学食や購買など、さまざまなサービスで大学生活をサポートする「大学生協」。
大学生協といえば、こんなおトクの数々を享受できて、大学生活には欠かせない存在だ。
・大学の購買商品や教科書・書籍などが1割ほど安い
・学食が安く食べられて、摂った栄養を合算したレシートも発行
・自動車教習や資格取得などが割引に
・24時間365日無料ダイヤル付きの学生総合共済がある
・賃貸物件紹介時の仲介手数料無料や割引、「合格前予約」もOK
※提供サービスは、それぞれの大学生協によって異なります
だが、この多種多様なサービスを提供する大学生協なる存在は、いったい何者だ? そういえば我々は、生協についてほとんど知らない。
また、さらに気になるのが「生協PC」だ。特典パックとともに販売される生協のカスタムPCだが、ネット上では『高い』との批判をよく浴びる。
しかし、「生協PCって実はすごい?」との声が、利用経験者を中心に出てきている。たとえば、これほどのサービスがあるのだ。
・自然故障に対応する4年間保証に加え、不注意による故障なども4年間カバー
・修理・サポートの窓口が学内にある
・PCの講習会や点検会まである
・PCの修理期間中、代替機を無料貸し出し
・夜間までOKの無料電話サポートがある
ちょっとミステリアスな大学生協の秘密。まとめて、聞いてみようではないか。
向かったのは東高円寺にある大学生協会館。全国大学生協連 広報調査部の部長である安田祐司さんにお話を伺った。
ちなみに、筆者がはじめて一人暮らしをした家から徒歩2分の場所
大学生協は苦学生が助け合うために生まれた
奥が全国大学生活協同組合連合会 広報調査部の部長、安田祐司さん
辰井「そもそも大学生協って、どんな組織なんですか?」
安田「大学の構成員で作った生活協同組合です。全国に約210ある大学生協は、それぞれが独立した法人なんですよ」
大学生協の成り立ち。学生らみんなが出資し、みんなで運営して利用する
辰井「となると、東京大学と京都大学の生協は別の法人で、それぞれが決定権を持っているわけですか」
安田「ええ。私たち『全国大学生協連』は、その全体をとりまとめる連合会です。そして各大学生協では、大学の学生・職員までが組合員になりますし、それぞれの生協には理事会があり、理事の半分ほどは学生です」
辰井「そうなんですか?」
安田「ええ。自分たちでお金を出し合って、運営も自分たちでやっているんです」
辰井「そう考えると、なにやら不思議な組織ですね」
安田「前身は1898年からあります。戦後まではより学生が主体の組織で、学生がトップの専務理事として運営していたんです。教科書を共同購入したり、食堂をやったりして出費を安く抑えるために」
辰井「当時の苦学生が、どうにか生きられるように?」
安田「ええ。それが保険や不動産仲介など、だんだんいろいろなサービスを増やして、今に至ります」
1955年ごろから、パンや木炭など生活必需品の共同購入に取り組んだ東京大学生協
大学生協PCは「先輩」が選ぶ
辰井「それでは大学生協PCも、学生が学生生活をしやすくなるように生まれたんですか?」
安田「そうです。いまの大学では、もっぱらノートPCが必携ですから」
辰井「『生協のPCは高い』とか言われがちですが……扱うPCはどう決めるんですか?」
安田「学生たちに触ってもらって、『来年の新入生にはこれがいい』と決めることが多いですね」
辰井「学生が決める?」
安田「ええ。先輩から見て、授業やサークルなど実際の大学生活、さらに家でYouTubeを見るなどの利用シーンも想定して、仕様を決めます」
辰井「だからタブレットにもなるsurfaceあたりも人気なんですね」
安田「PCメーカーとの商談や仕入れなどは職員がやっていますけれども、選ぶのは学生です。学生たちから事前に聞き取りして、選定に反映します」
辰井「学生が実権を握っていたとは……」
安田「入学準備説明会で、本人と保護者にPCの説明もしますが、それも大半が学生ですね」
