こんにちは! ライターのギャラクシーです。
僕は植物を育てるのが趣味で、現在も50株ほどをベランダや部屋で育てています。水やりや植え替えに四苦八苦する日々です。
たった50鉢でこんな有様なら、もっとたくさんの植物を育ててる施設……例えば『植物園』なんて、一体どうやって管理してるんだ?
無理では!?
というわけで、『咲くやこの花館』という植物園に、「無理ですよね?」と聞いてみることにしました。
こちらは日本最大の温室を有する大阪の植物園。1990年にオープンし、5500種、約15000株の植物を栽培展示しています。
15000株ということは、50株育てている僕の300倍は管理が大変ってことですよね? いや無理でしょ。
咲くやこの花館
住所|〒538-0036 大阪府大阪市鶴見区緑地公園2-163
開館時間|10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日|月曜、年末年始
入館料|大人500円(団体割引などもあるので詳しくは公式HPを)
無数の植物に一体どうやって水やりをしているの?
温度管理は?
どこから植物を仕入れているの?
様々な疑問を、職員の上棚さんに聞いてみましょう!
果たしてこの巨大植物園、裏側はどうなっているのか……?
※取材は2020年に行いました
まずは巨大植物園の「表の顔」を紹介
まずは表の顔……つまり普通に『咲くやこの花館』がどういう植物園なのか、見ていきます。「どんな広さなのか」「どれくらいの種類が展示されているのか」をわかっていた方が、裏側の凄さもわかりやすいはず
『咲くやこの花館』の温室は大きく4つに分かれているんですが、最初は「熱帯雨林植物室」から!
熱帯雨林植物室
「うわー! 入ってすぐに巨大なガジュマルが! こういう大きな木が入るように、天井も高いですね」
「この建物は、一番高いところでおよそ30mあります。ビルの10階くらいの高さですね」
「総ガラス張りだからめっちゃ明るくて素敵!」
「ここには、熱帯のジャングルに咲く花や植物が展示されています。ちょっと奇妙な形の植物が多いんで、インパクトがあるのではないでしょうか」
ヒゲのようなものが垂れ下がった奇妙な熱帯植物、タッカ・インテグリフォリア
世界一大きな葉を持つと言われる水生植物・オオオニバス。子供が乗っても沈まないほど浮力があるそう
園内の植物はすべて、きれいに見えるように緻密な計算の元、植えられています
滝の前がインスタ映えスポットらしいので撮ってみました。おしゃれですな
「今日は子どもが多いけど、遠足か何かなのかな? 植物のことを解説してるあのお姉さんは……」
「うちのアテンダントスタッフですね。ちなみに『咲くやこの花館』では、日に2回“フラワーツアー”というのを行っていて、(子どもじゃなくても)スタッフの解説を聞きながら園内を巡って頂けるんですよ」
「へぇ~、フラワーツアーというのは、どこかで別途チケットを買えばいいんですか?」
「いえ、無料です」
「無料~~!!? 何の利益もないのに、なんでそんなことやってるんですか!???」
「咲くやこの花館は公共の施設……植物の魅力を伝える教育的な役割もあるからですね」
「なるほど。入園料が500円という安さだったことも気になってましたが……公園や図書館と同じで、利益だけを追求してるわけではないのか」
※民間の企業が運営している植物園もあります
熱帯花木室
続いてやってきたのは「熱帯花木室」
ハワイやタヒチの美しい風景を連想させますね。トロピカル~!
熱帯の代表的な花木である、ハイビスカスやブーゲンビレアなどが咲き誇っています。
ちっこいバナナだー! かわいっ!
え、パイナップルってこんな感じで実がなるの? 木になるんじゃないの?と思って聞いてみたら、実はパイナップルは「木」ではなく「草」なんだそう。えー! そうなんだ!
