ひょい。
はむ。
ん〜〜〜〜〜〜〜ま!!!!!
「すごい。何も言わなくても伝わってきたわ。顔がすべてを物語ってた」
「最高です。マジで美味しい、函太郎のお寿司」
北海道函館市出身の編集・きむらいりと、同じく函館市出身のライター・阿部光平がお届けします
冒頭から美味しいお寿司を食べながら失礼します。
今日は僕の出身地である北海道函館市に来ています。同行してくれたのは同じ函館市出身の編集者・きむらいりさんと、ジモコロ編集長の徳谷柿次郎さんです。
僕たちが今食べているのは、北海道・函館市にある『グルメ回転寿司 函太郎』のお寿司。
「函太郎」は1998年にオープンして以降、新鮮で大振りなネタと職人たちの確かな技術によって、瞬く間に人気繁盛店となったお店です。
最近では函館だけではなく、東北に8店舗、東京駅や大阪グランフロントなど、各地で函太郎の味をたのしむことができるようになりました。我々地元民からすると「全国に誇れる地元の味」と言っても過言ではありません。
「俺は地方取材が多いんだけど、ローカルの回転寿司店にもよく行くんだよね。そのなかでも、函太郎って別格だと思ってて」
「わかります。帰省したら必ず来てますもん」
「俺も、いつだって『函太郎だけは、絶対に!』という強い気持ちで帰ってきてる。きっと、そういう人かなり多いんじゃない? お盆とか正月とかの帰省シーズンになると、満席で入れなかったりするじゃん」
「ですよね〜。友達が函館に行くっていうときも、必ず函太郎をオススメしますね。『せっかく北海道に行くんだから、回転寿司じゃなくて、もっといいお店ないの?』とか言われることもあるんですけど、最終的にはみんなめちゃくちゃ満足してくれます」
窓越しに津軽海峡を見渡せる函太郎・宇賀浦本店にお邪魔しました
「おーい。地元トークで盛り上がっているところ悪いんだけど……、ふたりとも地元補正かかってるんじゃないですか?」
「いやいや、マジで美味しいんですって。ちょっと食べてみてください」
「そんなに……? どれどれ」
では、失礼して……
くぅぅ〜〜〜〜〜!!!!!!!
「参りました」
「ですよね!」
「僕はジモコロ取材にかこつけて全国各地で美味しいものを食べてきた自負があります。だけど、これは東京で高い金を出しても食べられない味ですね。何が違うのかな」
「新鮮で美味しいのはもちろんのこと、ふとしたときに無性に食べたくなる“忘れ難さ”があると思うんですよ」
「俺は地元にいる頃からずっと食べてるけど、会社のことはほぼ何も知らないですね。お店の方に話を伺ってみましょう!」
【話を聞いた人】
若井博さん
函太郎を経営する株式会社HK-Rの営業部・管理部部長。複数の回転寿司チェーンで仕事をしてきた経験を持つ。函太郎で一番好きな寿司ネタは、店舗で炊いたかんぴょうに山わさびを合わせた『大人のかんぴょう巻き』。
國分晋吾さん
函太郎を経営する株式会社HK-Rの管理部マネージャー。旅行で来た函館で函太郎の寿司を食べ、移住を決意したというツワモノ。移住を決意させた一皿は噴火湾産の『ホタテ』。
※この取材は2020年2月に行われたものです
食べた人に移住を決意させるほどうまい寿司
「はじめましてですが、いつもお世話になっております。今日はよろしくお願いします!」
「では、まずは乾杯から……!」
「かんぱ〜い」
「乾杯から始まる取材は初めてです(笑)。お二人とも函館のご出身なんですね?」
「はい。実家に住んでいた頃から、家族で外食といえば函太郎でした!」
「それは嬉しいなぁ(笑)。ありがとうございます」
「若井さんと國分さんも、ご出身は函館なんですか?」
「いえ、私は新潟の出身で、もともとは関東を中心にした別の回転寿司チェーンで働いていました。函館に来たのは、10年ほど前ですね」
「僕の出身は埼玉です。ちょっと冗談みたいな話なんですけど、函太郎の寿司がきっかけで函館に移住してきたんですよ」
もしかして、真顔で冗談を言うタイプ……?
