ライターの神田(こうだ)です。
ビジネスの場にはさまざまなマナーがありますよね。上座と下座があったり、乾杯のときはグラスを相手より下げたり。
社会人4年目になった今でも、知らなかったマナーを教えられて驚くことがあります。
そこで今回は、株式会社アイデムで研修やマナーの教育企画を担当している高橋脩子さんに、ビジネスマナーのあれこれを伺ってきました。
「そんな感じで、今日はよろしくお願いしま~……」
スッ……
「お世話になっております。アイデムの高橋と申します。本日はよろしくお願い致します」
「!」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願い……いたします(ペコッ)」
「(ふぅ)……あ!? 先方がまだお辞儀してる!!!」
スッ……
というわけで、今回はマナーのプロに、
・意外と知らないビジネスマナー
・「了解」と「承知」ってどっちを使ったらいいの?
・こんな時どうしたらいいの?
など気になっていたギモンを伺ってきました。
はじめに
「あらためまして、今日はよろしくお願いします! 近年SNSなど見ていると、マナー講師への風当たりが強い気がしているのですが、高橋さんはどうお考えですか?」
「マナー教育に携わる身として、そういう状況は認識しています。確かに『これを守らないと社会人失格!』、みたいな行き過ぎた教え方をする方もいらっしゃいますよね。そういうのは私もよくないと思います」
「ですよねー!?」
「マナーは基本的に相手本位で、相手がどう思うかが大切です。つまり『決まった型』より大事なものはあります」
「そうそう、その通り! ビジネスマナーなんて覚える必要ないんですよ!」
「ただ、“相手がどう思うか”の“相手”の中には、『この人はこんなルールも知らないのか? 取引は中止だ!』という方だっています。なので『決まった型なんて必要ない』と断言しちゃうのは無責任かなぁ、と」
「ぐむむ……」
「ビジネスマナーは難しいものではなく、相手への思いやりです。その意識があると、型の意味も理解できて、相手に合わせて応用したりもできますよ」
「確かに、知らないからマナーを無視しちゃうのと、知っててあえて(相手に合わせて)くだけた感じにするのとでは、全く違いますからね。知識としては知っといたほうがいいのかも」
言葉遣いのマナーについて
了解しました・承知しました、どっちが正しい?
「仕事でもっとも使用する頻度が高いと言えるのが、『了解しました』『承知しました』といった承諾の言葉だと思います。ネットでは了解は失礼で承知が正しいとする説がありますが……」
「これに関しては、日本語としてはどちらも間違いではありません」
「やっぱりーーー!!! 僕に『了解しましたは失礼だから』って言ってた大学の先輩は間違ってたんですね! 大学の先輩、見てるか?」
「えっと、先程『マナーは基本的に相手本位で、相手がどう思うかが大切』とお伝えしましたよね? “正しさ”だけで言うとどちらも正しいんですが……もし、初対面の取引先が『了解しましたは失礼』という考えを信じている人だった場合、どうします?」
「え……」
「神田さんは、『了解も承知もどっちも正しいんで、僕は了解を使いますね!』って説明します?」
「しません……」
「これがマナーの難しいところで。つまり、日本語としては両方正しいはずなのに、結局は『承知しました』を使ったほうが無難、ということになっちゃいますね」
「むう。最初に『了解は失礼』と言い出したマナークリエイターの罪、大きいですね……」
「他にも、時代の変化で正しくなったり間違いになったりするので、マナーは常にアップデートしたいですね。そのうち、『了解はマナー違反……と言うのはマナー違反!』みたいな時代になるかもしれません」
取り急ぎ・略儀、どっちが正しい?
