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Channel: イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」
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高校生も農家も、みんなDJ! 市民リレーラジオで田舎がもっと「豊か」になる

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高校生も農家も、みんなDJ! 市民リレーラジオで田舎がもっと「豊か」になる

あー、あー、あー。

どうもこんにちは。聞こえますか?

本日のジモコロは、とあるラジオブースからお送りします。

 

私たちがいるのは、閉校した小学校の一室。ここでは、市民が持ち回りでパーソナリティをつとめる”ネットラジオ”が運営されているといいます。

 

最近、誰もが気軽にトークを配信できるラジオアプリも増えています。でも、市民が持ち回りでやるラジオなんて、面白くなるのかな……???

 

ちょっと疑いながら聴きはじめたラジオから流れてきたのは、秋田県にかほ市で暮らす女性のひとり語り。

 

私が32歳の時にね。主人が35歳で突然亡くなったんですね。それまで子供を3人育てていて、普通に主婦をやってて。急にひとりでね、子供を育てていくってなった時になんの取り柄もなくて。田舎に戻ってきて「観光ホテルで働いたらどうか?」って働いていたんですけど…(中略)これは長く続く仕事じゃないな、と思ってたところに、1冊の本と出会って。こんなグリーンコーディネーターって仕事があるんだって思って……
ーー『vol.13 小野田セツ子さんが語る人生はドラマチック!』より引用

 

登場する方たちは、トークのプロではありません。それでも、訥々と語られる人生の物語と、なにより、顔が見えないのに話から立ち上ってくる「その人らしさ」に、妙に惹きつけられる自分がいました。

 

この『あなたのおばんです』という番組名は、「あなたのばん(番)」と、方言の挨拶「おばんです(こんばんは)」を組み合わせたもの。

「将来は航空会社で働きたい」と夢を語る高校生や、「これから農業を始める人に『自分もやってみたい』という姿を見せる」という農家さん

そして「あの時、東京のお師匠の元に通うと決めなければ、今はなかった」と語るグリーンコーディネーターまで……。

 

ひとつの市に暮らす人々のなかに、こんなに背景の異なる人がいるんだ、と気付かされます。そしてまだ行ったことのない土地なのに、不思議と親しみが湧くと同時に、行ってみたくなる……!

 

そんな市民ラジオの取り組みは、少子化によって使われなくなった廃校の活用に関わっているそう。ラジオで廃校活用? それって一体どういうことだろう……?

 

廃校は、まだまだ未完成

どうもこんにちは。ライターの乾です。にかほの鳥海山の頂上が絶妙に隠れてしまう、自分の雲男ぶりが辛いです。

秋田県にかほ市は、雄大な鳥海山と豊かな日本海に挟まれた、自然の魅力溢れる土地。

 

そしてこちらが、市民ラジオの収録現場であり、新しい廃校活用の舞台でもある施設『にかほのほかに』(旧上郷小学校)。早速、中に入ってみましょう!

 

おっと……?

 

あれあれ……

 

めっちゃつくりかけじゃないですか???

 

インターネットラジオの発信地は「廃校活用によって生まれた、地域の情報交流拠点施設」だと聞いてやって来たのに、校舎内の工事はまだできあがっていないように見えます。

 

工事中の面々に「ここは何ができるんですかー!?」と聞くと、「何……なんでしょうねー!!」と返ってきました。

 

案内してくださったスタッフさんに「この施設は、一言で言うと何になるんですか?」と聞いても、

「一言で言うと…………」

 

固まってしまいました。

 

唯一、ラジオ収録のブースだけはバッチリと環境が整えられています。一体、この場所はなんなんだ!?

 

そんな不思議な場所を市からの委託によりプロデュースしているのは、編集者の藤本智士さん。

編集を通じてローカルに向き合う彼の活動を、ジモコロはこれまでも追いかけてきました。

 

「ローカルにこそ編集が足りない」藤本智士が語る編集者の可能性

悩めるローカルクリエイター必読! 秋田を再定義した雑誌『のんびり』を生んだチーム編集術

 

なぜ、藤本さんは新たに「市民ラジオ」を立ち上げたのか? そして、廃校を使って何をしようとしているのか? 次々と湧き出てくる疑問をぶつけてみました。

 

話を聞いた人

1974年兵庫県生まれ。編集事務所「りす」代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行のフリーマガジン『のんびり』の編集長を務める。現在はWEBマガジン「なんも大学」編集長も。嵐が日本各地を旅する様子を記録した『ニッポンの嵐』や、俳優の佐藤健が熊本を旅した「るろうにほん 熊本へ」の編集・原稿執筆を担当。2017年7月、『魔法をかける編集』『風と土の秋田』の2冊を刊行。

 

廃校で何をする? 秋田に関わる編集者の考え

「この建物のことも、市民ラジオのことも、正直わからないことばかりです。聞きたいことがいっぱいありすぎて、何から聞けばいいのやら……」

「うんうん、わからんことはいっぱいあるよね。とりあえず、僕と秋田の話をしてもええかな?

