こんにちは、ジモコロライターの根岸達朗です。ダウンの右袖に穴が空いたのでガムテープで補修しています。こういうのは先に言えばこっちのもんです。
ジブリ映画『もののけ姫』の題材にもなった「たたら製鉄」を取材する目的で、柿次郎編集長と訪れた島根・奥出雲地方。めちゃくちゃ深い世界に震えながら書かせてもらったこの記事、まだ読んでないよ〜という方はこちらからどうぞ!
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実はこの取材が成立したのは、島根の人と人をつないでくれたローカルキーマンの存在があったからと言っても過言ではありません。なぜなら僕らは知識もなければ、プランもない。ましてや人のつながりなんて皆無だったのに、鉄への好奇心と勢いだけで、何も知らない土地に体当たり取材をしようとしていたわけで……。
「探偵ナイトスクープみたいなやつがやりたかったんです」
「結果オーライだからいいけど、あやうく単なるおっさん2人旅になるところでした」
そんな僕たちの好奇心をつむいで形にしてくれたローカルキーマンの一人が、写真左の奥出雲町役場職員・三成由美さん。妻子持ちの僕がこんなことを言うのもなんですが、とてもお美しい方です!
「根岸さんとの対比」
「おっさんが邪魔って言いたいのかな」
「それはそうと、島根って美人が多い気がしません?」
「4年連続、美肌県でグランプリだそうで。環境もいいし、食も豊かだし、美を育む土地なのかもしれないですね」
話を聞いた人:三成 由美(みなり ゆみ)
島根県出身。奥出雲町役場地域振興課 企画員。大学進学をきっかけに島根を飛び出して、名古屋で都会生活を謳歌するも「自分の幸せとは何ぞや?」と疑問を持ち、27歳のときに島根へUターン。現在は町役場の地域振興課職員として「町民の一番身近な一番頼れる存在」を目指して活動中。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015 地域で輝くパワフル女子」選出。
現在の島根県にとって欠かせない存在の三成さんは……
とにかく人をつなげる力がすごい!
三成さんとの偶然の出会いは、東京で行われたとあるイベントに参加したことがきっかけでした。
「このイベントは島根のローカルキーウーマンたちが、それぞれの活動を紹介しながら島根の暮らしの魅力についてトークをするというもの。僕の友達が紹介してくれた島根出身のローカルジャーナリスト・田中輝美さんが登壇していたので、ぜひ会ってみたいと思ったのも参加の理由でした」
「皆さんのお話もすごくおもしろかったです。島根はすぐに人がつながるから、仲間と一緒に何かやりたい人にはとても楽しい土地みたいで」
「地域のなかでパワフルに活動している女性も多いとか」
「男性の参加者も多くて、みんな島根に興味津々でしたね!」
「このイベントで司会を務めていたのが三成さん。イベントが終わったあとに少し話をさせてもらって、『今度島根に取材行くんですよー』と言ったら、『ぜひ来てください!案内します!』って」
「ちなみにこれ、出発3日前の話。三成さんはここから恐るべきスピードで人をつないでくれました」
「現地でもクルマを出して、僕らを案内してくれたんですよ。まったく土地勘がなかったので本当に助かりました!」
「島根に足を向けて眠れません」
さらに、三成さんは……
行動力もすごい。
地元の女性10人のチームからなる「おくいずも女子旅つくる!委員会」の発起人でもある三成さん。女性の視点から奥出雲を切り取った観光情報誌「Okutabi」や、女性の生き方をテーマにした「女子百花」などのフリーペーパーを発行しています。
「女性の視点に立った丁寧な情報が載っているし、誌面のデザインもすごくこだわってますよね」
「地元への愛と熱量を感じる冊子です」
奥出雲を巡る女子旅ツアーも定期的に計画しているこのチーム。
