今日の天気は雪、明日も雪、明後日も雪。1日飛ばして、その次は大雪――。こんにちは。 私、「二木」と書いて「ふたつぎ」と申します。
普段は報道情報部でディレクター業務を担当
普段は北海道・札幌のテレビ局でディレクターをしているのですが、お笑いが好きすぎるあまり、会社に黙って他局系列の『M-1グランプリ2020』に出場したところ、動画がYouTubeに残って会社にバレました(※現在は応援していただいております)。
『M-1グランプリ2020』出場時
オワライホリック気味な私は、就職して札幌に来るやいなやTwitterで「札幌 お笑い」で検索。画面をスクロールしていたところ、“札幌NSC1期生募集”の文字を見つけました。
「えっ、札幌にNSCができるの」
芸人になるために地方から東京や大阪へ行く人が多いなか、札幌で芸人を目指すのは、どんな人たちなんだろう…? 気になった私は、すぐに札幌NSC1期生の取材をはじめることにしました。
札幌NSC生3人は、なぜ北海道に?
「皆さんはそもそも、なんで札幌NSCに入ろうと思ったんですか?」
新井さん(24歳・江別市出身・会社員)/影響を受けた芸人:NON STYLE、渡辺直美、犬の心
「大学卒業後は普通に会社員になったんですけど、仕事がキツいなと感じた時、やっぱり救いになったのはお笑いで。最初は、高校の同級生と一緒に大阪NSCへ行こうと思ってたんですけど、家庭の事情で北海道に残らなきゃいけなくなって、ひとりで札幌のNSCに入ることにしたんです」
「なるほど。ちなみに、社会人になってからそう思ったんですか? それとも、社会人になる以前から『お笑いをやりたい』と思っていたのでしょうか」
「お笑いは好きでしたけど、自分でやりたいと思ったのは社会人になってからですね」
「いつごろからそう思うように?」
「社会人1年目の夏ごろですかね。もともと、ちっちゃいころからお笑いと同じくらい音楽が好きで。ステージに立つことに憧れを持っていたんです。高校生の頃に音楽活動をしていたので、やっぱり『もう1回ステージに上がりたい』と思って」
「そうだったんですね。でも、なんで最初は東京NSCではなく大阪NSCに行こうと思ったんですか?」
「『一緒にやりたい』と言ってた子が、大阪のお笑いが好きだったんです。でも私自身は、お笑いをやる場所にこだわりはありませんでした」
「私は、大学時代に学生演劇を経験して『人を笑わせたい』という気持ちが濃くなっていったことがきっかけですね。卒業してからもその気持ちがずっとあって、新卒で入った会社を4か月で辞めて。それからコメディ劇団に入ったんです」
亀田さん(26歳・札幌出身・フリーター)/影響を受けた番組:『ボキャブラ天国』、『笑う犬』シリーズ、『ザ・スリーシアター』(いずれもフジテレビ)
「コメディ劇団に入って、そこからなぜ今のお笑いの道に?」
「劇団の活動が少なかったとき、たまたまTwitterで札幌にNSCができるのを知ったんです。演劇とお笑いのどちらをやりたいのかはまだはっきりしていないんですけど、もともと地元が好きだし、大泉洋さんへの憧れもあり、ローカルタレントを目指すのもいいなと思って札幌NSCに入りました」
丸岡さん(22歳・神奈川出身・北海道大学4年生)/影響を受けた芸人:サンドウィッチマン
「私はもともと『爆笑レッドカーペット』や『爆笑レッドシアター』(いずれもフジテレビ)が好きで、芸人さんに憧れていて。ルミネtheよしもとへ行って『いいなあ、芸人さん…』と思いながらずっと過ごしてたんですけど、通学途中にたまたま札幌NSCを見つけて、土日に通えるし『これは最高じゃんっ!』って思って入りました」
※地方のNSCは土日に授業が行われるため、新井さんのように会社員をしながら通ったり、丸岡さんのように学生をしながら通ったりすることができます
明るくて自分の考えを強く持っている新井さんと、悩みつつもコントに対する憧れを持ち続ける亀田さん、そして口数は少ないながらも内に秘めたお笑い愛を感じる丸岡さん。
社会人、フリーター、学生と、立場も年齢も三者三様の3人に、NSCに入ってから感じた札幌でお笑いをするプラス面とマイナス面について聞いていきます。
札幌でお笑いをやることのプラスとマイナスって?