「もうひとつ、メールなどで『取り急ぎお礼まで』が失礼で、『略儀ではございますがまずはメールにて御礼申し上げます』が正しいとされるとSNSで見ました。これはどうなんでしょうか」
「う〜ん、私は普通に『取り急ぎ』を使うこともありますね。ただ相手との関係性は大きいかもしれません。長く取引があって信頼関係が築けているなら、問題ないと思います」
「では、初めてやり取りをする相手だったら?」
「その場合は、失礼に感じる方もいるかもしれないので、『略儀では~~』を使います。ただ、これに関してはそこまで気にするほどのレベルではないかもしれません。それよりは、頂いたメールにすぐに返事をするといったマナーのほうが大事だと思います」
「うっ……すぐ返事をするって意外と難しいんですよね」
「『取り急ぎ・略儀ながら』は日本語の使い方の問題という側面が大きいですが、『すぐ返事する』は純粋に相手を思ってのことなので、マナーとしてはより重要だと思います」
「ちなみに『どっちが正しい?』問題としては、他にも『目上の人にご苦労様は失礼だから、お疲れ様のほうが正しい』などがありますが」
「これも『お疲れ様』を使うほうが無難ですね。この問題はどちらかというと歴史が古いので、年配の方は『ご苦労様は失礼』と思っている人が多いです。了解とか取り急ぎよりも、気をつけたほうがいいですね」
社内の人間には敬称をつけない風潮
「社内の人間には敬称をつけないっていうマナーあるじゃないですか。自分より役職や年齢が上の人を呼び捨てにするのは、『呼び捨てにしたら怒るんじゃないか?』という不安があるんですよね」
「呼び捨てにする理由は、”内と外”の切り分けのためです。同じ組織の人間が”内”で、そうでない人が”外”になり、より礼を尽くさなければなりません」
「たしかに家族が自分の息子を外に紹介するときに、『ウチの愚息が…』なんてへりくだった言い方をしますね」
「近年はそういった“内”を必要以上にへりくだった感じで紹介することが良くないという風潮もあったりしますが……同じ組織内の人間を紹介するとき、呼び捨てにするのは、慣例としてありますね」
「上司を呼び捨てにしたら怒られるんじゃないか?という気持ちもわかります。ただ実際にお客様の前で“さん”をつけちゃうと、むしろその上司は『こういう時は“さん”をつけちゃダメだよ!』って怒るんじゃないですかね……」
「言われてみればその通りかも」
「ちなみに、販売員など直接お客様の目に触れる職業の場合は、販売員同士の会話も年齢や役職に関わらず敬語で行わなければならないなど、より厳しいマナーがあったりします」
「厳しい! 販売員同士がタメ口でペチャクチャ喋ってたら、不快に思うお客さんもいるってことなのかな。ちなみに高橋さんが年下の後輩からタメ口で喋られたらどう思いますか?」
「特になんとも思いません」
「その後輩が『おい高橋~、焼きそばパン買って来い』って言ってきても?」
「私は空手の黒帯なので、その場合は上段回し蹴りを返答の代わりとさせて頂きます」
意外と知らないビジネスマナー
服装のマナー
「服装のマナーというのもありますよね。今日の私の格好はいかがでしょうか」
「う〜ん、インナーに白いTシャツを着ているのはいいと思うんですが、強いて言うならTシャツの襟ぐりが見えてるのはよくないかもですね。ちょっと野暮ったい印象を与えてしまいます」
「普段は襟のあるシャツを着ないのであまり気にしたことがありませんでした。インナーは白で、あまり襟ぐりが見えないものなどを着たほうがいい、と」
「そうですね。そんな細かいことを気にする相手は少ないと思いますが、そんな細かいことで点数を下げられるのはもったいないので」
「そういえばスーツを着ている男性は、よくジャケットの一番下のボタンを外していますが、あれってどうなんですか?」
「もともとスーツは一番下のボタンを開けた時にシルエットが綺麗に見えるよう作られているので、外すのが正しいです。ボタンを全部留めるとスーツに無駄なシワができたりしますし」
「そんな理由があるとは……あれってだらしないなと思っていたんですが、マナーとして正しかったんだ」
「ちなみに、意外と知らない人が多いんですが……男性の場合、
スーツのジャケットは、立ってる時は留めて、座る時にはボタンを外して全開にする