最近採用する大学の多いsurface(マイクロソフト)。タブレットにもなるPCの代名詞的存在
辰井「では、職員はPCの選定に関わらないのですか?」
安田「いえ。職員は生協PCが大学の推奨スペックを満たすように、メーカー側と交渉します」
辰井「推奨スペックって、どれくらいですか?」
安田「PCは比較的高めのスペックを選びます。学年が上がるにつれて、要求スペックも上がるので。メモリは4GBじゃ足りなくて、8GBとか。学部によっては16GBのところもありますね」
辰井「私も1日中PCを使いますが、8GBは最低ラインですよね。各大学の生協PCを見ても、PCの心臓部であるCPUはだいたいCore-i5以上のハイエンド仕様だなと」
「うっかり故障」にも対応する4年保証とサポートが大活躍
(大学生協の事業とは?~書籍・パソコン編~—コミック版—より)
辰井「ほかに、大切な要素はなんだと思いますか?」
安田「頑丈さです。中にはノートPCを自転車のカゴに入れて持ち歩く学生もいますから」
辰井「精密機器にとって過酷すぎる環境ですね……」
安田「それで落としたら悲惨なので、軽さに加えて、頑丈さや電池の持ちが重視されます」
辰井「その持ち歩き方もそうですし、最近はPCに疎い学生が多いと聞きます」
安田「タッチタイピングができない子も多いです。PCの『大学デビュー』が多くて」
辰井「スマホとタブレットで育った学生さんが多いんでしょうね」
安田「なので、入学後は先輩たちがPC講座を行ないます。履修登録の仕方や、レポートの書き方を内容に盛り込んでいる生協もあります」
辰井「先輩が? これ以上ない実践型講座だなぁ」
安田「特にコロナで対面授業が減り、レポート提出がとても増えていますから、さらに需要は増えたと思います。PCを買ったら、PC講座も同時に申し込む新入生が多いですね」
学生生活でPCを使うシーンは多岐にわたる
辰井「学内のサポート窓口では、どんなPCトラブルに対応してくれるんですか?」
安田「何でも相談できます。『再起動をかければ直る』レベルから対応しますし、Windowsなど、OSの再インストールを店でやることもあります。朝受け取って、夕方取りに来てもらうとか」
辰井「OS再インストールって面倒なので、やってくれるのはいいですね」
安田「やるほうは、時間がかかって苦労します(笑)。ハードウェア的な故障とわかったら、生協からメーカー修理に出しますね」
辰井「ソフトの使い方は?」
安田「教えますよ。『表を作るのってどうしたらいいですか?』とか相談を受けて。『ちょっとPCを開けてみて、そこ押す、ホラできたでしょ』って感じですね」
辰井「情景が見えますね。社会人になったら修理も、PC習得も基本ぜんぶ有償ですから、最初にお金を払えばずっと頼れるのはいいな」
安田「協同組合の精神は『助け合い』ですから、助けるのが身上です。お店のカウンターに先輩が入って、相談を受ける生協もありますね」
一橋大学生協による、「一橋生PC」を薦める掲示
辰井「PC歴が短い学生が増えたなら、故障したときは慌てるでしょうね」
安田「故障した学生で、一番のピンチは『あさってレポート提出なんです!』のときなんです」
辰井「うわああ! サブPCは持っていないだろうし……」
安田「そこで『タダで代わりのPCを貸すから大丈夫』ってなるわけです」
辰井「めちゃ助かるなぁ。そう考えたら、生協PCは高くないんじゃ?」
安田「サービスやサポートからすれば安いです。前に私がPCの業務に関わっていたときに量販店や通販と比べてみたら、2~3万円安かったです」
辰井「ホントですか? その場でサポートや相談が受けられる安心代も含めたら、もっと差がつくなぁ」
生協はシェアの大きいWindowsを推奨するケースが多い。Macintoshも東京大学生協などが推薦している
