コポコポコポ……
グビグビグビ……
プハァーーー!うまい!!
こんにちは。ジモコロ編集長の柿次郎です。冒頭から酒飲んでてすみません。
季節はもう夏真っ盛り。この時期になると、キンキンに冷やしたグラスで飲むビールがたまらなくおいしいですよね。
「飲み会の一杯目」や「晩酌の定番」として昔から根強い人気を誇り、さまざまなメーカから販売されているビール。その中でも、僕が昔からずっと愛してやまない銘柄があるんです。それは……
「サッポロラガービール」です!
ラベルに描かれた赤い星から「赤星」という愛称で呼ばれるこのビールは、今年で生誕から144年という歴史を誇り、まさに「ビール界のレジェンド」とも呼ぶべき存在。
そんな歴史もさることながら、特筆すべきはその希少性。
スーパーやコンビニではめったに買えず、都内でも扱っている飲食店はごく一部。噂では100店に1、2店しか取り扱いがないそうな……。ドラクエでいう、はぐれメタルレベル的な存在です。
それゆえ、酒場好きの間では「赤星のある店に間違いはなし」と語られるほどの逸品なんです。
ちょうど訪れていた飲み屋に赤星が置いてあったので、お店の方に話を聞いてみました。
渋谷の離れにあるとある居酒屋
「なぜこの店で赤星を取り扱うことに?」
「うーん、やっぱり僕が好きだからの一言につきますね。ここに店構えてから20年近く経ちますけど、創業時から瓶ビールはずっと赤星です」
「20年……!赤星のどこが好きですか?」
「人それぞれ好みはありますけど、コクとキレのバランスが個人的に1番好きなんですよね。あとはずっと昔から変わらないかっこよさとか。ウチでは、赤星以外は絶対に考えられないですね」
「愛がすごい」
と、マスターの話ぶりからも伝わるとおり、飲食店さんからも絶大な信頼を誇る赤星。一体なぜここまで愛されるようになったのでしょうか?
全国各地の居酒屋を飲み歩いてきた酒場好きとして、是非メーカー側の話も聞いてみたい……!
というわけで、今回はそんな赤星の人気の秘密を探りに、SAPPORO本社さんでインタビューを決行しました。
※この取材は2020年1月に行われたものです
サッポロの原点は「赤星」にあり!その歴史と製法の秘密
お話を伺ったのは、ブランディングマネージャーの齋藤 愛子さん
「今日はよろしくお願いします!いきなりで恐縮なんですが、昔三ノ輪の『丸千葉』という居酒屋で飲んだ赤星のおいしさに本当に感動しまして」
「丸千葉さん!ディープですね〜」
平日夕方に南千住の名店「丸千葉」をソロでキメる贅沢さ。働いてないおじさん感があって良い。 pic.twitter.com/ZtoUeBkyaH
— 徳谷 柿次郎 (@kakijiro) August 1, 2017
「あの一杯以来、メニューに『赤星』と書いてあると絶対に頼んでしまうくらい、赤星に惚れ込んでいるんです。去年は大阪で10本開けました」
大阪の台風飯店さいこう。赤星10本開けるやつ。 pic.twitter.com/n6xOWkbrSy
— 徳谷 柿次郎 (@kakijiro) August 5, 2019
「ありがとうございます!『赤星』はサッポロのルーツともいえるブランドなので、そう言っていただけるのはとても嬉しいです」
「赤星がサッポロのルーツ?どういうことですか?」
「サッポロビールの前身である『開拓使麦酒醸造所』は、明治初期、政府の開拓使によって開業されました。実はその翌年に発売したビールが『赤星』なんです」
「え!サッポロが一番最初に販売したビールってことですか!?」
「そうなんです。当時は『札幌ビール』という名称で呼ばれていて、ラベルには北海道の開拓使がシンボルとしていた『五稜星』と呼ばれる赤い星がデザインされました」
1877年に発売された当時のラベル
「なるほど!だから『赤星』なんですね」
「そして、開業から約10年が経った1888年、赤星はドイツ人技術者の指導のもとに『熱処理』という製法を取り入れ、アップデートしました」
「熱処理ってビールを加熱するってことですか? なんのために?」
