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廃墟の女王『摩耶観光ホテル』を観光資源に!? 内部の調査に潜入した!

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廃墟の女王『摩耶観光ホテル』を観光資源に!? 内部の調査に潜入した!

こんにちは。ジモコロライターの田中嘉人です。今 僕は……

 

“廃墟の女王”と呼ばれる『摩耶観光ホテル』(兵庫県神戸市)に来ています!

 

……といっても、正直なところ廃墟の魅力は「??」な僕。だって、薄暗くて怖いし、ガラスの破片とか散らばってて危ないじゃないですか。

そこで、廃墟のおもしろさを学ぶべく、廃墟好きにとっては憧れの聖地『摩耶観光ホテル』に、足を踏み入れたのです。

 

え? 廃墟に入ったら不法侵入? いいえ、今回はそうではないのです。

その説明のために、まずはこちらの写真をご覧ください。

 


長崎県沖に浮かぶ“廃墟の王”軍艦島(正式名称:端島)

 

かつては5000人近くが暮らしていた炭鉱の島だったのですが、1974年に閉山。無人島になり、廃墟と化してしまったのです。

 

ところが、なんと2015年9月に世界文化遺産に登録! 今ではツアーが組まれるほどの人気となり、観光資源として有効活用されているんです。

 

 

このような動きを受け、『摩耶観光ホテル』を登録有形文化財にすべく、活動している人たちがいるんです。

廃虚の魅力を学ぶならうってつけ!ということで、特別に調査に同行させていただくことになったのでした!

 

摩耶観光ホテルが”廃虚の女王”と呼ばれるワケ

というわけで、やってきました神戸。摩耶ケーブル駅集合って言われたけども……?

 

ようこそ、摩耶山へ! 」

「わ! びっくりした! あなたは?」

「はじめまして! 摩耶観光ホテル保存プロジェクトを担当している前畑洋平です。廃虚の魅力を知りたいんですよね? とりあえず行ってみましょうか!」

 

前畑洋平

全国の近代化遺産の保存・記録活動を手がけるNPO法人J-heritage(ジェイ・ヘリテージ)代表

HPTwitter

 

前畑さんに導かれるままに摩耶ケーブルで「虹の駅」へ。

 

「虹の駅」の脇にある立入禁止の柵を超えて進んでいきます。今回は特別!

 

普通に山の中だから草木が邪魔するし、足場にはガラスや木片が落ちてるしで、進むのが難しい。調査の方々は慣れているのかズンズン進んでいく……

 

「フウフウ……! ずいぶんと山のなかにあるんですね」

「ハハハ、“女王様”ですからね。簡単には謁見できませんよ。あ、見えてきましたよ!」

「……!」

 

木々のざわめきと虫の声しか聞こえない森の中、ぽつんと佇む廃ホテルがそこにありました。 これが……摩耶観光ホテル!

 

朽ちて色を失った建造物とは裏腹に、夏の日差しを受けた緑が生命力に溢れていますね

 

人が生活した気配が、まだ生々しく残っています。まるで、つい最近まで誰かが居たような……

 

そんなヒトの残り香を優しく包み込むように、木々の緑が建物に絡みついていました

 

「田中さん! どうですか!?」

「廃墟と言うとなんとなく怖くてオカルトチックなもの、と思っていたんですが(実際ちょっと怖かった)、どこか懐かしくて、切ないような……なんですか? この感覚は!」

「“誰かがここで生活していたんだ”という気配と、“そして、今はもう誰もいない”という侘しさ、その感覚が、廃墟好きの入り口じゃないでしょうか」

「そして、マヤカンを実際に見るまでは、まっっったく理解できなかったのに、今は“美しい”と思ってしまっている自分がいます」

 

この角度は特に、摩耶観光ホテルが“廃墟の女王”と呼ばれる理由らしく、しばらく見とれてしまいました。

 

「そう、美しいですよね! 経年劣化するアールデコ様式の建築と、周囲を取り巻く自然が、時代の変化と共に絡み合っていく美しさ……」

「これ、内部はどうなってるんでしょう?」

「中も最高なんですよ! 見てみましょう!」

 

広く寂れた空間に天窓から降り注ぐ日の光

 

もう誰も座ることのない椅子と、窓の向こうに広がる森

 

摩耶観光ホテルを語るうえで欠かせない『額縁の部屋』

 

ヒトが居なくなったこの空気の中を、今 一人で歩いているんだ……という感覚に、ちょっとくらくらしますね。

 

