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“異種格闘技”で出版業を逸脱。ビジネスの幅が広すぎる『和樂』の編集論

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“異種格闘技”で出版業を逸脱。ビジネスの幅が広すぎる『和樂』の編集論

こんにちは!

ジモコロライターのくいしんです。

 

adidasを着ているのが、僕です。

突然ですが、今日から「『ジモコロ』編集長シリーズ」を始めます!

 

「雑誌の編集長」ってなんかヤバそうな生き物な気がしませんか?

 

僕、小学生のときから雑誌が大好きなんですけど、雑誌って1ページ1ページがすごい情報量で、隅から隅まで読もうとしたら一日時間を潰せちゃいます。なのに、パラパラめくっているだけでも楽しいっていう。

 

何、あれ。

 

奇跡?

 

雑誌って、編集長の頭の中が具現化したものなんです。

だから、雑誌の編集長の頭の中を覗きたい!

 

さっそくですが、そんな気持ちで、この日は小学館を訪れました。

 

お目当ては、「日本文化の入り口マガジン」をキャッチコピーに掲げる雑誌『和樂』編集部。

 

2001年創刊の隔月発行の雑誌で、読者は40代〜50代の女性が中心です。

 

そんな『和樂』を率いるのが、高木さん。

 

話を聞いた人:高木史郎(たかぎ・しろう)

1970年生まれ。大学卒業後2年間、ヨーロッパ、北アフリカを中心にバックパック旅行を経験。テレビの制作会社を経て小学館入社。『Domani』7年、『和樂』15年の編集を手がける。
好きなもの:仏像巡り、土門 拳、喫茶店、マンガ、ボブ・マーリー、雑草観察、スキー、どぶろく、ビール、トルコライス、セントジェームス、顔ハメ写真

 

高木さんはもともと「美と知と心のハイライフマガジン」というキャッチコピーを掲げていた『和樂』を、編集長になってリニューアル。

 

「日本文化の入り口マガジン」とコピーを掲げると同時に、「茶の湯ROCK!!」などのぶっとんだ企画で『和樂』の間口を広げていきます。

 

これが、ヤバい。

 

「ボブ・ディラン」と日本の「名茶碗」を並列に並べちゃう。

 

ロック・ミュージシャンの名言と、茶器。

小学館という大きな会社でこんなことやってるのって、異端中の異端じゃないですか? 偉い人とかに怒られないのかな?

 

聞いていくと、

・雑誌とウェブの編集に留まらず、商品開発、コンサルティングまでやってる

・ルーツは基本、プロレス

・影響を受けたのは、アントニオ猪木

・猪木の異種格闘技路線を誌面に反映

・ぶっとんだ商品をつくりまくり

・日本経済新聞社と『浮世絵2020』プロジェクトを立ち上げ

・エンディングというテーマはライフワーク

・父と祖父が蒸発

などなど、楽しい(?)話が盛りだくさん。

 

高木さんの頭の中、想像以上にヤバかったです。

 

ルーツはプロレスの異種格闘技路線?

「先日、『ジモコロ』の記事で、共栄さんの棺に入ってきたくいしんです。今日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。棺、入ってましたね。うちのスタッフにもバカウケでした(笑)」

 

人生で初めて「棺」に入ったら死生観が揺らいだ話

(※『和樂』は上記の記事の共栄さんとコラボして、オリジナル棺もつくっている。ジモコロに共栄さんを紹介してくれたのが、高木さん)

 

「今日は、雑誌『和樂』のことを聞きたくて来ました」

「はい。なんでも聞いてください」

「『和樂』って、『茶の湯★レボリューション』とか『若冲とフェルメール』とか『茶の湯はROCKだ!!』とか、めちゃくちゃ尖った特徴的な特集が多いですよね」

「ありがとうございます」

「高木さんの頭の中でどんなことが考えられて、どうやってこういう特集がつくられるのか聞いてみたいなと思いまして。考え方のルーツや発想のきっかけってありますか?」

基本、プロレスでしょうね

 