「ビールは簡単にいうと、酵母が発酵することによってできる飲み物なので、そのまま出荷してしまうと、瓶の中で発酵が進んで味が変わってしまうんです」
「なるほど!だから熱を加えて酵母を殺菌していると」
「はい!当時ビールの販路を拡大したいと思っていたメーカーは、この熱処理製法を取り入れることで保存期間をぐんと向上させ、長距離の輸送を実現しました」
「へ〜!それでビールがより身近な存在になったんですね」
「今でこそ生ビールがメジャーですが、当時はこの熱処理ビールが広く一般的に親しまれていたものだったんですよ」
「あれ?ということは、熱処理ビールと生ビールは別物ってことですか?」
「生ビールは『非熱処理』ビールといって、熱処理を行わず、フィルターに濾過して酵母を取り除いてただけのものを指しているんです」
「へ〜!今までサーバーから注いだものが『生』だと思っていました」
「黒ラベル」の愛称で知られる「サッポロ生ビール」は非熱処理ビール
「『とりあえず生』って言われて出てくるイメージが強いんでしょうね、実は容器に関わらず、熱処理していないものはみんな『生ビール』なんですよ」
「知らなかった……」
「そこから時代が進むにつれて濾過技術も進化し、熱処理ビールはコストと手間の掛かる製法ということで、次第に生ビールの製造に注力するメーカーが増えていきました」
「生ビール時代の訪れですね」
「そんな中でも赤星は、現存する日本最古のビールブランドとして、ずっと当時の製法を守りながら受け継がれてきたんです」
「日本最古!赤星にはこんなにぶ厚い歴史があったんですね……、まさにレジェンド」
「とまぁ、いろいろとお伝えしてきましたけど、ビールってそんなに頭でっかちで飲むものではないので、あくまで酒場の雑学レベルで留めていただければと」
Don’t Think.Just Feel(考えるな、感じろ)です
赤星のうまさを作り出すブランディングの秘密
「これだけ歴史があるなら、もっと全面的に押し出しても良い気がしますけど……。あまりお店で見かけないのには、なにか理由があるんでしょうか?」
「実はそれはブランドの方針として、意図的に私がそうしてるんです」
「え!斎藤さんが?どういうことですか?」
「やっぱり赤星のような歴史のある商品は、ファンの人に語ってもらうことで広がってほしいというか、メーカーから一方的に『買ってね』みたいな広告を出しても、昔からファンでいてくれる人って興ざめしてしまうと思うんですよね」
「インディーズ時代から応援してたバンドが、メジャーになった途端いきなり露出が増えまくって寂しくなる気持ちに似てますね」
「そうかもしれません(笑)だから赤星は、良い意味でメジャーすぎない魅力というか、『知る人ぞ知るビール』という見え方を大事にしているんです」
「なるほど、硬派だなぁ。じゃあ広告も一切ナシで?」
「唯一自社で取り組んでいる赤星探偵団というwebコンテンツはあるんですけど、これも商品の広告というより、扱ってくださっているお店さんも含めて知ってもらいたい、という気持ちのほうが強くて」
全国の赤星を置いている名店をまとめたサイト
「へー!おもしろい。たしかに赤星ってあまり見かけないからこそ、探究心をかきたてられますね。ワンピースっぽいというか」
「宝探し感があるっていうのはよく言われます」
「それにしてもこのサイト、ラインナップがめちゃめちゃ秀逸ですね……。趣のあるお店ばかりじゃないですか!」
「それもやっぱり赤星がブランドの世界観をずっと守り続けてきたからだと思うんですよね」
「と言いますと?」
「赤星って、生ビールは他社さんのものを扱っていても、『大人の事情は置いておいて、昔から自分が好きだから』という理由で、瓶だけは赤星を指名してくれる方も多いんです」
「酒場のいい話〜〜〜!『赤星のある店に間違いはなし』と言われるのも、そういったこだわりを持った店が多いからなんでしょうね」
「あと、赤星のあるお店って友達に教えたくなりませんか?」
