あっち〜〜〜〜!!!!
残暑お見舞い申し上げます。ライターの田中です。今日はジモコロ編集長のギャラクシーと打ち合わせ中。
「いや〜、夏は終わったはずなのに、日中はまだまだ暑いですね。いつになったら涼しくなるんだ」
「暑くて打ち合わせする気力ないから、ソフトクリームでも食べに行かない?」
「夏バテには栄養のあるものをしっかり食べなきゃダメですよ。あ、奮発してうなぎはどうですか?」
「うなぎ良いね! 大好き!」
「……いや、ちょっと待ってください。そうだ! すっぽんどうですか、すっぽん! 僕の故郷、静岡県の浜名湖ですっぽんの養殖が有名って話を聞いたんですよ」
「すっぽん……か。食べたことないな。確かに精力増進みたいなイメージあるけど。ていうか、うなぎで良くない?」
すっぽん養殖場ってどんなとこ?
静岡県西部、浜名湖
周辺には、うなぎの養殖を手がける水産加工会社がたくさんあります。本当に、そこら中にうなぎの会社があります。
「うなぎで良くない?」
「静岡まで来てまだ言う? あ、ほらここですよ。すっぽんの養殖をやってるっていうのは」
服部中村養鼈場(はっとりなかむらようべつじょう)。
すっぽん養殖のことを、養鼈(ようべつ)って言うのか、勉強になるな……
代表取締役の服部征二さんに浜名湖のすっぽんについてお聞きします
「デカッ! すっぽんデカッ!! あ、すいません、今日はよろしくお願いします。すっぽんってそんなに大きいものなんですね」
「いやいや、これはそんなに大きいほうじゃないですよ。さっそく養殖池に案内するんで、どういう生き物なのか、その目で見てみてください」
すっぽんの養殖池に連れてきてもらいました。とにかく広い……!
ひとつひとつの大きさはバスケットボールのコートくらいだけど、それが見渡す限り無限に広がっている
それぞれの池に役割があるそうで、例えばここは産卵のための池
タマゴはこんな感じです。100円玉くらいの大きさ。
社員のみなさんが作業してました。足元のザルがゴソゴソと動いてるけど、ひょっとして……
い、いた〜!! 大量のすっぽんだ!!!
このザルすべてがガサゴソ動いてます
「すごい数!」
「すっぽんといえば『一度噛み付いたら雷が鳴っても離さない』って聞いたことがあるんですが、あれって本当ですか?」
「試してみます?」
ちなみにこれはまだ子どもらしいです
ちょっとドキドキするな~。ほれ、噛んでみ? 噛んっ……
サウッ!!!!
「いってぇぇぇぇ! しかも全然離してくれない!」
「あ、無理に引き抜こうとしないでね。そのうち離してくれるから。どうしても無理なら水に入れるといいから」
「ふう……ようやく離れてくれた。正直、こんなに強いとは……」
「すっぽんは歯がないって聞いたけど、痛いんだ?」
「痛いに決まってるでしょ。鳥のクチバシみたいな感じですけど、とにかく力が強い!」
「このくらいの小さいすっぽんなら大丈夫だけど、出荷できる大きさのすっぽんに噛まれたら指が飛ぶと思うよ(笑)」
「はっははは」
「全然笑えない。読者のみなさんは絶対に真似しないでください」
「“出荷できる大きさ”というのは、どれくらいの大きさですか?」
「うちの場合は、3〜4年ものを出荷しています。大きいすっぽんだと10kgを超えますね」
なお、最初の写真で持ってたこのすっぽんは……
1.28kgでした
「あの大きさで1.28kgか。10kgオーバーだと……小型犬ぐらいの重さ? 確かにそんなデカイヤツに噛まれたら……」
「指飛ぶでしょ(笑)」
「はっははは」
「何がそんなにおもしろいんだ。1.28kgでお値段はいくらぐらいなんですか?」
「そのサイズなら7,000〜8,000円ぐらいかな。1.28kgといっても、可食部分は50%程度だから、二人前でいけるんじゃない? 取り除いた部分から出汁を取ると、5リットルぐらいのスープができるね」
「へぇ~、意外! 安くはないけど、思ったより高くはない。一人前に換算すると3500円~4000円くらいか」
「食べたことないくせに恐縮ですが、亀類ってなんとなく泥臭そうなイメージがあるんですよね。ぶっちゃけ、そのあたりはどうなんですか?」
「うーん……言葉だと説明が難しいな。ちょっと電話一本かけていい? 『あ、もしもし。服部ですけど。今日ってお店やってます? ええ、実は……はい、じゃあ今から向かわせますね』」
「?」
「お待たせ。ウチからすっぽんを卸してる『宿下吉庵(やどしたきちあん)』って店で食べさせてくれるから、今から行ってきなよ」
「は……? え、いいの?」
「だって味を知ってもらわないとさ。すっぽんは今から支度するからちょっと待ってよ」
「今から??」
なんと社長自らさばいたものを、お店に持ち込むことに。展開が早い!!
