こんにちは。飲食チェーン店トラベラーのBUBBLE-Bです。
僕はチェーン店を愛してまして、全国的チェーンからローカルチェーンまで全国津々浦々を探訪するという趣味をもっています。
そうして全国のチェーン店を食べまくっていると度々遭遇するのが、その地で長年にわたって愛されているローカル料理、いわゆる「ソウルフード」なる食べ物。
場所によって異なる個性は、まさにその土地の精神性を表していると言っても過言ではありません。
今回そんな逸品を求めて訪れたのは、大阪はミナミの中心地、難波です!
大阪でソウルフードを提供するお店といえば……。
そう、551HORAIです!
難波の中心商店街内にある戎橋本店にやってきました。
商店街にせり出したド派手な看板が、大阪のコテコテ感を表現しているかのようです。
そして、このお店の名物はというと……
言わずもがな、豚まん!!
大ぶりでジューシーなこの豚まん。調べたところによると、551HORAIで1日に販売される数は、なんと約17万個! 大阪府内に限った40店舗でみても、約8万3000個という驚異的な売上を叩き出しています。
大阪府民の人口(882万人)で割ると、一人あたり年間3.45個は551の豚まんを食べているという計算になります。
名だたるガイド雑誌にも「大阪お土産の大定番」として選ばれるこの商品は、まさに名実ともに大阪を代表するソウルフードだと言えるでしょう。
本店では、テイクアウトの他に、2階のレストランフロアで様々なメニューを楽しむことができます。もちろん豚まんも注文できるので、さっそく作りたてを食べてみました。
これが、551の豚まんと焼売。う、美しい……。
アツアツの豚まんをほおばると……
ファ~~おいしい~!
口の中がエクスタシーで満たされます!
これや……、これやがな……。
生地、豚肉、玉ねぎが三位一体となり、口の中には幸せのメロディが鳴り響きます。もちろんキダ・タロー先生の作曲です。
これを食べれば、誰でも穏やかな気持ちになれます。戦争だってなくなるでしょう。
生地の新鮮さと手作りにこだわるから、この味になる
そんなナニワのソウルフード「551HORAIの豚まん」ですが、なぜ大阪の地でここまで愛される存在になったのでしょうか? その秘密について聞いてみました!
左から551HORAI 広報部 橋詰さん、八田さん
「今日はよろしくお願いします!」
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます! では、まずは厨房をご案内しますね。さあ、こちらへどうぞ」
「おお、いつも外から見えてた厨房だ!」
「ここでは、工場から運ばれた生地を豚まんの大きさに切り分けて発酵させ、餡を入れて蒸すという作業をしています」
「本店では1日に何個くらい作るのですか?」
「平均すると3500個くらいですね」
「さすが本店、結構な数ですね!……あれ、みなさん一つずつ手で包んでいますね」
「はい、551の豚まんはすべて手作業で包んでいます」
「えぇー、これだけの数を全て手作業で!? なんで機械を使わないんですか?」
「生地の一番良い発酵状態を見極めて包むのは、人の手がベストなんです」
「人の手に勝るものなし、と!」
「こちらが豚まんの生地です」
「おお、これがあのフカフカさの源ですね!餡と同様、なにかこだわりがあるのでしょうか?」
「やはり新鮮さですね。工場で作られた生地は、できあがってすぐ551の全60店舗それぞれに、基本は一日4便、最低でも2便は配送されます」
「一度に全て運んだほうが効率がよい気もしますが、なぜ便を分ける必要が……?」
「生地は工場で作られた後、どんどん発酵が進んでしまうんです。弊社が関西にしか出店していないのは、工場から150分以内で配送できる場所じゃないとおいしい豚まんを作れないからなんです」
「なるほど、時間との戦いなんですね……!」
「次は生地の中に餡を入れる作業ですね」
「この餡はどういった材料からできているのでしょうか?」
「主となるのは豚肉と玉ねぎです。こだわりとしては、工場で加工する工程において、冷凍された豚肉をミンチではなくサイコロ状にカットすることですね。こうすることで、味や食感を出すことができます」