「めっちゃ分かります。お店選びに人のセンスは出ますからね。赤星があるお店に行くだけで『わかってる感』出せるというか……」
「(笑)。お酒って、お店の空気感や、その場に一緒にいる人とかも含めて楽しむものだと思うんです。そういう意味では、赤星が『よい雰囲気』を引き出すきっかけになることもあるのかもなって」
「なるほど!お店がこだわり抜いたおつまみや空間。そして、そこで一緒に過ごす気の知れた友人。そのトータルの象徴として、赤星があると……」
「だったら嬉しいですね」
「そしてこの謙虚さ!」
「その点でいうと、うちには『相談するならサッポロビール』という言葉を掲げて、内装や不動産といった空間創りからサポートする部署もあるんですよ。細かいところだと、従業員教育や食器まで提案しますからね」
「ええー!すごすぎる。ビールを卸すだけじゃなくて、お店全体のコンサルまでしているんですね」
「先ほども言ったとおり、やっぱりそこまで含めてのお酒を提供する価値だと思いますし、お店が長くご繁盛していただけば、結果としてうちの利益にも繋がることになりますからね」
「なるほど。そうすることで、お互いにWIN-WINの関係でいられるんですね」
若者のビール離れと赤星
「とはいえ、昨今は、色々なところで『若者のビール離れ』が叫ばれていますよね。失礼な質問かもしれないんですが、実際の売上的には大丈夫なんでしょうか……?」
「赤星に関して言えば、酒場ブームの追い風もあって、売上が前年比110%を超えていて、取り扱い店舗に関してもここ5年間で1.4倍くらいに広がってますね」
赤星の販売函数推移(※2011年を1とした場合)
「超右肩上がり!」
「とはいえ、市場全体で言えばビールはシュリンクしているのは事実です。ただ私が感じる限り、今の状況は、若者がビールを飲まなくなったというよりも、ビール以外の選択肢が増えただけなのかなとも思うんです」
「たしかに今はチューハイやハイボールも人気ですよね」
「コンビニにいけば、毎週いろいろなバリュエーションの新商品が出ていますし、ビール以外のものを飲みたくなる気持ちも正直わかるというか」
「なるほど。その上でサッポロビールさんは今後のマーケットをどのように見据えているんでしょうか?」
「飲食に限らず、これだけ多様性が求められる社会においては、既存の商品の歴史やブランディングを大切にしつつ、一方ではいろいろな価値を提供していくことも必要だと思っています」
「会社全体でその両輪を柔軟に対応していくと」
「そうですね。じゃないとやっぱりただのエゴになっちゃうような気がしていて」
「エゴ?」
「お酒って端的に言えば『その人の生活を、より楽しく豊かにするもの』じゃないですか。そこを無視してこだわり続けてもあまり意味はないのかなって思うんです」
「謙虚だけど本気(マジ)だなぁ……。でも、これだけ歴史のあるブランドを担当する上で、プレッシャーとか感じませんか?」
「正直言うと、歴代何人が繋いできたブランドなんだろうって考えると、そういう気持ちを感じることはありますね」
「ですよね……」
「でも、赤星は根強いファンの人達の支えがあってこそ受け継がれてきたブランドですし、どんな形であれ、ファンの人たちを裏切るようなことだけはしたくないんです」
「めちゃめちゃアツいファン愛ですね。今回色々お話を聞けて、改めて赤星のファンでいてよかったなと思いました。もう今すぐでも飲みたいです!」
「ありがとうございます(笑)くれぐれも飲み過ぎには気をつけて下さいね!」
おわりに
終始、齋藤さんのアツい想いを感じる取材はあっという間に終わり、会議室を出ることには熱気で窓が真っ白に。
酒場好きが愛してやまない「赤星」。その人気の背景には、長い歴史が培ってきたファンの想いと、それに応えるべくブレずに受け継がれ続けてきたブランドの姿勢がありました。
どれだけ時代が流れても常に変わらずにいる存在だからこそ、今でも赤星は、多くの酒場好きの「心の一等星」として、輝き続けているのかもしれません。
構成:日向コイケ
写真:荻原楽太郎