「北海道って地元愛の強い人が多くて、芸能人がテレビで『北海道出身です』って言ったらすごく喜んでくれるんですよ。だから、北海道でお笑いで大成するために時間はかかるかもしれないけど、地元の人たちから愛されたらいいなと」
「確かに、北海道の人は特に郷土愛が強い感じはあるかも…」
「でも、そもそも東京や大阪に比べてお笑い文化自体があんまり根付いていないから、ほかのエリアよりもお笑い需要自体が少ないんですよね」
「ほかの土地で育っていたならまだしも、北海道で育っていたら『お笑いの文化が根付いてない』なんてなかなか気づかないと思うんですけど、なんでそう思ったんですか?」
「しいて言えば、盛り上がりにくいんですよね。私が言うのもおこがましいですが、音楽もそうで。文化として東京や大阪ほど一般的じゃないので、そもそも盛り上がりにくくて、逆に言えば、盛り上がったらもうメジャーとして認められたとも言える。お笑いもそれと似てるんじゃないかなと」
「北海道の土地柄もあるんですかね?」
「そうかもしれませんね。例えば、大阪だったらしゃべくり、東京ならスタイリッシュなコントとか“お笑いのイメージ”があると思うんですけど、北海道は幅が広すぎて…」
「新井さんは『お笑いをやる場所にこだわりはなかった』と言っていましたけど、札幌NSCに入ってみて、どうですか?」
「場所自体にこだわりはないですけど、札幌には固定的なお笑いの劇場がなくて。もともと劇場自体に憧れがあったので、すごくさみしいなと思います。よしもと無限大ホールでやっているランキング形式のネタライブを学生時代によく観ていたので、劇場で切磋琢磨しながらネタを磨くことに憧れるんですよね」
「やっぱり東京・大阪・札幌で、劇場がある・ないの違いは感じますか?」
「それは強く感じます! それこそ最近、福岡によしもとの劇場ができて。福岡のNSC3期生と合同でネタ見せをするリモート授業があるんですけど、福岡の子たちはすでに劇場の舞台に何度も立ってるので、差が出てくる部分はあるなあ…と」
「あとやっぱり、劇場があることで『ここに行けばお笑いが見られる』ってことが明確なので、気軽に行きやすいのもありますね。札幌でお笑いライブを見たいと思ったら、まず『どこでやってるんだろう』と探すところから始めなきゃならないので…」
「確かに。私みたいなお笑いオタクだったら迷わず自分から探しに行きますけど、みんながそうじゃないですもんね」
「そうなんですよ。余程お笑い好きな人じゃないと、ハードルが高いと思うので。お笑い文化が日常にあるかどうかは、劇場のある/なしに大きく影響しているんじゃないでしょうか」
「お笑い文化が根付いていくかどうかを、左右するところがあると思いますね」
「じゃあ逆に、北海道の優位性ってなんですかね?」
「……とにかく飯がうまい(一同大拍手)」
将来は拠点にこだわらない“ノマド的芸人”?
「将来的には、どこでお笑いをやっていきたいですか?」
「東京や大阪といった主要拠点でやったほうが、メディアに出る機会は多いし、劇場もあります。だけど今のところは、全国的なテレビに出たいとかより、自分にできることを探りながらやっていきたいと思ってますね。あくまで現状ですけど」
「東京や大阪のほうが活動の幅が広がるのはわかります。でも、そもそもあんまり場所に固執したくないんですよね。最終的には、毎日全国違う場所でノマド的に活動できたらいいなって」
「丸岡さんは神奈川出身ですけど、どうですか?」
「千鳥さんや博多華丸・大吉さんのように、地方出身でおもしろくて地元でも活躍する芸人さんに憧れますね。私は北海道が好きなので、このままここで暮らしていきたいなとは思ってます」
「丸岡さんは北海道が地元ではないですけど、その点は…?」
「オクラホマさんの道があるかなと」
※オクラホマ……朝や夕方の情報番組、深夜番組など多数の番組に出演する北海道の人気お笑いコンビ。CREATIVE OFFICE CUE所属
「オクラホマさんは関西出身で北海道大学に入って、そこから北海道とのつながりができて、今や北海道を代表するお笑いコンビですもんね」
「札幌に劇場がないなどのマイナス面もあると思うんですけど、それをふまえても?」
「たぶん、マイナス面以前に『北海道が好き』という根底の思いがあるんですよね。本州の人からしたら『なんで?』って理解できないかもしれないんですけど、まず『地元が好き』というところから始まってるんで」
「たしかに、それが一番の理由かも…」
「わかる。北海道でお笑いをやるマイナス面よりも、『北海道が好き、地元が好き』って気持ちが上回ってると思う」
授業終わりの3人(2020年6月撮影)
新井さん、亀田さん、丸岡さんのように、これから札幌で芸人を目指していく人がいる一方で、この地でずっと芸人を続けてきた人もいます。それが今年で芸歴26年目、北海道から上京後にすぐさま多くのテレビに出演し、世間に強烈なインパクトを残した女性コンビ「モリマン」。
モリマン ホルスタイン・モリ夫さん(北海道苫小牧市出身・芸歴26年)
北海道で育ち、東京で芸人になり、一躍メディアでひっぱりだこになった「モリマン」のホルスタイン・モリ夫さんは、北海道でお笑いを続けていくことに対して、どんな思いをもっているのでしょうか? そして、これから北海道でお笑いをしていこうとする若者に対して、どんなアドバイスを送るのでしょうか。
モリ夫さんは、なぜ東京から札幌へ?
