こんにちは、ライターの大坪ケムタです。
もうすぐお正月ですが、みなさん初詣って行ってますか? 僕は一応毎年 神社に行くようにしています。なぜ「一応」かというと、時には1月半ばに行ったりするからです。
三が日じゃなくても初詣としてカウントされるのか……?
初詣って正月の習慣として根付いてる割に、知らないことだらけですよね。他にも―
・初詣はいつからある習慣なの?
・電車に乗って大きな神社に行けばいいの? 地元の神社に行ったほうがいいの?
・そもそも神社に行くのが正解なの?(寺じゃないの?)
我々は初詣や神社について知らなすぎる!
というわけで今回は―
宗教史の専門家である渋谷申博さんにお話を伺うことにしました。
登場人物
渋谷申博さん|日本宗教史研究家
『一生に一度は参拝したい全国の神社めぐり』など神社・神道にまつわる著作をはじめ、『モンスターストライクで覚える日本の神々』の監修なども行う。
大坪ケムタ|WEBライター
初詣の屋台では必ずチョコバナナを食べる
眠れなくなるほど面白い 図解 神道 モンスターストライクで覚える日本の神々
※初詣に行く場合は、くれぐれもコロナ対策を忘れずに! マスクを着用し、密を避けて参拝しましょう(後述しますが「初詣」の期間はかなり長いので、三が日に集中する必要はありません)
初詣の歴史と作法
「めちゃめちゃ基本的な話から伺いたいんですが、そもそも初詣っていつ頃からやるようになったんでしょうか。江戸? 鎌倉? もっと昔?」
「実は初詣というのは明治以降に成立した習俗で、鉄道会社が正月に客を増やすために考案したものなんです」
「ええー! バレンタインデーとかと同じパターン!?」
「平山昇先生が書いた『鉄道が変えた社寺参詣』という本があるんですが、もともと川崎大師への参詣を勧める広告が『初詣』の早い例で、成田山でも早くからそうした宣伝がされていたようです」
「企業主導のイベントだったのか……。そう言われれば落語でも時代劇でも、初詣の話ってあまり見ない気が……」
「昔からお正月に参拝する人はいましたが、”初詣”という言葉はそうした鉄道会社の広告に由来していますね」
「基本的に正月はお正月様を家に迎えて祀る日なので、家で慎むというのが本来の過ごし方です。門松・鏡餅はそうした神様を迎えるための祭具なんですよ」
※お正月様=元旦に新年の幸せをもたらすため、高い山から降りてくる神様のこと。他に年神様、歳徳神(としとくじん)とも呼ばれる
「鉄道会社のせいで日本のお正月にすごい変化があったわけですね。でも正月の乗客を増やすなら『親戚の家に行きましょう!』とか、何でも良いわけですよね? 『参拝に行こう』にしたってことは、何かルーツになるものがあったのでは?」
「江戸時代には正月に恵方(その年の縁起が良い方角)の神社を詣でる“恵方詣り”というものがありました。また、“大晦日に年神を迎えにいく”という儀礼もあったりしたんです……が、どちらもあまり一般的ではないでしょうね」
「じゃあ、ほんとに“作られた”習慣で、何の意味もないのか……」
「現在の神社では、初詣の意義を『一年間無事に過ごせたことを神様に感謝し、新しい年のご加護を祈るもの』としています」
「……でも鉄道の宣伝なんですよね?」
「はい。つまり今言った説明は後付けなんですけど、宗教は信じることによって真実になります。信じて感謝の気持ちで参拝し、心が清々しくなれば、新しい習俗であっても古代からの習俗と同等以上の価値があるといえます」
「なるほど、そもそも古いから良い・新しいからダメってものじゃないですもんね! ちなみに他にも、実はけっこう最近に生まれた儀礼とかありますか?」
「二拝二拍手一拝(二礼二拍手一礼)の参拝作法は、戦後に普及されたものです」
「えぇ~!? 戦後って75年前じゃん! 初詣の歴史よりさらに浅いんだ。それまではどうしてたんですか?」
