みなさん、こんにちは。
愛知県出身の漫画家ライターのカメントツです。
突然ですが…皆さんは近藤産興という会社をご存知でしょうか…。
ご存知のない方に説明しますと、愛知県を中心に東海圏内の人間なら誰もが知っている超有名なレンタル会社です。
取り扱いは幅広く今すぐいるけれどずっとはいらないモノ、キャンプ用品やイベント用の道具などなど…。
そうそう実は、僕も赤ちゃんのとき近藤産興で借りたベビーカーに乗っていたそうなんです。
赤ちゃんが大きくなるとベビーカーっていらなくなっちゃいますしね。
レンタルやリースの方がリーズナブルだったりエコだったりするかもしれません。
愛知県民にとって近藤産興がどれだけ身近な会社かお分かりになったでしょうか?
特にCMの曲がものすごく有名で…
愛知県民なら100%歌えます。
歌えないなら愛知県民ではありません。愛媛県民です。
ちなみにこんな歌詞です。
ハィ~ッ!
何でも貸します近藤産興業〜(ワォーッ)
ジェットも祭りもイベントも〜(イェーイ!)
キャンプにカラオケ〜遊園地〜(イェイェーイ!)
楽しいパーティ〜(ウ~ラ~ウ~ラ~)
「今いる、すぐいる、たくさ~んいる!」
「お電話ください」
「何でも貸します、近藤産興」
これが近藤産興のCM歌です。
「何でも貸してくれるんだなぁ〜」と分かりやすいCMですね。
(気になる人は「近藤産興 CM」でググってね)
会社のホームページには「お茶碗からジェット機まで何んでも貸します」
と書いてあります。
分かりますか?皆さん?
何んでも貸しますです。
何んでも貸しますという事は
何んでも存在するという事です。
つまり願い事を叶えてくれる龍を呼び出す玉だろうが
海賊王が残したひとつなぎの大秘宝だろうが
近藤産興にいけばあるという事です。たぶん。
というわけでさっそく名古屋に飛びました。「本当に何んでもあるのか?」という半分イチャモンに近い質問をぶつけに近藤産興株式会社の本社にお邪魔してみました。
本当に何でも貸してくれるのか?聞いてみた
「はじめましてカメントツです」
「どうもはじめまして芝川と申します」
「さっそく質問なんですが…本当に何んでも貸してくれるんですか?」
「ハハ…いやぁ…まぁ…」
「CMにはジェット機や遊園地も貸す、と歌ってましたよね」
「ジェット機ですか…確かに昔は、貸してましたね」
「え…!本当にあるんですか?ジェット機ですよ?」
「1日900万円で貸していました」
「900万円!? それって借りる人いるんですか?」
「今はほとんどいないですね…昔はけっこう出たのですが取り扱いがない同然の状態です」
「なるほど…借りる人がいれば貸してくれるんですね」
「基本的に相談していただければ何んでも貸すというスタンスですね」
ジェット機は実際に何度か取り扱いがあったらしい。
何んでも貸しますというキャッチフレーズは本当だった。
「もしも会社にないものを貸して欲しいと言われたらどうするんですか?」
「どうにかします。需要があれば」
「すごいですね…この世にあるすべての物が要相談ってことですか…」
「ええ…たとえば…スペースシャトルも取り扱っていました」
ジェット機や遊園地どころかスペースシャトルの取り扱いもしていたという…。当時取り扱っていたスペースシャトルの貴重な写真を見せてもらうことになりました。
「いやいやウソでしょ…さすがに…」
「こちらが当時の写真です」
マジでした。
「これはイベントで何か目立つものを…という依頼があって制作しました」
「制作しましたって…すごいですね。こんな風にお客さんに頼まれて作ったりする事って多いんですか?」
「お客様から問い合わせいただいて、なければ買いますし…この世に存在しないものならばどうにかしますね」
「うぉお…すごい…」
「お客さんのためになら努力を惜しまないという事なんですね…でもそんなやり方で本当に大丈夫なんですか?」
「正直言うとお客さんに言われて作ったり、買ったりした商品の中にはまったく借りられないものもありますね。あははは」
「大丈夫なのか」
何んでも貸しますは伊達じゃない
近藤産興が何でも貸してくれる…という事は、分かった。
そうなると気になるのは、その商品がしまってある倉庫の存在です。
なんでも貸してくれる企業の倉庫がどうしても見てみたい…!
しかし、近藤産興は東海最大手のレンタル会社です。自らの手の内をあかすような取材をさせてくれるのでしょうか?
