カタカタ……
原稿おわんない!!
こんにちは。こんな修羅場から失礼します。ライターの浅田よわ美です。
私は4月からフリーライターとしての活動を開始したのですが、実は最近悩んでいることがあるんです。
文章を書くのって、実はめっちゃ難しくないですか?
社会人になれば、メールのやりとりも発生するのですが、いざ会ってみたら話が違うなんてことはざら。わざわざ残した議事録も解釈の違いで揉めることもあるわけです。
しかしこの現代は、メールやSNSをはじめ、あらゆるコミュニケーションが文章で行われています。
ライターとして、文章を書くことに向き合うにつれて、人々は本当に文面でのコミュニケーションがきちんと取れているんだろうかとふと不安になったわけです。
本当に私の言葉ちゃんと伝わってる…?
そんなことを悩んでいる時に、とあるホームページを発見したんです。
それがこの企業広報支援ライター・大島悠さんのページ。
(※肩書きは2018年6月時点のもの)
まずはこちらの文章を見てください!
日々、忙しく現場で力を尽くしている方ほど、自分の会社そのものや、自社サービス・商品に強い想いをお持ちです。あれもこれもそれも、余すことなく伝えたい――。ただ、そんな気持ちが一方的にあふれてしまうと、どうしても相手とのあいだに温度差が生まれ、“伝わりにくい”コミュニケーションにつながってしまうのです。
伝えたい想いや魅力があるのに伝えきれない!
やっぱり私と同じような悩みを持つ人はいっぱいいたんです!
しかし、一体、大島さんはどのようにして、言葉を人に届けているんでしょうか。「広報支援」の力を借りれば、そんな魔法みたいなことができるの?
私はその悩みを解決するべく、大島さんの元へと向かいました。
全ての人に届く言葉なんてないからこそ、考える必要がある
「こんにちは! ホームページを拝見して、お伺いしました! 実はライターとしてあるまじき相談なのですが、伝えたいことを言葉で的確に伝えるのって難しいなあと思っていて…」
「そうですよね。実はいま、書くことに悩んでいるのはライターさんだけではないんですよ」
「やっぱりそうなんですか?」
「はい。企業の広報担当者から街中の中学生まで、あらゆる人がSNSなどで自ら言葉を書く機会を持っています。しかし、なかなかうまく伝えることができない。だから『想いや魅力を伝える方法』をみんなが探しているんです」
「なるほど。みんなも悩んでるんだなあ…」
「でも言葉はうまく伝わらなくて当たり前なんです。どんな言葉も聞き手によって、受け取り方は異なります。そもそも正しいコミュニケーションの形なんてないんですよ」
「正しいコミュニケーションは…存在しない…?」
「はい。だから『誰に対しても完璧に言葉を届ける素晴らしい方法』なんてものもありません。そもそも本当の意味で人間同士が理解し合えることなんて、ほぼないのではないでしょうか」
「えっ…じゃあ大島さんはどうやっているんですか…」
「はい。全てを100%を伝えることはできないと思います。しかし、10%しか伝わっていなかったものを5~60%くらいにすることはできると思うんです」
「おお…なんだか光が見えてきました」
「私自身も正解なんて、永遠に見つけられないとは思っています。ただ伝わらないからこそ、伝えるために試行錯誤してみることが大切なのだと思いませんか?」
「確かに…そうかもしれません」
「すぐに上達するものではありませんが、『広報』的な視点から改めて『伝えること』を見つめ直すと色々見えてくるものがあると思いますよ」
「すごい! 文章書けるようになりそう…!ぜひ聞きたいです」
目的のない想いは伝わらない!まずは「目的の設定」をすること
「では早速ですが、よわ美さんは文章を書くときに何を考えていますか?」
「うーん…やっぱり取材に協力いただいた人の気持ちや自分の想いを伝えたいとかですかね…」
「なるほど。それはとても大切なことですよね。ただ、実は気持ちや想いばかりが前に出た文章って、とても読みづらい気がするんです」
「え…そうなんですか?」
「想いだけを熱心に伝えようとしても、理由や根拠がないと読者が置いてきぼりになってしまうんです。『その想いを持つ理由』や『想いに基づいて、その人がどのように行動したか』という客観的な事実がないと届かないんですよ」
「あ、言われてみると、たしかに熱意だけの文章を読んでいると、結構冷めちゃうかも…」
「自分が読者になったつもりで考えてみると、わかりますよね。だから文章を書くためには…」
「『主観』と『客観』のバランスが大事なんです」
「(メガネくいっとした…)バランスですか」
「はい。相手の言葉に共感している書き手の『想い』だけでも読者は冷めてしまう。客観性だけを重視すると、ただの事実の羅列になってしまう。だからそこのバランスを考えるんです」