「お笑いを始めたのはいつ頃なんですか?」
「1990年代。私が芸人になった年の4月にちょうど札幌よしもとができて、タカアンドトシがそこからオーディションを受け出した。一応こっちが先輩ヅラしてるんだけど、オーディションを受けてる歴とか考えるとタカトシのほうが先輩。そのへんあいまいなんだよね」
「東京で何年くらい芸人をされてから札幌に戻ったんですか?」
「東京では3年半やってましたね」
「東京のテレビで活躍されていたイメージが強いので、意外と短くてちょっとびっくりしました。ちなみに、札幌へ戻ったきっかけは?」
「忙しすぎるのが嫌で、本当に休む暇がなかった。かといって待遇はそこまで良くないし、電車通勤だし、ストレスだらけで」
「東京や大阪で芸人として売れたい気持ちはなかったんですか?」
「いやー、なかったですね。仕事で売れるとか金持ちになりたいとかよりも、ちょっと落ち着いた感じで仕事したいなと思ってて。そもそも私、お笑いやりたくて東京へ行ったわけじゃなかったし…」
「え! 違うんですか!?」
「最初のきっかけは、古着屋の店長になるためだったので。私の相方が当時、高円寺で古着屋の店長をやってたんですよ」
「なるほど」
「私も古着屋をやりたくて、ちょうどそこが『札幌店を出したい』ってことだったから、東京で古着屋の社長を紹介してもらうことになって。でもいざ東京へ行ったら、相方から『お笑いやらない?』って言われて…それをきっかけになんだかんだあって芸人になったの」
「そんな経緯があったんですね…」
自身が経営する「スナック糸」(札幌・すすきの)でのモリ夫さん
※記事内の写真は、営業時間外に取材を行い、撮影中のみマスクを外していただいたものです
東京と札幌、それぞれのメリット/デメリットは?
「東京と札幌を拠点にしていたモリ夫さんが感じる、それぞれの場所のメリット/デメリットってなんですか?」
「わかりやすいところだと、やっぱり東京のほうがギャラがいいよね。ライブのギャラはあんまり変わらないけど、東京のテレビのギャラは札幌の4倍〜5倍くらいになるときもある」
「そんなに違うんですね!お仕事の内容に違いはありますかあ?」
「今はだいぶ変わったけど、私が戻ってきた当時のローカルテレビは、あんまり芸人の扱い方を知らない人が多かったね。偉そうぶるわけじゃないけど、ADさんみたいな仕事をすることもあって。たとえば温泉ロケでこれから収録をするってときに、ディレクターさんから『これから入らせてもらいます、って言ってきて!』って言われたりとか…」
「演者さんなのに…! 個人的に、札幌はお笑い文化が根付いていないように感じるんですけど、モリ夫さん的にはどうですか?」
「わかる!『M-1グランプリ2020』で錦鯉がいいところまでいったじゃない。今でこそ有名になったけど、札幌時代から長谷川はほんっとに面白かったからね!」
M-1グランプリ2020でのネタ動画。向かって左、ボケ担当が長谷川さん
「面白いですよね! 錦鯉さん! 私も大好きです!」
「ボケの長谷川が中学・高校の先輩なんだけど、よしもとに入ったのは私が先で。だから『長谷川ー!タバコ買ってこいや!』なんて後輩扱いして遊んでた(笑)。今じゃ全国的に知れ渡ってるけど、彼がもともと札幌よしもとに在籍してたことは意外と知られてないかもね」
「恥ずかしながら、私も札幌に来てから知りました…」
「地元の人たちがなんで知らないかって、北海道には単純にお笑いライブを観に行く文化がないからだと思うよ。地元で彼のネタを見てないから知らない。固定の劇場がないとはいえお笑いライブをやってないわけでもないんだけど、『ローカルの芸人なんてどうせつまんないでしょ』って先入観を持って、あんまり観に行く気が起きない人の気持ちもわかる」
「北海道にお笑い文化が根付いていない、っていうのはどこで感じましたか?」
「東京から札幌に帰ってきたときかな。東京に住んでいるときは、北海道へ帰ってくるたびにすごく歓迎されたの。でも、拠点自体を札幌にした途端に“都落ち”みたいな扱いをされて。ちょっとは東京で頑張ってたから『北海道にお笑いを広められる自信はある!』と思ってんただけど、まったくないことに気づかされちゃって」
「なるほど…考えさせられますね…。それからどうしたんですか」