ものの数分でこんな具合に。パッと見たところ、普通の肉と大差はないような……
すっぽんゲットだぜ!
「すっぽんというと鍋やスープ、雑炊が定番ですが、服部さんオススメの食べ方ってあります?」
「肉の味を知りたいなら、個人的には肩肉やモモ肉を焼いて食べるのが好きですね。香ばしくて、一口噛めば肉汁が口いっぱいに広がって……」
「ジュルリ……」
すっぽん、実食
服部社長がさばいてくれたすっぽんを片手に、浜松駅前のアクトタワー5階にある『宿下吉庵』までやってきました。板前さんに渡して調理していただきます
ちなみに『宿下吉庵』さんではディナータイムにすっぽん鍋含むコース料理もいただくことができるそう(要予約)
そしてこれが、たった今持ち込んだすっぽんを焼いてもらったもの。手前がモモ肉の塩焼き、奥が肩肉のつけ焼き(タレ焼き)です。う、うまそ~~~!!
さっそく塩焼きからいってみましょう
めちゃめちゃうまい!
地鶏のような食感で、後味がサッパリしてる。味は強いのに、肉臭さや生臭さが一切ない……
「うんめっ! これうんめっ! タレもおいしいなぁ。肉汁がじゅんじゅん出てくるから、肉がタレに負けてない。あと、肩は食感がムチムチしてて最高」
「モモは鶏のモモ肉と魚のカマのいいところ取りみたいな……」
「味も食感もそんな感じだよね。でも、味の強さやホロホロ感は圧倒的にすっぽんに軍配が上がるかな。うめぇよ……“肉!”って感じだよ……」
「僕はすっかり、うなぎよりすっぽん派になりました」
宿下吉庵(やどしたきちあん)
ちなみに「宿下吉庵」のランチタイムは生しらす丼が人気! 新鮮な生しらすを食べられるのは、しらすの水揚げが行なわれている漁港の近くのみ。贅沢〜!
住所|〒430-7705 静岡県浜松市中区板屋町111-2 アクトタワー5F
営業時間|ランチ 11:00〜14:00(ラストオーダー 13:30)
ディナー 17:00〜23:00(ラストオーダー 22:00)定休日|日曜日
天敵だらけ! 害獣からすっぽんを守れ
試食を終え、オナカいっぱいで事務所に戻ってきました
「いかがでしたか?」
「どうもこうも最高でしたよ。臭みも全然なくて」
「でしょ? ウチは自然に近い環境で養殖しているから、すっぽんにストレスがかからないんですよ。だから臭みがない」
「でも、自然に近い環境をつくるって相当手間がかかるのでは……」
「正直、めちゃめちゃ手間です。さっき養殖池を見てもらったけど、夏場は数日で水面が水草で覆われてしまう。そうしたらすっぽんは育ちません」
水草で覆われてしまった養殖池
「除草剤とかを使えれば一発でクリアできるんだけど、すっぽんはもちろん、口にする僕らにどんな影響がでるのかわからないから、使ってないんです。つまり、全部手作業でキレイにしています」
「うわ……大変そう……」
「このあたりはすっぽんの天敵となるイタチ、タヌキ、ハクビシンなんかも多くてね。当然駆除しなければならないし……1年中、やることは山積みですよ」
「すっぽんにとって優しい“自然に近い状態”……それを維持するために、人間に莫大な手間がかかってる」
「あの~、素朴な疑問なんですが、ここまで自然に近い状態で飼育してるのに、『養殖』のカテゴリに入っちゃうんですか? もはや『天然』では?」
「エサとかはあげてるわけだから、やっぱり『養殖』ですね。とはいえ、天然モノよりおいしい自負はありますよ」
浜松市内で服部中村養鼇場のすっぽんを食べようと思ったら「浜松名物 浜名湖すっぽん徳丸」の看板がかかっている店舗へ(詳細は各店舗にご確認ください)
「そもそも、なぜ浜名湖ですっぽんの養殖が始まったんですか?」
「ルーツは、江戸の長州・毛利家に出入りする川魚商です。荒川で獲れた鯉やうなぎ、白魚などを納めていました。ある日、毛利邸のお堀にいたすっぽんを、一匹買い取りまして。当時からすでに、すっぽんは滋養強壮の食べ物として人気があったので、育ててみようと」
「すっぽんってそんな昔から食べられてたんだ」
「その一匹から、すっぽんの飼育がスタートしました。その事業を継承したのが、幕末~明治初期の人物、服部倉治郎……つまり服部中村養鼈場の創業者です。彼の手によってすっぽんの飼育研究は本格化していきました」
「そういえば、社名は服部中村養鼈場ですが、今のところ服部さんしか登場してませんよね? 中村さんは?」
「すっぽん養殖を実現するにあたり、倉治郎がアドバイスを仰いだのが、浜松の愛知県立水産試験場で働いていた中村正輔です。彼の尽力によって浜名湖周辺に土地を購入し、養殖池を造成。これによってすっぽんの養殖がスタートしました」
「でも、なぜ浜松だったんでしょう? 江戸で養殖しても良さそうなものですが……」