「なるほど! でも難しそう…」
「そのためには、まず書く目的をきちんと考える必要があるんですよ。例えば企業の採用活動に使う文章を書く場合、読んだ人に共感してもらい、求人に応募してもらうことが目的ですよね」
「はい、そうですね」
「そのためには『来て欲しい!』という熱い想いも必要ですが、何より会社の事業内容や特色、カルチャーなどを正確に伝える必要があるんです」
「『アットホームな職場です!』とだけ伝えても仕方がないと」
「そうです。この場合、想いよりも情報の整理が大事です。どんなに熱い想いが込められていたり、文学的に素晴らしい文章だとしても、本来の会社の姿をわかりやすく伝えることができなければ、意味がないんです」
「なるほど。目的のない想いは届かないのか」
「はい。だから文章の適切な長さも目的によって変わってくるんですよ」
「え…!? そうなんですか?」
「はい。単に「長文は読まれない!」と思い込んでいる人が多いですが、例えば自分が入社したい会社の情報なら、多少は長くてもしっかり読み込みますよね」
「なるほど。確かに興味がある分野なら、どんなに長くても丁寧に読みますね」
「そうなんです。だから目的があれば、『何を』『誰に』『どのように』伝えるかが明確になるんですよ。だから記事に限らず、あらゆる発信の際には目的をまず考えるくせをつけるといいかもしれませんね」
本心を引き出すために、まず「歴史」から
「書く時には意識すること、とても勉強になりました。ただ大島さんは記事を書くときには取材をどのようにするんでしょう?」
「そうですね。『目を見つめ過ぎない』などの細かいテクニックはあるのですが、それは一旦置いておいて」
「(めっちゃ気になる…)」
「私が特に気をつけているのは、取材者さんから素の言葉を引き出すということです」
「素の言葉…?まさか…」
「本心を聞き出す方法があるんですか?! 」
「あ…いや….この場合は、『定型文じゃない言葉をいかに引き出すか』ということなんですけど。どうしても経営者など話し慣れている方だと、外向きに用意された言葉になりがちですので」
「え!! そのスキルがあればなんでもできそう!! ぜひ教えてください!!」
「(勢いがすごいな…)わかりました。私の場合、インタビューで必ず聞くようにしていることがあるんです」
「ふむふむ…(メモを取り出す)それは一体なんですか?」
「相手のこれまでの歴史です」
「人の歴史…生き様がわかりそうですね」
「そうなんです。私の取材対象者の多くは企業の中の方が多いのですが、創業の背景やこれまでの沿革から聞いていくと、その会社が大事にしていきたいものや、今後進むべき方向性など重要な要素が見えてくるわけです」
「そこまで分かるものなんですか…?」
「例えば、過去の製品ラインナップを見るだけでも、どういう方向性で進んできたかがわかりますよね。企業として拡大路線ではなく、あえてずっと小さく続けているとか」
「なるほど! 個人相手の取材にも応用できそう!」
「そうですね。その人や企業がこれまで紡いできた歴史こそが、個性や魅力を教えてくれることが多いんです」
「私の個性も歴史を探れば出てくるのか」
「自分一人で考えるとドツボにはまるので、自分以外の誰かに話してみるのがいいかもしれませんね。もちろんそれが会社に置き換わっても同じです」
「私の歴史、聞いてくれる人いないかなあ…」
「第三者に聞いてもらうのは大切だと思いますよ。長所って自分が考えているものはピントがずれてしまっていることが多いんです」
「(え、私の場合もそうなのかな…)」
「例えば少なくない企業が『お客様第一主義』などの企業理念を掲げていますが、想いベースでちょっとぼんやりしているし、どこも似通ってしまうんですよね。でも過去の歴史を探れば、自ずと長所って見えてくるんですよね」
「想いはぼんやりしたものだから、あくまで事実からしか見えないものがあると…」
「そうです。だから事実をまずはじめに聞いて、そこから主観的な質問を広げていくことが大事です」
「でも、会社のことならサービスや製品のことを聞いてしまうのが一番早い気もするのですが」
「サービスや商品のスペックではもう差別化するのが難しいんです。部外者から見ると、どれもほとんど同じに見えてしまいます。例えば、テレビの薄さが一ミリ違うことで商品に愛着が湧くことはないじゃないですか」
「確かに言われてみると…」
「ただそのサービスや商品が生まれた背景や歴史はどこも絶対に同じなんてことはないんです。そのプロセスにある事実をひもといて、想いを引き出すことが大切だと思っています」
「広報」の本来の目的は「伝えることだけ」じゃない?