のがスマートです。なぜなら、ボタンを留めたまま座るとジャケットにシワができたり、窮屈で動きにくくなるからです」
※スーツの型にもよります
「え!? え、え、座る時にボタンを開ける!? 知らなかった!! それは面接の時でも!?」
「面接の時でも、です。ただしすべての人が『ジャケットのボタンは座るときに開ける』ことを知っているとは限りません。知らない人にとっては『だらしなくボタンを開けて、失礼な人だな』と思われる可能性もあります」
「難しすぎる……普段スーツを着ないライターという仕事で良かった……。座った時に開けるというルールは、女性も同様ですか?」
「女性の場合、基本的には“立ってる時も座ってる時もジャケットは締める”というルールがありますが、女性用のスーツはデザインが多様ですから、どちらでも大丈夫だと思います」
名刺のマナーについて
「社会人になって4年目ですが名刺の受け渡しがまだよくわかっていないんです。相手より名刺の位置を下げたほうがいいという漠然とした知識だけで」
「たしかにそういう話はありますが、下げすぎても相手の負担になるのでそこまで気にしなくて大丈夫です。相手の目を見て、しっかり挨拶をすることのほうが大切ですね」
「名刺を受け取ったあとも実はよくわかっていないんです。どう机に置いたらいいんでしょうか」
「基本的に役職が上の人の名刺を名刺入れの上に置くのがマナーとされています。複数名いる場合は相手の座っている位置に合わせて名刺を置くと、相手が誰だか忘れる心配もありません」
「ちなみに名刺入れはどんなものがいいんでしょう? 私はアルミの名刺入れで、無くさないようあえて派手な色のを使っています。ただ、名刺入れは名刺を乗せるための枕だから、固い素材じゃないほうがいいと言われたこともあります」
「特に決まりはないんですが、私共がおこなっている研修などでは、アルミケースはあまりおすすめしていませんね。シャカシャカ音を立てたり、スムーズな出し入れがしにくいのが理由です」
「たしかに今使っているものは名刺を取り出しにくくて、もたついてしまうのが気になってました」
「素材は革が無難だと思います。選ぶポイントとしては、自分の名刺と、受け取った相手の名刺を“分けて収納できる”ものを選ぶと良いでしょう。ここが一番もたつく瞬間ですし、間違った名刺を渡してしまうことを防げます」
こちらは高橋さんの私物の名刺入れ
「なるほど、革の名刺入れに買い換えるか……」
「ただ、職業によっては汚れにくい素材が適しているなど、決まった答えはありません。神田さんの場合も、仕事柄 撮影のために動き回ることも多いでしょうから、タフなアルミ素材を選んだことは間違いじゃないんです」
「なるほど。名刺って際限なく溜まっていくと思うんですが、処分するときはどうしたらいいんでしょうか。ゴミ箱に捨てていい?」
「個人情報の取り扱いという点では、必ずシュレッダーなどで処分しましょう。ただ、名刺は会社の資産としての側面もあるんですね。捨てる前に上司に相談したほうがいいかもしれません」
「名刺を資産と考えたことがなかった……」
その他の意外と知らないマナー
「面接の時に『ノックは4回』と教えられましたが、ノックの回数によって他に意味が変わることってありますか?」
「これに関しては明確なルールがあるので憶えたほうがいいでしょう。世界標準公式マナーというのがありまして、それによると
(面接など)初めての場所・礼儀が必要な場所=4回
知人に対して=3回
トイレ=2回
となっています」
「トイレと同じノック数だと、さすがに失礼と思われそう!!」
「僕は自分のことを、『自分はそう思います』みたいな感じで話すことがあるんですが、一人称『自分』って、ビジネス的には良くないことですか?」
「世代によって一人称に『自分』を使う人もいますが……ビジネスの場では基本的に『わたし』『わたくし』を使ってください」
「『僕』は、『わたし』よりフランクな言い方ですよね? 『自分』は、その中間になるんでしょうか」
「いえ、『僕』よりも使わないほうがいい度は高いです。ビジネスシーンで『自分』は使わない、と憶えてください」
「自衛隊の人は、『自分は~~であります!』ってよく言うイメージなんですけど、それでもダメですか?」
「神田さんは自衛官なんですか?」
「違います」
「では『わたし』を使いましょう!」
こんな時どうすればいい?
