タバコとはどういう作物なのか
あたり一面に広がる、これが……タバコの葉……?
「タバコの葉っぱって、こんなに大きいんですか!? お茶の葉っぱくらい(5~10センチ程度?)を想像してました」
「知らない人はみんな驚くねぇ。丈は2メートルくらいになる品種もあるし、葉っぱは最大で腕の長さくらい(60センチくらい)まで大きくなったりするんですよ」
「知らずに畑を見たら、これがタバコになるとは気づかないですね! ところどころに黄色くなった葉っぱがありますけど……これは枯れちゃったんですか?」
「いえいえ、うちで栽培してるのは『黄色種(おうしょくしゅ)』っていって、熟すと葉っぱが真っ黄色になる種類なんですよ。タバコは葉が熟してから収穫するので、黄色くなったら『収穫時』って合図です」
「緑の葉を使うんだと思ってた……」
「タバコは熟度がすごく大事なんですよ。だからタバコ農家にはちゃんと葉が熟しているか見極める目が一番必要です。早すぎても遅すぎてもだめ」
「畑全体が一気に黄色くなる(熟す)んですか?」
「残念ながら熟すタイミングは葉によってバラバラなので、1枚1枚手作業で毎日チェックして、熟してるものだけを収穫します。今日も朝の5時くらいから収穫してたんですよ」
「1日でもサボっちゃうと、熟した葉を見逃しちゃうってこと? めちゃめちゃ大変じゃないですか」
「それだけじゃないですよ。収穫の他に、余分な枝や花が生えてないかチェックして、こまめに取り除く必要もあるんですよ。すべての栄養が葉に行くようにしないといけないから。これも毎日やってます」
「花も切っちゃうんですか!」
「タバコはトマトなんかと同じ仲間だけど、実をつける必要がないから花を残して受粉しなくていい。葉だけを収穫するのはタバコの特徴だね」
メインの茎に生えた葉っぱ以外は、全て切り落とす。「心止め」というのだそう。
「今年は梅雨明けが遅くて、雨がずっと続いていましたよね。タバコの栽培に何か影響はありました?」
「実はタバコは水に弱いんですよ。根の部分に水が溜まっちゃうと呼吸できなくて、酸欠状態になっちゃうんですね。ひどい時には枯れちゃう。逆に、晴れが続き過ぎても干ばつ状態になっちゃうし……バランスが難しいですね」
「作物としては、育てるのが難しい部類なんだなぁ……。そうやって苦労した結晶が、この畑ってわけですか」
「そうですね。良いタバコを作ってるっていう自負と誇りはあります」
「ちなみにタバコの良い・悪いって、どういう部分で判断するんでしょうか」
「良いタバコ葉かどうかは、熟度の他、色艶、手触り、そして香りで決まります」
「香り、ですか……?」
「乾燥中のものがあるんで、ちょっと嗅いでみます?」
といって連れてきてもらったのは、作業場に設置されたタバコ乾燥機。なお、これ一台で数百万円するそうです(!)
「わー! 開けた瞬間にものすごい匂いが……! たばこっぽいといえばそうなんだけど、もっと甘いような……? 焼きトウモロコシみたいな匂い」
「いい匂いでしょう。この甘い匂いが、黄色種の特徴なんですよ」
乾燥機で110時間ほど乾燥させ、袋詰めした状態。この状態で出荷され、あとはJTの工場で加工し、刻んだものが商品になる
「栽培方法は昔から変わってないんですか?」
「そんなに変わってないですね。うちは親父の代からタバコを作り始めて、私も何十年もタバコの栽培をやってきた。そして今は息子が継いでくれてます」
「へぇ~、息子さんが継いでくれたんですね。じゃあ、三代に渡ってタバコを栽培してるんですね」
「そうですね。昔から同じやり方で、ず~っとタバコを作り続けてきました。ただ……世の中はすっかり変わっちゃったなぁ」
タバコ栽培をするには、情報交換が大切
高木さん。手に持っているのは、あまり見る機会がないタバコの実
そしてこれがタバコの種。砂のように細かいこの種が、あんなに大きな葉っぱになるのか
「高木さんは比較的お若いと思うのですが……なぜ、タバコ農家になろうと思ったんですか?」
「うちは代々タバコ農家なんですよ。僕は別の会社で働いてたんですが、昔から続いてきたタバコ栽培を継ぎたくて、4年前に始めました」
「4年目というと、タバコ農家としては駆け出しって感じ……なんですかね? 苦労もあったのでは?」
「そりゃもう、苦労しましたよ。タバコ栽培は繊細だからね。毎朝点検するのがつらかった。タバコの木は1本あたり18枚くらい葉をつけるんですけど、1日に取れる葉っぱは、1〜2枚。畑全体を歩き回って、それらを収穫していくんです」
「雨の日も風の日もですよね。作物は人間の都合なんて考えてくれないから大変だ……」
「でも僕の場合は代々続いた知識を受け継いだし、身近にアドバイスを聴ける先輩もいたんで、マシだったと思いますよ。素人が新規参入するのは、相当難しい業界じゃないでしょうか」
「ちょっとだけタバコ農家をやってみたいと思ってたんですが、諦めます」
こちらは高木さんの作業場にある乾燥機。合計8台所有しているそう
「こちらの台にあるタバコ葉は、本日収穫されたものなのですか?」
「そうですね。朝から5人がかりで作業して、この量になります」
乾燥が終わった葉は、JTの「タバコ鑑定士」がA級やB級など等級をつけていきます。等級によって価格が変わるんだとか
「このあたりはタバコをやっている農家が多いですが、農家同士で情報交換することはあります?」
「若い農家同士だと、飲み屋に集まって話したりしますね。どこの肥料使ってるの?とか、今年はどれくらい(タバコ)採れた?とか。あと長靴はどこのが安い、どこそこの作業着は破れにくい、とかね」
「農家ならではの会話だな~」
「高木さんのご家族は代々タバコを栽培されているとのことでしたが、タバコ農家の数に変化を感じたことはありますか?」
「最近は減ってきていると感じますね。高齢の方がどんどん亡くなってしまったというのもあって」
「そうなんですね……。私は愛煙家なので、ぜひ作り続けてほしいです」
「まあ、タバコは他の作物と違って、JTさんがすべて買い取るというシステムなので、農業としては意外と安定してるんですよね。なので、僕らはそんなに悲観的にはなってないです」
※他の作物のように、作りすぎたから廃棄しなくてはならないという状況がない
「わっ、ありがたい!」
「代々続いたタバコ栽培の知恵や経験には誇りがあるし、会社をやめて始めたことなんで、思い入れもあります。何かと肩身がせまいこともあるけど、若い人達で力を合わせて、盛り上げていけたらいいなって思ってます」