「藤本さんと秋田の?」

「実は僕、これまでも秋田で結構いろいろやってきてん」

 

藤本さんと秋田のこと①

藤本さんが編集長を務めた、秋田県庁発行のフリーペーパー『のんびり』。雑誌編集者のノウハウを活かして、地元での偶発的な出会いを、読み応えのある誌面にまとめあげていった。

「『のんびり』のことは知ってます。フリーペーパーなのにデザインも取材内容も素晴らしくて、メディア関係者から雑誌好きまで、注目してましたよね」

「ありがとう。僕はこの『のんびり』をつくっていくなかで、にかほの魅力に気づいていって。たとえばこの土地には、互いに絵をプレゼントしあうくらい、町の人たちに愛された木版画家がいてん

 

藤本さんと秋田のこと②

『のんびり』では、にかほ市出身の木版画家・池田修三さんを特集。「広く手に渡って欲しい」と本人が絵の値段をあげなかった経緯から、彼の作品を友人知人同士で贈り合う文化があったそう。普通の民家から食堂、駅前などありとあらゆる場所に飾られていた作品群は、まさに「地域に根付いた美術作品」でした。

「”絵を贈り合う文化”そのものが、日本では珍しいやんか。その文化も含めて面白いなと思って。2014年に秋田県立美術館ではじめての作品展をやったら9日間で1万2千人以上も来てくれた」

「もともとあった秋田の文化を新たな視点で発信したら、みんなその価値に気づいてくれたと」

 

「その頃にはもう、にかほのあらゆるポテンシャルの高さに圧倒されてた。鳥海山の雄大さや、海があること、飲食店のクオリティとかね」

「もうすっかり秋田の人みたいですね」

「そう? でも、この時点ではまだ『にかほ市』という土地の存在が、特に秋田県外では、アート好きの人にしか届いていなくて。もっとたくさんの人に気づいてもらうためにはベタに『食』とかで人が来るきっかけをつくれないかなって考えた。それで始めたのが『いちじくいち』なんよ」

 

藤本さんと秋田のこと③

「日本の北限のいちじく」が収穫できる、にかほ。「いちじくを主軸にしたマルシェ、って全国的にもなさそうやん?面白いかと思って」の言葉通り、地元の甘露煮メーカーや農家さんと協力して2016年にはじめたイベントは、初年度の2日間で5000人が来場するほどに。地域のイベントとして根付きつつある。

「こうして聞くと、藤本さん、秋田でめちゃくちゃ幅広く活動してますね! 雑誌に作品展、マルシェまで」

「マルシェは、兵庫県で黒豆の時期になると丹波篠山ではじまる『ササヤマルシェ』ってイベントとか、東京の浅草寺で開かれる『ほおずき市』とかを参考にしていて」

「『ほおずき市』なんかはもう、土地の風物詩みたいなものですよね」

「そうそう。そんな風に、秋田の人にもいちじくの時期になると『にかほに行かなきゃ!』と思ってもらいたいなと思って。上郷小学校とは別の廃校で開催して、すごく盛り上がった」

「まさに、編集の視点で土地と向き合っていますよね。そんな藤本さんが『にかほのほかに』でつくりあげようとしてることってなんなんですか?

 

「…………」

 

「…………」

 

「まだわからんのよね〜〜」

 

「えええ〜〜」

「でも、真っ先に工事したのはやっぱりこのラジオブースやから。ここではじめた市民ラジオ『あなたのおばんです』のことを知ってもらうと、やりたいことをなんとなく感じてもらえるんちゃうかな」

 

1人語りで、市民一人ひとりの顔が見えてくる

そうして藤本さんに紹介されたのは、市民が持ち回りでパーソナリティを務めるという例のラジオ番組『あなたのおばんです』を担当するスタッフ・國重咲季(くにしげ・さき)さん。彼女はなんと、毎回異なるゲスト(市民)をこのブースに迎え、「一人語り」をするお手伝いをしているとのこと。

 

「市民がパーソナリティーのラジオ、ってあんまりイメージできないんですけど。具体的にどうやってつくっているんですか?」

「毎回、ゲストに次回のゲストを紹介してもらって、ラジオパーソナリティーのバトンをどんどん渡していくんです」

「テレフォンショッキング形式!」

「そうですそうです。この収録ブースまで来てもらったら、自分の好きなことを自由に話してもらいます」

 

これまでに公開されたラジオ本数は、39本(2021年3月31日時点)。「あなたの好きな回に投票してね!」とグランプリをひらけてしまうくらいの本数!