「時にはマニュアルにないシーンでマナーが求められることって、ありますよね? 例えば……上司とカラオケに行った時、どんな曲を選べばいいのか、とか」
「あぁ~、難しいですね。好きな曲を歌えばいいと言いたいですが、それが上司の十八番だった場合は避けたほうが賢明……かもしれませんね」
「せっかくカラオケに行ったのに、僕は好きな曲を歌っちゃだめなんですか!?」
「ダメというわけではないんですが……っていうか、そのシチュエーションで、そんなに『どうしてもこの曲が歌いたい!』って思います??」
「いや、正直に言うと上司とカラオケという時点で、歌なんかどうでもいいです。歌いたい曲があったら友人と行きますし」
「じゃあなんで聞いたんですか?」
「まあこんな感じで、マニュアル本には載ってない状況でも、マナーが求められることってあるじゃないですか。取引先との打ち合わせの後、ランチに誘われた時とか」
「え? 普通にランチを食べて親睦を深めたらいいじゃないですか」
「食べる前の段階で、必ず『何が食べたいですか?』って聞かれるじゃないですか。なんて答えたらいいんですか? 正直にバーガーキングが食べたいって答えていいんですか?」
「取引先とバーガーキング……いや、それ以前に、最初に言った通りマナーは相手本位で考えるものです。答えるのが難しかったら、逆に『○○さんは何が食べたいですか?』と聞き返したり、『おすすめはありますか?』って聞いてもいいですね」
「なるほど、聞き返せばいいのか!」
「大事なのは、『自分よりあなたのことを優先します』という姿勢を示すことです」
「他にも、こういう時のマナーってどうしたらいいの?って思ってることがあって。通勤電車内で上司に会った時とか。上司が座ってて僕が立ってる場合、頭の上から話しかけていいんでしょうか?」
「仕事で上司のデスクに呼び出された時のことを思い出してほしいんですが、目上の人が座っているなら、部下は立って話しかけてOKです。逆に自分が机に座っている時に上司が来た場合は立ち上がってから話してください」
「いや、ちょっと待ってください。僕は通勤電車でわざわざ上司と話したくはないんです。Netflixで『コブラ会|シーズン3』の続きが見たくて仕方ないんです」
「続きを見たい気持ちはよくわかりますが、さすがに話しかけたほうがいいと思いますよ。無視するわけにもいかないですから」
「では、上司が『コブラ会』を見ていたら?」
「それは、すごく……難しいですね。キリのいいところまで待ってから話しかけるとか?」
「ネタバレを見てしまうかもしれないんで、イヤです」
「この記事って、マナーについての記事ですよね? 『コブラ会』についての記事なんですか?」
「ちょっとビジネスマナーをハミ出した質問をしてしまいましたが、ついでなので教えてほしいことがあります。それは、『ビジネスの相手ではない人への電話のかけ方』です」
「ビジネスの相手ではない? ご家族や友人への電話ということですか?」
「いえ、例えば使っている冷蔵庫が故障した時なんかに、メーカーに電話するじゃないですか。その時、第一声に何と言えばいいんでしょう? 『お世話になっております』はちょっと違いますよね? かといって『こんにちは~』とかもフランクすぎるし」
「その場合でも『お世話になっております』で間違ってはいませんよ。ただ、現実的には『お忙しいところ恐れ入ります』が多いのではないでしょうか」
「なるほど! それは便利そう! 今度から使おうっと」
「ほんとにビジネスに関係ない質問でしたね……」
まとめ
「というわけで今回は、ビジネスマナーの疑問についてお話をお伺いしました。アイデム教育企画担当の高橋さん、ありがとうございました!」
「マナーは相手への思いやりを示して、お互いにコミュニケーションを取りやすくするためのもの。信頼関係を築いていく上でとても重要なので、ぜひ活用してくださいね!」
「最後にもうひとつだけ教えてほしいことがあります。それは、今回のように相手先の会社に伺った時の、帰り際についてです」
※この取材はアイデムの会議室にお伺いして行いました
「帰り際はたしかに難しいですね」
「特に難しいと感じるのは、エレベーターなんですよ……。『本日はありがとうございました』って頭を下げながら“閉じる”のボタンを押そうとするんですけど、下を向いてるんでなかなかボタンが押せなくて」
「なるほど。では実際にやってみましょうか」
「まずエレベーターに乗り込みまして……あ、この時 自分の上司が同行している場合は、自分が先に入って操作盤の前に立ち、“開ける”ボタンを押して上司に入ってもらいます」
「1階を選んで、『本日はありがとうございました。失礼します』と言ったあと“閉じる”ボタンを押して……」
「頭を下げ、扉が閉まりきるまでこの姿勢を……」(ウイーーン)
ゴウンゴウンゴウン、シュイーン……
「…………………………」
「…………………………」
「さてと、帰るか。最後まで読んでいただいてありがとうございました。みなさん、さようなら」
「いやーお待たせして申し訳ありませんでした。ただいま戻り……あれ?」
(おわり)
高橋さんが所属するアイデム教育企画の部署では、ビジネスマナーの実践トレーニングはもちろん、ビジネススキル別や各階層向けなど、会社で生かせる研修を行っています。
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