しーーーーっ!
ちょっ、ちょっとみなさん静かに。
あ、すいません。ライターの藤本です。
今日の取材先がここだと聞いてやってきたんですけど、どう考えても怪しい地下の一室。オイラ騙されてないかな……。
ん?
開いた!
「藤本さんこんにちは!」
「(あ、かわいい)」
「オトバンク広報の佐伯です」
「あ、ここで合ってました?」
「はい、合ってます、合ってます。きっと迷われましたよね? ここは会社ではなく収録スタジオなんです」
「スタジオなんですねー。なるほど」
「はい、いまちょうど収録中で」
「あ、ごめんなさい。声でかかったですか?」
「いやいや大丈夫ですよ。防音されてますから。あ、オトバンクの伊藤です。よろしくお願いします」
ということで、今回僕はオーディオブックの制作&販売を続ける『オトバンク』という会社、じゃなくてそのスタジオにお邪魔しています。
と、ここで確認なんですけど、みなさん
「オーディオブック」って知ってます?
その名の通り本を音声で楽しめる「耳で聴く本」のことなんですけど、いろいろスゴい点があるんです。例えば……
オーディオブックのここがスゴい!
・目も手も忙しいけど、耳は空いてる現代人のための『聴いて読む本』
・ベストセラーがどんどんオーディオブック化されている
・職人の技で『長く聴ける』工夫が詰まってる
とか偉そうに書いてる僕も、実はオーディオブックのことを知ったのはつい最近のこと。
なのでまずはオトバンクのお二人に「オーディオブックってそもそもなに?」というところからお話をきいてみます。
オーディオブックってなんですか?
オトバンク広報の佐伯帆乃香さん
「読者のみなさんのなかには、まだオーディオブックっていうのがなんなのか、よく知らない人も多いと思うんです」
「ええ。きっとそうだと思います」
「とはいえ、オーディオブックですから、字のごとく、本を朗読したものを録音した音声コンテンツってことですよね」
「その通りです」
「たぶんそれくらいは読者の方もご存知というか、想像できると思うんですけど、それを活用するシーンというか、意味みたいなことが、いまいち想像できないんだと思うんです」
「そうなんですよね。まず一度聴いてみていただくという壁がとても大きいんです」
「なのでじゃあ僕はなんで聴き始めたか? というところから話すと、僕の一冊目は『サピエンス全史』だったんです」
サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福
オトバンク制作本部プロデューサーの伊藤誠敏さん
「おぉー、あの長いやつですね。紙の本だと上下巻ある」
「ある後輩編集者がオーディオブックのアプリをモーレツに薦めていて、それをなんだったら訝しげに見てたんです。だけど、ちょうど読みたいけどなかなか手が出せないでいた『サピエンス全史』がオーディオブック化されているというので、オトバンクさんのアプリをダウンロードして聴いてみたんです」
「ありがとうございます」
『サピエンス全史』をはじめ、ベストセラーが並んだオトバンクさんのラインナップ
「で、僕は普段まさに書籍をつくる編集者で、ときに自分自身が著者でもあるんですね」
「はい」
「そんな僕からすると、勉強しながらとか、家事をしながらとか、そんな『ながらメディア』の代表である音声メディアで、魂込めて作った一冊を聞き流されるのはいやだ。って思ったし、そもそも耳で聴いてきちんと読めるわけがない。と思ってたんです」
「…はい、わかります(笑)」
「それが、読めちゃった。それでオーディオブック使えるかも。って思ったのがきっかけなんです」
「ありがたいなあ」
「そもそもオトバンクさんはいつからあるんですか? 」
「創業は2004年で、オーディオブックは2007年に開始したので、実はもう10年以上オーディオブックを手がけています」
「そうかあ」
「意外と長いんです。最初は『Feel, enjoy By ears(耳で感じて楽しむ)』の頭文字を取った『FeBe(フィービー)』というサービス名だったんですが、昨年の3月に『audiobook.jp(オーディオブックドットジェイピー)』という名前に変わって」
「2007年と比べると、いまの状況はいろいろ変わったと思うんですけど。実感として何が変わったと思いますか? 」
「実は私は2015年の入社なんです。それでもこの数年が激動で」
「どういうところでそう感じます?」
「オーディオブックの紹介をしにいくことがあるんですけど、最初は『オトバンクです。オーディオブックです』って言っても『なにそれ?』『本を朗読するって、どこが新しいの?』と。出版社さんにも『どんなふうに作ってるかわからないし、テキトーに作られるのは嫌だから』って言われてしまって」
「それがここ1〜2年は逆に『オーディオブックにしたいんですけど』って相談いただくことも増えてきて…」