「バナナやパイナップルなど『食べられるフルーツ』が多く実ってますが、最初から実がなってるものを仕入れてるわけじゃないですよね?」
「当館の果実類は人の手で受粉している品種もあれば、業者からミツバチのハチ箱を借りてきて受粉させる場合もありますね」
「実ったフルーツは、職員が弁当の後にデザートとして食べたりするんですか?」
「植物の調子を見るためや、来園者に解説する時のために知識として食べることはあります……が、基本的に我々が食べることは少ないです」
「え、そうなんですか!? 毎日フルーツを食べまくってビタミン取り放題だと思ってた」
「多くはフラワーツアーで来園者に食べてもらったり、ワークショップに使用したり、と活用されてます。それでも余ったものは廃棄ということになりますね」
「廃棄するなら職員が食べたらいいのでは?」
「園内のものは公共の財産でもあるので、職員が自分のために食べるのは、あまりよろしく無いんですよね……ちなみにパイナップルとかは、スーパーで買ってきたものを“葉の部分だけ切って植えとく”と簡単に栽培できるんで、ご自宅でお試しください」
ずんぐりした巨木、パロボラッチョ(酔っ払いの木)という植物を発見
「パロボラッチョ……変な形の木だな~! こんな巨大な木をどうやって植物園に入れたんですか?」
「こちらは重さ3トンありまして、クレーンで吊って搬入しました。実は温室の出入り口は、巨木でも搬入しやすいようにかなり上の方まで開けることができるんです」
実際に搬入された時の様子。3トンって……さすがに重機でもなきゃ無理ですね
「いやらしいこと聞きますが……この植物ってお値段どれくらいなんでしょう?」
「こちらは寄付して頂いたものですが、買えば……そうですね、これほど立派なものだと数千万レベルじゃないでしょうか」
「すっ、数千万!!! それを入園料500円で見れるってめちゃめちゃ得じゃないですか!」
「そうなんですけど、言い方が生々しいな……」
乾燥地植物室
続いて向かったのは乾燥地植物室。サボテンやアロエなど多肉植物を多く見ることができます
サボテンや多肉って花を咲かせるのが難しいんですけど、当たり前のように咲き乱れてますね。さすがプロ! この光景は家庭ではちょっと見れないんじゃないでしょうか
こちらは温室の外にあったアガベ・サルミアナ・フェロクス。50~60年に一度しか開花しないため、咲いた時はニュースになりました
キソウテンガイという名前の植物。生涯、たった2枚の葉だけを永遠に伸ばし続けるらしいです。「“永遠に”ってどれくらいですか?」と聞くと、「2000年くらい」とのこと。桁外れかよ!
「えーっとこの大きな木は、アロイデンドロン・ディコトムムという名前ですか。旧名がアロエ・ディコトマ……え!? アロエ・ディコトマ!!??」
「どうかしました?」
「アロエ・ディコトマって、僕が家で育ててるコレ↑じゃないですか! えーっ、こんなに大きくなったら、ベランダからハミ出しちゃう~!!」
「大きさは鉢のサイズでコントロールできるんで大丈夫ですよ。鉢のサイズ以上の大きさには育ちませんから。ちなみに、植物園に展示されている植物も、直接地面に植えているものだけではなく、鉢ごと土に埋め込んでいるものがあります」
「それはサイズを調整するためにってことですか?」
「それも理由のひとつです。大きくなりすぎて屋根を突き破っちゃうとまずいので。あと、鉢ごと持ち運びできるんで、入れ替えの時に移動させるのも手軽なんですよ」
高山植物室
続いては高山植物室へ。しかし、さすが日本一巨大な温室……めちゃめちゃ広いな。スニーカーで来たほうがいいですこれ
高山帯の植物は慎ましくてかわいいな~
誰もが歌として知ってる花、エーデルワイス
高度2000~2900mの高山帯の石灰岩地を好むんだそう。荒涼とした風景の中にこんな花をポツンと見かけたら、そら歌にしちゃうわ
「熱帯の温室は暑いくらいでしたが、高山植物室は全体がヒンヤリしてますね」
「植物を育てるのは温度との戦いと言ってもいいと思います。高山には暑さに弱い植物が多いですから、下水処理場の処理水を利用した電気エネルギーを動力源とする設備で、温度を管理しています」
「聞いたこともない設備ですが、これほどまでに巨大な施設だと、相当特殊な装置じゃないと温度管理は無理なんでしょうね」
「おかげで、とても貴重な品種も栽培できるんですよ。例えばこちらをご覧ください」
「この小さい青い花ですか?」
「『咲くやこの花館』を象徴する貴重な植物、青いケシの仲間・メコノプシスです」
「な、なんか地味な花ですね」
「とんでもない! この植物は標高3500m以上にしか生息せず、暑さにとても弱いので、我々日本人がこんなに気軽に見れるのはすごいことなんですよ! 当館では綿密な開花調整をおこなっていますので、高い確率で花をご覧いただけます」
「なるほど。そう言われて改めて見てみると……本来なら高山病にかかる可能性すらある標高3500mの花を、大阪の鶴見区で気軽に見れるってすごいことですね」
「そうでしょう~(嬉しそう) 他にもこちらをご覧ください」
「アヒナヒナ(ギンケンソウ)という植物です」
「こちらも地味に見えますが、実は貴重……?」
「そうなんですよ~。ハワイの高山地帯に生息するこの植物は、絶滅危惧種であり、日本では『咲くやこの花館』だけでしか見られません」
「へぇ~! すごい! 我々一般人からすると、貴重というと『派手』『巨大』みたいなモノサシしかありませんが、知識を持って眺めると見方が変わってきますね。どういう生態なのか興味が湧いてきます」
「でしょう? 当館で植物に興味を持ったお子さんが、いつか植物学者になり、人類にとって有益な薬学上の発見をするかもしれない。そんな学びの場所になってくれたら嬉しいですね」
巨大植物園の裏側を知る
というわけで、『咲くやこの花館』をザッと見て回りましたが、ここからはその裏側についてお話を聞いていきます。一体この巨大な植物園は、どうやって植物を管理しているのか?