「餡のジューシーな食感にはそういう工夫があったんですね」
「餡には、豚まんに合った上質な豚肉を合挽きしたものを使用しており、玉ねぎはミネラルが多くて肉厚な淡路島産のものを中心に使ってます」
「へ〜! 質のよい豚肉と玉ねぎを使ってるからこそ、柔らかくて甘みのある味や食感が保たれていると」
「それではさっそく餡を包んでいきましょう!」
シュッシュッシュ
……ッス
「すごい、あっという間に餡が生地に包まれた!! とてもスムーズに見えましたが、ここまで早くなるのにはどれくらいの修行が必要なんでしょうか?」
「包むこと自体は練習すれば数ヶ月でできますが、美しくそして素早く作れるようになるには、1〜2年かそれ以上はかかりますね。ゆっくり作業していると手の温度で生地の発酵が進み、味も変わってしまいます。長年やってる人でも、良い豚まんを作れるように常に研究しています」
「ここでもスピードが大事なんですね。完全に職人の世界だ……」
「こうして並べられると芸術品のように美しい……。でも、手作業だけあって、一つ一つ微妙に形が違うんですね」
「はい。私たちは豚まん一つ一つの形や見た目が違うことを『顔がある』と言っています」
「か、顔??」
「綺麗に包まれた豚まんを見ると『この子、美人やなぁ』って思いますね」
「豚まんに美人という概念があるとは! ちなみにこの中で美人なのはどの子ですか?」
「うーん、どれも美人ですがこの子は特に美人ですね。ヒダの揃い方が綺麗でかわいいです」
「(全部一緒に見えるけどなぁ)なるほど……。ちなみに上のヒダの本数に決まりはあるんですか?」
「ヒダの本数は12本か13本がベストです。これが最も美しいバランスだと思います」
「豚まんの形にも黄金比があるんですね、奥深いなぁ」
「最後に包み終わった豚まんたちをせいろで20分ほど蒸します!」
「おお、おいしそうな煙があちらこちらから吹き出てますね。あれ、八田さん?何してるんですか?」
「私、この匂いが大好きなんですよ~!(クンクン)」
ファ~~いい匂い~!
「ええ、そんなに!? 毎日嗅げるじゃないですか!」
「BUBBLE-Bさんも味わってみてくださいよ!」
「またまたそんな、大げさでしょ~?(クンクンクン)」
「うわーーーーー!めちゃくちゃいい匂い~~!!」
「でしょう!?」
「この匂い、ブラウザ画面から読者にも伝わって欲しい……」
東京でも大人気!美味しく食べる秘訣とは
「551の豚まんは基本的に関西でしか買えないので、東京の物産展に出店された時は、毎回お店の前に大行列ができますよね」
東急東横店で開催された物産展に出店する551 (2019年10月頃撮影)
「そうですね。百貨店が開店してから閉店するまで営業時間中ずっと人が絶えることなく、多くのお客様がいらっしゃいます。物産展の期間中に何度もお越しになるお客様を見ると、愛されてるなぁと感じますね」
「そういえばさっき、生地の品質管理上、関西圏以外には出店できないと仰っていましたよね。東京で販売している豚まんは、チルド製品ということでしょうか?」
「いえ、関西の常設店舗と同じできたての味にこだわっています。実は催事専門の部隊がいまして、現地に小さな生産設備を持ち込むことで、できたてを販売できるんです!」
「どこでも本場と変わらない味を楽しむために、そんな部隊が! ちなみに、持ち帰った豚まんはどうやって食べるのがオススメですか?」
「一番は蒸してもらうのが良いんですが、恐らく電子レンジで温める方が多いと思います。その場合はレンジ対応のせいろに入れて温めるのがよいですね。水分をたっぷり与えながら温めるので、味が全然違いますよ!」
「これは重要情報ですね! 皆さん、豚まんを温める時はレンジ対応のせいろに入れて温めるのを忘れずに!」
半世紀以上、大阪人に愛され続けている味
「いやー、昔から大好きな551の豚まんが作られる行程を見れて大満足でした。でも、滋賀出身の僕が子供の頃から知ってるくらいですから、発祥元である大阪での歴史は相当長いのはないでしょうか?」