「昔は正式な作法というのは無くて、近世までは両段再拝(二拝を二度に分けて行なう)が普及していました。明治以降はこれに二拍手が加わり、戦後、二拝二拍手一拝が正式な作法として全国に普及されたようです」
※昭和23年(1948年)、神社本庁が示した神社祭式行事作法に「二拝二拍手一拝」と記されている
ちなみに現在の基本的な作法は、
1.賽銭を入れる
2.鈴を鳴らす(混んでる時は無理に鳴らさなくてOK)
3.二礼二拍手=2回頭を下げ、拍手(柏手=かしわで)を2回打つ
└出雲大社・彌彦神社など神社によっては四拍手のところもあります
4.願い事がある場合はここで(心の中で)唱える
5.最後に一礼して終了
です。これは普段の参拝も初詣も同じ。
「初詣は感謝をするものであって、願い事をするのはよくないのかなって心配してましたが、大丈夫なんですね。願い事に作法ってありますか? 心の中で名前と住所を唱えてからじゃなきゃダメという説を聞いたことがありますが」
「住所氏名を念じる必要があるという人もいますが、私は必要ないと思います。神様ならつべこべ申し上げなくとも、すべて見通せるはずですから」
「なるほど。初詣は混んでることが多くて、いざ自分の番になって二礼二拍手一礼しようとすると、緊張で手順を間違えてしまいそうです。もし間違えてしまった場合、祟りがあったりしますか?」
「ははは(笑)いえ、最低限の作法は大事ですが、うまくいかなかったとしても気にすることはありません。大事なのは敬神の気持ちがあるかどうか。形より心ですよ」
「それを聞いて安心しました。初詣には毎年行っているのに、知らないことだらけですね……」
「毎年行っているというのは良いことですね。ちなみに、何時頃に行っていますか?」
「え? 特に決めてませんが……大晦日の夜から行って、年越しの瞬間を神社で迎えたりするのがよくある光景では?」
「なるほど、それは初詣の中でも“二年参り”と呼ばれるものですね(年をまたいで参拝するため)。ただ、大晦日・元日は特別なので構いませんが、基本的に神社は夜に参拝するものではないというのは覚えておいた方がいいでしょう」
「そうなんだ……いつ頃がベストなんですか?」
「日の出から夕方までに参るのが基本です。神社は神様の住まいですから。ほら、人間の家に訪問する時だって、あまり夜分だと非常識でしょ?」
「時間は朝から夕方までと。期間はどうでしょうか? 何月何日以降は初詣としてカウントされない、みたいな目安はありますか?」
「期間は旧暦の小正月(15日)までが一般的です。しかし、今年は新型コロナ対応のため1月いっぱいが初詣期間となってますね。というわけで今年の初詣は、マスクをして、密を避けた日時を選びましょう」
明治神宮(東京都渋谷区)に行ったら、もともとの手水する場所(手水舎)が閉鎖されていて……
竹から水が随時流れる非接触型の手水になってました。こんなところにもコロナ対策。
「お賽銭はいくらぐらいが妥当なんでしょうか? 100円とかだとダメですか?」
「同じ100円でも、大富豪と明日の食事にも困る人では価値がまったく違うので、いくらがいいと言うのは無意味です。どれだけ心を込めて奉納するかが大事。見栄で投じた1万円は、心からの感謝を込めた100円に劣ります」
「無理に大枚はたかなくても、身の丈に合った額を入れておけばいいと」
「そうですね、とはいえ、大坪さんのようにちゃんと働いてる人が1円や5円しか入れられませんというのは、身の丈に合ってるとは言えませんよね? 自分が感じている感謝に見合う額というのは考えたほうが良いでしょう」
「うぐぐ……考えます! 作法と言えば服装はどうでしょう? 初詣や参拝の服装に決まりはありますか? 外国の宗教だと肌を見せてはダメとか細かい決まりがあったりしますが」
「拝殿に上がって参拝する“正式参拝”では、スーツなどを着るのが本義ですが……拝殿前で立って参拝するだけ(我々一般人がよくやっている参拝)なら比較的ラフな格好でもいいです」
「ほっ……」