「それって何が変わったからだと思いますか?」
「まず、コンテンツがすごく増えたこと。他社さんもオーディオブックサービスを開始するところがどんどん増えていますし、世の中でのオーディオブックの知名度が上がったことと比例してると思うんです。あとは、いまみなさん、目も手もめちゃめちゃ忙しいっていうのがあるのかなと思って」
「目も手も忙しい! たしかに。スマホで余計に忙しくなってる」
「そうですよね。でも、耳は空いてませんか? と」
「空いてるー! まさかの耳、空いてた!」
「そうなんです」
「思わず声が大きくなっちゃいました。オーディオブックって、実際どんな人が聴いてるんでしょう?」
「大学時代に何か夢中になることができて本を読まなくなったとか、社会人になって忙しいから読めなくなっちゃったとか。あと、お子さんが生まれて読む時間がなくなった方が、朝の家事の時間に聴くのがすごく楽しみですって言ってもらえたり。ランニングに“ながら読書”を加えたら、読書が習慣になって楽しんでますって方も多いです」
「『読む』のバリエーションがひとつ増えた感じですね」
「あ、ほんとにそうですね」
「紙で読むか電子書籍かみたいな議論ってもういいじゃないですか。どっちもそれぞれの良さがあるのは明らかだから。もはやそんな議論を越えて『聴いて読む』という選択肢が増えたっていうのがオーディオブックの新しさですよね」
「その新しさに気づいてもらえないと、朗読でしょ? 新しくなくない? と思われてしまうこともあるので、楽しみ方もきちんと伝えていきたいなと思っています」
自分でオーディオブック制作をやってみた話
「実は僕、自分でオーディオブック作ってみたんですよ」
「noteの記事見ましたよ。大変そうでしたね」
「いや、マジで大変だった!」
「ふつうはやる方いらっしゃらないですよ(笑)」
「軽い気持ちでやってみたら……」
「軽い気持ちでやると大変でしょう(笑)」
「いやほんとマジ後悔しました。大変だっていう意識が全然なかったんですよ」
「最初のきっかけはサピエンス全史だって話しましたけど、その次に『ジャパネットたかた』創業者の高田明さんが書いた本のオーディオブックを聴いたんですね。そのとき『あれ? 高田さんの声じゃない』って思っちゃったんですよ」
「ああ〜」
「テレビで観てた高田さんとはまるで真逆なすごく落ち着いた人が喋っていて。最初に聴いた『サピエンス全史』は著者がイスラエル人の方だから違和感なくナレーターさんの語りを聴いてたけど、高田さんみたいにパーソナリティが見えている人の本になったときに、本人じゃないことに違和感を感じて。しかも高田さんの本のタイトルが『伝えることから始めよう』って」
「ははは。なるほど」
「まあ、落ち着いて考えたら当たり前なんですけど、でもあえて一冊くらい著者本人が読むやつがあってもいいんじゃね? っていう軽い気持ちでやっちゃったんですよ」
「いや〜、いいと思いますよ。著者の声でやること自体はすごくいいと思うんですが、大変だったと思います」
「まあ2時間ぐらいで終わるだろうと思ったら、ガチで7時間かかった。友達のミュージシャンに手伝ってもらったんですけど、7時間ぶっとおしで喋ってたら、もはや修行か何か? みたいな気持ちになって、何よりこの罰ゲームみたいなやつに付き合わせちゃってる友達のこと考えたら、だんだん胸が痛くなってきて」
「あははは」
「しかも手伝ってくれた彼の作業って、録音して終わりじゃないんですよね。収録が終わったあとに、僕のリップノイズをきれいにしてくれたり、間に効果音やジングルっぽいものを入れてくれたり。鬼のような編集作業が待っている」
「最初はメシおごるわって言ってたけど、もう、メシおごるだけじゃ無理だわと。でもなにか予算があるわけでもないから、とりあえず『2万払う』って、中途半端に貧乏くさい謝礼伝えて余計に胸が痛んだ」
「(笑)」
「とにかくもう、よくわからない感じになって。ただ、とにかくオーディオブックをつくるのは、めちゃめちゃ大変だってことが身にしみてわかりました」
「簡単そうに見えるんですよね。ただ読むだけだって」
「そうなんです。ぶっちゃけみんなそう思ってると思う。ほんとこんなことなら、最初からオトバンクさんにお願いすればよかった。って思った」
「いまも藤本さんの書籍の収録真っ最中ですから」
「なんですよね? ほんとありがとうございます」
はい、そうなんです。
実は今回こちらに訪れたのは、何を隠そう、僕が一昨年出した自著『魔法をかける編集』(インプレス)が正式にオーディオブック化されることになり、いままさに、その収録が行われているからでした。
そんな自著のオーディオブック収録を担当してくれているのは、
ナレーターで声優の柳よしひこさんと、
サウンドクリエイターでディレクターの内田篤志さん。
ちょうど収録の区切りがついたお二人にも加わってもらって、お話を伺います。