こんにちは、コエヌマカズユキです。皆さん、ミステリー小説は好きですか? 僕は大好きです。
特にハマったのは、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』。依頼主を一目見ただけで、職業や生活環境などをズバリ当ててしまう、魔法のような推理力に憧れました。
そんなホームズのことをもっと知りたい! ということで今回は、シャーロキアン(ホームズ愛好者)が集う『日本シャーロック・ホームズ・クラブ』主宰・東山あかねさんにお話を聞きました。
日本シャーロック・ホームズ・クラブとは?
1977年10月に設立。全国に約700名の会員がいる、世界的にもかなり大規模な親睦団体。
『シャーロック・ホームズ大事典(東京堂出版)』、『名探偵シャーロック・ホームズ事典(くもん出版)』などの制作も手掛けた。
※この記事の取材・撮影は3月3日に行いました
▼もくじ
・シャーロック・ホームズのプロフィール
・ホームズやコナン・ドイルのトリビア(雑学)
・ホームズの魅力って?
・シャーロキアンがおすすめする関連映画やアニメ、マンガなど
シャーロック・ホームズはどんな人物なのか?
これでも極々一部に過ぎませんが、貴重なコレクションが机の上にズラリ
そもそもホームズのグッズってこんなにあるんだ
ちなみに東山さんはホームズ関連の書籍もたくさん書いてらっしゃいます。シャーロキアンの中では知らない人はいないくらい有名な方なんです
「今日はよろしくお願いします! ホームズについていろいろ教えて頂きたいのですが、まずは彼のプロフィールを知りたいです。身長がどのくらいとか、特技は何とか」
「現在判明しているのはざっとこんな感じですね」
シャーロック・ホームズのプロフィール
身長:180センチ以上
体形:並外れてやせている
誕生日:1854年1月6日(※諸説あり)
住所:ロンドン ベーカー街221B
家族:兄(マイクロフト・ホームズ)
特技:ヴァイオリン、バリツ、ボクシング、フェンシング、ステッキ術
※バリツについては後述します
「へぇ、長身痩せ型……イメージ通りですね! 外見はどうですか? いろいろなホームズの肖像がありますが、正しい姿というのは?」
「公式のものとしては、シドニー・パジェットっていう画家が描いた肖像がありますね」
「わっ! 確かにホームズのイメージにしっくりきます。『緋色の研究』で、ワトスンがホームズの風貌について記述する場面がありましたが、まさにそれですね」
目つきは、放心状態のときはべつとして、普段はするどく、突き刺すようだし、細くとがった鷲鼻も、顔全体の俊敏かつ果断といった印象を強めている。あごがまた角張って、つきだしぎみなので、それがいよいよ”決断のひと”を印象づける。(『緋色の研究』より)
「元々は、ストランド・マガジンという雑誌に掲載されたホームズ作品に、パジェットが挿絵を描いたんです。その絵を作者のコナン・ドイルがとても気に入って、『以後、この絵のイメージに合わせて小説を書く』と言ったそうです。なので、パジェットの絵が公式のホームズだと言われています」
パジェットが描いた挿絵。左から依頼者の女性、ホームズ、ワトスン
「あれ? でもホームズのトレードマークである帽子やパイプが、ここでは描かれてませんね」
「そのイメージって、おそらくこんな感じでしょ?」
「あぁ~!! これこれ! まさにこれです!」
「ホームズといえばディアストーカー(鹿撃ち帽)、インバネスコート(ケープが付いたコート)、キャラバッシュパイプ(曲がったパイプ)を身に付けていると思われていますが、実は原作には3つとも出てこないんですよ」
「えー、そうなんですか!」
「“いわゆるホームズのイメージ”というのは、『白銀号事件』の回にパジェットが想像で描いたイラストのイメージが定着したものですね。言葉としては作中に書かれていないんです」
左から二人目がホームズ。あまりにもイメージ通りだったため、すっかりアイコンとして定着したそう
「誕生日は、1月6日のほかにも諸説あるとのことですが、どういうことでしょう?」