「ラフな格好といっても、かぶり物やサングラスなどは取ること。神様の住まいを訪ねると考えたら、半ズボンなどラフすぎる格好もおすすめできません。あとイヤホンをつけたままの参拝とか酔っての参拝は論外です」
「忘年会のあとに酔ったまま参拝に行ったらダメと。心します! 初詣といえば、その年の運勢を占う『おみくじ』を引くのも楽しみのひとつ。『うわ、凶だったからもう一回引こう!』とかはアリですか?」
「複数回引くのは、神仏のお告げを疑うことになるのでNGかもしれません。悪い内容が出た時は、それが現実にならないよう身を慎むべきで、いい卦が出るまで引いても運勢は変わらないはずです」
「悪い運勢が現実にならないように身を慎む、ですか。僕なんかで運命に太刀打ちできるとは思えない……それって神様にお願いすることはできませんか?」
「願掛けとか、悪い内容なので運勢を変えたいという場合は、境内のおみくじ結び所に結ぶのが良いですね。結ぶという行為が縁結びなどに通じるという考え方もあります。ただし、所定の場所以外に結ぶのはNGです!」
「おぉ……!」
「願掛けや悪い運勢を変えたいという必要がない場合は、おみくじは神仏からの授かり物なので、持ち帰って大切に保管してくださいね」
運を変えたい場合はちゃんと結び場に結びましょう。(写真は川口神社)
「あと神社というとお守りですけど、複数個持ってても大丈夫ですか? 違う神社のを同時に持ってると、神様同士で揉めたりしません?」
「いくつもっていてもOKです。ただし、粗末にしたり、汚れるようなことをしてはだめですよ。基本的に一年ごとに新しいものをいただき、古いものはいただいた神社でお焚き上げしてもらうのが良いでしょう」
今回のお話を聞いて、古いお守りを納めに行きました。明治神宮の古札納め所。
初詣はどこの神社に行けばいい?
「初詣って神社とお寺、どちらに行くのが正しいのでしょうか。取材前に色んなアンケート資料を調べた結果、一般的には『初詣は神社』と答える人がかなり多いみたいですが」
「初詣の発祥である鉄道会社の企画は、川崎大師(平間寺)や、成田山(新勝寺)への参拝なので、もともとは『初詣といえばお寺』だとも言えます。ただ、現在のように初詣に宗教的習俗的な意味が付属された今となっては、もうどちらが正しいとは言えませんね」
「もともとは『初詣といえばお寺』……意外~!」
「初詣は年に一度の行事ですから、少々遠くても大きい神社に行きがちだと思います。これって正解なんでしょうか? 遠くの大きな神社より、小さくても地元の神社に行った方がいい?」
「神社なら地元の氏神神社、お寺なら菩提寺に行くのが基本ではありますね。しかし、厄除けとか開運のために、霊験のあるとされる社寺をお参りすることを否定するものではないです」
「どっちでも大丈夫なんだ! 氏神神社というのは家から最も近い神社ってことで合ってますか? 『引越しをした際は近所の神社に行って氏神様にご挨拶する』みたいな風習は聞いたことがあります」
「氏神神社は、その地域や人を守っている神社のことで、担当区域みたいなものがあります。そして最も近い神社が自分が住んでる町の担当とは限らないんです。3番目に近い神社が担当だったとか、隣の区の神社が担当だった、とかもあり得ます」
「直線距離で一番近い神社が氏神神社だと思ってた」
「自分が住んでいる町の氏神神社がどこなのかは、神社庁で聞けば教えてくれますよ」
神社本庁HPより
「今年の初詣は、遠くても大きな神社に行こうかなと考えています。神社の建物とかにも興味があるので、どうせなら立派なところに行きたいんですが……神社に“格”ってあったりしますか?」
「神社には色んな格がありますよ。社号(神社の名前)では”神宮”が付いているものが最高となります。特に伊勢神宮は国土全体を守る神社であり、もっとも格式高い特別な存在です」
「三重県まで行くのはさすがに無理かな……」
社号でわかる神社の“恪”
▼~神宮