「(プロレスなの!?)」

「プロレスを見ていると『人様にお金を払っていただくってどういうことなのかな』って、考えさせられるんです」

「なるほど?」

「僕がずっと参考にしているのは、アントニオ猪木です」

「猪木」

「猪木の異種格闘技路線がすごく好きで。たとえばこれは歌舞伎の特集なんですけども」

 

「『歌舞伎vs世界のエンタメ』という切り口で、歌舞伎対ロックとか、歌舞伎対バレエとか、歌舞伎対映画とか。これはアントニオ猪木が言っていた『環状八号線理論』にも通ずるところがあって

「環状八号線理論とは…なんですか?」

「プロレスは当時、まだ環状七号線くらいまでの認知しかなかったんです。それを、環状八号線を超えた存在にする必要があった」

「より広い相手を想定して自分たちを売り込まないと、っていう」

「そうなんです。プロレスが好きな人だけじゃなくて、プロレス一般的な事件にる。だから、アントニオ猪木は、新宿で夫人と買い物中の自分をタイガー・ジェット・シンに襲わせたりしました。あれは事件として新聞でも報道されましたから

 

※1973年11月、タイガー・ジェット・シンは来日中に買い物中だったアントニオ猪木を新宿伊勢丹前で襲撃。猪木は街中で負傷し、血だらけになった。この事件はプロレスがより世の中に広がるきっかけのひとつでもあった

 

「そうやって考えると、異種格闘技路線もそういう想いがあったんじゃないかなと。モハメド・アリと戦うことによって、プロレスを普遍的な存在にするっていう」

「『歌舞伎vs世界のエンタメ』もそれと同じですか?」

「そう。今までやって来た歌舞伎の特集って、どうしても歌舞伎のファンしか集められないなってあるとき感じたんです。その方に向けた歌舞伎の記事をつくるとすると、歌舞伎役者の方にインタビューをするとか、この芸の見どころは〜とか」

「なるほど」

「歌舞伎vs映画であれば、映画ファンにも歌舞伎のことを知ってもらえるんです。そこで考えたのが…たとえば、これなんですけど」

 

「なんですかこれ。縄文土器?」

「そうそう」

 

パカッ

 

国宝の縄文土器をモチーフにしたカップヌードル入れ

「カップヌードル入れ!?!?(笑)」

『縄文DoKi★DoKiクッカー』という商品です。59,800円するんですけど、つくった15個があっという間に完売しました」

「59,800円? しかも完売? なぜこれをつくろうと思ったんですか?」

そもそものきっかけはカップヌードルを縄文土器で食べたいってだけだったんですけど」

「ふつうの人間ってそんな欲求芽生えますか?」

「で、日清食品に飛び込み感覚で営業に行きまして。なんでそれをやりたいのかって説明するときに、オリンピック憲章には『スポーツと文化のマリアージュ』ってきちんと書かれているんです

「へえ! そんなことが」

1936年のベルリンオリンピックまでは、アートって種目があったんですよ」

「ええええ。初めて知りました」

「だから『日清食品はオリンピックに向けてオフィシャルパートナーとしてアートをやらなくちゃいけない』…っていう企画書をつくって(笑)。その結果、これができました」

「できちゃうのがすごい」

 

他にも、高木さんが手がけた商品はたくさん。

 

真ん中に置いてあるのは、江戸時代の浮世絵師「写楽」をイメージした招き猫。

 

この帽子は、葛飾北斎の妖怪をイメージしたレザーハット。

 

お次は、孫の手。

国宝の「十一面観音(じゅういちめんかんのん)」の手でつくった「孫の手」、名付けて「仏(ぶつ)の手」なんです。

 

機能性は…

ノーコメントでお願いします。

 

 

「編集者」という役割から逸脱する高木さんの役割

「そもそも高木さんは『和樂』においてどんな役割を担ってるんですか?」

「僕、実は、今は雑誌『和樂』の編集長ではなくて。ウェブと、商品開発と、コンサルティングの担当になってますね」

「商品開発やコンサルティングというのは、本来は、編集者の役割ではないですよね。むしろそこからどれだけ逸脱するかを楽しんでいる方なのかな?って想像したんですけど」

「極端に言えば女性誌みたいな雑誌って、『広告の枠をこれだけ売れば収益が立つからオッケー』という世界だったんですけど。今はそれだけだと立ち行かないことが多くなってきているんです」