「え!? どういうことですか?」
「新卒で社会人をやっていた頃に、たまたま旅行で函館に来たんです。そこで初めて食べた函太郎の寿司が、もう衝撃的だったんですよ。『なんだ、これ……?』と思って。で、それがきっかけで函館のことが好きになって、移住してきました」
「寿司が決め手で移住したって人、初めて会いました(笑)」
目がガチすぎておもわず笑ってしまった
「もともと僕は人材育成や研修講師を事業とする会社にいたので、函館でも最初はそういう仕事に就きました。そこで働く中で、函太郎とも関わるようになったんです」
「なるほど。じゃあ最初は別の会社の人として、函太郎と仕事をするようになったと」
「そうです。だけど、仕事で関わるようになってから、ますます素晴らしい会社だなと思うようになって。前の仕事の役割がひと段落したところで、函太郎の社長から声をかけてもらって転職したんです」
「そのときに『函太郎は素晴らしい会社だな』と思ったのは、どんなところだったんですか?」
「寿司がうまいところですね」
「(笑)」
「いや、本当に。『寿司がうまい』っていうのは、ただの現象なんですけど、そこにはちゃんと哲学と理屈があるんですよ。 そういう部分を目の当たりにしたときに『あ〜、なるほど。だから、美味しい寿司が出せるんだ』と思ったんです」
「哲学と理屈ですか」
「そうです。函太郎は、回転寿司チェーンとしては相当変わった会社だと思いますね」
「それは会社の仕組みがってことですか?」
「いや、風土ですね。とにかく仕事に妥協がないんです。仕込みとか見てるとひきますよ(笑)。『こんな面倒くさいことまでやってるんだ』って」
「うちは『グルメ回転寿司』を名乗っているので、たとえ効率が非常に悪いとしても、『こっちのほうが美味しい』と思えることはすべてやるようにしています。
他社が100円でお寿司を出している状況の中で、その土俵に上がるのではなく、非効率的でも美味しいお寿司を食べてもらうことを目標にしているんです」
「だから、昨今の『働き方改革』とは逆行してるんですよ(笑)。もちろん労働時間は短くしてますけど、効率化を目指すのではなく、手間暇がかかっても美味しい寿司を提供するってことを徹底的にやっています」
「他社が避けるようなことをやることによって、自分たちのポジションを築いているんですね」
「そのあたりの話、面白そう。詳しく聞かせてください!」
美味しい寿司のためなら、プライベートブランドのマグロまで生産する
その日のオススメには、北海道内の魚を中心に鮮度抜群のネタが並ぶ
「『手間暇がかかっても美味しいお寿司を食べてもらうため』に、函太郎では具体的にどんなことをされているんですか?」
「ネタの鮮度を保つための工夫とか、シャリの温度を管理するとか、細かいことはたくさんあるんですけど、中でも時間と手間をかけているのはマグロですね」
「マグロ、大好き!」
「今までは冷凍マグロを使っていたんです。今は技術が上がっているので冷凍でも美味しいマグロは手に入るんですけど、解凍して、切り身にする作業が必要になるので、一貫の寿司として出せるまでにすごく時間がかかるんですよ」
「なるほど」
「そこでうちの総料理長が考えたのが、養殖をやっている会社と一緒にマグロの共同開発をすることだったんです」
(マグロの共同開発……?)
「つまり、養殖から水揚げ、加工、発送までを生産者の方々と一緒にやることで、函太郎のためのマグロを生産することにしたんです。言ってみたら、プライベートブランドですね」
「えー、そんなの初めて聞いた(笑)。『美味しい寿司を作るための手間』が、生産段階まで及んでいるなんて」
「これによって、函太郎では年間を通じて美味しい生マグロを仕入れられるようになり、解凍や加工などの余計な手間も省けたんです。だから、鮮度の高いマグロをすぐに握って、お客さまに提供できるんですよ」
大トロ、中トロ、赤身など、異なる部位を堪能できる『本マグロ三昧』
「こういう大掛かりなことだけではなく、うちではサバをシメたり、かんぴょうを炊いたりという調理も各店舗で行なっています。普通は、回転寿司でそこまでやらないんですよ。手間がかかりすぎますから」
「お店の運営も『効率より美味しさを優先』しているので、厳格なマニュアルがないんです」
「マニュアルがないと、現場が混乱するのでは……!?」
「厳密にいうと、マニュアルは存在します。ただ、土地によって手に入る魚や気候が違うので、そのお店で一番美味しい寿司を出すためには、マニュアルが通用しない部分があるんですよ」
「あー、そうですよね」
「サバをシメる作業ひとつとっても、土地や気候によって温度や湿度が異なるので、美味しくするためのシメ方ってマニュアル化できないんですよ」
「土地に影響される要素が多いんですね」
看板メニューのひとつ『自家製シメサバ』。国産で、脂質20%以上の魚のみを厳選
「函太郎は全国に20店舗以上あるので、チェーン店の理論でいえば、かっちりマニュアルを作って、それに従って経営するのが効率的なはずなんです。だけど函太郎ではそれをせず、『8割はルール通りにやりましょう。あとの2割はお店ごとの裁量で決めてください』という方針をとっています」
「なので、函太郎各店の店長は、経営者並みの裁量をもって仕事をしているんです。仕入れはできるわ、味は変えられるわ、レシピも作れるわという感じで。
そして、これが手前味噌ながら素晴らしいと思うんですけど、会社が各店舗の店長を信じて、仕事を任せるというスタンスなんですよね」
「こだわりと柔軟さのバランスがすごい」
「こだわりを持つことは、一方で後戻りできない怖さもありませんか?
そういうこだわりを手放してしまうと、ガッカリして離れてしまうお客さんもいるだろうし、一つでも妥協しちゃうと他も『この程度でいいや』ってなりかねないじゃないですか」
「うちの場合は、総料理長が妥協を許さない職人気質で、安易に安さや効率を求めたりすると、『いやいや、うちのお客さまが求めているのは、そこじゃないでしょ?』って釘を刺すんです。それでみんなが原点に立ち返るってことはよくありますね(笑)」
「自分のことじゃないけど、背筋が伸びるなぁ。それって、仕事に対する美学ですよね」
「仕事って本来はこうあるべきだなって思うんですよね。効率とこだわりの間で考え続けるのが大事なんじゃないかなって。うちの総料理長は、それをずっとやり続けてる人なんです」
「それが先ほどお話していた、会社の風土になっているわけですね。そういう姿勢に支えられて、僕らは美味しい寿司を食べてたのかぁ。話を聞くごとに、ありがたさが増していく〜」