伊勢神宮・平安神宮・明治神宮など、最も格式高い社号。
▼~宮
東照宮や天満宮など、神宮に次いで高い格式。
▼~大神宮
東京大神宮のこと。伊勢神宮が遠すぎるので、近場でなんとかしたいという人への救済措置(?)。東京大神宮へ参れば伊勢神宮へ参ったのと同様の効果を生むと言われる。
▼~大社
もともとは出雲大社のこと。現在では、全国の総本宮・総本社のこと(例:住吉大社=全国の住吉と名の付く神社の代表)が多い。規模の大きな神社に与えられた称号。
▼~神社
いわゆる一般的な神社
※注:神宮や大社のような社号を使用するのは、昔は許可が必要だったり、朝廷に認められる必要があったんですが、戦後は神宮や大社を自称しても構わなくなっています
「このほかの格としては、一宮(いちのみや)があります。武蔵国とか越後国といった、むかしの国ごとに決められた“一位の格の神社”のことです」
「へぇ~、だから各地に一宮とか三宮みたいな地名があるのかな。ていうか同じ名前の神社ってけっこうありますよね? ○○氷川神社とか、○○天満宮とか。あれは何か共通点があるんですか?」
「総本宮・総本社となる神社から分霊を迎えた神社ですね。例えば全国の氷川神社は埼玉・大宮の氷川神社の分霊で、須佐之男命(すさのおのみこと)を祀っています。また、天満宮・天神社・北野神社は京都の北野天満宮もしくは福岡の太宰府天満宮の分社で、菅原道真公を祀っています」
「なるほど。伊勢神宮まで行けないから東京大神宮に行く、みたいに、他の土地でも須佐之男命や菅原道真公を参ることができるんですね」
「他には八幡宮・八幡神社は大分の宇佐神宮の分社で、御祭神は八幡大神(応神天皇)。稲荷神社は京都の伏見稲荷大社からの分霊ですね。なお、稲荷神社の中には豊川稲荷という仏教系もあります」
「今日は知らないことだらけですごく勉強になりました。ただ、どこに初詣に行くかは今までよりさらに迷ってしまいそうです」
「結局は一年の感謝を神様に捧げられるのであれば、どこでも大丈夫だと思いますよ! 大事なのは心です」
「とはいえ何か指針が欲しい……というわけで、最後に様々な神社を巡り研究してきた渋谷さんに、ここは一度見て欲しいという神社をあげてもらえないでしょうか?」
「一度は見て欲しいというと、こちらになりますかね」
▼渋谷さんおすすめ! 一度は見て欲しい神社
・宗像大社辺津宮(福岡県宗像市)
「境内の雰囲気も素晴らしいが、沖ノ島から出土した古代の祭祀遺品を展示する宝物館は必見で、ほとんどが国宝です」
・住吉大社(大阪市住吉区)
「住吉信仰の中心神社で、4棟ある国宝の社殿を間近で拝せます。境内社もユニークで一日いても飽きないですね」
・若狭姫神社(福井県小浜市)
「古代の神社を思わせる境内が素晴らしくて、これもぜひ一度見てほしいです」
「おぉ~、専門家おすすめの神社! これは参考になりますね~!」
「他にも、お参りすることでご加護やご利益があるとされる代表的な神社も挙げておきますので、参拝の参考にしてくださいね」
「ありがとうございます!」
・疫病除け
八坂神社(京都市東山区)・今宮神社(京都北区)・津島神社(愛知県津島市)、
・足腰
護王神社(京都市上京区)
・イボに効く
石切劔箭(いしきりつるぎや)神社(大阪府東大阪市)
・髪の悩み
関神社(東京都北区王子神社境内)
・美人祈願
美御前社(京都市東山区八坂神社境内)、河合神社(京都市左京区下鴨神社境内)
・縁切り
安井金比羅宮(京都市東山区)
まとめ
というわけで今回は、日本宗教史研究家・渋谷さんに、初詣と神社について、たっぷりうかがいました。
ただし、今年は初詣に行く場合、くれぐれもコロナ対策を忘れずに出かけてくださいね。
また、初詣は通常15日くらいまで(今年は1月末までのところもある)なので、密を避けられるタイミングでゆっくり参拝するのも手ですね。
ちなみにオンラインで参拝できる神社もあるんだとか……。どんな形でも、初詣は一年の感謝の気持ちがあれば大丈夫!