ダメもとで聞いてみました。
「あの…もしよろしければなのですが…レンタル商品がしまってある倉庫なんか見せてもらえないでしょうか…?」
「いいですよ」
「(いいんだ…)」
なんと…あっさり近藤産興の倉庫を見せてもらえる事に…
「ここは主にイベントで使われる着ぐるみや衣装が置いてある倉庫です」
「おおお…!すさまじい量の着ぐるみですね…!」
「これだけあると沢山借りられるものや…逆にまったく出ないものもあるんじゃないですか?」
「よく出るのは、干支の着ぐるみですね。今年はヒツジがよく出ます」
「あ〜なるほど…あとウサギの種類がやたら多いですね。やっぱり人気なのか…」
「流行もありますね。ブームに乗って思い切って作ったけれど…というのもありますね…ははは」
「それにしてもどれもキレイですね…新品同様って感じがします」
「自社で制作したり修復したりしているんですよ。着ぐるみ専用の工房があって修復や制作なんかもできます」
「なるほど…レンタル会社なのに着ぐるみ作っちゃうなんて…何でも感ありますね〜!」
「そうですかね…ははは」
「ん?これは何ですか?」
「言ってるそばから!これ、やたらボロボロなんですけど…」
「ああ、これは舞台などで使われる小道具ですね。わざと使い込んであるものを用意してあるんですよ」
「なるほど…すごい!確かにボロボロの鞄が必要なシーンってけっこうありそう」
「ハイヒールですね…でも靴って普段から履くものだし需要あるんですか?」
「これは舞台衣装で使われる男性用サイズのハイヒールですね」
「あ…本当だ…!めちゃくちゃでかい…僕がはけるサイズある!」
「あの〜芝川さん…大変恐縮なのですが…衣装だけ写真に納めてもクオリティが伝わらないと思うんですよ…」
「ふーむ…なるほど…」
「ですので…ちょっといくつか衣装を試させてもらえないでしょうか?」
「わかりました」
というわけで…
芝川さんに試しに着てもらいました。
「どうですか」
「かわいいです」
「ちなみに中で作業をしているのは今年入った新入社員です」
「じゃあ、まだまだ修行中の身って感じですかね」
「いえ、むしろうちのエースですよ。新作の着ぐるみも手がけてもらいました。やりたい事はどんどんやってもらいたいです」
「すごいなぁ…歴史のある会社だとよく軋轢や人間関係で新人が思ったように動けないみたいなことってあると思うんですが…」
「レンタル産業は流行に敏感ですからね。若い人の意見を何より大切にしています」
「めちゃくちゃいいこと言うなぁ…」
中にはぜんぜん借りられない商品もある
「あの…さっきからめちゃくちゃ気になってるんですけど…これって何ですか?」
「巨大な獅子舞の頭ですね」
「そりゃあ…そうなんですけど…借りる人いるんですか?」
「私が知る限り一度も借りられていないですね」
「なんか不憫ですね…僕の記事読んで借りたい人が出てきたりしないですかね」
「だといいんですが…」
「ああ…これは世界最大の羅漢ドラですね」
「は…?世界最大…?」
「ほら…ここに…」
「ほんとだ…」
「これもなかなか借りられないですね〜」
「世界最大の伝説級のものがさりげなく置いてあるのがすごいな…」
「ちなみにうちには、元世界最大の和太鼓もありますよ」
「これが社宝の『ん太鼓』です。2m40cmあります」
「すさまじすぎる…これ借りられるんですか?」
「ええ。何度か借りていただきましたね」
「社宝も借りれるって…本当に何でも貸しますね…ちなみにお値段は…」
「1日300万円でお貸ししてます」
「安いのか高いのかもはや分からない」
「樹齢1200年の大木と傷一つついていない3歳の雌皮牛の上質な皮を使って太鼓職人さんに3年かけて作ってもらいました」
まるでアニメかゲームに出てくる伝説のアイテムである。さぞいい音がするに違いない。しかし…会社の社宝である。そう簡単に音色を聞かせてもらえるとは思えない。
ダメもとで聞いてみた。
「あの…この太鼓…ちょっと叩かせてもらえないでしょうか?」
「いいですよ」
「(いいんだ…)」
「それでは…叩かせていただきます…」
「遠慮せずおもいっきり叩いてください」
「…はい」
「祭りだドン〜!!!!!!」
ドンドコドコドンドコドコドン
「ステージを選ぶドン〜〜!」
ドドドドドドドドドコドコドコドン
「もう一回遊べるドン〜〜〜!」
ドドドドドドドコドコドコドドドドドコドン
さすが伝説級の代物なだけあってかすさまじくいい音色…。そして叩き心地がすさまじく心地よい。まるで時に厳しく…時に優しい母のような…。
試してみたい方は、近藤産興でレンタルしてみてはいかがでしょうか?
まだまだあるぞ近藤産興
「こちらがイベント等で使われる備品の倉庫です」
「こっちは同じ既製品がたくさん並んでますね」
「野外で使われるスピーカーや出し物が置いてあります」
「あれ…これってくじ引きで使うアレですか? ガラガラの?」
「そうです。ガラガラです」
「確かに買ってもそんなに使わないし…レンタルがほとんどなんでしょうね」
「そうですね。ちなみに玉も1個単位で貸しています」
「福引きの玉も個別にレンタルできるんですか!」
「白玉は1個1円 金の玉や銀の玉は1個2.5円です。景気が良くなってきたせいか最近は、金の玉が沢山借りられますね」
「まさか、ガラガラの玉の色で景気が反映されるとは思いもしませんでした」
「ちなみにこのゲーム機は映画の撮影にも使われました」
「そういう需要もあるんですね」
「歴史を重ねていつの間にか古くなってしまうものもありますが、それによって需要が生まれる事もあるんですよね」
「新しいものも取り入れて、古いものも大切にする…素晴らしいですね」
なぜ何んでも貸しますなのか?