「美しい……! マヤカンについてもっと知りたくなりました! 教えてください」

「すっかり虜じゃないですか。マヤカンを語るうえでのキーワードは『断続的な栄光と衰退』です」

「廃墟だから衰退はわかるんだけど、断続的な栄光って?」

 

「マヤカンは営業していた時代と、廃墟の時代を、何度も繰り返しているんです」

「そうなんだ!」

「最初は、摩耶山にケーブルを設置した会社が、ホテルやレストラン、温浴施設などが一緒になった福利厚生施設をつくるべく建設した『摩耶倶楽部』として建設されました」

「最初は会社の保養施設みたいなものだったんですね。贅沢だなぁ」

「その後、ホテルとして一般の人も利用できるようになるんですが、太平洋戦争が起きて、ホテルはほぼ休止。さらに空襲の被害もあって、それが第一次廃虚時代の始まりです」

 

摩耶山の展望台から望む摩耶観光ホテル。山の中腹にひっそりと佇んでいる

 

「再オープンしたのは、1961年。ケーブル会社からホテルを買い取った民間企業が高級ホテルとして再開しました。ところが、今度は台風によって復旧不可能なダメージを受けてしまいます。結局1967年には営業を中止」

「それが第二次廃虚時代か……」

「その後、1974年にゼミ合宿やサークル合宿専門の『摩耶学生センター』として利用され始めました。『廃虚に泊まれる』という売り文句も意外とウケて好調だったそうですが、管理人だった老夫婦が体調を崩して……」

「それで今に至るまで第三次廃墟時代が続いている、と……それにしても時代によって利用シーンが異なる点は興味深いですね」

「そうなんです。だから、もともと大浴場だったところが洋室になっていたり、剥がれた壁面に相合傘の落書きが残っていたり……そういうところを見るだけでも結構おもしろいですよ」

 

よーく見ると中央の壁紙の剥がれたところに、女性がシャワーを浴びていると思われる落書きが。

かつての浴室が、第一次廃虚時代に落書きされ、高級ホテルとして再出発を図る際に壁紙が貼られたのでしょう。その後、壁紙が剥がれて再び落書きが日の目を見るようになったと。

落書き一つにも歴史があるんですね。

 

登録有形文化財を目指して

「マヤカンへの異常な知識と愛に、少々引いてるんですが……前畑さんって何者なんですか?」

「僕は単なる廃虚マニアですよ。ただ、キャリアは長いですよ(笑)。小学校の頃から『ぼくらの七日間戦争』という映画に憧れて、秘密基地をつくって……」

「セブンデイズウォーですね! 僕も好きだったなぁ」

「普通は中学に進学すると辞めるんですよね。でも、僕はひとりで心霊スポットへ行って……社会人になってからは興味の対象が廃虚へ移ったというわけです」

「では、ただの廃墟マニアだった前畑さんがなぜNPOを?」

「最初は全然仕事にするつもりはなかったんです。でも、廃墟マニアってやっぱり、勝手に侵入しちゃうんですよね。僕も強くは言えないんですけど」

「まあ、若い頃の話ね」

「所有者からすると、勝手に侵入してケガでもされると困るわけで、最悪、せっかくの廃虚を解体してしまう可能性もある。だったら、ちゃんと許可を取って廃虚へ行ける仕組みをつくろうと思って、NPOを立ち上げたんですね」

「摩耶観光ホテルには、特に深く関わっているように感じましたけど。何か理由があるんですか?」

「NHKのとある番組に、オススメの廃虚リストを用意してほしいって頼まれたんですよ。そうしたらプロデューサーの方の紹介で、マヤカンの所有者さんと会えることになりました」

「まさかの展開」

「最初は『キミらみたいな廃虚マニアに迷惑してんねん』って感じだったんですが、話をするうちに少しずつ理解を示してくれて。地域が受け皿になり、かつ僕らが保存するための活動をするなら協力すると約束してくれました」

「所有者さんも摩耶観光ホテルを残したいという気持ちがあった、と?」

「というよりも、僕らみたいなちっちゃなNPOを応援したい気持ちがあるからって言ってましたね。『おまえら飯食えんのか?』みたいな(笑)」

「めっちゃいい話……!」

「前畑さんとしては摩耶観光ホテルをどのように残していこうと考えているんですか?」

「今は登録有形文化財への登録を目指しています。建設後50年が経過していて、『国土の歴史的景観に寄与しているもの』『造形の規範となっているもの』『再現することが容易でないもの』のどれかひとつに該当することが要件なんですが、マヤカンは全部当てはまってるんですよね」

