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「火星人のタオルを作りたい」 タオルマニアの社長が語る『今治』復活の20年計画

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「火星人のタオルを作りたい」 タオルマニアの社長が語る『今治』復活の20年計画

こんにちは、ライターの友光だんごです。人それぞれ、小さなこだわりがたくさんあると思いますが、僕は「タオル」です。

朝起きて顔を洗ったあとに使うタオルのフカフカ具合で、その日のコンディションが決まると言っても過言ではありません。

 

数あるタオルの中で、一番お気に入りのブランドは「今治タオル」

 

今治(いまばり)とは、愛媛県にある古くからのタオル産地。

ユニクロのロゴを作った超有名デザイナー・佐藤可士和さんがブランディングを手がけていることでも知られる今治タオルですが、ここ10年ほどで急に名前を目にするようになりました。

それもそのはず、独自の品質基準をもつ今治タオルは「めちゃくちゃ気持ちいい」んです。

 

あ〜〜〜これこれ、この柔らかさ! 風呂上がりにこのバスタオルで体を拭いたらどんなに幸せなことでしょう。

 

しかし、思ったんです。なんでこんなに今治タオルって気持ちいいんでしょう?

 

他の土地で作られるタオルと何が違うんだろう……そもそも、なんで最近になって「今治タオル」の名前をよく聞くようになったんでしょうか?

これは気になる!

 

ということで今治タオルの秘密について調査すべく、1963年に創業した愛媛県今治市のタオルメーカー「渡辺パイル織物」さんにお邪魔しました!

 

話を聞いた人:渡邊利雄さん

1958年、今治市生まれ。一橋大学を卒業後、渡辺パイル織物の2代目社長に就任。入社当初は仕事の傍ら職業訓練校に通い、織機の仕組みや織りのノウハウを学ぶ。現在は糸の設計から織りの組織、デザインまで一貫してものづくりに関わる。

 

瞬間消臭タオルに極薄タオル! 今治タオルの最前線

「こんにちは。今日は今治タオルの話を聞きにきたとか?」

「はい。巷で『今治タオル=いいタオル』というイメージがあると思うのですが、その理由を探りにきました」

「なるほど。では、まず最初に面白いものをお見せしましょう」

 

「急に何か始まった」

「まずは普通のタオルに、あるスプレーをします」

 

「ちょっと嗅いでみてください」

「え、なんだろう」

 

「くっさ!!!!!!!!! 」

「アンモニアをスプレーしたので」

「なんてものを嗅がせるんですか」

 

「次に、この緑色のタオルにスプレーします。さ、嗅いでみてください」

「え、いやいや、どうせ臭いんでしょう……」

 

「…………」

 

「あれ、臭くない!なんで!!!???」

 

「これは開発中の消臭効果のあるタオルなんです」

「公衆トイレのやばいやつみたいな臭いが一瞬で消えた…魔法…?」

「詳細は企業秘密なのでお伝えできないのですが…一般的な炭による消臭効果のあるタオルに加え、約半分の価格を想定しています」

「この消臭効果があって、お手頃価格って素晴らしいですね」

「病院や介護の現場で使っていただきたくて、商品化に向けて準備中です」

 

「それからこれは、極薄のタオルです」

「え、白いほうもタオルなんですか? 言われないとわからないです。ガーゼみたいに薄い…

「これ以上は薄くならないレベルです。タオルは糸がループ状になった『パイル』のある生地なので、どうしても厚みが出る。このタオルはものすごく細い糸で作っているから、薄いし、軽い。タオル地ですから、吸水性もいいです。汗を吸うのでTシャツの生地なんかにいいでしょうね」

「なんだか未来のタオルって感じです。最新のタオルはこんなことになってたのか…」

 

「織り方もいろんな種類があるんです。これは『ワッフル織り』。普通は模様が四角なんですが、これは六角形のハニカム構造になっていて、すごく水の吸いがいいんです。頭を乾かす時間が短くてすむし、かさばらない」

 

「これもタオルなんですか?」

「ええ、うちはタオル生地をアパレルにも卸していまして、洋服の生地になるものですね」

「いろいろありますね〜、面白いな」

 

そう、タオルって面白いんですよ! タオルの何がすごいって、私たちがタオルを使わない日はないですよね。日本だけでなく、世界のほとんどの国でタオルが使われている。朝起きて顔を洗ってタオルを使い、帰ってお風呂上がりにタオルを使い……1日に何枚も使うんですよ。それにね…」

「しゃ、社長がすごくタオル好きなのは伝わりました。あの、タオルの中でも、今治タオルのすごさって、ずばり何なのでしょうか?」

「第一に『クオリティの高さ』でしょうね。吸水率、脱毛率、パイル保持性など、組合が独自の基準を定めています。ちょっと実験してみましょう」

 