質実剛健で頑丈なレッツノート(Panasonic)は近年、「高額&ごつくて分厚い」ので避けられるケースも。だが今も早稲田大学生協らが推薦する(Photo by Junpei Abe)
辰井「ちなみに、大学4年間はPCの無償修理を保障してくれるんですよね?」
安田「通常の故障時の保証に加え、うっかり落として液晶が壊れたなどの場合もカバーします。たとえば修理に10万円かかっても、5,000円とか1万円払えば修理できますよ」
辰井「ありがたい。持ち歩く用のノートPCって、自然保証だけだと半分、丸腰状態ですからね」
安田「さらに、多くの生協では動産保証も付きます。盗難でもある程度お金が戻ってきますよ」
「ひとことカード」は上司に書き直される
(大学生協とは? Part03. ひとことカードとは…—コミック版—より)
辰井「PC以外にも、大学生協には気になることがたくさんあります。『生協の白石さん』をはじめ、『ひとことカード』への返事もみなさんこれでもかと丁寧に書いていますよね?」
安田「文化でしょうね。白石さんほどのクオリティは難しいですが(笑)。私も生協のトップである専務理事をやっていましたけれども、店長たちに『絶対3日以内に返事して』と指示していました。あと、私のハンコがなければ回答を貼ったらダメ」
辰井「上司のダブルチェックまである?」
安田「ダメなら書き直しもある生協は多いはずです」
辰井「だからこそ、あそこまで練られた返答が生まれるんですね!」
安田「そうそう。商品の要望で仕入れルートがなくても、安易に『仕入れルートがないので』と書いて終わりにしない」
辰井「どうするんですか?」
安田「『あちこちを探したけどダメでした……』とか、やることやった末の回答ならOKを出していましたね」
辰井「牧歌的に見える生協だけど、真の姿が見えてきたぞ」
安田「あと、おかしな要望もあります。『単位ください』とか」
辰井「うちに言われても、ですね……」
安田「だから『単位パン』が生まれたんです」
ベストセラーになった単位パンは毎年1月ごろに発売される
辰井「ゼロ回答ではなく、何らかの答えは出すと!」
安田「ええ。ちなみに『単位パンをもっとおいしくしてください』とのひとことカードに応えて、毎年微妙に味を変えますよ」
子どもの食生活を親がチェックできる「食べ放題カード」
辰井「すごいのが学食のレシートです。栄養価を表示していますよね。どう実現したんですか?」
わかりやすく「3群点数法」に従って、注文したものの合算された栄養価が出るレシート。体調管理に役立つ
安田「生協でオススメのサービスに『ミールカード』があります。これは毎日定額で決められた額の学食を食べられるサービスなんですが、1年で10数万円を払えば、定額でいくらでも食べてよくなります」
辰井「学食のサブスクですか! なぜそんなサービスが生まれたんですか?」
安田「『メシをちゃんと食わないと』いけないからです。学生は食費をケチるんですよ。一番安いのはカップラーメンで、百何十円で1食終わるから」
辰井「親は気が気じゃないですね」
親の目を気にして(?)ミールカード利用者は野菜を摂るようになる
安田「そこで、ちゃんと食事をしてもらうためにミールカードができました。保護者は特に一人暮らしの学生の食生活を心配しますが、『この栄養素をこれだけ取った』がWebで見られるんです」
辰井「すごい! どんな食生活しているかがわかるなら、親は安心ですね」
安田「ええ。そうすると、学生は野菜の小鉢を前より1個多く取るようになるんです」
辰井「わかりやすいな!」
学生団体の「Mielka」と生協のコラボ企画で生まれたメニュー「そう、政治カレー」。学生の投票を呼びかけた
実は生協、コロナで大ピンチ
安田「もうひとつのオススメは学生相互共済です」
辰井「それは一般的な保険よりすごい?」
安田「保障やサービスの内容からすると掛金も安いはずです。24時間365日、無料相談電話で心身の相談を受けていますが、心の相談はコロナで倍に増えたと聞きます」
