サラリーマン生活10年目。33歳になった僕は、勤める会社の東京本社で然して特筆すべき能力もない標準的な営業マンとして働いていた。
高校卒業後に上京して十数年。東京で過ごした年月が故郷で過ごした年月に迫ろうかというある年の冬、中途で入社して数年の会社から突然転勤を言い渡された。ちょうど一年前のことである…。
前編では、サラリーマンにとって転勤は入社当時から覚悟していたことであり、決定事項として伝えられるものであり、とにかく振り回される大変な文化だということを恨めしく書きました。
後編ではよりグジグジとした転勤のツラさを語っていきたいと思います。
4.サラリーマンはなぜ転勤させられるのか?
そんな酷いことをされても会社を辞めないのは「転勤する事もあります」という事前アナウンスを承知で入社したからに他ならない。結局「嫌ならやめろ」の前にはノーコメントにならざるを得ないのが並みの能力しかない一般のサラリーマンの辛さ。
サラリーマンにとって転勤はつきものだとはいえ、しなくてもよい転勤だってあるはずだ。転勤が発生する理由は人、会社それぞれだ。職種としてはきっと営業が多いだろう。長い付き合いの中で取引先との癒着関係が構築されがちな特殊業界ではあえて長い付き合いにならぬよう、定期的に営業の配置転換が行われると聞いた。
その他に、よく言われるのが左遷(させん)。僕の会社でもミスを犯した人が海外の僻地への転勤を命じられたのも実際に見たことがあるので、これは懲罰、見せしめ的な意味で割と多いものと思っている。
また、僕の周りで一番多いのはトップが交代したときに自分のカラーを出すために大規模な配置転換を実施するケース。前任者の息がかかった人間などを排除するという、島耕作ばりの企業ドラマだって普通の会社にいれば当たり前の様に見かける光景だ。
取引先には配置転換が「社長の趣味」という信じられない会社もあり、かなりの頻度で担当者が変わっていた。信じられないがそんなノリで行われるケースもあるのだ。
必要な転勤には従うしかないが、誰かのワガママや気まぐれ、時には趣味や娯楽といったノリで、ある人の、そしてその家族の生活が一変させられているかもしれない。転勤の一つの真実である。
「島耕作大好きなんですけど、大企業ではマジのあるあるだったんですね…」
「これが一般のサラリーマンの宿命ですよ」
5.転勤はとにかくツラい
転勤は一体何がツラいのか? ここまで何となくモヤモヤしていた転勤に対する気持ちをまとめてみると転勤の嫌なのところは以下の3つだと考えられる。
●急であること
急だ。ただでさえ面倒な引越し。それを短期間でやらねばならなかったのはストレスである。スケジュールの最優先は会社がこちらに相談もなく勝手に決めた日程となると妙に腹が立つ。
●知らない街に行くこと
行きたくない。言うまでもなく、知り合いの誰もいない街に率先していきたがる人間などいない。「来年はみんなで○○しよう」といった色んな未来の計画は白紙になり、そして疎遠になる。泣けてくる。
●会社命令であること
嫌すぎる。結局のところ「会社の命令」というのがあらゆる点において納得して行動出来ない部分である。
「あの街に住みたい」「もっと静かなところにすみたい」「もっと広い家に住みたい」などなど、人が引越しをする場合には何かしらの「こうしたい」という積極的な理由があるはずだ。「決まったので行ってください」と言われて前向きな気持ちになれるだろうか。無理だ。
「めっちゃツラいってことが伝わってきました」
「振り返るとまたツラさ思い出してきた...」
6.逆に転勤のメリットは?
ここまで長々と転勤の悪口ばかり言ってみたが実際にはメリットもあるので、そこにもしっかり触れておきたい。会社ごとに差があり一概には言えないが、一般的に会社都合での転勤の場合、会社からはそれなりの見返りが得られるのも事実だ。
●お金が貰える
転勤のメリットの一番がこれだ。僕の会社の場合は「臨時手当」の様な一時金がウン十万貰。転勤によって発生する臨時出費をこれで賄ってくださいね、という位置づけだが、転居費用や新居契約時の費用諸々、家を探すときに発生した交通費やホテル代は全額会社負担のため、転勤するのに臨時でウン十万も費用が掛かることはない。つまりこれは事実上「無理言ってごめんね」みたいなものなのだ。
それに加えて、転勤すると家賃補助の額が数十パーセント増額される。定期昇給にも匹敵する事実上の手取り額UPで、金銭的な面から見ると転勤はメリットが多い。
●経験が得られる
左遷など、転勤理由がネガティブでなければ、シャケが長きに渡って回遊し戻ってくるのと同じく、サラリーマンは転勤を経て成長し、再び本社に戻って来ると信じられている。
色んな土地、色んな上司、色んな取引先との経験はずっと同じところに居続ける人よりも仕事上プラスになることも多いだろう。
プライベートでも同じことは言える。知り合いの全く居ない知らない街なんて転勤でもしなければ住むこともなく、長い人生においてプラスになる経験と考えることもできる。要は気持ちの持ちようだ。
●家族と過ごす時間が増える
転勤すると友達が居なくなり、それまで属していた色んなコミュニティから一気に引き離される。最初はそれが一番キツかった。単身者はもっと大変だろうが、僕の場合は幸い家族連れ。知り合いが家族しか居なくなる事で、自ずと家族の結束は強まり、一緒に過ごす時間が増えた。
転勤など無関係に子育てへの参加は必要だが、元々誘惑に弱い性格で趣味は飲み歩きの僕にとって「選択肢がほかにない」ことは重要で集中して家族に向き合うことができるようになった気がする。人生という長い目で見れば、子供の小さい時に長く一緒の時間を過ごせるのは良いことだろう。
「お金があって、家族と過ごせて、会社員としてはプラスな面もしっかりあるんですね」
「やっぱりある程度アメが無いと転勤命令をきっかけに辞めちゃう人って結構いるんですよ」
7.それでも転勤はツラいよ
なんだかんだ言ってきたが、結局「転勤のツラさ」は気持ちの部分が大きいってことだ。
仕事はしつつ、Web上で記事を書く。それまで仕事とプライベート、そのバランスは半々だと思っていたのだが結局自分が一介のサラリーマンで、お仕事様には抗えないという当たり前の事実を、僕はこの転勤で突きつけられたのであった。
転勤の辛さは、この「会社都合で簡単に人生を翻弄されてしまう」という当たり前の事実に直面し、それを受け入れることではないかと思う。
僕には妻や子が居て、仕事もある。「贅沢言うな」と言われても反論する術がないのだが、今回はあえて急に転勤を突きつけられた一人のサラリーマン目線で、転勤というシステムについて自分の目線で考えてみた次第である。
「なるほど。東京で暮らしていた自分の姿を容易に想像できるからこそ、転勤先での生活にツラさを感じるのかもしれませんね」
「会社都合の命令を甘んじて受け入れるしかない自分。そして振り回される家族。心の中で折り合いをつけるのに1年かかりました。」
「ズッキーニさんと同じ気持ちのサラリーマンが世の中のは沢山いるんでしょうね。生々しい体験談をありがとうございました」
「早く立派なシャケになって東京に戻りたいです!」
※そんなズッキーニの転勤先で書いた記事はこちら
イラスト:マキゾウ(【実録】フリーランスの「孤独」すぎる日常 )
書いた人:zukkini
四流情報サイト「ハイエナズクラブ」で会長を名乗っています。長所、特技、趣味等は一切無く、ただ性格はとても明るいです。ブログ「ぼくののうみそ・x・」、twitterアカウント→@bokunonoumiso