます」
「私に子供ができた場合、何歳からスマホを持たせるのが正解ですか?」
「それは、ご家庭の教育方針によるとしか言えません。が、依存のことだけを考えるなら、スマホを与えるのは遅ければ遅いほどいいですね。私がやった研究では幼少から使った場合の方が依存のリスクが高まるという結果になりました」
「!!!」
「わずかながら存在する依存のリスクを考えると、早くに与えないほうがいいとは思います」
「う~ん、ただスマホを持ってないから仲間外れにされるみたいな問題もありそうです。いつまでも与えないわけにはいきませんよね」
「おっしゃる通りです。現在は中学生の所持率は7割ですがど、これから増えていくのは間違いない。また、遠くの塾や習い事に行っているということなら、連絡手段として持たせなきゃいけない場合もある」
「スマホに関しては依存だけではなく、犯罪に巻き込まれるケースもあるから怖いですよね。他にも、お子さん自身が炎上しちゃうような写真をSNSに投稿しちゃったり……」
「自分の子どもがスマホに依存しないタイプか、犯罪に巻き込まれないよう適切な使い方ができるか……スマホ購入の前に親が見極めてあげることが大事です。一回与えたら取り上げることは不可能なので」
「まあ大人だって今さらスマホを取り上げられたら生活できないですもんね」
「なので何歳からスマホを与えるべきかという問いに正解っていうのはなくて。家庭での教育方針によるとしか言えないんです」
「なるほど。スマホって普段当たり前に使っているけど、気を付けるべきことはたくさんあるんですね。めちゃくちゃ勉強になりました。今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました」
さいごに
現代人の生活に欠かせない存在となったスマホ。使い方によっては依存症になるリスクもわずかながら存在するようです。正しい距離を持ちつつ、正しく使えるようにしたいものですね!
では、わたしはSNSを軽くチェックしてから寝ようと思います。
さようなら〜!
あとちょっとしたら寝よ
もうちょっとだけ……
あと5分……
(完)
スマホ依存から脳を守る (朝日新書)