「ほら、一発でしょう。新品のタオルですけど、水が浮かずに吸い込まれる。タオルの精錬がきちんとされていれば、しっかり水を吸うんですよ」

「新品のタオルって全然水を吸わないイメージがあったのに…ちなみに『精錬』とは?」

「綿の繊維のままだと水を吸わないんです。だから、綿に水を落としてやると…」

 

「本当だ、水滴のまま乗ってる!」

「油分を含んでるし、毛羽があるから、綿は水を弾く。その油分や毛羽を取り除いてやるのが精錬です」

「は〜なるほど」

「ちなみに脱毛率=毛羽の落ちやすさなんですけど、今治タオル工業組合の無撚糸タオルの脱毛率の基準が0.5%なのに対して、うちは0.1%を目指しています」

「つまり、毛羽が落ちづらい?」

「そうそう、なぜならタオルは赤ちゃんが口に入れるでしょう。でも、鼻から毛羽が入ると蓄膿症などになりやすいという説がある。だから、できるだけ毛羽落ちをなくしてるんです。そのほうが肌触りもよくなりますしね」

 

柔らかいタオルは「水」が命

「そもそも、今治でタオル産業がさかんになったのはどうしてなんでしょう?」

「まずは『伊予木綿』という綿が愛媛で作られていた。それに香川や岡山といった綿の名産地も近いですね。さらに、今治の水は軟水なのですが、これがタオルを作るのにとてもよかったんです

「と、いいますと?」

「マグネシウムとカルシウムを多く含むのが硬水、その反対が軟水です。タオルを水で洗う際に、マグネシウムやカルシウムが繊維につくと、固くなってしまうんです。だから軟水で洗うと、柔らかいタオルになるんです。現在、今治の染色する工場では、より良い水で加工するために軟水化プラントで軟水にしています」

「今治タオルの柔らかさには、そんな理由もあったんですね。まさにタオルをつくるのに最高の土地…」

 

「ほかにも糸や織り方や、いろんな要素がありますけどね。私はいつも、そんな風にタオルのことばかり考えてますよ」

「社長自身がタオルの仕様を考えてらっしゃるんですか?」

「ええ、私がタオルの糸から織り方からすべて設計しています。糸から新たに作ることもあります」

 

「ありがたいことに、渡辺パイル織物でつくるタオル生地は、海外の有名メゾンや、日本の人気アーティストの衣装にも採用されてるんですよ。名前は出せないんだけど〇〇とか△△とか……」

「わーめちゃくちゃ知ってるところ!!! タオル地の洋服ってあんまり見ないですけど、そんな需要があるんですね」

「糸や織りの種類でいろんな生地が作れるんですよ。いろんな技術を持っていると、おかげさまであちらから声をかけていただくんです」

「だからオリジナル商品もたくさんあるんですね」

「積極的にオリジナル商品をつくることは、うちが問屋を通さない直販のスタイルだからできることですね。10年ほど前から、ほぼ直販に切り替えたんです。大量に作って大量に売るこれまでのやり方だと、だんだん厳しくなっていますから」

「なるほど。業界の状況が厳しくなっても、高い技術力があれば自分たちで販路も開拓できると」

 

「タオルは毎日みんなが使うものだとすると、需要はそうそう減らないような気もします。業界的に、いまはどのような状況なのでしょうか」

「日本人とタオルの関係が、最近変わってきていると思います。昔はタオルがタンスの肥やしになっていました。なぜならタオルは仏事のお返しや贈り物としてもらうことが多かったですから」

「そういえば、実家のタンスにもタオルがたくさんありました。あれ、明らかに肥やしだったな…実家を出るとき、嬉しそうにたくさん持たせられたし」

「昔はお中元とお歳暮の時期にタオルがすごく売れました。でも今は違います。なぜなら、お中元やお歳暮も少なくなっていますし、タオルのお返しが必要になる大規模なお葬式をする家も減りました。そこで、タオルがもらうものから、買うものに変わってきているんです

 

「もらいすぎて困るから、自分で進んで買うものということですね。それこそ今治タオルのような『いいタオル』を買おう、というように?」

「ええ、まさに今治タオルが復活した頃から、潮目が変わったように思います。適当なタオルを使うのではなく、こだわって選んだいいものを使おう、と消費者の皆さんの考えがガラッと変化したんじゃないでしょうか

 

今治タオルを変えたのは、タオルメーカー自身だった

タグにも使われている今治タオルのロゴは、佐藤可士和さんが手がけたもの。佐藤さんは今治タオル全体のブランディングを手がけている

 