寝台列車『サンライズ出雲』でやってくるお客さんを島根の伝統芸能『安来節どじょうすくい踊り』で出迎えたり、ヤマタノオロチ伝説で有名な斐伊川の上流域にあるダム湖で女子向けのヨガイベントを開いたり、はたまた奥出雲の伝統的な神社で巫女体験ツアーを企画したりなど、自由な発想で次々とアクションを起こし続けています。
斐伊川にかかる橋を舞台に、男女150人がピンク色のヒゲを付けてヒゲダンスをする動画プロジェクトを立ち上げ、話題を集めたことも。島根のご当地キャラ「しまねっこ」もこの勢いに巻き込まれてヒゲを付けています。
「地域資源とアイデアの組み合わせが秀逸。そして抜群の行動力。人を巻き込む力もすごいです」
「まさにローカルキーマンの鏡。地域の顔役はこれからの時代、もっとフォーカスされていくべきだと思います」
「まさしく。でもローカルジャーナリスト・田中輝美さんの本によれば、ここに至るまでにはさまざまな葛藤もあったようで。地元で生きる『覚悟』はどうやって生まれたのかも聞いてみたいところです」
奥出雲の人をつなげる「ご縁」ツアー
「このたびは本当にありがとうございました」
「いえいえ。一度お会いしても二度目がある人って少ないので、来てくれただけでうれしかったです」
「たたらの記事のなかには登場していないのですが、雲南市役所の鳥谷健二さん、鈴木佑里子さん、松蔭佳子さんなど、行政の方々にも大きなご協力をいただきました。実はその縁をつないでくれたのも三成さんでしたね」
「みんなで餅つきをして楽しかったですね!」
「初めてやったんですが、杵が意外と重くて…」
「根岸さんの付き方がしょぼすぎて失笑が漏れていました」
「それ言う?」
「おいしい仁多米も食べましたね!」
「最高でした」
「さすが西の横綱」
「Iターン移住者の白山さんのお宅にもお邪魔しました」
「現代とは思えない暮らしぶりでした」
「白山さんはかつて『夢と魔法の国』で働いていたそうですが、映画『もののけ姫』をきっかけに島根の文化に興味を持ち移住。現在は農業や綿花栽培をしながら、自宅の古民家で民宿を営んでいます」
「きこりをしていた過去もあるみたいですね。すごい経歴」
「山から採ってきた生木をそのままいろりに突っ込んで、火を焚いていたので部屋のなかの煙がすごかったですね。煙は家を強くするためにも必要だとかで」
「体に悪いとこがある人が煙を浴びると涙が止まらないそうなんですが、完全に涙が止まりませんでした。都会に毒されている証拠…?」
「あと、キムチやなますなどの発酵食品に柿が欠かせない話も目からウロコでした。柿のことはこれからもっと掘り下げないと!」
「背負ってる名前が名前だけにそれはやるべきでしょう」
「クソ田舎」から抜け出したくて
「白山さんは都会の外食産業で体を壊したことが、田舎暮らしに向かっていったきっかけの一つだったとも話していました。三成さんもかつては都会の暮らしをしていたそうですね。どうしてそれに見切りをつけて奥出雲に?」
「都会の暮らしに疲れて帰ってきたというのが最初です。でも地元に帰って仕事をしたら、人は温かいし、文化は奥深いし、今まで見えてなかったものがたくさん見えてきて奥出雲のことがどんどん好きになっていった。自分のことを頼りにしてくれる人がいたこともうれしくて」
「都会ではどうしても自分の存在が埋もれてしまう部分ってありますよね」
「奥出雲には自分の役割があるって思えたんですよね。でも、昔は奥出雲みたいなクソ田舎一刻も早く出たいと思っていたんです」
「そうなんですか」
「私はずっと田舎の閉塞感やしがらみみたいなものに嫌悪感を抱いていたから。ほら田舎って、良くも悪くもみんな知り合いじゃないですか」
「プライベートがないみたいな話は聞いたことがあります。うわさ話の広がるスピードもすごく早いとか」
「今だから言えるけど私、小学4年生のときに全校生徒の前でおもらししたんです」
「え?」
「何を勘違いしたのか、児童会の役員に立候補しちゃって。それで、全校生徒の前で演説をすることになったんですが、自分の名前も言えないくらいガチガチに緊張してしまって」
「わー!!」
「5分くらいずっと黙った挙句に。それでもう次の日からいじめが始まるんですよ。男子におしっこまでかけられたりして」