「最も有力なのは1月6日とされていますが(作中に表記されている訳ではない)、シャーロキアンはみんな自分の誕生日を推そうとするんですよね。だからなかなか一つに決まらないんです」
「ファンというのは業が深い生き物ですね……。では、ホームズが活躍していたあの世界というのは、いつ頃のことなんでしょうか?」
「イギリス・ヴィクトリア朝時代ですね。シリーズ最初の作品が1887年、最後の作品が1927年(日本だと明治20年~昭和2年)に発表されてて、作品内の時間も現実の時代と同じです」
「40年も作品が作られてたんだ! すごい長寿人気作品だったんですね」
ホームズのトリビア
ホームズのプロフィールがわかったところで、続いては意外なトリビアについて教えてもらいました。
トリビア1 軽井沢にホームズの銅像がある
「日本にもホームズの銅像があるってご存知ですか? 世界ではイギリス、ロシア、スイス、アメリカにホームズの像があるのですが、日本では軽井沢の信濃追分っていうところにあります」
「なぜ軽井沢!?」
「日本で初めてホームズ作品を翻訳した、故・延原謙さんがこの辺りにお住まいだったからですね。うちのクラブが寄付を募って、1998年に建てました。今や軽井沢の名所のひとつになっていますね」
世界中にあるホームズ像。右上の写真が軽井沢のもの。
トリビア2 ”バリツ”の正体
「作中、ホームズが『“バリツ”を駆使してピンチを逃れた』、みたいな描写がありますよね? “バリツ”って一体何なんでしょうか。日本の“武術”をドイルが聞き違えたという説を読んだことがあるんですが」
「バリツは護身術のことですが、それがどの武術のことなのかは、シャーロキアンの間でも未だに答えが確定していません。バリツを専門に研究している人も多くいます」
「せ、専門に研究!? もう一種の学問ですね、ホームズは」
「説はいろいろあるのですが、最も有力なのはイギリス人のバートン=ライトという人が設立した”バーティツ”という護身術を、ドイルが聞き間違えて、”バリツ”と書いた、という説ですね」
※バーティツ=イギリスで開発された、ボクシング、柔術、棒術格闘、サバットの要素を組み合わせた武術
バリツのことだけについて書かれた本もあります。
トリビア3 ホームズの親戚に実在した有名画家が
「ホームズは、実は純粋なイギリス人ではありません。祖母がオラース・ヴェルネという、フランスの有名な画家の妹、という設定なんです。クォーターなのですね。ちなみにヴェルネは実在した人物です」
「実在!? フィクションの作品なのに、実在する画家の妹が祖母っていう設定なの!?」
「はい。ホームズ自身の口から、作中で語られていますね」
「そんなんアリ?と思ったけど、『グラップラー刃牙』のマホメド・アライJr.とかも似たようなものか……」
ちなみにこの本の表紙に使われているのがオラース・ヴェルネの「死の天使」という作品
トリビア4 ドイルは心霊主義にハマっていた
「これは作者ドイルについてのトリビアですが、彼は晩年、心霊主義にのめりこんで、世界中を布教して回っていました。ホームズ作品で稼いだお金も、全部つぎこんで」
「えー! なんで!?」
「ドイルは昔から心霊主義に興味があったのですが、息子さんを亡くしてからは、特に熱を入れるようになったんです」
「悲しい……」
トリビア5 ドイルはホームズ作品を書きたくなかった
「これもドイルのトリビアです。ドイルは、本当は歴史小説を書きたかったんです。なので、ホームズ作品はあまり書きたくなかった。そこで『最後の事件』で、ホームズを滝に落として死なせ、連載を終わらせようとしました」
「あ、モリアーティ教授との戦いですね」
「そうです。ところがファンからの抗議があまりに多く、脅迫じみた手紙を送ってくる人や、連載されていた雑誌の購読予約を2万人が取り消すなど、騒ぎになりました。仕方なく、ホームズは生きていたということにして続きが書かれたと言われています」
「ファンって怖い……」
『最後の事件』モリアーティ教授との決戦をデザインした切手
トリビア6 ホームズはドラッグをやっていた?