「そうですね。弊社の創業は第二次世界大戦が終わってすぐの1945年、台湾出身の羅 邦強(ら ほうきょう)が創業した『蓬莱食堂』が始まりです。今でこそ551といえば『豚まん』ですが、創業当時の人気メニューは『カレーライス』だったんですよ」
▲創業当時の蓬莱。場所は現在と同じ (551HORAI提供)
「カレーライス! 今の551からは想像できないです。なぜそこから豚まんを?」
「創業者はお店の仕入れで神戸にある中華街の南京町(なんきんまち)に通っていました。そしてある時、故郷の台湾でも食べていた豚饅頭(ぶたまんとう)を偶然目にし、大阪人の口に合うようにアレンジしたのが始まりです」
「具体的にはどのようなアレンジだったのですか?」
「大阪でも入手しやすい豚肉と玉ねぎで作れるようにし、味付けも中華っぽい香辛料は使わず、日本人の舌に合うようなシンプルなものにしました。さらに、戦後間もない頃でも手軽にお腹いっぱいになれるよう、少し大きめにしたのです」
「なるほど!あのボリューミーな大きさには、お腹の空いた大阪人を満たしたいという店主の優しさが込められていたんですね……」
1つでお腹いっぱいになるサイズ
「あの、一つ気になっていたのですが、なぜ関東と関西で肉まんと豚まんと呼び名が違うのでしょうか?」
「滋賀出身のBUBBLE-Bさんならご存知かと思うのですが、関西で『肉』といえば牛肉のことを言いますよね。その理由には、東西における家畜の歴史が関係していたそうです」
「へぇ、理由は初耳です!」
「農耕に家畜が使われた頃、関東では気温が低い中でも素早く作業できる「馬」が、逆に比較的暖かい関西では力のある『牛』が活躍しました。その後、食肉文化が普及し、関西の牛は農用から食用へと変わっていったそうです」
「ふむふむ……」
「その後の江戸末期、ペリーの来航により横浜が開港し、主に外国人向けの食事として、たくさんの牛肉が神戸から関東に運ばれました。でも日清・日露戦争が始まったことで関東で牛肉を入手することが困難になり、その代わりに生育の早い豚肉が広く普及していったそうです」
「1900年前後、関東からポークカツレツやカツ丼が生まれたのも、そういった背景が関係してそうですね」
「でも関西では相変わらず牛肉文化が一般的だったため、関西で肉といえば牛肉という考えが定着してきました。そのため、豚肉で作っていることを強調するために、あえて「豚まん」という名前を付けたそうです」
「なるほど! 牛肉文化の関西ならではのネーミングだったのですね」
豚まんを買い求める人で人気になった蓬莱食堂 (551HORAI提供)
「ついでにもう一つ聞いてもいいですか?『551HORAI』の『551』という数字には、なにか意味があるのでしょうか?」
「『蓬莱食堂』を創業した羅 邦強には当時2人の仲間がいました。その後それぞれが『蓬莱』の名前を継いで独立することになった際、もっと覚えやすい名前にしたいと、当時のお店の電話番号の下3桁の『551』をとったのが始まりです」
「『551』は、まさかの電話番号でしたか!」
「当時、羅 邦強が吸っていたタバコの銘柄が『555』だったこともヒントになっているそうです。後付けですがこの数字に、電話番号の上に覚えやすいように書いていた『味もサービスも、こ(5)こ(5)がいち(1)ばんを目指そう!』という思いを込めて付けました」
「ものすごくよくできた後付けだ!」
「いまだに本社といくつかの店舗は電話番号の下4桁を『0551』にしているんです。この番号のおかげで覚えやすくなってると思いますね」
「関西で『豚まんといえば?』と聞いたら、きっと誰しもが『551』って答えるほど浸透してると感じます。老若男女広い世代に、まんべんなく愛されてますよね」
「そうですね。ご年配のお客様の中には『孫のところに持って行ったら喜ぶからね』と仰る方もいらっしゃいます。子供だけではなくお孫さんって3代にわたって愛されてるんだ、と思うと嬉しくなりますね」
「私も子供の頃から、おばあちゃんやお母さんがよく買ってくれてました。今では私が姪っ子に買ってあげてるから、もう4代にわたってますね(笑)」