「雑誌業界全体の売上が落ちてるっていう話」

「だからさらに、読んでくれる方々を巻き込んでいく場も一緒につくらなきゃいけないんですね」

「なるほど。場づくりまでやるのが編集者の仕事になってる」

「最近だと、日本経済新聞社と『浮世絵2020』というプロジェクトを立ち上げて。そこに参加くださる方々や企業を募っています。あとは、カップヌードル入れをつくったときも、たまたま同時期に京都国立博物館で国宝展をやることが決定したんです」

「たまたまの引き寄せがすごい」

「それで、じゃあ小学館でも国宝プロジェクトをやろうということで『ニッポンの国宝100』というウィークリーブックをつくり始めました。これは日清食品やJR東海が国宝応援団に参加して盛り上がったので、売上的にもいい形になっていきました」

※ウィークリーブック=小学館の週間の雑誌

 

「つまり、商品を開発して、展示会等のプロジェクトをつくって、セットで企業に協賛してもらったりして売上をつくっていくっていう形なんですね」

「うん。たぶん、2020年は浮世絵が盛り上がると思うんですけど。全国47都道府県と浮世絵のコラボグッズをつくりたいなと考えていて、今は、スポンサードしてくれる企業を探している段階です」

「聞けば聞くほど編集者という仕事から逸脱していますね(笑)」

「…僕が最近やっていることは、出版の仕事ではなくなってきていますね…」

「うんうん」

「出版の仕事ではないことをやっているから、『なんでこんなことをやっているんだ』って思っている人もいるでしょうし。そういう意味では、2日に一度は心が折れてます(笑)

「月15回。めちゃくちゃ折れてる!(笑)」

 

心が折れすぎて、めちゃくちゃ笑っている高木さん

 

「雑誌というメディアとしてだけ考えると、やらなくていいことをやっているので、どういうふうにモチベーションをつくっていくかというのは…なかなかハードなんです」

「勝手なイメージなんですけど、出版業界自体が、本業以外をやることを好まないという印象もあります」

「そうなんですよね。でも、最近はみなさんやっぱりそれじゃダメだっていうことに、気づき始めてますよ。外資系も、そうやって多角的な事業の走らせ方をしてるし」

 

インフォメーションからメッセージを発信するべき時代に

「今回、このジモコロ編集長シリーズをやる上で、ジモコロ編集部としては、最近、雑誌、めちゃくちゃ気合い入ってない?』みたいな仮説がありまして」

「はい」

「そもそも徹底的につくり込まれることが前提の雑誌という媒体が、今、ウェブが出てきて変わらきゃいけないタイミングで、時代に合わせて変化しているんじゃないかなと」

「紙の編集者ってずっと意識してると思うんですけど。自分たちがつくっていたものって、ウェブが今のように広がる前は、『インフォメーション』だったわけです」

「情報だったと」

 

「高級なインフォメーションなのか、意味のないインフォメーションなのか、いろいろあったとは思うんですけど、インフォメーションであることには変わらなかった」

「今はどうなっているんですか?」

「今はそれが、メッセージになりつつあって。情報じゃなくて、メッセージを売っていかなきゃ』というところに、みんなだんだん、思い至り始めていると思います」

「ほうほう」

「どんないい情報だろうと基本的には無料に近づいていくときに、じゃあ何が売れるんだ?』と考えると、メッセージなんじゃないかって考えている人が多いんです」

「高木さんにとっては、そのうちのひとつが異種格闘技だったりとか」

「はい。一方で『和樂web』では、現状は割とその真逆のことをやっています。ウェブって『メッセージ性』をものすごく伝えにくいメディアですよね」

「よく言われるのは、雑誌のようにパッケージで見せられるわけじゃないから、記事とかページのひとつひとつでインパクトを出していくしかないっていう」

『和樂』の話をすると、今は過渡期なんだと思います。紙とウェブ、どちらも見れるディレクターが必要なんですけど。今はまだウェブの基礎を育てなくてはいけない段階なので、僕がウェブを担当する形になっていますね」