「作中でホームズがコカインをやっている記述がありましたが、ホームズは紳士ではなくアウトローだったんでしょうか?」
「ホームズはコカインを使っていたという記述がありますが、当時のイギリスではそれらの薬物は違法ではなかったんです。なのでアウトローというわけではありませんね」
「違法じゃなかった!? え~そうなんだ! 時代ですねぇ……」
「とはいえ当時から健康に良いわけない、というのは言われていたんでしょうね。ワトスンがホームズにドラッグをやめさせていますね」
「ほっ、それはよかった!」
他にもこんなトリビアが!
・最初は「シャーロック」という名前ではなく「シェリンフォード」という名前を考えていた
・スイスにスキーを広めたのはコナン・ドイル
・ワトスンは、ホームズが解決した事件の依頼者と結婚した
・シャーロック・ホームズは、ナイトの爵位の授与を辞退している
・シャーロック・ホームズの物語に日本人が出てくる、それは「聖武天皇」
シャーロキアンが思う「ホームズの魅力」
ちなみに東山さんが着ているセーターにもホームズの姿が……
「推理小説といえば、他にも色んな作品がありますよね。東山さんはなぜホームズが好きなんでしょうか? その魅力について教えてください」
「ホームズというキャラクターの性格、人となり……ほら、彼ってかなり特殊な考え方をするでしょう?」
「天才ではあるけど、かなり変わってますよね。失礼なことも当たり前に口にしてしまうし、悪く言えば変人というか」
「例えば、殺人を犯した人がいたとして、それが正義のための殺人だったとしたら、ホームズは見逃してしまったりするんですね。善も悪も超越して、自分が正しいと思った行動をとるんです」
「自分の中の信念を大事にする人物なんですね」
「キャラクターで言うと、読者が自分を投影しやすいワトスン。常識人の彼と、ホームズとを対比させることで、ホームズの天才性がより輝くんです。ワトスンの役割こそ、推理小説における発明なのかもしれません」
「なるほど。他にも、悪の天才モリアーティ教授、ホームズの永遠の恋人アイリーンなど、魅力あるキャラクターがたくさんいますね」
「私は他のミステリーも読みますが、1回読んで謎や犯人が分かってしまえば、もう読み返さないことも多いです。でもホームズのシリーズは『キャラクターに会いたくなって』何度でも読み返してしまう」
ホームズ関連の膨大な資料!ですがこれらはごくごく一部です。
「わかります! そういったシャーロキアンが集まってできたのが、『シャーロック・ホームズ・クラブ』なんですね」
「このクラブはもともと、ホームズ研究をしている人の発表の場や、交流の機会をつくるために設立したんです。活動としては、毎月会報で、ホームズに関する書籍やグッズ、テレビや映画の放送予定など、ホームズに関する情報を届けています」
「現在約700人の会員さんがいらっしゃるということですが、男女比や世代はどんな感じでしょうか?」
「男女比はほぼ半々、平均年齢は男性50~60代、女性40~50代って感じでしょうか。下は8歳から上は96歳までいますよ」
「8歳! 幅広いなぁ~。会員同士が直接会うことはあるんですか?」
「イベントではその機会もありますね。『全国大会』や『セミナー』には、会員が全国から集まって研究発表したり、交流したり。海外のシャーロキアンがゲストとして来てくださることもあります」
「同じ作品を好きな同士だから、さぞ楽しいことでしょうね」
「とっても楽しいですよ。聖地巡礼って言って、会員のみんなと、世界中のホームズゆかりの場所に行ったりもしましたね」
超貴重!コナン・ドイルの娘ジーン・コナン・ドイルさん(左から3人目)と、東山さんご夫妻(左のお二人)。
「やっぱりホームズに詳しくないと入れないんですか?」