「ショックだったけど、同時に気づいたんだよね。『北海道を盛り上げたい』と思ってたはずだけど、盛り上げてもらいたいのは自分たちなんじゃないかって。だから『盛り上げたい』なんて言うのは安易だなと思って、二度と口にしないと誓ったね」
「ちなみに、かつては小樽にお笑いの劇場があったと聞いたことがあるんですが」
「そもそも“小樽でお笑い”ってこと自体、みんな頭にハテナが浮かんでたと思うんだけど、実際あんまりだった気がするなあ…。札幌よしもとで劇場を持ってたときもあったけど…」
「えっ、札幌よしもとの劇場!? それも知らなかったです」
「劇場ができるのはいいことだけど、芸人的には賛否あると思うんだよね。席を埋められる自信があるのかっていう。チケットノルマとかで頭おかしくなってきちゃう気がするよ。結局、東京や大阪のゲスト芸人に頼ることが増えてきて、地方劇場の意味がなくなっちゃう可能性があるから」
「ちなみに、お客さんの反応に東京と北海道で違いってあります? 」
「さほど変わらないけど、道内で地域性は出るかもしれない。やっぱり漁師町は明るくてノリがいいお客さんがいるとか」
「『この地域はウケやすい』みたいなのもあったり…?」
「しいて言えば、道東の北見市はウケやすい感じがあるかも。けっこうみんなノリがいい印象があるね」
東京と札幌を経験して考える、地方で芸人を目指すこと
私も営業中に何度か伺ったことがあるのですが、いろんな人がモリ夫さんに会いに「スナック糸」へ訪れていました
「芸人として札幌という地方と東京、両方での活動を経験されて、これから芸人を志す人たちにどんな道を勧めたいですか?」
「安定を望むんだったら、地方はすごくいいと思うんだよね。ローカルの帯番組とかでレギュラーになって、地元でどこでも名前が覚えてもらえてる人になれたら、裕福ではないかもしれないけど食べていくことはできると思う」
「若手の芸人さんでも情報番組に出たりしているのはよく観ますもんね」
「東京で『売れる』っていったら、ほんっとにもう、確率的に低すぎるから」
「お笑いの方向性的にはどうですか?」
「斬新なネタをやりたいんだったら、地方は厳しいかも。やっぱりローカルだと、地域のお祭りとかでライブをする機会が多くて、子供からおじいちゃんおばあちゃんまでまんべんなく笑える、わかりやすいネタをやらなきゃいけないから。単独ライブとか以外、本当にやりたいネタをなかなかやりづらいかもしれない」
「面白いものはインターネットでどこからでも発信できるから、『場所にこだわらずにノマド的に活躍していきたい』と言う札幌NSC生もいるんですが、そういうやり方についてはどう思いますか?」
「すごいね、やっぱり若い子の発想は。それはあると思う。ただ、逆に難しいとも思うんだよね。いろんな理由で戦略的に売れている人たちがたくさんいて、『面白ければ売れる』ばかりの時代でもないと思うからね」
モリ夫さんのインタビューをしている中で、「『北海道を盛り上げたい』と思ってたはずだけど、盛り上げてもらいたいのは自分たちなんじゃないか」という言葉が自分の中に強く響きました。きっとこの言葉は、地元を出て活躍し、地元に戻ってきた人しか気づけなくて、言えない言葉なんではないでしょうか。
札幌NSC生とモリ夫さん、“これから”札幌で芸人を目指す人たちと、“これまで”札幌で芸人をしてきた人。生きてきた時代は違いますが、共通してインタビュー中によく出てくる言葉がありました。
「本当に北海道が好きだから、畑ロケとかしたい!」
「何よりもそもそも、『地元が好き』というところから始まってる」
「『地元が好き』は、一番の理由かもしれない」
「これからもずっと札幌がいいね。東京と札幌じゃギャラも違うし、しんどいこともたくさんあるけど、断然札幌のほうがいい!」
インタビューを終えて、「なんで?」という疑問は、「好き」という理由に勝つことができないんだなと改めて感じました。
たぶん「好き」という気持ちは何よりも優位に立つのだと思います。私も「なんでテレビ局員なのにお笑いをやってるの?」なんて聞かれたら、「いや、だって、お笑いが好きだから…」としか答えられません。
私が最初に抱いた「なんで札幌でお笑いをしているんですか?」という問いは、ナンセンスな質問だったのかもしれないです。
編集:鈴木梢