「広報の視点っていろんなことにつながっているんですね。なんだか文章が書けそうな気がしてきました」
「よかったです。でも広報の本来の役割って『ユーザーに何かを伝えて終わり』ということではないんですよ」
「えっ! どういうことですか?」
「もともと、日本でいう「広報」の上位の考え方に「Public Relations」というものがあります。日本では「PR」と略されて、プロモーションやパブリシティのことだと思われているケースが多いですけど」
「あー、たしかにPRって宣伝的な意味で使ってたかも」
「今は混同されていますよね。でも本来はそうではなく、企業が情報をオープンにし、きちんとしかるべき人たちに伝えていくことで、「社会との関係性を構築する」ことが重要。それがPRの考え方です」
「関係を構築する…? ピンとこないですね」
「そうですね……例えば、製品のスペックをいくら伝えても「よし、この会社を応援しよう!」とはならないじゃないですか。でもその開発の背景や担当者の想いが少しでも伝われば、共感や信頼が生まれやすくなる。それが「関係性を築く」ことにつながるんです」
「『PR』について簡単にご説明するとこんな感じでしょうか」
「なるほど…。すべての人とはお客さん以外のことも?」
「はい。企業は、顧客だけではなく、従業員や地域社会など、関わる全ての人に自分たちのことを伝えて信頼関係を築いていく必要があるんです。そのため、経営者の想いや企業理念などを、伝わりやすいメッセージに変えて発信していくことが重要です」
「それも広報の役割なんですか…?」
「私はそう考えています。どんなにすばらしい企業理念を掲げていても、強い想いを持った経営者の方がいても、それが十分に伝わらなければ「関係性」は生まれないですよね。企業があらゆる人とコミュニケーションを重ねていくためには、言語化が欠かせないんです」
「へえ〜。コミュニケーションのための言語化…なんだか翻訳業みたいですね」
「そうかもしれないですね。言葉はうまく伝わらなくて当たり前。答えなどありません。だからこそ探し続けるんです」
「なるほど。その結果が技術として積み上がってくると」
「はい。そして『広報』において伝えることは目的ではありません。伝えることはあくまで過程で、最終的な目標は相手との関係性を作ることです」
「なるほど…」
「はい。伝えることはゴールではなく、スタート地点。だからこそ正解を探し続けているのかもしれませんね」
おわりに
広報という視点から「言葉を伝えるために必要なこと」を伺った今回のインタビュー。私にとって本当に有難い機会になりました。
「伝えること」に、真摯に向き合い続ける大島さんの姿勢に触れられたことは、何にも代え難い学びになったように思います。
・正しい伝え方などないから、そのつど考え続けるしかない
・発信が上手と言われている人たちも、はじめから上手だったわけではなく訓練を重ねた結果である
今回、大島さんにいただいた力強いエールや教えをしっかり反芻しながら、私も「言葉でのコミュニケーション」 を常に探り続けていきたいと思います。
と、あらためて強く決心をしたところで、それではまたー!