「『今治タオル』って、10年ほど前から急に名前を聞くようになりましたよね。やっぱり、ブランディングを手がけた佐藤可士和さんの力が大きかったんでしょうか?」

「もちろん可士和さんにはお世話になってます。でもね……」

 

「今治タオルは、今治の人が自分たちの力で変えたんです」

 

「どういうことでしょう…?」

「きっかけは、1995年の『今治産地に未来はあるか』という冊子です」

 

「1995年というのは、中国をはじめとする海外からのタオル輸入量が、今治でのタオル生産量を上回った年でした。当時はタオルだけでなく、繊維産業全体で大量生産のために中国にバンバン工場を移していたわけです」

「中国は人件費が安いですから、そうすると安いタオルがどんどん入ってくる?」

「ええ、国産に比べて質は良くないけど安いから、みんな中国製のタオルを買うわけです。だから国内のタオルメーカーはそれは困ってね。これ以上輸入されたらかなわんと、当時の僕らは国会議事堂に血判状を持って乗り込んだんですが……

「そんな江戸時代の一揆みたいなことに! タオル一揆ですね」

「それくらい、我々は危機感を抱いていましたから。もう必死です」

 

「それで地元の人たちが立ち上がったんですか?」

「はい。今治のタオル組合で毎日のように集まって、産地の問題点や課題、そして復活のための長期プランを話し合ったんです。本音もバンバン話すし、時には喧々諤々でね。そこで面白いのがね、そこでタオルメーカーの人たちが、自ら『パキスタンの綿糸事情』『最近のアメリカ事情』のような論文を書いて、冊子に寄稿したんです」

「論文を…ということは、すごく勉強されていた?」

「その通り。外の人に頼るのではなく、自分たちで世の中の状況を調べて、知恵を絞って考え抜いたことが最初にあったんです。その時に、今治という『産地ブランド』を作り、独自の品質基準を決めながら、販路を開拓する…という再生プランが生まれました

「今の今治タオルブランドは、当時のプランの成果なんですね」

「そうなんです。2000年代前半から銀座に直営店を作ったり、新商品の開発を進めました。そして2006年には佐藤可士和さんに今治タオルのロゴを作っていただき、メディアプロモーションも展開……そうして今に繋がるんです」

 

「1995年から考えると、20年以上かけて今があるんですね。地元メーカーの人たちが立ち上がって、見事人気ブランドに。プロジェクトXみたいなストーリー…!」

「今治の人はね、前向きなんですよ。新しい考えを取り入れようという姿勢が昔からある。そういう土地柄もあったのかもしれませんね」

 

火星人のタオルを作りたい

「あの、最後に気になることがありまして。『こんなタオルを作りたい!』という社長の夢はありますか?」

「おお、ありますよ」

 

「火星人のタオルを作りたいんですよ。誰か捕まえてくれないかね…」

「へ???」

「火星人の体がネバネバかサラサラかわからないけど、どんな風でも彼らにぴったりのタオルが作れると思うんです。喋れなくてもいい。だって、使って喜んでくれさえすればいいですからね」

「もう人間じゃ飽き足らないってことですね」

地球上は当社の皆様にお任せします。私は宇宙。10年前に、『海外メゾンで生地を使ってもらうんだ』と言ってたら、みんな笑っていました。でも、今やそれがかないましたから、『念ずれば花開く』だと思います」

「壮大な夢ですけど、実現してほしいです」

「うちの家内に話すと『片道切符でいいわ』って言われるけどね? そりゃ帰ってくるなってことかってね。ハハハ……」

「ハハハ……」

「じゃ、取材はこんなものかな? よければ夕食ご一緒しましょう。私は17時からスイッチが入るんでね」

「なんと!ぜひご一緒させてください!」

 

おわりに

20年以上前に立ち上がった地元の人たちの力で、いまや日本を代表するブランドとなった今治タオル。その復活劇には、これからの地域ブランドを考える上でたくさんの学びがありました。

 

ちなみに、取材後は社長と一緒に今治の街へ繰り出し…

生楽器の演奏とともに歌うことができる「ライブバー」で、ピアノの腕前も披露してくださいました。めちゃくちゃ上手で驚いていたら、昔からジャズがお好きなんだとか。

 

社長の飽くなき好奇心が日々の研究につながり、次々と新たなタオルを生み出しているのだとつくづく実感しました。

日本を飛び出し、世界へ、そして宇宙へ(?)、今治タオルが届く日が楽しみです!

 

取材協力=渡辺パイル織物 http://www.watanabe-pile.jp/

撮影=えいみ(Instagram


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