「とんでもない! ホームズ作品を読み始めたばかりの人も大歓迎です。実際、『名探偵コナン』からホームズに興味を持った若い人もたくさんいます。“好き”に上下はありません。読み始めたばかりの人も、どなたも歓迎です!」
※詳しくは日本シャーロック・ホームズ・クラブ 入会案内のページをご覧ください
「なるほど、今日は貴重な話がたくさん聞けて楽しかったです。僕もシリーズを1から読み返したくなりました」
「こちらこそありがとうございました。わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
というわけで、今回はシャーロック・ホームズを愛するシャーロキアン・東山さんにお話を伺いました。
ちなみに取材時に紅茶を出して頂いたので、「やっぱりイギリス出身のホームズに合わせて紅茶なんですか?」と聞いたところ、
作中でホームズが紅茶を飲むシーンは(イギリスでは当たり前すぎるから?)あまり描かれておらず、むしろコーヒーを飲む描写が多い
という豆知識を教えてもらいました。
映画やドラマ・漫画でも楽しめるホームズ作品
では最後に、映画やドラマ化もたくさんされているホームズ作品、オマージュ作品の中から、日本屈指のシャーロキアン・東山さんおすすめのものを紹介します!
コロナで外出できない今、家でこんな作品たちを楽しんでみては?
シャーロック・ホームズの冒険(映画)
ビリー・ワイルダー監督が1970年に発表した作品。日本に初めて入ってきたホームズ映画。ある夜にホームズのもとに運び込まれた美女が、行方不明の夫の捜索を依頼。事件とネス湖の伝説の怪獣との関係を突き止める、というオリジナルストーリー。
シャーロック・ホームズの冒険(ドラマ)
原作に忠実であることを意識して作られており、「最も正当な作品」だとファンからも評判が高いテレビドラマ。ホームズを演じた三大役者の一人と言われるジェレミー・ブレットが主役。
SHERLOCK(テレビドラマ)
もしもホームズが現代に生きていたら!? という設定のテレビドラマ。ホームズが持ち前の頭脳に加え、スマートフォンやブログといった現代的なツールを駆使して難事件に立ち向かっていく。
エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY(テレビドラマ)
シャーロック・ホームズの相棒・ワトスンが女性に!現代のニューヨークを舞台に、名コンビが繰り広げる謎解きエンターテイメント。ワトスンを演じるのは女優ルーシー・リュー。
シャーロック
ディーン・フジオカがホームズを、岩田剛典がワトソンを演じたテレビドラマ。二人の化学反応はもちろん、毎話フィーチャーされる東京の街並みにも注目が集まった。
ミス・シャーロック
シャーロック・ホームズとその相方ワトソンが「もし現代の東京にいたら」「もし2人とも日本人女性だったら」との新解釈のもとに描かれるミステリードラマ。竹内結子がシャーロックを、貫地谷しほりがワトスンならぬ和都を演じる。
憂国のモリアーティ
ホームズの最大のライバルである、モリアーティ教授を主役にした漫画。『ジャンプスクエア』にて連載中。その人気から小説・ミュージカル・舞台・アニメ化などもされている。
名探偵ホームズ
ホームズ物語の登場人物が全て犬に擬人化されたアニメ。推理劇の魅力に、アクションやコメディの要素も加わった楽しく斬新な作品。宮崎駿さんも監督・演出を務めた。
名探偵コナン
言わずと知れた国民的人気の漫画。謎の組織によって子どもにさせられた高校生・工藤新一が江戸川コナンと名乗り、組織の行方を追いながら数々の事件を解決していく。漫画。
以上です。
もちろん、この機会に原作を読むのもおすすめですよ!
シャーロック・ホームズ全集1 緋色の習作 (河出文庫)