「当時の資料が残っているわけではないんですが、浜松の温暖な気候が理由のひとつだと思います。場所的にも東京と大阪の間でアクセスが良いですし、自然豊かで土地代も高くない」
「なるほど。それにしても、すっぽんの養殖って当時はかなり珍しいわけですよね。収益が見込めるかわからないのに、よく思い切った決断をされたんですね」
「あ、すっぽんだけをやっていたわけではないんです。うなぎの養殖も同時に手がけていたんですよ。だから、うなぎの養殖で収益を得て、すっぽんの養殖に充てたというわけです」
「おお、なるほど」
「ただ、やっぱり力を注ぎたかったのはすっぽんなんですよね。うなぎだったら社名は『服部中村養鰻場(ようまんじょう)』になっていてもおかしくはない。『服部中村養鼈場』と名付けたこと自体が覚悟の現れだといえるでしょうね」
「そもそもの話なんですけど、なぜ人類はすっぽんを食べようと思ったんでしょうね。あんな見た目なのに」
「それはもう、単純に美味しいからでしょう。すっぽん食って日本だけの文化じゃなくて、中国やフランスでも食べられてますから。実際、おいしかったでしょ?」
「……確かに」
今後のすっぽん養殖
「服部さんは、今後すっぽんという食材をどう扱っていこうとしているんですか?」
「ここ数年は、秋になると東京に出向いています。和食はもちろん、フレンチやイタリアンといったさまざまなジャンルの料理人に集まってもらって、すっぽん料理をつくってみんなで試食するという会を開催していて」
「美味しんぼの美食倶楽部じゃん」
「料理人のみなさんはクリエイターなので、すっぽんの食材としての可能性に触れてもらえば、きっと扱ってみたくなると思うんですよね。実際に食べてくれた人たちは口を揃えて『美味しい』と言ってくれているし」
「今の所、そこまで一般的な食材じゃないっていうのは、ひょっとして『すっぽん』という名前の響きが悪いのでは」
「まあ、『すっぽん』じゃなくて『ララァ』みたいなオシャレな名前なら、もっと流行ってたかもしれない」
「個人的には、精力剤のイメージが強すぎるんじゃないかなぁ、と思ってるんです。だから、女性ですっぽん好きな方ってあまり聞きませんよね」
「あ、確かに」
「流行って、まずは女性がハマッてくれないとダメですよね? コラーゲンが豊富なんで、女性にこそ食べていただきたいんだけどなぁ」
「あ、でもすでに女子会ですっぽんを食べるって、聞いたことがありますよ」
「クドくなくてスッキリしてるし、昔から滋養強壮の食材とされてますから、確かに女性にこそ食べてほしいですね」
「綾瀬はるかさんが『すっぽん大好き!』って言ってくれないかなぁ……」
「別に石原さとみでも吉高由里子でも良いと思うんですが、なんで綾瀬はるか……?」
「え? それは……」
綾瀬はるかさんが好きだから……
「知らんがな」
「ま、我々は今のまま、自然に近い状態で美味しいすっぽんを育て続けるだけですよ。いずれは海外にも輸出できるように、生産設備も整えたいと思います」
「日本のすっぽんが世界に羽ばたく日を、僕らも待ってます。今日はおもしろい話と、おいしいすっぽん料理、ありがとうございました」
「ありがとうございました! 最後に全然関係ないことをお聞きしていいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「僕、最近『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』っていう映画を見たんですけど、服部さんはゴジラ派ですか? それともガメラ派?」
「ゴジラ派ですね」
「ありがとうございました」
まとめ
いや〜それにしても、すっぽんは本当に美味しかったです。
浜松といえば、うなぎのイメージが強いですが、養殖方法が確立されている点で今後すっぽんが割って入る可能性も高いはず。
金額もそれほど高くないので、僕のような貧乏ライターでも3ヶ月に一度くらいなら手が出せそうです。
もっと手軽に食べてみたい方向けに、服部中村養鼇場のホームページからは「すっぽんの切り身」だけではなく「すっぽんスープ」や「すっぽんスープカレー」なども購入できます。
すっぽんのスープは、服部さん曰く「すっぽん以外でこんなにいい出汁が出る食材には出会ったことはない」そう。これは必食ですよ! ご飯を入れたらそれだけですっぽん雑炊の完成です。
正直、想像を超える美味しさだったすっぽん料理。ぜひ、みなさんも味わってみてください! マジで美味しいので!!
みなぎる〜〜〜!!!
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