「すごい!」

「あと、個人的には、摩耶山を活性化させていくにあたりマヤカンのコンテンツとしての価値、可能性もあると思います。マヤカンの力を摩耶山、ひいては灘区エリアに還元できると考えている地域の方もたくさんいるので」

「地域の人たちに愛されているって重要ポイントな気がします」

保存プロジェクトも順調で。 クラウドファンディングも500万円の目標に対して、727万7000円を達成しました」

「すごっ! そのお金って、どういうことに使われるんでしょう?」

「不法侵入でケガ人がでないようにする、というのが一番重要なので、まずは防犯の仕組みを作りました。あとは、日照りや雨風からの劣化を防ぐカバーを用意できそうですね」

 

マヤカンのなかにはいくつもの監視カメラが。24時間監視している

 

「順風満帆ですね」

「ただ、僕はやっぱりマヤカンのなかに入ってもらえる仕組みをつくっていきたい。安全確認調査も進めなきゃいけないし、同じような想いで取り組んでくれる仲間も欲しいですね」

 

廃墟の魅力ってなんだろう?

全国的に有名な摩耶観光ホテルは、映画のロケ地としてもよく使われています。

この正面の壁、実は映画『DEATH NOTE』撮影時に塗り直したそう。雰囲気を損なわないよう、あえて廃墟っぽく塗ってあるんです。廃墟の補修としては最高の方法では……?

 

「軍艦島が世界文化遺産になったように、摩耶観光ホテルもすんなり有形文化財として登録されるんじゃないですか? 追い風が吹いているというか」

「うーん……一概にそうとは言えませんね。逆に質問なのですが、軍艦島と聞いたら何をイメージしますか?」

「え? えーっと、あの巨大なコンクリートのアパートとか??」

 

 

「ですよね。でも、あの高層アパートは、世界文化遺産ではないんです」

「え?」

「『明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業として世界文化遺産に登録されているのは、軍艦島の周りを囲っている壁と、なかに残っている薄っぺらいレンガだけ。高層アパートをはじめとする部分は大正時代につくられたものなんです」

「軍艦島まるごと世界文化遺産ではないということ……?」

「そうです。もちろん文化財的な価値はあるんですが、今のところ残すことになっているのは1号棟と3号棟だけ。100年前の高層アパートのひとつなんかは、崩壊していく様子をモニタリングするだけという状態なんです」

「知らなかった……軍艦島は全部世界文化遺産で、イコール半永久的に保存されていくとばかり……」

「どの視点で見るかによって、価値って変わるんですよ。だから、極端な話、マヤカンも登録有形文化財になったからって残せるわけじゃない。登録有形文化財は通過点で、所有者さんと地元、自治体との間で簡単には壊せないような関係をつくらなきゃいけないんです」

 

「実際のところ、有形文化財に登録される確率ってどのくらいなんですか?」

「実際は、50%くらいじゃないでしょうか。今までの文化庁のモノサシにはない価値なので。でも、軍艦島の事例からも廃墟の人気ぶりは明らかですよね。そろそろ“廃墟”の価値を認めてほしいです

「かっこいい! では、最後に教えてください。それほどまで前畑さんを魅了する廃墟の魅力ってなんなんでしょう?」

「訪れた人が過去にタイムスリップして、昔の景色を想像して、今の時代と比較して、これからを考える。そのきっかけになる場所だと思います」

「そういえば、調査隊のなかには、かつてのマヤカンのホールでダンスを踊ったことがあるというご婦人もいましたね」

 

こちらの御婦人です。戦後、まさにこのホールでダンスをしたそう。

彼女にとってはどんな高級ホテルより価値の高い建造物なのでしょう

 

「廃墟って、一般的な価値感ではくくれない孤高の存在だし、廃墟を好きな人も“価値のない価値”を見出してることが多い。だから、文化財にして『価値があるんですよ』とラベルを貼っちゃいけないのかもしれません。そのあたりはジレンマを抱えてます」

「少なくとも僕は、初めて廃墟に訪れてみて、すっかり虜になってしまいました。僕にとってはすごく価値のある時間でした」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。いつか、調査じゃなくて誰もがマヤカンに入れるようになったら、ぜひまた遊びに来てください」

 

まとめ

摩耶観光ホテルだけではなく、軍艦島のエピソードも交えながら語られた廃墟の現状、そして魅力。

廃墟についてサッパリだった僕も、すっかり魅了されてしまいました。摩耶観光ホテルが未来に残っていくことを願わずにはいられない取材となりました。

 

あ、そうそう……念のためお伝えしておきますが……

 

廃墟への無断立ち入りは法律違反なのでやめてくださいね!

 

(おわり)


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