「おしっこをかけられるって…漏らしたとか関係のない悪行ですね」
「残酷な小学生男子のテーゼ…。いやでも、この話を明るく話せる三成さんはすごいですよ。おしっこのトラウマを乗り越えてる」
「奥出雲は人口1万4千人の街。子どもの数は少ないし、小中高ほとんど同じメンバーで過ごさないといけない狭い世界。だから私は自分の過去を知っている人が多いこの街からとにかく離れたかったんです」
「それで、名古屋に?」
「はい。私は生活圏にコンビニがあるだけですごい!って思うような田舎者だったから、何でもある都会の暮らしはとにかく楽しくて。自由!最高!って思ってましたね〜」
都会と田舎、両方を知るということ
「華やかな都会の暮らしが自分を解き放ってくれたと」
「はい。それで卒業後もまだ都会にいたいと思って、家具会社に就職してインテリアコーディネーターに。好きな仕事に就いたと思っていたし、毎日一生懸命がんばっていたつもりだった。でも、気付いたら身も心もボロボロに。当時は過食症にもなっていたし……20代の真ん中くらいはほんと地獄だったな」
「最高だったはずの都会なのに」
「今思えば、お金でしか物事を判断できなくなっていた。ブランド物にお金をつぎ込んで、高いものを身に付けることで安心していたし、仕事でも社内の評価を上げるために大きなお金を動かすことばかり考えて」
「今の三成さんの活動からは想像つかないですね」
「結局自分はお金がないとなにもできない人間だって気付いたんですよ。それと同時に、お金を稼ぐよりも信頼を稼いだ方が人生豊かで楽しいと言えるんじゃないかとも思った。誰のために、なんのために働きたいのかを考えたときに、思い浮かんだのは自分の故郷のことでした」
「それで奥出雲に」
「はい。奥出雲には安全安心のおいしいものはたくさんあるし、すばらしい作り手はいるし、都会よりも圧倒的に生きる力と知恵を持った人もいたことに、一周して衝撃を受けました。奥出雲なんて何もないクソ田舎と思っていたのは、ただ自分が何も知らなかっただけだったんだって」
「都会と田舎、両方を見てきたからこそ気付けた世界」
「でも都会は都会で、私にとっては必要な場所。だって服もちゃんとしていたいし、まつげエクステもできないと困るから(笑)。都会も田舎も両方知って、どちらも自由に選べるのが豊かだなーって思うんですよ」
「なるほど。どっちもあっていいよねっていう生き方は、すごくしなやかでいいなあ」
「だから今は、昔の私が知らなかったような奥出雲の魅力を伝えていきながら、この土地に興味を持ってくれた人や、ここで何かをしてみたいと思ってくれる人を全力で応援していきたい。奥出雲と都会をつなげる架け橋みたいな存在を目指しながら、これからも一つひとつのご縁を大切にする生き方をしていきたいです」
「人生経験で積み上げた言葉には強さと優しさがあるなーって思いました。三成さんと出会えて、島根にご縁をつくれたことが本当によかったです。ありがとうございました!」
まとめ
太古の時代から神々があらゆる事象の縁結びについて話あってきたという伝承が残る島根。ローカルキーマン・三成さんに与えてもらった出会いを通じて、この土地が「ご縁の国」とも呼ばれる所以を実感したような気がしました。
「出発3日前に出会ってからの流れるような展開が未体験でした。地方取材のスピード感は決してスローではないですね」
「三成さんには東京に戻ってきてからイベントに誘ってもらったりしてお世話になりました。そこからつながった縁もかなり濃厚だったので、いつかこれもジモコロで還元したいですね。公私混同最高」
さて次はいよいよ、フェリーに乗って隠岐諸島の離島・海士町へ。地方創生の先進的地域、この目で確かめてくるぞー!
ライター:根岸達朗
1981年、東京生まれのローカルライター。1児の父。家では「うんちばかもの」と呼ばれています。Mail:negishi.tatsuro@gmail.com/Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