 

「好きなことを……と言っても、喋りの素人が10分とか20分の持ち時間をひとりで話し続けるのはしんどくないですか? 僕なら無理です!!」

「さすがに、ずっとひとりじゃないですよ! 収録中は私も隣にいて相槌を打ったり、質問したりもします。私に向かって話してもらって、ラジオ番組に編集するときに私の声を消して、ひとり喋りの形式にしてます」

「えっ、じゃあ國重さんのやっている仕事って」

 

「ゲストとのやりとりから、一人語りの聞き役、音源の編集、調整、公開作業、ですかね」

「番組づくりのほぼ全部じゃないですか!? ローカルの『スーパーひとりラジオディレクター』だ」

 

このブースにたくさんのにかほ市民が訪れ、ラジオパーソナリティーとしてお話をしているそう

 

「ぶっちゃけ、これだけの仕事をするのって大変じゃないですか?」

「大変ですよー! みんな慣れてないからこっちも何を聞こうかな、ってハラハラするし。聞いてもらいやすくするために、どの話はごっそり編集するか、とかにも悩むし」

 

「でも、やっぱりお話を聞くのは面白いんですよ。聞いていると、いろんな人生がある。ゲストによっては、ラジオに出てもらったことで周りの知人から『そんなこと考えてたんだ!?』って驚かれるようなこともあるらしくて」

「へえー! たしかに自分が考えていることって、日常会話ではあんまり話さないかも」

「そうなんです! 第20回のゲストとして出てもらった齋藤啓太さんは、普段は明るいお兄さんなんですけど、仕事への気持ちとか、地元への思いをたくさん話してくれて。ラジオを聞いた人たちも『同じ土地で暮らしてきたのに、そう考えてるなんて知らなかった』って驚いてくれたんです」

 

車の板金塗装や整備・販売からロードサービスまで、総合的にサポートする”まちの車屋さん”の齋藤さん。人生で2番目に高い買い物である『車』を信頼して預けてくれる地元の人々の為にも、「誰でも入って来れる車屋さんになりたい」と語っていました

 

「まさに、これが『あなたのおばんです』でやりたいことなんです。みんなのひとり語りをラジオにして届けることで、『自分が住んでいるこの土地に、こんな風に考えている人もいたんだな』って気づいてもらう

「地方に住んでいると顔見知りの数は多いようにも思えるけど、どんなことを考えているか知る機会はなかなかないですもんね」

「ラジオに出ると、顔見知りも増えるかもしれません。飲食店『酌屋六三五』店主の六平さんは、スーパーで声をかけられたらしいんですよ!『あれ、もしかしてラジオに出ていた方ですか?』って」

「そんなこともあるんですね!……でもラジオだと顔はわからないんじゃ?」

「実は、このラジオをもっと知ってもらうために各回の『名刺カード』をつくっていて。QRコードと、ゲストの似顔絵を載せて配ってるんです。それを見て気付かれたとか」

 

「いやいや、いくら似顔絵でもそんな似てるわけ…」

 

めちゃくちゃ似てるー!

「年配の方だと、まだまだネットラジオって馴染みがないから。こうして紙で配れば、ご家族の方に『これを聴きたいんだけど…』って相談もできるだろうし」

「にかほの人たちに聞いてもらうための工夫だったんですね」

「いい取り組みだと思うんですよね、市民ラジオって。聞いていると、その人の選択肢の数だけ、人生の可能性があったんだなって思います。逆に、選ばなかった人生もあるというか」

「國重さんにとっては、自分の人生を考えることにも繋がってるんですね。」

「きっと、ラジオを通しても感じることはあるんじゃないでしょうか。私は聞いていて『あっちの人生を選べばよかった』じゃなく、『いまの人生を選んでよかった』と思えるように生きよう、って思います」

 

「この『にかほのほかに』のことはどう思いますか?」

「さっきも答えられなかったけど、まだ何も決まっていなくて。ただ、いまは仲間集めの時期なんだと思います

「仲間集め?」

「ラジオを通して、まちにどんな人がいるのかを知っていく。一緒になにかしたいと思ってくれる人が見つかれば、そのときは『にかほのほかに』を舞台にしてくれたらいいと思うんです」

「なるほど……じゃあ、『にかほのほかに』でやる活動も、一緒にやる仲間もまだ集めている途中……? 」

「どう? 盛り上がってる?」

「あっ、藤本さん!いいところに! なんとなく市民ラジオのことがわかってきた気がします」

「お、ええね。せっかくやし、続きは景色のいいところで話そうか」

 

市民のやりたいことを、ラジオが可視化する


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