辰井「世界激変の影響をまともに受けたのが、学生ですからね。キャンパスにすら行けなくて」
大学1年生に聞いた「学生生活が充実しているか」のアンケート。充実している学生が激減
安田「こころの早期対応保障といって、精神疾患の診療を受けたときの給付もあります。その件数も増えてるんですよ」
辰井「それもコロナのせいですかね……」
安田「おそらく。ちなみにコロナでスポーツをしなくなったので、ケガは減ったようです」
精神疾患の診療を受けると1万円が支給される(1共済期間に1回)
辰井「ちなみに、コロナ禍で大学生協の経営はどうなりましたか?」
安田「ピンチです。たとえばコロナが始まった1年間、食堂の利用者数は全国平均で7割減でした」
辰井「苦しみましたね……!」
安田「弁当やおにぎりなどの利用さえも激減でした。旅行は95%減です」
辰井「大丈夫なんですか?」
安田「大丈夫じゃないです。コロナ1年目、全体の売り上げは半減でした。職員には休業をお願いし、雇用調整助成金でなんとかつないでいる生協がかなりあります」
辰井「そんなに危なかったんですか」
安田「対面授業の再開が増えても、……もう失ったものは返ってこないですからね。大きな赤字を抱えてしまった生協はたくさんあります」
辰井「今はいかがでしょうか?」
安田「なんとかしのいでいる状態ですが、早急に生き残り策を打たないと厳しいと思っています」
辰井「今後コロナがどうなるかもわかりませんが、生協がなくなれば学生は困りますね」
安田「そう、踏ん張らなければ。地方では、『食堂の客が8割に戻った』などの声も聞こえます。東京大阪など都市部はまだですね」
コロナで苦しむ学生へオンライン1,000人サミットを
辰井「生協も、大学生も大変なコロナ禍ですね……」
安田「ええ。アンケートで『友達もできないし、メンタルも崩れ気味』なのがわかりました」
全てオンライン授業で行なわれている学生の充実度は、対面授業メインと比べて半減
辰井「2年生は入学からずっとリアルな大学生活がなかったわけですからね」
安田「そこで、学生たちが繋がる機会として『全国大学生サミット』を2021年10月31日に行ないました。1000人ぐらい申し込みがありましたよ」
辰井「いまの2年生は入学時からずっとコロナが続いていて、孤独でしたもんね」
安田「痛ましいですよ。もっと悲惨なのは短大生なんですけど」
辰井「そうか、大学生活がコロナ禍と完全に重なって」
安田「そんな状況で、少しでも大学生気分をと。話す機会があるだけで違いますから。実行委員も学生です」
辰井「そう考えると貴重なイベントでしたね」
安田「反響も大きかったです。『明日からちょっと元気が出そう』とか『やっと他県の大学生と話せた』とか」
辰井「移動も制限されて、できなかったですもんね」
安田「サークル活動さえ全面禁止な大学も結構ありましたから」
自分たちが自分たちに還元される仕組みが生協だ
大学生協の活動。組合員同士が会えない時期はオンラインで支え合った
辰井「最後に。大学生協は、全学生に何を提供できる組織だと思いますか?」
安田「学生が安心して、大学生活がより充実できるようにする組織です。一見ふつうのお店ですけど、実は先輩集団が工夫して営んでいます」
辰井「見え方がぜんぜん変わりましたね。学生の、学生による学生のための生協だと」
安田「そうです。職員はそれをサポートする形ですね。新入生歓迎企画だって、先輩たちが企画してやりますから」
辰井「あと、大学の人たちで商売するから、お金は外部に出ませんね」
安田「ええ、それが大切なんです。儲かったら学生たちに還元される。これからも生協は学生とともに、学生を支えていきます」
画像提供:全国大学生活協同組合連合会
参考サイト「大学進学ガイドブック 入学準備編」:https://www.univcoop.or.jp/parents/guide-singaku/extra.html