「創業75年は半端ないですね!ちなみに八田さんはどういった経緯で551で働くことになったのでしょうか?」
「私は就活をし始めた頃から、ぼんやりと大阪で働くことを考えていました。それで『働くんやったら大阪で名前が通ってて誇れるとこがええな』と思った時、真っ先に思い浮かんだのが『551HORAI』でした(笑)ものすごく軽い気持ちでこの会社に飛び込んだんです」
子供の頃から551の豚まんを食べ、やがて就職した八田さんの551愛は本物だ
「フカフカな豚まんの食感くらい軽いフットワーク!」
「入社してから『こんなに大阪のソウルフードとして認知されてるんや』と、改めて驚きましたね」
コロナ禍で起こった珍事「通販開始騒動」
「そういえば、去年の4月頃、551がネットで一時期話題になっているのを見かけました。これは……『通販開始騒動』とでも言ったらよいのでしょうか」
「そうですね(笑)2020年はコロナ禍の影響もあり、弊社も売上げが落ちてしまいました。でも4月のある日、突然オンラインストアのサーバーがダウンするほどの注文が殺到したんです」
「いったい、何が起きたんですか?」
「どうやらネット上で『551がついに通販を始めたぞ』『551が通販とは異常事態だ』というツイートが話題となり、それを見たお客様がこぞって注文していたことがわかりました」
「でもネット通販は以前からありましたよね?」
「はい、10年以上前からすでに進出していますので、コロナ禍の影響で始めたわけではありません」
「とすると、ネット上のうわさを信じた人たちが大勢いたと。注文が殺到した後はどういった状況になったのですか」
「当時は工場も密を避けるために二交代制にして生産能力を落としていたので、膨大な注文数に対応するのは大変でした。お客様には少しお待ちいただくことにはなりました」
突然の注文殺到の中、人員を減らしつつもみんなで豚まんを作って対応した
「うわさから広がったとはいえ、売れ行きが下がっていた当時の状況的を考えると、ありがたかったのではないでしょうか?」
「そうですね、嬉しい悲鳴でした。ただ、ご注文をお待たせしている状況が解消されるまで1ヶ月半もかかってしまったため、お客様には本当に申し訳ない気持ちもありました。でもきっと大阪の繁華街や、関空や伊丹空港などが閑散としている様子が報道されてましたから、全国のファンの方々が助けてくれたんだと思います」
「みんなの551に対する愛を感じて泣きそうになる話ですね……!」
しばしのお別れ、戎橋本店
「それにしても75年、この土地でずっと商売をしてきたのはすごいですね」
「ずっとご贔屓いただき、ありがたい限りです。この75年で大阪の街はずいぶん変わりましたが、本店の場所と豚まんの味は、創業当時から変わっていません」
「古き良き大阪を伝えるランドマークとして、551の本店がここにあるのはとても嬉しく思います」
「でも実はこの本店、この1月から改装工事に入るのでしばし休業させていただくんです。ですから、この外観ももうすぐ見納めです」
「えっ、そうなんですか!? となると今回の取材が、この外観時代最後のものになったということですね」
「そうですね。本店は全店舗の象徴のような場所なので、この古き良きイメージは残しつつ綺麗にして、また創業の地へ戻ってきます。ぜひご期待下さい!」
「リニューアル後の551が楽しみです。今日はありがとうございました!」
取材を終えて
長年にわたって大阪で愛され続ける、551の豚まん。
シビアな舌を持つ大阪人を納得させ続けてきたその歴史は、徹底的に鮮度と手作りにこだわってきた歴史でもありました。お腹いっぱいになれるサイズやフカフカの生地は、大阪という街の優しさを感じさせてくれます。
そして、厨房で聞こえたスタッフさん達同士の何気ない会話にも、絶えずどこかに笑いのエッセンスがあり、ずっと聞いていたいくらいでした。
551の豚まんには、餡とともにそんな大阪の〝空気〟まで包まれているのかもしれません。だから地元を離れた人でも、ときどき551の豚まんを食べたくなるのでしょう。
いつも人々のそばにあって、ちょっとした幸せを運んでくれるソウルフード。
その神髄に少し触れることができました。