水やりってどうしてるの?
「『咲くやこの花館』では15000株もの植物を育てているそうですが、植物園の水やりって、途方もなく難しいのでは? コンピューター制御の水やりシステムとかがあって、散水機が水やりしてるんでしょうか?」
「コンピューター??? いえいえ……(笑)」
「水やりは人力ですよ」
「えーーー!!! 人力!??? 15000株もの植物に、人の手で水を!??」
「まさかそんなに驚かれるとは思ってませんでした」
「だって人力なんて想像もしてなかったから……念の為お聞きしますが、『咲くやこの花館』が特別ってわけじゃないですよね? 植物園というものは、人力で水やりするのがデフォなんですか?」
「人力がほとんどだと思いますよ。多くの種類を管理していると、『これは2日に一回、その隣のは一ヶ月に一回、湿度が高い日は控えめに』、みたいな感じになりますから。一個一個の植物の状態や季節に合わせてプログラムを組むのは、かえって非効率じゃないかなぁ」
「うちに展示されているものは、珍しいものや希少種が多いんです。教科書にも載っていないので、代々受け継がれている水やりの方法や、試行錯誤の経験に基づいて水やりをおこなってます。『水やり三年』と言われる、奥深い作業ですよ」
「『水やり三年』! うなぎ屋さんの『串打ち三年、割き八年』みたいな感じなんですね」
「あと、人力で水やりをするのはもうひとつ理由がありまして。水やりしながら植物の調子を見てるんですね。あぁ、これはちょっと元気がないなとか」
「そういうことなら確かに人力じゃないと無理ですね」
「なので水やりは、生態を隅から隅まで知ってないとできません。いち早く異常に気づき対処できるかが、栽培のいちばん大事なことですから」
どうやって植物を仕入れてるの?
「パラボラッチョのお話のときに、『寄付してもらった』とおっしゃっていましたが……他にはどんな仕入れルートがあるんですか?」
「寄付以外だと、購入という形が多いですね」
「植物園も普通に購入したりするんだ……」
「実は近年、輸入の制限が厳しくなって仕入れるのが一苦労なんです。予算の都合もありますし」
「『咲くやこの花館』には相当珍しい品種もありますが、そういうのもどこかで買ったりできるんでしょうか」
「どんなに珍しい植物でも、必ずどこかに専門の業者や愛好家がいます。そういった、業者や人との繋がりは植物園の財産と言えるでしょうね」
「『寄付以外だと、購入という形が多い』とのことですが、購入以外にも仕入れ方法があるんですか?」
「植物園協会というのがありまして、植物園同士は横の繋がりがあったりするんです。だから例えば『蓮が全滅しちゃった!』という園にうちの蓮を譲渡してあげたり、その逆もあったりしますね」
「へー! 植物園同士ってライバル関係だと思ってた」
「いえいえ、実はかなり綿密に連携をとってまして。植物のやりとりだけじゃなくて、広報のやり方とか運営方法とかも情報交換してます」
植物をストックしてる倉庫みたいなものはある?
「コンビニでもスーパーでも『商品をストックしておくための倉庫』みたいなものがありますが……植物園にもそういったものはあるんでしょうか?」
「もちろんあります。バックヤードには、展示されている3倍の数の植物がストックされています」
「3倍!!??? あの巨大な温室は氷山の一角に過ぎなかったのか……!」
「バックヤードの規模と内容が、その植物園の価値を決めるといっても過言ではないです」
「季節によって植物を入れ替えたり、開花しているものを展示に回して、そうじゃないものをバックヤードに入れたりするので、数は必要になってきますね」
「本来は関係者しか入れないであろうバックヤード……見てみた~~い!!!!」
お願いして、実際にバックヤードを見せてもらえることになりました
植物をストックするための温室が無限に連なっていました。マジで数え切れないくらい。展示されてる3倍の数のストックがあるという言葉にも納得ですね
内部はこんな感じ。所狭しと植物が並んでる~! ここに住みたい!