ちょっと倉庫の見学に疲れたので応接室で休憩。
「それにしても何でも…なんて言わず『あるものなら比較的貸します』とかの方が企業的に利益出ると思うのですが…なぜそこまで…」
「それは、我が社の設立の歴史に関係があるのです…」
「それは一体…?」
そう言うと芝川さんは、近藤産興の歴史について語ってくれました…。
〜まんがで分かる近藤産興の歴史〜
戦後まもないころ…後の創設者となる近藤成章少年は、戦争の被害で家具が非常に不足している状況を見て壊れたり焼けたりした家具を塗装する仕事をはじめました。
「ちなみに当時14歳だったそうです」
「14歳で社長…!? すごすぎる!」
「そして戦後から2年後の昭和22年に『近藤塗装店』を立ち上げます」
「戦後のパワーおそるべし…」
それから近藤塗装店は、家の補修や道路の区画線の塗装なども請け負います。
「戦後の復興にめちゃくちゃ貢献したんですね」
「ものが無い時代ですし…必要ならばなんでもやるという姿勢だったんでしょうね」
「すでに『何んでも』の頭角がでてきている…」
その後、塗装業を行うにあたり工場の整備や建設現場の足場を取り扱うようになり、それに関連づけて色々なものをお客さんに頼まれるようになった。建設重機や地鎮祭をはじめお祭りの道具なども貸しはじめた。需要が需要を生む需要スパイラルである。
「おお…」
「そして昭和39年(1964年)に日本ではまだあまり普及していなかったレンタルビジネスをはじめて今にいたる…というわけです」
「14歳で立ち上げて…ここまでの企業に成長させた初代社長はすごいですね…」
「初代社長というか…まだ現役です」
「は…? だって単純計算で80歳超えてますけど…」
「毎日自分で車を運転して出社していますよ」
「ええ…普通の社員並みに!? すごすぎませんか?」
「いえ、土日も出社しているので社員以上に働いていますね…休まないんですよ…」
やはり戦争を体験した世代は、おそろしいパワーを持っている。戦後復興からここまで一代で叩き上げた鉄人ビジネスマン。
そんな名古屋の鉄人に会ってみたい!
しかし…いっても社長です。そう僕のような小物に会ってもらえるとは思えませんが。
「あの…もしよろしければ社長にお会い出来ませんでしょうか?」
「いいですよ」
「(何んでもOKだな、この会社)」
これが現役バリバリの伝説鉄人、近藤成章社長だ!
僕を見て「うむ! 仮面ライダー!」とおっしゃいました。ありがとうございます。
ちなみに昔「何んでも貸すなら社長の嫁さんを貸せ!」と言われた際には、ちゃんとお断りしたんだとか。唯一貸せないものがそこにあったのですね。いい話だな…。
今の若者と地方企業だからこそ出来る事を
「いやぁ…それにしても…会社も社長もパワフルですね」
「今日見てもらった倉庫は、ほんの一部です」
「一日じゃ回りきれないとか…ディズニーランドみたいですね。」
「他にも介護用品や産業廃棄物の処理プラントの運営。ベビー用品など…」
「すごいですね!地方企業がそれだけパワフルでいられるのに何か秘訣はあるんでしょうか?」
「そうですね…私個人の意見ですが地方だからこそできるビジネスだと思うんです。東京だと需要がありすぎて『何んでも貸します』は大変すぎます。土地の安さと需要と供給のバランスがちょうどよかったんじゃないでしょうか」
「東京に出て中途半端よりも根付いた土地で完璧を目指す…と」
「それと先ほども言いましたが若い人にはどんどん意見を言ってもらい、やりたい事はどんどんやってもらっています」
「何んでも貸しますだからこそ出来る事はたくさんありそうですね」
「そうです。反面『最近の若者は野心がなさすぎる』とよく聞きますが、むしろその堅実なスタンスは、我々のような地方都市に根付く企業にとってありがたいですよね。そのおかげか離職率がものすごく低いんですよ」
「(離職率が低いのは、単純に若者を評価して大切にしているからだと思うなぁ)」
地方だからこそ、今の若者だからこそ、未来も過去もひっくるめた今を見つめて。
時代時代に合わせたお客さんの需要を受け止めてきた。
それが戦後から続く企業の秘訣なのかもしれません。
今の日本が見失っているものを見つけたような気がしました。
「それにしても…」
「はい…」
「応接間のテレビめっちゃ古いですね」
「ほっといてくれ」
ちゃんと60型薄型テレビも貸してくれます。
(おしまい)
ライター:カメントツ
仮面を被った漫画家ライターゆえにカメントツ。オモコロでもマンガを描いているという噂がある。仮面凸ポータルから呼ばれればどんなときも予定があいてれば駆け付けるぞ。Twitterアカウント→@computerozi