 

「高木さんの考える『紙とウェブの違い』って何かありますか?」

「これは『メッセージ性』にも通じるんですけど、ウェブメディアは見てくれる方が、基本的にはすごく受動的ですよね」

「はい」

「でも雑誌を読む行為は能動的」

「雑誌は、受動的に読むってことがありえないですもんね」

「そうそう。本屋に行って、本や雑誌を買うってことがまず能動的ですよね。さらにページをめくることも能動的」

「たしかに。雑誌を読むことって、情報の摂取の仕方としてウェブと全然違いますよね。咀嚼回数が多いというか」

「受動性が高まると、ディティールがすっ飛ばされるんです。だから、みんなあらすじしか追わないようになる」

「ウェブ記事は、見出しと太字の箇所だけで意味が通じるようにしろ、みたいなことよく言いますね」

「その受動的なものが、どこかから能動的になるポイントがあるんじゃないかな…ということを今考えています。探している最中ではあるんですけど」

「結論はまだ出てないと」

「はい。ただ、受動的な入り口としては、ウェブはいいんですよね。だからこそ『日本文化の入り口マガジン』である『和樂』としては、どんなことができるんだろうと、模索し始めたところですね」

 

尊敬する編集者、芝田暁

「最後にちょっと聞きたかったことなんですけど。尊敬する編集者さんっていますか?」

「います。芝田暁(しばた あきら)さんという方で。大月書店、徳間書店、幻冬舎で書籍編集者をしていた方で。僕はその方に編集のすべてを教えてもらいました」

「今は何をしている方なんですか?」

「その後、ポプラ社を経て、今は朝日新聞出版にいます。僕が、芝田さんが編集された本で一番好きなのが、梁石日(ヤン ソギル)さんの『血と骨』なんですけど。一度、新宿のスナックで芝田さんと梁さんとご一緒させていただいたことがあります」

「すごい機会ですね」

「芝田さんなんて当時まだ35、6歳でしたけど。ふたりともハードボイルドで、カッコよかったですよ。両切りのピース(タバコの銘柄)をコンコン、ってやって。その傍らでは、梁さんがカラオケで軍歌を歌っていて(笑)」

「魂を燃やしてる感じ」

「そうですね。芝田さんとお付き合いさせてもらうようになって、スナックでの姿とかを見て、『これまで上っ面でやってたな』って思いましたね。自分は真の意味で編集にはなれないので、じゃあ自分が雑誌でできることってなんだろう、と考えたときに、自分の頭の中を雑誌に詰め込んで、読者の方に受け取ってもらうことだって思ったんです」

 

さいごに

プロレスとアントニオ猪木に影響を受け、「異種格闘技路線」を雑誌に取り込み、編集に留まらず商品開発やコンサルティングの仕事まで、自分の肩書きの幅を飛び越えてきた高木さん。

 

最後に、尊敬する編集者である芝田暁さんとのお話を聞いて、『和樂』の企画と編集の真髄をちょっとだけわかった気持ちになりました。自分をさらけ出して、頭の中を、つくるモノに詰め込む。

 

高木さんは、自分の腹を割って、その中身を雑誌に詰め込んでる。棺に縄文土器、孫の手…その頭の中は、掘れば掘るほど、興味深い…。

 

ゆえに…もっと高木さんの頭の中をもっと伝えたい!

けど、ヤバい話が多すぎる…。

 

冒頭で触れた

・エンディングというテーマはライフワーク

・父と祖父が蒸発

には、辿り着けませんでした…。

 

というわけで、話が盛り上がりすぎてインタビューが2時間を超えちゃったこともあり、続きは後編で。

 

明日公開予定の後編では、高木さんの半生を通して、その死生観に迫ります!


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