剪定(不要な枝や葉を切る作業)で落とした枝葉もすごい量ですね。
巨大な植物に関しては高所作業車を使ったり、過去にはツリークライミング(ロッククライミングのようにロープなどを使って木に登る)の技術を活かして剪定したこともあったそう
植物園の職員の仕事、多岐に渡りすぎ
ちょっとした山が作れそうなほど土が保管されてました。植物に合わせて独自のブレンドで、こだわりの用土を作っているそうです
そういった大量の土や、大きい植物なんかは、作業車を使って移動します。
実は展示されている植物はかなり頻繁に交換されているらしいです。そのため力仕事が多いんですが、植物園には他にも事務や広報の仕事もあるので、全体の男女比で言うと女性の比率が高いそうです
植物が好きな人ばかりの職場、楽しそうですね
作業場。奥に見える赤い花のようなものは、大量のハサミ(ウイルスや病気が伝染ったりしないようにハサミを一回ごとに使い分けている)
作業場にあったファイル。「雨林班・用土配合表」という文字が見えますね。
植物によってジメジメした土壌を好むものとか、乾いた土を好むものなどがあるので、土作りって難しいんです。このファイルは試行錯誤しながら代々受け継がれてきたのでしょうね
「植物栽培室」という建物では、巨大な冷蔵庫のような設備の中で植物が育てられていました。マイナス3度→7度→12度→18度と、4段階で温度を暖かくしていき、春だと思わせるんだそうです。
こういう設備があるから、僕らは気軽に貴重な花を見られるんですね!
「展示では色んな花が咲き乱れてましたが、中には夜にしか咲かない花もありますよね? どうやって昼に咲かせてるんですか?」
「開花調整室というのがありまして、ものすごくわかりやすく言うと『昼は暗く、夜は明るく』した部屋ですね。そういう部屋で昼夜逆転させてます」
「ライターの生活みたい……でも大きい植物なんかは調整室に入らないのでは?」
「フニーバオバブという植物なんかがそうですね。19時頃から20~30分かけて咲くんです。当館では、その時期だけ夜にも開園することがあります」
「へー! 夜の博物館とか夜の動物園は聞いたことがありますけど、夜の植物園って想像つかないな」
ちなみに夜の植物園はこんな感じらしいです。ロマンティック~~!!
どこか遠い国の砂漠の夜とか、そういう光景が浮かんできますね~
VIPルームがある?
「以前、何かのニュースで『咲くやこの花館』に秋篠宮殿下がご来園されたと聞いたことがあるんですが」
「はい。殿下は植物に大変造詣が深く、当館を気に入ってくださいまして……何度かご来園頂いてますね」
※『咲くやこの花館』公式HPより
「造詣が深い……というのは、植物園の職員から見てもですか?」
「殿下は日本植物園協会の総裁になられたこともあるので、本当にめちゃめちゃお詳しいです。園の植物にかかっている学名のプレートをご覧になって、誤字があることを教えて頂いたこともあります」
「へぇ~! ちなみに、そういったVIPな方々も、今日僕が巡ったようなルートを普通に見て回るんでしょうか?」
「そうですね。他にも大臣などが来園なさることもありますが、普通に見て回って頂いてます。とはいえ休憩の時なんかは一般のお客様と一緒になるとさすがに騒ぎになりますから……」
「そりゃそうですね」
「そういった方々の休憩時や、何かの会合の時なんかは貴賓室を使って頂いてます」
「貴賓室!?」
こちらが『咲くやこの花館』の貴賓室。植物園にこんな部屋があるなんて……!
一瞬だけ座らせてもらいました。ふかふかだ~!!!
「いや~、色々と興味深い話ばかりでした。最後にちょっとした興味でお聞きしますが、植物園の職員さんって、家でも植物を育てたりするんでしょうか?」
「完全に2つのタイプに分かれますね。好きだから家も植物だらけにしてる人と、職場で毎日植物の世話をしてるから家ではまったく育てたくないって人と」
「上棚さんはどっちのタイプなんですか?」
「私は家でも育てる派ですね~。300株ほど育ててます」
「小さい植物園じゃん! おみそれしました。今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました! またぜひプライベートでも立ち寄ってください」
まとめ
というわけで今回は日本最大の温室を保有する大阪の植物園、『咲くやこの花館』の裏側を見せてもらいました。
様々な裏側の苦労があるからこそ、僕らは貴重な植物を気軽に見れるんですね……。
取材後、上棚さんに教えてもらった通り、スーパーで買ってきたパイナップルを植えてみましたが……さて、実がなってくれるかな?
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